慟哭の時

レクフル

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番外編

それぞれの事情 5

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最近姉ちゃに会ってない。

兄ちゃにも会ってなくて、なんか寂しい……

前は一週間に一度か二度位は会えてたし、そんな時は一緒にお茶を飲んで愚痴を聞いて貰ったり、ご飯一緒に食べたり、たまに街へ買い物に行ったりしてた。

けど、ここ三週間近く二人に会えてない。

なんでやろ……
忙しいんかな……?
それとも、なんかあったんかな……?
ゾランさんに聞いても、ミーシャに聞いても何でか分からへんみたいやし……
ディルクさんにも会えてないから分からへんし……

そんなことを考えながら昼下がりに、今日も一人で中庭のベンチで座ってた。


「あ、ウルリーカさん。」

「え?あ、ヴェンツェルやん。」

「どうしたの?こんな所で……」

「あ、うん……最近、兄ちゃと姉ちゃに会えてないなぁって思って……」

「そう言えばエリアスさんも見かけないな。アシュリー王妃には会える事がなかなか無いけど。会えたらラッキーだって、みんな言ってるんだよ。」

「え?なにそれ?」

「体の弱い方だから、あまり部屋から出て来られないだろ?それでもお見掛けする事ができたら、その日は運が良いって、ご利益がありそうだって皆言ってたよ。」

「そんな風になってるんや。面白いな。」

「だって、すっごく綺麗な方だろ?見たいのに見られない。そんな、なかなか見られない状態だから更にプレミアがついたんだ。」

「へぇー。そうなんやぁー。確かに姉ちゃ、綺麗やもんな。天然なところがあるし、可愛いし。」

「え?!そうなの?!どんな所が天然なの?!」

「えっ?!そんなんいきなり聞かれてもすぐに言われへんわ!ヴェンツェルも姉ちゃの事、好きなんか?」

「あ、いや、そうじゃないけど……憧れのリドディルク兄様の奥様だろ?どんな方なのか知りたいって思っちゃうんだ。」

「そうなん?知ってどうするん?」

「いや、どうするとかじゃないんだけど……参考にしたいかな……」

「参考?なんの?」

「僕はリドディルク兄様から、次に皇帝を継ぐ者としてご指導頂いてるんだ。だから、皇帝として、どんな人を選べば良いのか知りたいんだ。」

「そうなんかー……けど、そんなん関係ないんちゃうのん?」

「え?どうして?」

「そんな理由でディルクさんは選んでないと思うけどな。」

「じゃあ、どんな理由で選ばれたんだよ?何か知ってるのかい?」

「理由なんてあらへんよ。ただ好きやからや。それだけや。」

「え……それだけ?本当に?」

「それ以外何があるん?」

「いや……その、国同士の調和の為に、とか、貴族の女性達の派閥に勝てる人材である、とか、皇帝陛下を支えられる賢い人である、とか……あるだろ?そう言うの。」

「んー。まぁ、そうかも知れんけど、ディルクさんはそう言うのでは選んでないで。そんな打算的な考えで動く人とちゃうやろ?」

「そうだけど……兄様は常に、この国の事、国民の生活、他国との調和等を考えておられる……その戦略的思考が素晴らしくて、僕は常々見習わなければ、と思ってるんだ。そうだな……それは打算的な考えではないな……」

「ディルクさんは人の気持ちが分かる人やから、姉ちゃの本質が分かったんちゃう?だから好きになったんちゃうかな?」

「そう……なんだ……」

「要は、自分を信じて、それから好きになった人も信じるって事ちゃうん?知らんけど。」

「知らないのかよ!」

「まぁ、憶測でモノ言うてるからな。でも、あながち間違ってはないと思うで。」

「そう、かもな。けど……そうかー。変に考え過ぎなくても良いのかー。」

「考えて過ぎてたん?」

「え?……あぁ……まぁね。僕にも縁談の話が色々あるからね。」

「え?!そうなん?!ヴェンツェル、結婚するん?!」

「え?!いや、そんなの、まだまだ先だよ!とにかく婚約って感じにさせたいみたいで、自国の貴族からと、他国の貴族や王族から縁談がひっきりなしに……」

「そうなんやー……へぇー……」

「なんだよ……その感じは……」

「いや……大変やなーって思って……」

「そうかい?けど、そう言うもんだと思ってるから、僕は別に大変だとも思ってなかったんだけど。」

「そう言われて育ってきたんやったらそうなんやろな……けど……」

「けど……なに?」

「ホンマに好きな人ができたらどうすんの?」

「本当に好きな人?」

「うん。例えば、貴族とかじゃなくて、街で知り合ったとかやったら?」

「それは……どうなるんだろう……まだ人を本当に好きになるとか……よく分からないんだ……」

「んー。それはアタシも同感やな。確かによく分からへん。偉そうに言ってたけど、アタシも分からへん事だらけや!ごめんな!」

「あ、いや、それは全然!こんな風にちゃんと話せる人が今までいなかったから、何でも素直に言って貰えて凄く嬉しいんだ。ウルリーカさんは裏表がない感じだから、僕も何でも話せるし。なんだか、友達みたいって思っちゃって……」

「そう?ほな、そのウルリーカさんって呼び方は他人行儀やな。アタシ、ウルって呼ばれてるから、ヴェンツェルもそう呼んだら?」

「え?!良いの?!でも、ウルリーカさんは僕の先生だし……」

「そんなん気にせんで良いやん。アタシは気にせぇへんで?」

「分かった!じゃあ……ウル……!」

「うん……って、なんやちょっと恥ずかしいなぁ!」

「僕も!なんかすごく恥ずかしいっ!なんだこれっ!」

「アハハ!面白いな!」

「あ、じゃあ、僕もなんか愛称で呼んでよ!」

「え?愛称?ヴェンツェルってどんな愛称なん?」

「いや、愛称で呼ばれた事がないから分からない。何でも良いよ。ウルが決めて。」

「んー。そうやなぁー……ほな、ヴァンってどう?」

「ヴァンか……うん、良いね!じゃあ、これから僕の事はそう呼んで!」

「うん!ヴァン!これからもよろしく!」

「ウルも!よろしくね!」


そう言い合って、ヴァンと握手をした。
なんか良いなぁ。
こう言うのって。

そんなふうにヴァンと話していたら、向こうから女の子がやってきた。
綺麗なドレスに身を包み、しなやかな歩き方でアタシ達のおる所までやって来た。


「ヴェンツェル殿下?そんな所で何をされていらっしゃるの?」

「エレオノーラ。僕は友達と話をしていただけだよ。」

「そうなんですね。……そのエルフがお友達なんですの?」

「そうだよ。僕の友達だ。」

「へぇー……そうなんですねぇー……へぇー……」

「なんなん?アンタ。」

「なんですの?その口の聞き方。わたくしはエレオノーラ・セレロールスです。セレロールス公爵の娘です。」

「そうなん?だから何?」

「なっ!なんですの?!その態度!礼儀も何もお分かりになっていらっしゃらないのね!こんな人がヴェンツェル殿下のお友達なんですの?!」

「そうだけど?」

「信じられません!お友達はよくお選びになられた方がよろしいんじゃなくて?!」

「君に言われる筋合いはないよ。」

「なんですって?!わたくしはヴェンツェル殿下の婚約者でしょう?!なのに、なんですの?!その扱いは!」

「僕は正式に婚約者とした訳ではなかった筈だけど?」

「そんな……!あんまりです!そんな卑しいエルフを友達だなんて言うから……きっと毒されたのですね!」

「誰が卑しいエルフやねん!」

「貴女の全てがです!穢らわしいっ!!」

「やめないか!エレオノーラ!」

「なぜエルフ等を庇うのです?!あぁ……!ヴェンツェル殿下が……!わたくしのヴェンツェル殿下がっ!エルフに毒されてしまわれた……!」

「さっきから何言うてんの?この人?」

「エレオノーラ、君は失礼だ!ウルに謝るんだ!」

「こんな卑しいエルフになぜわたくしが謝罪等する必要があるのです?!」

「卑しい卑しいって、そんな言葉が出てくる方こそ卑しいんちゃうの?」

「なんですって?!このわたくしを侮辱するのですか?!酷いっ!あんまりです!!」

「はぁ?何その被害妄想。可笑しいんちゃうん?」

「お父様に言いつけてやるわ!覚えておきなさい!」

「エレオノーラ!」


エレオノーラとか言う頭の悪そうな女は、何故か泣きながら走り去っていった。
貴族の世界で育ったらあんな感じになるんやな。
鬱陶しいったらないわー。


「ウル、気にしなくていいよ!ウルは卑しくも穢らわしくもない!僕は本当にウルを友達だって思ってる!」

「ヴァン、気にせんでも大丈夫やで?アタシは気にしてない。変な女がいらん事言うてただけや。」

「そうか。……良かった!」

「けど、ヴァンこそちゃんとしなアカンのんちゃうの?婚約者なんやろ?」

「正式に婚約者とはしていない。セレロールス公爵が強引にそう言ってきてて、でも僕からは何も……母上か?!」

「取り敢えずフォローしたった方が良いかも知れんで?なんか、ややこしそうやん?」

「ごめん、ウル!ちょっと聞いてくる!あ、本当に気にしないで!ウルは何も悪くないからね!」

「うん、分かってるって。ありがとう、ヴァン!」


ヴァンはそう言い残して走って行った。
ホンマに面倒やなぁ。
貴族とか皇族とか、なんや色んなシガラミってのがあるんやろうなぁ。

アタシは卑しいエルフやねんて……

穢らわしいって、なんやねん、それ。

なんもしてないわ。

なんにも悪いこと、してないわ。

せやのに、そんな風に言われんねんな。

ただエルフに生まれただけやのに。

見た目がちょっと違うだけやのに。

あー、姉ちゃに会いたいなぁー。

兄ちゃにも会いたい。

会って、ぎゅーってして、ちゅうーってして欲しい。

アタシ……卑しくなんかないねんから。

穢らわしくなんかないねんから……




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