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第八章
その光景は
しおりを挟むディルクの腕の中で眠る。
グルグル頭の中で色んな情報が交差している。
一つ一つ紐解く様に、物事が埋まって行くように、私の記憶が少しずつ蘇ってくる。
私は……エリアスと旅をしていた。
レクスを見送ってから、一人になる私を放っておけないって言って、エリアスは強引に私の旅についてきたんだ。
エリアスと二人で行ったことのない国へ行こうってなって、マルティノア教国へ行った。
その道中でエリアスの殺された友達を浄化させて……それからアデルを助け出した。
こんな国はおかしいって話して、教皇をエリアスと二人で倒したんだ。
その後、私はインタラス国の王都コブラルで試験を受けてCランク冒険者になった。
その私にすぐにオルギアン帝国から依頼が来て、その時にディルクが皇帝になったことを知った。
その真意も知りたくて、私はオルギアン帝国へエリアスと一緒に向かった。
それであの村に行った。
あそこはエリアスが生まれた村で、エリアスの能力が分かって……
けどその能力は抑えられてて、それはもしかしたら腕輪があるからかもって話して……
それから……
それからが思い出せない。
ずっと考えてるのに、思い出せない。
いや、それ以降も思い出せることもある。
私がグリオルド国で捕まって、聖女になったのをディルクとエリアスが助けに来てくれた。
グリオルド国から出て、ディルクと別れて私はエリアスとオルギアン帝国へ向かって……
それからまた記憶が曖昧になってくる……
私は何を思い出せないんだろう?
それは私が思い出しちゃいけないと思っていることなんだろうか?
グルグル頭の中でそんな事が渦巻いてて、段々と眠りについていく。
また暗闇に包まれて、一筋の光が照らしている先を見ると、そこにはディルクが眠っていた。
胸に宝石を嵌めた短剣が刺さっていた。
驚いてディルクの元に行くと、声が聞こえる。
アシュリー
俺はここにいる
待っている
それはディルクの声だった。
待っているって、どこで?
なんで胸に短剣が刺さってるの?
どうなってるの?
それからまた暗くなって、そうしたら頬を撫でられてる感触があって目を覚ますと、そこにはディルクがいた。
良かった……
そう思って、思わず微笑んでしまう。
けど、さっき見た夢を少しだけ覚えてる。
待ってるって言ってた……
けど、誰がそう言ってたのかは分からない。
でも、行かなくちゃいけないって思った。
私を待ってる。
多分そこはオルギアン帝国だ。
だから行かないと。
すぐに行かないと。
自分でも分からないけど、気だけが焦る。
今日はゆっくりしようって言うディルクに、それでも早く行こうって言って、本当は空間移動で向かいたいんだけど、それは嫌だって駄々をこねるウルに折れて、歩いて向かうことにする。
けれど、それでも早くに行きたくて、自分の事しか考えられなくて、まだ完全に体調が整っていないディルクに無理をさせてしまった。
ウルに言われて、休憩をする事になった。
自分一人の旅じゃないのに、自分本意で行動するなんて……
何をしてるんだろう……
こんなにディルクとウルに無理をさせて……
反省しながらお弁当の準備をする。
ディルクが私とウルの頭を笑いながらワシャワシャさせる。
そうやって元気付けようとしてくれているんだ……
気配がした。
魔物の気配だ。
それにはディルクも気付いたみたいだ。
そんなに近くはない。
けど、その気配がここまで分かるって言う事は、高ランクとされる魔物の可能性が高い。
耳を澄ます。
悲鳴が聴こえる……
「ディルク、誰かが襲われてるみたいだ!行ってくるっ!」
「待て!アシュレイ!俺も行く!」
「待ってや!アタシも行くっ!!」
風魔法を纏って急いで気配がする場所まで行く。
戦っている音がする。
ダメだ、無理だって声も聞こえる。
近づけば近づく程、この魔物の強力な威圧が伝わってくる。
ディルクが倒したドラゴンよりは全然劣るけど、それでもこの辺りにはいない魔物じゃないだろうか……
いた……!
それは大きな蜘蛛だった。
真っ黒で、頭だけで二メートル程ある、凄く大きな蜘蛛だった。
なんでこんな魔物がこんなところに……?!
血を流して倒れている人がいて、まだ果敢にも戦っている人が二人いた。
しかし彼らはボロボロで、身体中出血していて、剣も欠けている状態だった。
一人は杖を持っていて、火魔法を放つが、それは大蜘蛛に当たっても、何のダメージも与えられていないようだった。
「大丈夫か?!」
「えっ!アンタ、ダメだ!逃げろ!コイツは無理だっ!!」
彼らは私を逃がそうとしてくれている。
冒険者なのか?
けれど、このままでは彼らは助からない!
すぐに雷魔法で大蜘蛛を感電させる。
一瞬大蜘蛛の動きは止まる。
その間に、倒れてる者を助けるよう言う。
すぐに冒険者達は言われた通りに倒れている仲間を助けだす。
少しの間、感電して動かなかった大蜘蛛が、再び動き出す。
「アシュレイっ!」
「姉ちゃ!」
ディルクがウルを抱え上げて走ってきた。
そうか、魔力が無いから風魔法で速く来れなかったんだ……
大蜘蛛を見て、二人も驚いた。
「デッケェなぁ……」
「むっちゃ気持ち悪い!なんやこのデッカ蜘蛛!」
「ディルク、大丈夫か?!まだ回復してないだろ?私がやっつけるから!」
「アタシもやっつけるで!」
「ここで見てるだけじゃ男が廃るだろ?」
「アンタ達!急いで逃げた方が良い!!俺達はCランクなんだ!それでも全く歯が立たないんだ!」
「こんな強い奴がいるって聞いてねぇよ!やっと吹雪もおさまったって思ってここまで来たのに!」
「ええから、アンタ等は黙って見とき!」
ウルが矢に火魔法を付与させて、それを勢いよく放つ。
矢は凄いスピードで、大蜘蛛の額に突き刺さった。
火は額でプスプス言いながら額を燃やしていた。
「やった!!」
「すっげぇ!一発で当てやがった!」
大蜘蛛は頭を振って、ウルが放った矢を弾いた。
火もすぐに消えて無くなってしまった。
それに怒ったウルが、もう一度火魔法を付与した矢を放つ。
今度は目を狙ったみたいだ。
また勢いよく飛んで行って、その矢を大蜘蛛は立ち上げるようにして回避するも、ウルの矢は狙った場所に当たるまで止まらない。
大蜘蛛の目を追跡するように矢は飛び続け、勢いよく大蜘蛛の目に刺さった。
「ざまぁみろ!!目、潰したったで!!」
「やるな、ウル!」
「本当だ!凄い!ウル!」
「エへへ……」
上機嫌のウルと違って、大蜘蛛は怒り心頭で蜘蛛の糸を放って来た。
それをディルクが剣で捌いていく。
その姿を見た冒険者達は、何も言えずに見入っていた。
私が闇魔法で体内を侵食させていくと、その動きは鈍くなっていき、蠢きだす。
ディルクは私を見てニッて笑って、それからまた剣で大蜘蛛に向かっていく。
足を根元から一本一本切り落としていって、動けないようにしていってる。
ガタガタと蠢く事しか出来なくなった大蜘蛛に、ウルがもう片方の目にも矢を射った。
両目をやられた大蜘蛛が、ガタガタ動いて抵抗しようとするけれど、それが敵わないって感じて、ただその場で蠢くのみとなっていた。
「すげぇ……」
「なんなんだ……アンタ達は……」
呆然と見ている冒険者達の言葉を横で聞きながら、ウルとディルクが戦っている間にためた魔力を光魔法の矢にして、大蜘蛛に向かって放った。
いくつもの光の矢がうねりながら、大蜘蛛へと向かって全身に突き刺さっていく。
大蜘蛛は光輝きながら、徐々にその姿を分散させていくように消えていく。
「やった!やっつけたで!!姉ちゃはやっぱり凄いな!兄ちゃも剣捌きは凄いし、アタシも凄かったやろ!?なぁ、誉めて!誉めて!!」
ウルが嬉しそうに私たちに向かって胸を張って言う。
私もウルに、さすが、弓の名手だって言って、ウルの頭を撫でる。
「ウルっ!!」
「え?」
消えかけた大蜘蛛の口から、糸の様な槍が吐き出された。
それはウルに向けられていて、気付いた時には、ウルを庇ったディルクの右腹から背中に向けて、槍が貫いていた。
「兄ちゃ!!」
一矢報いる感じで槍を放ってから、大蜘蛛は光と共に浄化するように消えていった。
貫かれたのを見てある光景が重なった……
エリアスが私を光の矢から守ってくれた時と……
同じだ……
エリアスが……
ウルを庇った……
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