慟哭の先に

レクフル

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密かな楽しみ

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 武力に特化させたゴーレムが殺られた。

 アイツはそんなに弱いヤツじゃねぇ。Aランクの魔物でさえも倒せるほどの力を与えたんだ。そのアイツが殺られるなんて、なにが起こったってんだよ?!

 急いで空間移動でアイツに任せていた場所、ゲルヴァイン王国の北にある村へと飛んで行く。村が何者かに襲われた可能性があるから、まずはそれを確認しなきゃいけねぇ。

 村に着いて辺りを確認する。何者かに襲われた形跡はない。村人達はいつものように畑仕事や家畜の世話をしているし、子供達は鬼ごっこでもしてんのか、走ってはしゃいで遊んでる。良かった……村が襲われた訳じゃねぇんだな……

 ゴーレムにさせていたエゾヒツジの世話はどうなっているのかを確認しに行く。村を出た所にある広い土地で、アイツいつもはエゾヒツジを放牧させている。いつもはそこで子供達も遊んでいるが、今はそこに親子が数人いた。


「ちょっと聞きてぇんだけど、ここの牧場主はどこに行ったか知ってるか?」

「え? あ、エクトルさんですか? さっきまでいたんですけどね。用事が出来たのか、空に火を放って、私たちに子供を迎えに来るように合図されたんですよ。前からそれが合図になってて、でもこんな時間に打ち上がった事が無かったのでどうしたのかと思っていたのですが……」

「どこに行ったのかは分からないです。今エゾヒツジ達は見習いの子が見てるから、すぐに帰ってくるんじゃないでしょうか?」

「そうか……ありがとな」


 ここで何かあれば子供達に被害が及ぶからな。それを気にして場所を変えたか? そんな余裕があったってことか?
 この辺りで戦うとなると……

 目ぼしい場所を探しに山の方へ飛んでいく。上空の低い位置から確認して、千里眼も使って細かくチェックしていく。そうしていくと、山間にある少し拓けた所で、ここには芝生が広がっている場所なのに、ある所にだけ土があるのが見えた。

 その場所へ降り立って、足元にある土を屈んで手に取る。俺がこのゴーレムを作り出した場所はアクシタス国にある村の一角だった。そこで作ったから、ゴーレムはアクシタス国の土で出来ている事になる。

 鑑定眼でその土を調べてみると、この場所にはない成分が検出された。その成分の特徴はアクシタス国の物だった。

 
「ここで殺られちまったのか……誰にだ?」


 埋め込んだ魔石は持ち去られたか、無くなっている。あれはかなり高度の魔物を狩って得た魔石で、そうそう手に入る物じゃない。その魔石が目当てだったか? いや、コイツがゴーレムだってのは、滅多に見抜かれる事じゃねえ。
 
 村や村人達には何の被害もない。被害が及ばないように、こんな場所まで来て戦ったって事は……


「コイツを倒すのが目的か……」


 何の目的があってだ? 何故英雄と呼ばれるコイツを殺しに来た? いや、なぜコイツが英雄と呼ばれる奴なのか分かったんだ?

 サラサラになった土に向けて魔法を放ち、再度ゴーレムを作り出した。前のエクトルと呼ばれたゴーレムに似せるようにして、持っているモノで一番高度の魔石を胸に埋め込む。それでも前に埋め込んでいた魔石よりも劣る物だ。

 取り敢えずそれでゴーレムを完成させて、元いた場所へ帰るように指示をする。このゴーレムの記憶は無くなってしまっていたが、今まであった記憶の断片は俺が覚えているから、思い出せる限りを植え付けておくことにする。
 これで何とか村人達には怪しまれねぇかな。

 けど、何処のどいつが殺しに来たんだ? 被害が無かったから、ゴーレムは本気で殺しにはいってない筈だ。よっぽどの事がない限り、人間には危害を加えないように指示はしている。それが今回は仇になったのか?

 しかし、それでも相手は強い奴なんだろう。そんな奴、この辺りにいたか? 
 また来るかも知れないから、監視のゴーレムも置いておく事にする。コイツは姿が見えないように透明化させておいた。

 目的が分からないと動きようがないな。取り敢えず他のゴーレムの様子も確認しようか。

 感覚共有で確認したけど、他の英雄と呼ばれているゴーレムには何の変化も無かった。そうでないゴーレムもいつもと変わる事なく、その土地に馴染むように生活している。確認と同時にアシュリーの様子も探っておくが、やっぱりアシュリーの気配は無かった。

 預言者に付けているゴーレムの様子も確認する。預言者は滞在していた街から即座に撤退し、王都へと帰る準備をしている。ロヴァダ国には転送陣がないから、たどり着くまで時間が掛かりそうだな。まぁそれは仕方ない。その間に俺はロヴァダ国をじっくり見させて貰うことにしようか。

 ゲルヴァイン王国の村は、何事もなかったように日常へと戻っていく。また気にして見ておく事にしてその場を離れた。

 各地に派遣させてあるゴーレムを一体一体確認しながら、俺はロヴァダ国へと戻ろうとする。その時に感覚共有した一体のゴーレムから見えた人物に思わず微笑んでしまう。

 
「ウル……今日も元気そうだ。良かった」


 俺と同じ時を生きるエルフのウル。今はオルギアン帝国の皇太后ってのになっていて、ウルには誰も何も言えない程の存在となっている。けど見た目は400年前から何も変わっていなくって、なんか同志を見るような感覚でいる。
 
 ウルもこの400年間、旦那であったヴェンツェルに先立たれ、自分の子供達にも孫にも先立たれ、それでもウルは腐ることなく気丈に振る舞っている。
 ウルはすげぇ。立派に自分の役目を全うしているし、余計なことはしないように心掛けている。

 あれ? 誰かに呼び出されて行ったか……残念だな。もう少し見ていたかったのに。ウルを見てると元気が貰える。俺も頑張らなくちゃなって思える。

 そろそろオルギアン帝国にも行かなきゃな。特に問題は無さそうだけど、定期的に行くことにしているし、間近でウルの姿も見たいしな。
 
 とにかく今俺が一番に考える事は、アシュリーの事だ。またロヴァダ国がアシュリーに悪さをしないように見張っとかないとな。

 ゴーレムが殺られたりあったけど、気を取り直してロヴァダ国王の近辺を調べるとするか。
 

 
 
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