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俺でなくとも
しおりを挟むその日もいつものように各国にある村や街へアスターとして行って、頼まれて仕入れた物を持って行ったり最近の様子を確認してゴーレムの具合を見たりする。
空間移動を使えると言っても、色んな場所を巡っていくと結構な時間がかかんだよな。人との交流も大切だから、話しとかしてゴーレムでも気づかなかった事とか知ったりする事もあるしな。
いくつかそうやって街や村の様子を確認してからロヴァダ国の王都の様子も見る。あれだけいた兵士達がいなくなっていて、大通りはガランとした感じだった。元々人の行き来が少なかったから、兵士達がいなくなると本当に人の姿が確認できない程だ。
しかし、路地に入っていくと人はやっぱり多い。大通りを抜けて住宅街に入ると、そこには工場や畑がある。そこで皆、昨日と同じように働いている。見張る兵士達がいなくても、誰もが休むことなく必死で働いている。
働く事は良いことだ。けど、ここの人達は何故働いているのかというと、それは自分達の為じゃない。国の為、国王の為に働いているのだ。殆ど給金は貰えずに、ギリギリ生きていける程の食糧を与えられるのみだった。娯楽もなく何の楽しみもない……いや、違うか。家族と共にある時だけが、唯一幸せを感じる事が出来るのか。
それにここは自由恋愛を禁じられていたようだ。手頃な男女を上の奴等が勝手にくっ付けて結婚させる、みたいな感じだな。そうやって結婚したとしても、家族となれば情は湧く。劣悪な環境の中でお互い支え合うようにして生きていけば、愛し合うのも自然な事だ。
そうやって人々は、ささやかな幸せをを守るように、ただ言われるがまま働き続ける。
何ていう事してんだよ……
周りの環境がそうで、生まれた時からそれが当たり前であれば疑う余地なく従うんだろうな。
けどそうじゃない。自分達で決めて良いんだ。自分で考えて自分が思うように生きて良いんだ。
いきなりは難しいかも知れねぇけど少しずつリハビリして、人としての感情を芽生えさせてさ、ちゃんとした生活をおくれるようにしていこうな。
上空を飛びなら、まだ表情が硬い住人達を見てそんなふうに心の中で語りかけた。
ぐるりと王都を飛んで様子を見てから、王城のバルタザールの部屋へ空間移動で行く。
部屋にはバルタザールがいて、俺が現れるとすげぇ驚いて、けどすぐに頭を下げた。マジで従順だな。
「よう、バルタザール。どんな感じだ?」
「はい、指示された通りに致しております。女達と奴隷を解放しました」
「その後はどうなった?」
「は、い……それは……」
「解放しただけで何もしなかったのか?!」
「私は言われた通りに……」
「部下達にはちゃんと指示したのか?!」
「禍の子に手を出さぬように指示を致しました」
「それだけじゃなくて、解放した子達に何もしないようにだ!」
「いえ! それは言っておりません!」
「……っ!」
すぐに解放を指示した兵士の元へ案内させる。その兵士は怯えた顔をして、それから兵舎に俺達を案内した。
そこには兵士達が解放された奴隷や女性達を弄ぶようにあちこちで凌辱している場面が目に飛び込んできた。
その酷い様子に一瞬何も言えなかったが、段々怒りが湧いてきて、思わず大声で叫んでいた。
「やめろぉっ!!!」
叫んだ時に威圧を放ってしまっていたから、その場にいた者達全員が怯えおののき、そらからバルタザールを見て平伏した。
俺は解放する事を指示はした。けれどそれ以降は指示しなかった。俺の感覚では、その後落ち着けるように暫く部屋で休ませるかして、落ち着いたら家族の元へ戻すか行きたい場所があるなら手筈を整えてやるかをするんだ。
俺が作ったゴーレムには俺の意思を受け継ぐからか、俺と同じように動いてくれる。それを当然だと勘違いしていた。
これは明らかに俺の指示不足だ。俺が悪い。この国じゃ兵士達の感覚も狂ってた……!
その場ですぐに何体もゴーレムを作り出して女性に見えるようにし、涙に震えて動けなくなってしまった女性達を助けるように促す。
バルタザールには女性達に風呂と着るものを与え、食事の用意をさせるように言い、対応は全て女性にさせるように指示をする。言われたバルタザールは頷いて、すぐに指示されたように動き出す。
残った兵士達に、俺は憤りを隠せなかった。俺の指示が甘かったせいだが、それでも解放された途端に自分達の快楽の為にこんな事を……!
数十人いる兵士達は、まだ俺の威圧を受けた状態だから動けずにいる。俺と目を合わせるように言うと抵抗力することなく目を合わせる。その状態で魔眼を発動した。自分が一番恐怖に思える存在を見せたのだ。
途端に叫び声が響き出す。暫くはそうしておけ。お前達も恐怖くらい感じるが良い。
そうしてからその場を去ろうとして、不意に聖女のゴーレムの気配が無くなった事に気づく。
倒されたのか……? なんでだ?! また誰かが俺のゴーレムを倒しに来たのか?! なんの為に!?
すぐに聖女のゴーレムがいた場所へ向かった。そこはイルナミの街を出て南側にある森の中だった。
盛り上がった土がある。これは聖女のゴーレムだった。魔石はまた持ち去られてた。何が目的だ? 俺の魂が付与された魔石が目当てか? 何かに使うつもりか? 何にだ? それを使えるなんて、かなり高度な魔術師だぞ?!
苛立ちと悲しみが胸を襲う。ただのゴーレムだ。人じゃねぇ。けど……
ギリっと歯噛みしてしまうけど、気持ちを落ち着かせようと空を仰ぐ。そしてふと気づく。 そう言えばこのゴーレムにつかせていた透明化させた小さなゴーレムは……?
透明化したゴーレムと感覚を共有する。
「見つけた……」
アシュリーだ……アシュリーがいる……
聖女に会いに来たのか? アシュリーが聖女を倒したのか? 何故だ?
アシュリーはベッドで、幸せそうな顔をして眠っていた。透明化したゴーレムは小さく作っていたから、今見えてるものしか感覚共有は出来ない。それに音も聞こえない。だから何があったのかは分からない。
分からないけど、今はそんな事はどうでも良くなった。ゴーレムを倒されたのはどうでも良いことじゃねぇけど、でもアシュリーの居場所が分かった。
いや、まだ分からねぇか。高級な部屋っぽい。どっかの高級な宿屋か? けど、なんでこんな時間に寝るんだ? 疲れてんのか? それとも何処か悪いのか?
あぁ……でも……
アシュリーの幸せそうに眠る姿を見られるだけで、それだけでもうどうでも良くなってくる……
さっきまであった兵士達への苛立ちとか、ゴーレムを失った悲しみが一瞬にして消えていった。こんなふうに俺の心を救ってくれんだな。
アシュリーが目覚めたら、ちゃんと姿を現そう。会ってちゃんと話をしよう。今度こそ逃げないでアシュリーと向き合おう。
アシュリーが幸せなら、俺はそれで良い。
その幸せを与えてやれるのがたとえ俺でなくとも……
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