慟哭の先に

レクフル

文字の大きさ
3 / 166

禍の子

しおりを挟む

 宿屋の一階の食堂で、私は情報を得るためにこの街の冒険者達と食事を摂っている。

 冒険者達は陽気で、この街の事を色々と聞かせてくれた。けれどそこには欲しい情報はあまりなくて、そろそろ部屋に戻ろうとして、この場を切り上げる事にする。


「では私は部屋に戻る。色々教えてくれて助かった。礼を言う」

「え?! もう帰るのかよ! もう少し話しをしようぜ!」

「そうだ、あ、なぁ! アンタの探してる父親と兄貴の特徴を教えてくれよ! もしかしたら知ってる奴かも知んねぇからな!」

「……そう、だな。けれど、私が5歳の頃に別れてしまったから詳しくは覚えていないんだ。父は髪が藍色で、兄も同じ髪色だった。兄と私は双子だったんだ」

「藍色の髪って珍しいな。けど双子って……」

「あぁ、双子は忌み子と言われているからね」

「あ、その、俺は何とも思わねぇよ?! アンタをそんな風に思わねぇし!」

「それは俺もだ! けど、シアレパス国はまだ問題ねぇけど、ロヴァダ国はそういった事に敏感だな。特に男女の双子となりゃあ余計だな。そういや、何年か前に聞いた事があったな」

「あぁ、『禍の子』か?」

「そう、それだ。それも男女の双子だったか……どっかの高名な預言者だかが『禍の子』が生まれたとか予見して、その子供を殺しにいったってな」

「で、どうだった? 殺せたんだっけか?」

「どうだったんだろうな? それは分かんねぇ」

「けど『禍の子』とか、勘弁してくれって感じだよな。今は国間の多少のイザコザはあるが、魔物も落ち着いて平和なこのご時世に、その『禍の子』ってのはなんか起こすとかなのか? マジで勘弁だぜ!」

「まぁ、どうせ殺されてるよ。生きててもずっと追われる身なんだぜ? ある意味同情するぜ」

「だなぁ?」

「……そろそろ部屋に戻る。有益な情報、助かった」

「え?! あ、ちょっと待てよ、まだ……」


 呼び止めようとする冒険者を後にして、私は部屋へと戻った。

 彼等が言っていた『禍の子』

 そうだ。私が『禍の子』だ。

 そして私は男の装いをしているが、実は女だ。

  私は小さな村で生まれた。私には双子の兄がいた。父と母は優しくて、私たち家族は慎ましく、けれど幸せに暮らしていた。

 私と兄の5歳の誕生日の夜。
 その村に武装した兵士達が現れた。


「男女の双子の子供を差し出せ!」

「女だ! 双子の女の方を殺せ! ソイツが『禍いの子』なのだ!」


 そう大声で怒鳴り、その場を静めようとした村長はその場でいきなり切り殺された。
 少しでも抵抗しようものなら容赦なく剣を振るう兵士達に恐怖を感じ、村は一瞬にして阿鼻叫喚の状態へと化した。

 その様子を見て自分たちの事だと思った父は兄を抱き、母は私を抱き、着の身着のままでその場を逃げ出した。

 父と母は追っ手を逃れるようにあっちへこっちへと走り、そして気づけば父と母ははぐれてしまっていた。
 それから私と母は二人で各地を巡りながら父と兄を探し、そして何故『禍いの子』と言われているかも分からずに、追われる意味も分からずに身を隠して生きている。だから私は女であることを隠したのだ。

 あれから12年。私は今一人で生きている。2年前に母は亡くなった。旅の途中、野宿をしていた場所から少し離れ、私が食料として獣を狩りに行ったその間に母は盗賊に襲われた。
 叫び声が聞こえ、駆けつけた時にはもう遅かった。

  そこまで思い出して、頭を横に振るう。こんな事を思い出しても何も良いこと等ない。考えるな。思い出すな。そう自分に暗示を掛けるようにして目を閉じる。

 それからさっきの村の事を考える。

  あの村には黄色の石に導かれるようにして行った。
 短剣に嵌め込まれた黄色の石。それはとある街の雑貨屋で売られていた物だった。同じような黄色の石が幾つもまとめて置いてある中で、一つだけ違って見えたそれを、私はすぐに精霊の石だと分かったのだ。 

 なぜそれがこうやって他の石と紛れて売られていたのかは分からなかったが、私はそれをすぐに購入した。その石を手にしてから、導かれるようにしてあの村へ行ったのだ。

 そして見つけたあの少年。

 あの少年は魂の欠片だ。私が探している人の、魂の欠片が作り出した少年だ。
 私の魂がその魂を覚えていた。一目見て気づいた。そして私は、暖かくて優しい魂の欠片を解放すべく、少年を葬ったのだ。
 
 貴方は未だ心を傷めているのだな。けれど、そんなに自分を傷つけてそれで報われるのか。
 

「会いたい……エリアスに会いたい……」


 唇から零れ落ちるように言葉が音になって出てくる……

 前世で私の伴侶であったエリアス。
 エリアスは今も自分を責めているんだな……

 会って抱き締めてあげたい。
 もう良いんだって。自分を責めなくて良いんだって。もう大丈夫だよって、そう言ってあげたい。

 私はその為に生まれたのだから。

 私が探しているエリアスという人物の魂を解放する為に、私は生まれたのだから。

 
「あ、うっ……! ぐっ……!」


 いきなり全身が痛みだす。起きている事ができなくて、そのままベッドに突っ伏した。
 エリアスの事を考えると、こうやって身体中が痛みだす時がある。荒く呼吸をして、流れ出る汗もそのままにシーツを握り締めて一人痛みに耐える。
 
 
「そう、だよね……思い出す、と、嬉しく……なる、よね……」


 同調するように、そして宥めるように言うと、少しずつ痛みがひいてくる。

 
「ごめん、ね……まだ、どこにいるか、分からないんだ……でも探すから……絶対見つけるから……それまで待っててね……リュカ……」


 大きく何度も息をして、煩く鼓動する心臓に手をやる。

 私の中には、もう一つ魂がある。

 それは私とエリアスの子供である、リュカという女の子の魂だ。

 私が天に還ってから、エリアスとリュカは二人で暮らすに至った。
 けれど、リュカは呪いに侵された人々を救うために、自ら呪いを体に受け入れてその命を終えたのだ。そして困惑してさ迷う魂を、私は何処へも行かないように、離さないようにした。
 
 私が生まれ変わった時に、その魂と共に私はこの体に宿ったのだ。
 今度こそリュカをこの世にちゃんと産んであげたい。できるなら前世で出来なかった家族としての生活を3人でしたい。そんなささやかな幸せを、エリアスに与えてあげたい。

 ううん、そうじゃない。私がそうしたいのだ。

 リュカを救えなかったエリアスは、今もまだ自分を責め続けて許せないでいる。

 誰も悪くなんかない。その場にいなくて助けてあげる事が出来なかった事が、私も悔しくて仕方がなかった。


「助けにきたよ……約束したもの……エリアスを助けるって……遅くなって……ごめんね……」


 叶うなら、ほんの少しでいいから私達3人が暮らせる時間を……

 それが無理なら……



 気づくとそのまま眠ってしまっていた。
 朝の陽射しが柔らかく私を包む。

 これから東へ行って、青の石を探しに行く。

 少しでもエリアスに繋がる何かが見つかるといいんだけれど……



 


 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

処理中です...