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第八章
その存在
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部屋に戻ってきて、ウルはソファーに黙ったまま座っていた。
「ウル、昼飯食ってねぇんだろ?腹減ってねぇか?」
「大丈夫……」
「ミーシャの事は、もう気にすんなよ。大事に至らなかったんだからよ。な?」
「アタシ……いっつもこうや……」
「ん?なにがだ?」
「兄ちゃの時も初めは、奴隷やから犯罪者やったって思って、兄ちゃの事受け入れられへんかったし、ミーシャの事もいつも元気で楽しそうで、オマケにゾランさんと結婚するって聞いて、良いなぁ、幸せやそうやなぁって思ってて……朝、兄ちゃが、見えてる所が全てじゃないって言うてる事、よう分からんと……分かろうともせんと、ただ何となしに聞いてただけやったし……」
「そうだな……じゃあ、これから正せば良いんじゃねぇか?誰にでも間違いはあるし、直したい所もあるだろ?それをそのままにしてたら、何も変わんねぇけど、反省したんなら、次は同じことをしないように気をつけりゃ良いじゃねぇか。」
「うん……そうやな……」
ウルが紙袋から、さっき買った御守りを取り出した。
「兄ちゃ、これ。」
「ん?なんだ?」
「これな、仲良しの御守りやねんて。最近この辺りで流行ってるって、メイドさん達の休憩室に遊びに言ったときに話を聞いて欲しくなってん。これな、対になってて、もう片方を仲良くしたい人に渡しておくと、ずっとその人と仲良しでいられるねんて。」
「そうなのか……それを俺に?」
「うん。もう一つを、姉ちゃに渡そうと思ってるねん。」
「ウル……そっか……ありがとな。」
それは何本かの細い革紐で編まれた紐状の物で、それを仲良くしたい人と同じように腕に巻いておくと良いらしい。
ウルは俺とアシュリーに、ずっと仲良くいて貰いたいって、思ってくれてたんだな……
ウルが俺の左手首に、それを巻いて結んでくれた。
ウルの頭を優しく撫でる。
心配させてたんだな。
なんかウルに悪ぃ事をしたような気になった。
扉がノックされて、ゾランがやって来た。
いきなりウルがすっげぇ緊張した感じになる。
「ウルリーカさん、さっきは申し訳なかったね。驚いただろう?」
「はい……道を尋ねに近寄って来た男の人達を見た途端に震えてもうて……アタシどうして良いか分からんくなって……あの、ミーシャはもう大丈夫なんですか?!」
「うん、今はもう大丈夫だよ。ごめんね。ミーシャがウルリーカさんと買い物に出掛けるの、凄く乗り気だったって聞いたよ。申し訳なかったって、反省してた。」
「いえっ!私が強引に誘ったんです!ミーシャ、迷ってたけど、御守りの事を言ったら凄く興味を持って……」
「御守り?」
「仲良しの御守りなんだとさ。俺も今ウルに貰ったんだ。」
「ミーシャ、ゾランさんとお揃いにしたいって。いつまでも仲良くしたいからって……」
「そうだったんだね……」
ウルが紙袋から、もう一つセットになってる御守りをゾランに渡した。
ゾランはそれを、嬉しそうに、感慨深そうに受け取っていた。
「ありがとう。ウルリーカさん。」
「ゾランさん……ミーシャの名前の由来って、ゾランさんが教えてくれたって、ミーシャが言ってたんですけど、それはどういう事やったんですか?」
「そんな話をしてたの?……ミーシャはね……田舎にある小さな村で、村中の人達から虐められてたんだ。髪が赤いってだけでね。名前も付けて貰えてなくてね。初めて会ったのは、ミーシャがウルリーカさんと同じ位の年の頃かな?あまりにも酷い様子だったから、僕が引き取ってここまで連れて来たんだ。その時に、僕がミーシャって名付けたんだよ。強く勇気があり、高潔な大天使ミカエル様から貰ってね。会った時、ミーシャは痩せていてスゴくボロボロだったんだけど、内に秘めた強さを感じたんだ。だからそう名付けたんだ。」
「そうやったんですね……」
「ミーシャはウルリーカさんの事、なんだか妹みたいって言ってたんだ。これからも仲良くしてあげてくれるかな?」
「もちろんです!私もミーシャが好きやから!」
「ありがとう。」
ゾランは微笑むと、ウルに一礼して出て行った。
ウルは何も言わなくて、ソファーに座ったまま動かなかった。
どうしたのかと思って顔を覗き込むと、ウルの目から涙がポタポタ落ちていた。
「ウル?どうした?」
「アタシ……自分が一番不幸やったみたいな事ずっと思ってて……けど、そんなんアタシの思い違いやったの分かって、何か恥ずかしくて、情けないねんっ!」
「そっか。けどそれは知らなかったからだろ?じゃあ、これから知っていけばいい。色んな境遇で苦労してる奴はいっぱいいんだよ。偏見じゃなく、自分の目で見て感じて、分かっていけば良いからな。」
「うん……分かった……ありがとう、兄ちゃ……」
泣いてるウル抱き寄せて、頭を撫でてやる。
涙を拭いてやるけど、まだ落ち込んだままだ。
ノックがして、アシュリーが帰ってきた。
そこにはディルクも一緒にいた。
「なんだ、ディルクも来たのかよ。」
「そんな嫌そうな顔をするな。」
「そう言う訳じゃねぇけど……」
「あれ?ウル、どうしたんだ?」
「あ、ちょっとあってな。今塞ぎこんでんだよ。」
「大丈夫?」
「…………」
ディルクがウルをしっかり見る。
それから、右手でウルの頭をそっと触った。
ウルは下を向いてたんだけど、驚いた感じで顔を上げてディルクを見た。
「ミーシャの事は気にしなくて良い。連れ出してくれるきっかけを作ってくれた事に、俺は感謝するよ。」
そう話しかけて、ニッコリ笑った。
ウルは茫然とディルクを見ていた。
「兄ちゃ……兄ちゃっ!こ、この人がディルクって人なん?!」
「え?あぁ、そうだ。」
「申し遅れたな。俺はリドディルクと言う。アシュリーやエリアスは、俺をディルクと呼んでいるがな。」
「あ、はじめまして!アタシはウルリーカって言いますっ!その、姉ちゃと兄ちゃに一緒にここまで連れて来て貰って……」
「分かっているよ。聖女……エリザベートが母親なんだな。やっと彼女の笑顔が見れた。」
「え?お母さんに会ったんですか?」
「いや、君の記憶から見えたんだ。これからどうするか決まったら、彼女を解放する事も考慮しよう。今後の事はエリザベートとじっくり話し合うといい。」
「はい!ありがとうございますっ!」
「じゃあアシュリー、俺は部屋に戻るよ。皆が俺にゆっくりしろと煩いのでな。」
「あ、うん。ここまで送ってくれてありがとう。」
ディルクはさりげなくアシュリーの頬に口づけをして、俺達にニッコリ笑いかけてから出て行った。
ったく、余裕の表情で何してくれてんだよ!
こっちはいっぱいいっぱいなのによ!
「姉ちゃ……!姉ちゃ!」
「どうしたんだ?ウル?」
「なに、あの人、めっちゃ格好良い!あれがディルクって人なんやー!」
「うん、そうだよ。」
「そら惚れるのも分かるわーっ!格好良すぎるやーんっ!」
「え……そうかな……」
「それにアタシの頭に触った途端、なんか気持ちがスゥーって軽くなってん!癒しやわー!アカン、アタシも惚れてしまいそうやわー!」
「おい……ウルは前に、ディルクより俺の方が好きだって言ってくれただろ?」
「それは会う前の話や。過去に拘ったらアカンで。」
「変わり身が早ぇだろ……」
「あ、お腹すいてきた!姉ちゃはお昼食べた?」
「え、いや、まだだけど……」
「ほな一緒に食べよう!」
「あ、うん……」
急に戻ったウルの状態に、俺もそうだけどアシュリーもちょっとビックリしてた。
やっぱディルクはすげぇな。
俺の能力と違って、奪うだけとかじゃねぇからな。
俺をチラリと見て、アシュリーは申し訳なさそうに笑う。
そんな憐れんだ目で俺を見ねぇでくれ!
「アシュリー、ちゃんとディルクと話しは出来たのか?」
「え?あ、うん。」
「そっか……」
やべぇ……この先の事が聞けねぇ……
ウルが給仕の人に言ってくるって言って部屋から出て行って、俺とアシュリーは二人になった。
どんな話しになったのか聞きてぇのに、聞くのが怖いってのもあって、それからなかなか言葉が出てこねぇ……
誤魔化すように、俺はさっきミーシャにあった出来事を話した。
アシュリーは、心ここにあらずって感じで俺の話を聞いていて、話し終わったのを切っ掛けにして、切り出してきた。
「あ、えと、エリアス、その……私……私ね……」
すっげぇ言い辛そうにしてる。
言い辛い事を言うつもりなんだな……
「えっと、私、ディルクと……」
そう言ってる途中で、扉が勢いよく明いてウルとミーシャが入って来た。
「アシュリーさん!おめでとうございますっ!」
「えっ?!」
「姉ちゃ!そうなん?!ホンマなんっ?!」
「なんだ?どうしたんだ?」
「リディ様と婚姻を結ばれるそうですね!良かったです!おめでとうございますー!!」
「え……」
「姉ちゃ、姉ちゃはディルクを選んだん?!兄ちゃはアカンかったん?!」
「ウル、それは……!」
「あ、すみません!いきなり来てしまって!私嬉しくって!あ、食事のご用意致しますね!」
「そっか……そう……だよな……やっぱそうなるよな……」
「エリアス、その、私ちゃんと言うつもりでいて……!」
「あ、うん、分かった。あ、俺ちょっと出てくるな。用があったの、思い出した。」
「エリアス……!」
すぐに空間移動で、インタラス国の王都コブラルにある宿屋の部屋まで来た。
あのままいたら、俺はどうなるか分かんなかった……
ベッドに寝転んで、天井を見ながらアシュリーの事を思い浮かべて……
「そっか……仕方ねぇよな……」
分かってる。
分かってた。
分かってたはずだった。
分かってたはずだったのに……
どうすることも出来ない想いが胸に溢れて、押し潰されそうになる。
「つれぇ……」
一人でその想いを遣り過ごすしかねぇんだけど、その方法も分からずにこの苦しい想いが少しでも軽くなってくれるのを、俺はただ待つ事しか出来なかったんだ……
「ウル、昼飯食ってねぇんだろ?腹減ってねぇか?」
「大丈夫……」
「ミーシャの事は、もう気にすんなよ。大事に至らなかったんだからよ。な?」
「アタシ……いっつもこうや……」
「ん?なにがだ?」
「兄ちゃの時も初めは、奴隷やから犯罪者やったって思って、兄ちゃの事受け入れられへんかったし、ミーシャの事もいつも元気で楽しそうで、オマケにゾランさんと結婚するって聞いて、良いなぁ、幸せやそうやなぁって思ってて……朝、兄ちゃが、見えてる所が全てじゃないって言うてる事、よう分からんと……分かろうともせんと、ただ何となしに聞いてただけやったし……」
「そうだな……じゃあ、これから正せば良いんじゃねぇか?誰にでも間違いはあるし、直したい所もあるだろ?それをそのままにしてたら、何も変わんねぇけど、反省したんなら、次は同じことをしないように気をつけりゃ良いじゃねぇか。」
「うん……そうやな……」
ウルが紙袋から、さっき買った御守りを取り出した。
「兄ちゃ、これ。」
「ん?なんだ?」
「これな、仲良しの御守りやねんて。最近この辺りで流行ってるって、メイドさん達の休憩室に遊びに言ったときに話を聞いて欲しくなってん。これな、対になってて、もう片方を仲良くしたい人に渡しておくと、ずっとその人と仲良しでいられるねんて。」
「そうなのか……それを俺に?」
「うん。もう一つを、姉ちゃに渡そうと思ってるねん。」
「ウル……そっか……ありがとな。」
それは何本かの細い革紐で編まれた紐状の物で、それを仲良くしたい人と同じように腕に巻いておくと良いらしい。
ウルは俺とアシュリーに、ずっと仲良くいて貰いたいって、思ってくれてたんだな……
ウルが俺の左手首に、それを巻いて結んでくれた。
ウルの頭を優しく撫でる。
心配させてたんだな。
なんかウルに悪ぃ事をしたような気になった。
扉がノックされて、ゾランがやって来た。
いきなりウルがすっげぇ緊張した感じになる。
「ウルリーカさん、さっきは申し訳なかったね。驚いただろう?」
「はい……道を尋ねに近寄って来た男の人達を見た途端に震えてもうて……アタシどうして良いか分からんくなって……あの、ミーシャはもう大丈夫なんですか?!」
「うん、今はもう大丈夫だよ。ごめんね。ミーシャがウルリーカさんと買い物に出掛けるの、凄く乗り気だったって聞いたよ。申し訳なかったって、反省してた。」
「いえっ!私が強引に誘ったんです!ミーシャ、迷ってたけど、御守りの事を言ったら凄く興味を持って……」
「御守り?」
「仲良しの御守りなんだとさ。俺も今ウルに貰ったんだ。」
「ミーシャ、ゾランさんとお揃いにしたいって。いつまでも仲良くしたいからって……」
「そうだったんだね……」
ウルが紙袋から、もう一つセットになってる御守りをゾランに渡した。
ゾランはそれを、嬉しそうに、感慨深そうに受け取っていた。
「ありがとう。ウルリーカさん。」
「ゾランさん……ミーシャの名前の由来って、ゾランさんが教えてくれたって、ミーシャが言ってたんですけど、それはどういう事やったんですか?」
「そんな話をしてたの?……ミーシャはね……田舎にある小さな村で、村中の人達から虐められてたんだ。髪が赤いってだけでね。名前も付けて貰えてなくてね。初めて会ったのは、ミーシャがウルリーカさんと同じ位の年の頃かな?あまりにも酷い様子だったから、僕が引き取ってここまで連れて来たんだ。その時に、僕がミーシャって名付けたんだよ。強く勇気があり、高潔な大天使ミカエル様から貰ってね。会った時、ミーシャは痩せていてスゴくボロボロだったんだけど、内に秘めた強さを感じたんだ。だからそう名付けたんだ。」
「そうやったんですね……」
「ミーシャはウルリーカさんの事、なんだか妹みたいって言ってたんだ。これからも仲良くしてあげてくれるかな?」
「もちろんです!私もミーシャが好きやから!」
「ありがとう。」
ゾランは微笑むと、ウルに一礼して出て行った。
ウルは何も言わなくて、ソファーに座ったまま動かなかった。
どうしたのかと思って顔を覗き込むと、ウルの目から涙がポタポタ落ちていた。
「ウル?どうした?」
「アタシ……自分が一番不幸やったみたいな事ずっと思ってて……けど、そんなんアタシの思い違いやったの分かって、何か恥ずかしくて、情けないねんっ!」
「そっか。けどそれは知らなかったからだろ?じゃあ、これから知っていけばいい。色んな境遇で苦労してる奴はいっぱいいんだよ。偏見じゃなく、自分の目で見て感じて、分かっていけば良いからな。」
「うん……分かった……ありがとう、兄ちゃ……」
泣いてるウル抱き寄せて、頭を撫でてやる。
涙を拭いてやるけど、まだ落ち込んだままだ。
ノックがして、アシュリーが帰ってきた。
そこにはディルクも一緒にいた。
「なんだ、ディルクも来たのかよ。」
「そんな嫌そうな顔をするな。」
「そう言う訳じゃねぇけど……」
「あれ?ウル、どうしたんだ?」
「あ、ちょっとあってな。今塞ぎこんでんだよ。」
「大丈夫?」
「…………」
ディルクがウルをしっかり見る。
それから、右手でウルの頭をそっと触った。
ウルは下を向いてたんだけど、驚いた感じで顔を上げてディルクを見た。
「ミーシャの事は気にしなくて良い。連れ出してくれるきっかけを作ってくれた事に、俺は感謝するよ。」
そう話しかけて、ニッコリ笑った。
ウルは茫然とディルクを見ていた。
「兄ちゃ……兄ちゃっ!こ、この人がディルクって人なん?!」
「え?あぁ、そうだ。」
「申し遅れたな。俺はリドディルクと言う。アシュリーやエリアスは、俺をディルクと呼んでいるがな。」
「あ、はじめまして!アタシはウルリーカって言いますっ!その、姉ちゃと兄ちゃに一緒にここまで連れて来て貰って……」
「分かっているよ。聖女……エリザベートが母親なんだな。やっと彼女の笑顔が見れた。」
「え?お母さんに会ったんですか?」
「いや、君の記憶から見えたんだ。これからどうするか決まったら、彼女を解放する事も考慮しよう。今後の事はエリザベートとじっくり話し合うといい。」
「はい!ありがとうございますっ!」
「じゃあアシュリー、俺は部屋に戻るよ。皆が俺にゆっくりしろと煩いのでな。」
「あ、うん。ここまで送ってくれてありがとう。」
ディルクはさりげなくアシュリーの頬に口づけをして、俺達にニッコリ笑いかけてから出て行った。
ったく、余裕の表情で何してくれてんだよ!
こっちはいっぱいいっぱいなのによ!
「姉ちゃ……!姉ちゃ!」
「どうしたんだ?ウル?」
「なに、あの人、めっちゃ格好良い!あれがディルクって人なんやー!」
「うん、そうだよ。」
「そら惚れるのも分かるわーっ!格好良すぎるやーんっ!」
「え……そうかな……」
「それにアタシの頭に触った途端、なんか気持ちがスゥーって軽くなってん!癒しやわー!アカン、アタシも惚れてしまいそうやわー!」
「おい……ウルは前に、ディルクより俺の方が好きだって言ってくれただろ?」
「それは会う前の話や。過去に拘ったらアカンで。」
「変わり身が早ぇだろ……」
「あ、お腹すいてきた!姉ちゃはお昼食べた?」
「え、いや、まだだけど……」
「ほな一緒に食べよう!」
「あ、うん……」
急に戻ったウルの状態に、俺もそうだけどアシュリーもちょっとビックリしてた。
やっぱディルクはすげぇな。
俺の能力と違って、奪うだけとかじゃねぇからな。
俺をチラリと見て、アシュリーは申し訳なさそうに笑う。
そんな憐れんだ目で俺を見ねぇでくれ!
「アシュリー、ちゃんとディルクと話しは出来たのか?」
「え?あ、うん。」
「そっか……」
やべぇ……この先の事が聞けねぇ……
ウルが給仕の人に言ってくるって言って部屋から出て行って、俺とアシュリーは二人になった。
どんな話しになったのか聞きてぇのに、聞くのが怖いってのもあって、それからなかなか言葉が出てこねぇ……
誤魔化すように、俺はさっきミーシャにあった出来事を話した。
アシュリーは、心ここにあらずって感じで俺の話を聞いていて、話し終わったのを切っ掛けにして、切り出してきた。
「あ、えと、エリアス、その……私……私ね……」
すっげぇ言い辛そうにしてる。
言い辛い事を言うつもりなんだな……
「えっと、私、ディルクと……」
そう言ってる途中で、扉が勢いよく明いてウルとミーシャが入って来た。
「アシュリーさん!おめでとうございますっ!」
「えっ?!」
「姉ちゃ!そうなん?!ホンマなんっ?!」
「なんだ?どうしたんだ?」
「リディ様と婚姻を結ばれるそうですね!良かったです!おめでとうございますー!!」
「え……」
「姉ちゃ、姉ちゃはディルクを選んだん?!兄ちゃはアカンかったん?!」
「ウル、それは……!」
「あ、すみません!いきなり来てしまって!私嬉しくって!あ、食事のご用意致しますね!」
「そっか……そう……だよな……やっぱそうなるよな……」
「エリアス、その、私ちゃんと言うつもりでいて……!」
「あ、うん、分かった。あ、俺ちょっと出てくるな。用があったの、思い出した。」
「エリアス……!」
すぐに空間移動で、インタラス国の王都コブラルにある宿屋の部屋まで来た。
あのままいたら、俺はどうなるか分かんなかった……
ベッドに寝転んで、天井を見ながらアシュリーの事を思い浮かべて……
「そっか……仕方ねぇよな……」
分かってる。
分かってた。
分かってたはずだった。
分かってたはずだったのに……
どうすることも出来ない想いが胸に溢れて、押し潰されそうになる。
「つれぇ……」
一人でその想いを遣り過ごすしかねぇんだけど、その方法も分からずにこの苦しい想いが少しでも軽くなってくれるのを、俺はただ待つ事しか出来なかったんだ……
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