慟哭の先に

レクフル

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前世の記憶

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 私には前世の記憶がある。

 私がこの世に生まれて来たのは、ある人に会う為だ。その為に私は存在する。

 さっき手に入れた短剣。これは前世でも私が持っていた。この柄にある窪みに嵌まる石を探して旅をしていた。旅をするのに他にも理由があったけれど、前世で私はこの石を二人で探していた事がある。
 一緒に旅をしていたその人が私の探し求める人だ。

 私はその人を残して自分の生涯を終えた。その時、私が持っていた物は彼が持っている筈だ。なのに何故短剣や石は彼が持っていないのだろうか?
 
 前世の記憶はある。けれど、探し求める人の顔は思い出せない。だから、彼が持っていたであろう石や短剣を探しながら、私は彼を探している。
 

「青の石はここから東へ行った場所にある……か」


 ここはシアレパス国の東にある森。そこから更に東へ行くとロヴァダ国がある。どうやら青の石はそこにあるようだ。

 今は転送陣というものがあって、それを使うには距離分の費用と身分を証明する物が必要となる。国内であれば然程移動するのに問題はないが、国境を越えるとすれば、身分の証明と入国理由が必要になる。犯罪者がいた場合、迂闊に他国へ移動させる訳にはいかないからだ。

 以前は転送陣などは無かった。地道に歩くか乗り合い馬車に乗るか馬車を借りるか……
 転送陣を使えばすぐに移動は可能だ。けれど、それは止めて歩いて行く事にする。歩くのであれば、国境を越えるのに面倒がない。

 私は犯罪者ではない。けれど私は追われている。それは私が『禍いの子』だからだ。

 森の中から抜け出すように、足に風魔法を惑い、颯爽と軽やかに走り出す。こうして行けば、馬車よりは早くに行ける筈だ。
 この先のどの辺りに村や街があるのかは分からないが、街があればそこで泊まろう。
  道中採取した薬草や素材等も売りたいし、久々にベッドで眠りたい。
 
 さっきの村へ行くのにもかなり日がかかった。あの村で休めたら、とは思っていたのだが、あれはダメだ。あの村は人で成り立っている村ではなかった。
 
 あの村には人間はごく僅かで、殆どがゴーレムだった。ゴーレムだけれど、一見人のように見えているし、人として生活もしている。
 そして、ゴーレムはあの村を守る事を一番に考えて行動している。村、というより、そこに住む人間を、だ。だから余所者を排除しようとする殺気が村中からしてきていて、なんとも居心地の悪い状態だったのだ。
 そんな所でゆっくり泊まれる訳がない。

 そんな事を考えながら暫く走ってくと、遠くに街の灯りが見えた。良かった。今日はベッドで眠れそうだ。

 着いたのは然程大きな街でもなく、森の中にひっそりとある小さな街だった。ここはまだシアレパス国だろうか。門には二人の門番がいて、簡単な身分証明のみで街へ入る事ができた。

 身分証明として、私はギルドカードを持っている。これは誰でもすぐに登録できる。ランクに見合う依頼を受けていき、一定の依頼を達成できれば次のランクへ昇格する試験を受けることができる。まぁ、私は依頼を受けるつもりもないしランクを上げるつもりもないので、身分証明とギルドで素材を売るためだけにギルドカードを持っているにすぎないのだが。

 街は三メートル程の石畳の塀で覆われていて、小さな街にしては頑丈な造りだと感じられた。
 門を抜け、街中を歩く。すれ違う人達が私を見て立ち止まる。ここは余所者が来るのは珍しいのだろうか。いや、そうではないか……
 仕事を終えたであろう人達が行き交っている。飲み屋等もそこここにあって、これから活気づいていくのだと容易に分かる。
 
 まずは宿屋を決めることにする。辺りを見ながら歩いていると、一軒の宿屋が目に入った。今はもう陽が落ちてきていて、辺りを夕闇に染めている。早めに宿を決めた方が良さそうだ。
 
 目についた宿屋へ入り、受付にいる女性に声をかける。


「泊まりたいのだが、部屋は空いているか?」

「え……あ、はい! 空いてます!」

「では一泊お願いしたい」

「か、畏まりました!」


 私の顔を見るなり驚いて、目も合わさずに女性は鍵を差し出した。宿泊代を支払い鍵を受け取る。受付の横に階段があり、そこから部屋へと行けるようだが、一階の一角に食堂があったので、夜はそこで食事を摂る事にする。

 一度部屋へ行き、外套と荷物のみ置いてから、一階の食堂へ向かう。カウンター席が数席、テーブルが五つ程の食堂には、数人の客が既にいて、食事をしながら酒を飲んでいた。
 
 先程の受付の女性が注文を聞きに来たので、お勧めの物とエールを頼んだ。
 
 しかし、さっきから私をチラチラ見ている横の冒険者風の男二人。何か言いたげそうにしているので目線を合わせてやると、その瞬間ハッと驚いた感じになって、すぐに席を立って私の横のテーブルへと移動してきた。


「な、なぁ、アンタ、この街は初めてなのか?」

「あぁ、そうだ」

「どこかに行く用事でもあんのか? ここは国境近くの街だから人の出入りはある方だけど、アンタみたいな奴は見ないから……」

「私みたいな、とはどういう事だ?」

「あ、いや、その、な……なんか、目を惹くっていうか、一瞬で釘付けになっちまうっていうか……って、何言ってんだ、俺は!」

「その、アンタは冒険者なのか? 女って言われても疑わねぇ位にキレイな顔してっからよ、その、街で絡まれたりしたら大変だな、とか思ってな?」

「心配してくれていたんだな。ありがとう、優しいんだな。でも私は大丈夫だ」

「優しいとか、そんな事、ねぇよ……」

「お前、何照れてんだよ! あ、なぁ、アンタこの街には何かあって来たのか?」

「そうだな……」
 
「なぁ、俺たちと一緒に飲まねぇか? 奢ってやっからよ!」


 そう言いながら、男は私の左手に触れようとしてきたから慌てて威圧を放つ。すると男はビクッとして、その場で固まったように動かなくなった。もう一人の男も驚いた顔で私を凝視する。


「一緒に飲むのは構わない。けれど私に触れないようにして貰えないか」

「あ、あぁ、分かった! すまねぇ!」


 全く、制御していてもこれだ。

 私の目には、魅了の効果がある。魅了は闇の力だ。元々闇の力が強いのだが、私は黒の石を握り締めて生まれ落ちたそうなのだ。側にいた産婆や父親が不思議そうにその手を見ていた時、突然その石が私を包み込むように黒く光り出して私の体に消えたのだと母は教えてくれた。
 
 その黒の石は精霊だ。さっき短剣に嵌めた黄色の石も精霊だ。私の体の中には今、黒と黄色の石の精霊がいる。それ以外にも契約している精霊はいるけれど。
 
 黒の石は闇の精霊テネブレ。
 
 テネブレは、前世から私に力を貸してくれていた。今世でも、こうやって私の力になってくれている。ただそのお陰で魅了の効果は絶大になり、光魔法でその効果を抑制していても、魅了は私の体の中におさまることなく滲み出ているらしいのだ。
 
 前世でもこれで人に好意を持たれて付け狙われたりしたのだが、今世でもそれは同じだ。それでも、生まれてからずっとこうやって生きてきているので、制御する事には慣れてはいるのだが。

 目の前にいる冒険者風の男達も、私の魅了に侵されてしまったんだろう。本当に申し訳ない。
 けれど情報を知る為に、この街の人達から話を聞くのは必要だと思い、男達の提案を受け入れた。

 他の客もこちらを見て、悔しそうな感じで私の横のテーブルに座った冒険者風の男達を見る。あまり注目しないで欲しいのだが。


「俺達はこの街で冒険者をしている。この近くにダンジョンがあるからな。このダンジョンが国境にかかってあるから、両国がうちのダンジョンだと言ってきかなくて、シアレパス国とロヴァダ国はあまり仲は良くねぇ。まぁまぁ大きなダンジョンだから、どっちも譲りたくねぇんだろうけど。で? アンタもダンジョンが目的でやって来たのか?」

「いや、そうではない。行く所があるのでな。その途中だ。私は冒険者ではないからな」

「まぁ、そうだよな。冒険者って程強そうに見えねぇからな。なら一人で旅をしてるって事か?」

「そうだ。前は母と一緒だった。私が目を離した隙に盗賊に襲われて亡くなったけれど……」

「そ、そうか……それは悪い事を聞いたな」

「いや、大丈夫だ」

「それからは一人なのか?」

「そうだな。今は生き別れた父と兄を探している」

「そうなんだな。そりゃ大変だ」

「聞きたいんだが、英雄の事は知っているか?」

「英雄? それって、伝説の英雄の事か?」

「そうだ。五人の伝説の英雄の事だ」

「そりゃ知ってるぜ。英雄を知らない奴はいねぇだろ? で? それがどうしたんだ?」

「実在するというのは知っているか?」

「いや……それは……実在するかも知んねぇけど、それもどうか分からないから伝説って言われてんだろ? それがどうしたんだ?」

「その存在を確認したくてな」

「それは無理だろ?! 英雄に会った奴なんて聞いた事ねぇからな!」

「やはりそうか……」

「あ、いや、アンタをバカにした訳じゃねぇ!」

「大丈夫だ。気にしていない」

「そっか……良かった……あ、でも、その伝説の誰だったか……確か、魔物を従わせる事が出来る英雄っての、ソイツはアーテノワ国が出身だと噂で聞いた事があるぜ!」

「そうなのか?!」

「あぁ! けど、ここからは遠い国だから場所もあやふやで、確認する事も出来ねぇけどな」

「そうか……いや、それでもその情報を貰えた事に感謝する。ありがとう」

「いや、こんぐらいどうって事ねぇよ! あ、酒無くなったな、もっと飲めよ!」

「あぁ」

「ところでアンタ、なんて名前なんだ?」

「……アシュレイだ」

 



 
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