慟哭の時

レクフル

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第八章

これからの事

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扉が勢いよく開け放たれた。

部屋に入ってきたのはエリアスだった。

エリアスは凄く驚いた顔をして、私とセームルグを見てから、辺りをキョロキョロ見渡す。


「誰……だ……?」

「……エリアス……」

「セームルグ……どうなってんだ……?どういう事なんだ……?」


エリアスが焦ってる。
そうか……
そうだよね……
一つにならないって言っていたのに、今私たちは一つになっていて、どんな姿になっているのかは分からないけど、エリアスが私って分からないなら、いつもとは違う姿なんだろうな……

エリアス、大丈夫だから心配しないで?
すぐに元に戻るから。

そう言いたいけれど、なかなか思うように言葉に出来なくて、ディルクと同じ事を考えて言わなければいけないのかな?とか、この体に慣れなくて、まだどうやって動いたら良いのかさえ分からなくて戸惑ってしまう。

うん、ディルク、エリアスを安心させてあげたい。
大丈夫だって、伝えたいんだ。

どうしたの?
ディルクはエリアスに怒ってるの?
あんなに言ったのに私に手を出したって。
でもね、エリアスがいてくれたから、今私たちはこうしていられるんだからね。
うん。
分かってくれてるよね。
私も分かってるよ。
ディルクの怒る気持ちも、悲しい気持ちも、私を愛してくれている気持ちも全部……

でも、エリアスを安心させてあげたいんだ。
ディルク、お願い……

私の気持ちを分かってくれたのか、言葉には出来なかったけれど、私はエリアスに微笑む事が出来たみたいだ。
けれど、エリアスは安心出来なかったようで……


「嘘だろ……?嘘だよな……?……なんで……なんでだよ……一つにはならねぇって言ってたじゃねぇか……なんでだよ……っ!なんでなんだよっ!!」


呆然と立ち尽くすエリアスに詳しく説明することも出来なくて、ただ大丈夫って微笑む事しか出来ない。

エリアスが怒ってる。
……違う……
悲しんでる……
今にも泣き出しそうな感じで見てる。
泣かないで……

ディルク?
そうか、ディルクも気になってたんだ。
うん、そうして欲しい。
もう充分だと思う。
すごく辛そうで、見てられないんだ……

ゆっくりエリアスに近づいていく。
エリアスは私を見続けている。
左手を伸ばして、エリアスの左肩にそっと触れる。
掌から淡く青白く光が出た。
それから光は体に吸収されるように無くなっていく。


「なんだ……?」


戸惑うエリアスから手を離した時、頭の中に響くように声がした。
セームルグだ。
「魂が落ち着いたので、もう大丈夫ですよ。」
と聞こえた。

ディルクと離れなくちゃならない。
それは凄く嫌で、やっとこんなに心が落ち着いたのに、また離れてしまうのが凄く辛い事のように思えてしまう。

ディルクもそう思ってくれてるんだ。
でも離れないと……
うん、また会えるから。
大丈夫だから。

抱き合った状態から引き剥がされるような感じで、ディルクと離れていく。
それは凄く悲しい事のように思えて、身を引き裂かれる思いがした。

それでもディルクを見ないようにして、振り切るように私はディルクと別の方向へと向かって走っていく。
暗闇の中を走って

走って

走って

走って

そうしたら明るくなっていって

目の前に

エリアスが見えた。

エリアスが私を受け止めるようにして抱き止める。


「アシュリーっ!」

「エリアス……」


震えた声で、何度も何度も私の名前を呼ぶ。


「アシュリーっ!良かった!マジで良かったっ!ありがとう!!」

「そんなきつくしたら……苦しい……」

「あ、すまねぇ……!」

「エリアス、離せ。」


私とエリアスが抱き合ってるのを、ディルクが引き剥がす。
ディルクに腕を掴まれて、そのままディルクの胸に収まるようにして抱き合った。


「ちょっ……!何すんだよっ!ディルク!」

「勝手に俺に触るな。」

「ディルクには触ってねぇだろ!」

「アシュリーは俺だ。だからアシュリーに触れるには俺の許可が必要だ。」

「なんだそれ?!ってか、分かってたのか?!アシュリーと一つの命だって事……!」

「あぁ。勿論だ。俺はずっとアシュリーと共にいたからな。」

「え?!ってそれ……」

「あれだけ言ったのに……俺がいないからと言って勝手に手を出すとは……」

「俺はディルクに遠慮しねぇって言った筈だぜ?」

「ディルク……怒らないで……」

「アシュリーには怒っていないよ。」

「うん……分かってる。けど……」

「リドディルク様!ご無事で何よりです!お帰りなさいませ!」

「ゾラン、今まですまなかったな。また後で現状を確認させてくれるか。」

「勿論です!ですが……お体の方は大丈夫なんでしょうか?」

「問題ない。ひとまず俺の部屋に戻るか。」


ディルクが空間を歪ませて移動した先はディルクの部屋だった。
前にここに来た時は記憶を消される前で……あの時私とディルクはここで……
って考えてたら、急に恥ずかしくなってきた!


「アシュリー?どうした?」

「え?あ、うん、何でもない!」

「おい、ディルク。そろそろアシュリーを離してやれよ。」

「エリアスに言われる筋合いはない。」


ディルクが私の腰に手を回したまま、ソファーに座った。
それを見て、エリアスが私の横に座る。
そして私の手を握る。

……居た堪れない……


「あ、あの、リドディルク様、今日は休まれた方が良いですね……あ、お茶の用意をさせますので!では失礼致します!」


ゾランがこの空気に耐えられないのか、即座に出ていった。
更に空気が重くなった……

ディルクとエリアスが目を合わせてる。
横目でチラチラ見ながら、どうしたらいいのか分からずに、思わず下を向く。

少しして、扉がノックされてミーシャがお茶を持ってやって来た。


「リディ様っ!リディ様っ!良かったですーっ!!」


今にも抱きつく勢いで、ミーシャがディルクのそばまで走ってやって来た。


「もう大丈夫なんですか?!あ、でも無理はいけませんからね!ベッドで寝て下さい!あ、その前にお食事ですよね!あ、その前にお茶でした!」

「ミーシャ……走って来たからお茶が殆どこぼれているぞ。」

「え?……あ!す、すみませんっ!すぐに新しいのを用意致しますっ!あ、でもその前に拭かないと!あれ?!私の服にもお茶がっ!」

「……少しは落ち着いてくれ。」

「あ、はい!そうですよねっ!すみません……リディ様……リディ様、良かったです……本当に……本当に良かったです……っ!」


そう言いながら、ミーシャがポロポロ涙を流した。
本当に心配していたんだろうな……
ミーシャを慰めてあげたいけれど、私たちはミーシャに触れる訳にはいかない。


「心配かけたな。もう大丈夫なんだ。まずは着替えてくるといい。その時にダレルを呼んで貰えるか。」

「あ、かしこまりました!」


勢いよく礼をして、ミーシャはバタバタと走って行った。


「なんか……嵐みてぇだったな……」

「ミーシャにも凄く心配させたな。」

「ディルク、ミーシャが言ってた様に、ゆっくりした方が良いんじゃないかな?」

「俺は全く問題ないよ。」

「無理はよくねぇぞ?暫くは大人しくしとけば良いじゃねぇか。」

「問題ないと言っている!」

「ちょっとそろそろ落ち着こう……」


ミーシャが来て、少しは空気が入れ替わった感じがして、ひとまず私がこの場を仕切る事にする。
このままじゃ埒が明きそうにない……


「エリアス、さっきは心配させてごめん。ディルクの魂を定着させるのに、一つになる必要があったんだ。」

「そうだったのか……けど良かった。マジで焦った……!」

「それと、ごめん、勝手に奴隷紋を消しちゃったんだ。あれは呪いの類いだったようなんだ。だから回復魔法では治癒できなかったんだ。それをディルクに取り除いて貰った。」

「えっ!?さっきの、青白く光ったヤツか?!」

「うん……激痛に耐えるエリアスを見てられなくて……もう戒めとか、そんな風に考えないで?ご両親も、そんな風に思ってるの辛いんじゃないかな?」

「そっか……分かった。」

「それから……少しディルクと話す事があるから、部屋に帰っていて貰えるかな……?」

「えっ?!けどっ!」

「またちゃんとエリアスにも話すから……」

「……分かったよ……先に部屋に戻っとく。話が済んだら、すぐに来てくれな?」

「うん。」

「一人で大人しくしておくんだな。」

「うっせぇよ。」


エリアスは名残惜しそうに私を見て、部屋から出ていった。

一つになっていた時にディルクの思想は分かった。
私の事も分かってくれてるはず。
けどその時に、ディルクのある考えが見えた。
それも踏まえて、これからどうしていくかを話し合わなければいけない。





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