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落ち着こう
しおりを挟むイルナミの街へ空間移動でやって来た。
孤児院を訪ねると、子供達と俺の魂を付与させた『聖女』のゴーレムがいた。
今ここには孤児の子供が9人いる。『聖女』のゴーレムは、ここのシスターとして働かせている。他にもシスターはいるが、その人はちゃんとした人間だ。ここでも俺は行商人アスターとして関わっている。
「あ、アスターだ! 今日は何を持ってきてくれたの?!」
「アスター! 抱っこしてー!」
子供達がワラワラと俺の元に集まってくる。可愛いな。一人一人抱き上げて、高い高いってしてやると、嬉しそうにキャッキャ言ってくれる。
大きくなった子は恥ずかしそうにしてるから、無理やり行って掴み上げてやると、
「やめろよー!」
とか言いながらも嬉しそうな顔をする。
「お菓子ならあるぞ! それ以外は今日は無いんだ。ごめんな?」
「お菓子あるの!? やったぁ!」
持っていたお菓子をテーブルにどっさり出してやると、子供達はキラキラした目で見る。シスターに、手を洗ってくるように言われると、皆急いで手を洗いに行った。
「なぁシスター、聖女と話がしたい。ちょっと借りるな?」
「えぇ。もちろん結構ですよ」
シスターは笑顔で送り出す。こんなに快く許可を出すのは、俺がここに『聖女』を連れてきたからだ。前のゴーレムは警護としてこの孤児院につかせていたけど、魔法も使えるからと言って代わりに『聖女』を連れてきたのだ。
外に連れ出し、誰からも見られない様に俺の家まで空間移動でやって来た。
しかし、つくづく可愛い容姿をしている。アシュリー以外でって考えて作り出したけど、やっぱりアシュリーに似てる。いや、アシュリーの方が断然可愛いけどな!
で、アシュリーがまた訪ねて来たら、俺にすぐに連絡が来るように感覚を飛ばすことと、アシュリーを留めておくようにすることを記憶させる。それから、アシュリーに小さな見えないゴーレムを忍ばせる事も付け足して、『聖女』の肩にその小さなゴーレムを乗せておいた。
俺が『聖女』に「頼んだからな」って言うと、ゴーレムの癖にニッコリ微笑む。その笑顔がすっげぇ可愛く思ってしまう。
やべぇ……離れたくねぇ……
いや、これは俺の魂がそうさせているんだ。錯覚しちゃいけねぇ。それにこれはゴーレムだ。人間じゃねぇ。分かっちゃいるけど理屈じゃなく心が求めてしまう。魂の吸引力ってすげぇんだな。
頭を振って思いを断って、孤児院まで戻って来た。シスターに挨拶して、子供達をもう一度抱き上げてから孤児院を後にし、家に戻った。
取り敢えずアシュリーを認識させたから、これでアシュリーを見掛けたら、『聖女』は目を離さずに見てくれるだろう。またアシュリーが孤児院まで来たら、今度は俺が来よう。そしてアシュリーに会おう。
って、まだ会えてねぇのに、そう思うだけでドキドキしてきた! 重症だな……!
一旦家に帰って落ち着かなくちゃな。アシュリーの事はこれで待つ事のみとなった。次はロヴァダ国の事を考えてなくちゃいけねぇし。ちゃんと策を練ろう。って事で家に帰ってきた。
ソファーにドカッて座って、頭を背もたれに乗せて、つい物思いに耽ってしまう。勿論考えてしまうのはアシュリーの事だ。
アシュリーの笑った顔、嬉しそうな顔、泣いてる顔、俺の腕の中で眠っている顔……
その一つ一つ全部が愛しくて、どうしようもなくなってくる。ダメだ、会いたくてどうしようもねぇ!
いや、落ち着け。落ち着く為に俺は家に帰ってきたんだろ!
とにかく今は何もできねぇ。だからあの酷い国の事を考えなくちゃな。
雨を降らせて雷を落として、まぁ魔法でそう思わせただけだけど、あの後暫く住人達は何の指示もされないからか、ずっとずぶ濡れのままその場で立ったままだった。その後偉そうな奴がやって来て、持ち場に戻るよう言ったから、それを聞いて初めて人々は動き出した。徹底してるよな。
まぁけど、少しでも意に沿わない事をすれば処刑されるとなったら、誰でもそうなるかも知んねぇな。自分だけじゃなくて、家族もそうされるってんなら、従っちまうか……やることがえげつないな。
置いていった透明化させたゴーレムと感覚共有で確認しながら考える。とにかく国王の元へ行くか。
王都まで空間移動で行って、それから透明化して王城へ飛んで行く。何を警戒してんのか、警備の兵士達があちこちにいっぱいいる。結界も張ってある。かなり強力な結界なんだろうけど、俺には問題なく侵入できるな。
結界を破っちまうとバレるかも知んねぇから、結界に手で触れて張っている魔力と同調する。俺の魔力を結界の魔力に合わせていくと、俺を結界の一部だと認識してそのまま通り抜けられるって訳だ。こんな事も簡単に出来るようになった。まぁ、闇魔法で兵士か貴族だかの影に潜り込む事も出来たけどな。
中に入って色々見ていく。しかし、やっぱ中は煌びやかだな。ってか、高級そうなので埋め尽くしてるって感じで、それは決して趣味が良いとか、そんなんじゃねぇ。取り敢えず高そうなヤツ飾っとこう、みたいなのが見てとれるな。まぁけど、センスはねぇな。
王城の中でも、兵士達はキビキビ動いていて、その動きは統一されている。よっぽど厳しく訓練されてんだな。
あちこち見て回って城の様子を確認していって分かったのは、煌びやかに見えているけどそれだけだ、と言うことだ。
王都と同じような感じで、見えるところは良く見せてるけど中身が伴ってねぇ。どういう事かというと、兵士達が待機する場所や、使用人達がいる部屋なんかは、造りこそ雑とかではないが、質素だ。必要最低限の物しかねぇし、魔道具の照明もなく、灯りは今時ランプだ。それも所々燃料切れとかで点いてねぇし、部屋の中は窓も無くて薄暗い。
厨房に行ってみるが、そこでもそうだ。薄暗いのもそうだが、火を扱うのに薪が足りないとか、水が出なくなったとか、そんな事で慌てながらも、慣れているのか外に水を汲みにいったり、薪を持ってこさせたりして、バタバタしながらも何とか凌いでるって感じだ。
明らかに経費削減の範囲を越えてるな。
で、上の奴等を見てみると、階級が上がる程に贅沢さ加減が上がっていくみたいだ。着てる物も抱えている使用人も部屋の調度品とかも態度もだ。本当に自分達の事しか考えてないって奴等ばっかりだ。
で、極めつけは国王だ。
住人達は皆ガリガリで、骨と皮しかねぇ位に痩せ干そっていて、兵士達も使用人達も痩せている奴等ばっかりだ。貴族であってもそんなに体格のいいヤツはいなくって、食糧難なのがそれだけ見ても分かるほどだ。
けど、国王だけがデップり肥え太っている。
そして、お菓子が常にそばにあって、ひっきりなしに口を動かしている状態だ。
これが一国の王か。
世も末だな。
いや、俺がそう言ってしまうとマジでそうなっちまうな。訂正しなくちゃな。
頭の悪そうなこの国王。
さて、どうしてやろうか。
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