慟哭の先に

レクフル

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一人の夜

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 ジョルディの自室に空間移動でやって来た。そこにはさっき俺を迎えてくれた侍従がいて、俺の事を取り次いでいたところだった。


「ヴァルツ様、暫しお待ちくださいと申し上げましたのに……」

「よい。ヴァルツ殿はいつもこうだ。待つのが耐えられぬのだろう。お前は下がれ」

「は……!」


 ジョルディは人払いをする。これで部屋は俺と二人きりになった。余程信用してるのか、いつも何の躊躇いもなくそうする。まぁ、俺が皇帝を倒す意味なんかねぇからな。
 二人になったところで結界を張り、防音の魔法をかけておく。


「そろそろ来る頃だと思っていたぞ。何か情報があれば聞かせて貰えるか」

「あぁ。ロヴァダ国の事で話があって来た」

「ロヴァダ国……シアレパス国の東側にある国だな。交流はないな。シアレパス国とはダンジョンが国境に掛かってあるから、それで少し揉めていると聞いたことはあるが……」

「そうだな。6分の5程がシアレパス国の領土だから、シアレパス国は自国のダンジョンだと主張してはいるが、ロヴァダ国は頑なにそれを認めねぇみたいだな。お陰でシアレパス国は使用料として結構な金額を要求されてるな」

「そこまで分かっているのだな。あとは……諜報員がやたらと多い事と、他国の者を拉致しているとの情報もある」

「そうなのか?」

「とにかくキナ臭い国だ。その国がどうしたのか」

「あの国を立て直す。それに力を貸してほしい」

「立て直すだと? どういう事だ?」

「全てを見てはいないが、あの国の王都と城の中を見てきた。まぁ酷ぇもんだった。国民全員が牢獄に入れられてるみてぇな生活をしていたな。で、国王が最悪の奴だ。あのままじゃあそこに住む人達は救われねぇ。何とか出来ないかと考えていてな」

「何とかとは……何か考えがあるのか?」

「取り敢えず、国王は抑える事ができた。そっから中に入り込んで立て直そうかと思ってな」

「国王を抑えたと?! どうやって……! いや、それはいい。ヴァルツ殿の事だ。上手くしたのだろう。ではこちらから内政を正していく者を派遣しろ、と言うことなのか?」

「よく分かってんじゃねぇか。そういうのに向いてる奴を頼みたい」

「成る程な。それは願ってもない事だ。こちらも少しだがあの国の事を調べていたのでな。あそこは未だ魔物の脅威に晒されている。そのせいか、武力や魔術のレベルは我が帝国よりも高いと言わざるを得ん。もし監視下に置けるのであれば、軍事強化をする為の場所として使えるのではないか、と考えておる」

「まぁ、どう使うかは任せるよ。国が豊かになり、人々が安心して暮らせるようにしてくれればなんでも構わねぇ。じゃあ人選は頼んだ。また近々来る」

「心得た」


 ジョルディは堅実な皇帝だ。ちょっとイケイケなところがあるから心配はあるが、まぁ問題はないだろう。政治に聡い奴もすぐに選出してくれるだろうし、それまでにバルタザールをどう動かすか考えなくちゃな。

 って事でロヴァダ国の王城へ戻ってきた。

 バルタザールは俺の言うことをちゃんと聞いて、部屋で大人しくしていたようだ。監視に置いたゴーレムと感覚を共有しても、バルタザールは俺がいない間ピクリとも動かずにその場でいたままだった。俺に忠実すぎんだろ……

 
「ちゃんと何もせずに待っていたんだな」

「はい。仰せのままに」

「じゃあ、禍の子に関する指示を取り消すよう動け。今後一切、禍の子に関わらない事を全ての者に伝えろ」

「分かりました」

「それと、ここに捕らえられてる奴隷とお前の相手をしていた女性達を解放しろ。これからこの国は奴隷制度をなくすんだ」

「はい、そのようにします」

「あ、それから、広場でしてた公開処刑な。あんな悪趣味な事は止めろ。二度とすんな。無闇矢鱈に人を殺すんじゃねぇよ」

「はい、申し訳ありません」

「後の指示はまた出す。まずは今俺が言った事を実行しろ」

「分かりました。直ちに」


 ひとまずそう指示をして、もう一度王都の様子を見に行く。姿を消して上空を飛んで、さっきの広場や路地から入った場所にある住宅街にも行ってみる。
 暫くそうやって人々の様子を見ていると、バタバタと兵士達がやって来て、住人を管理していた兵士に報告があるとし、王城まで戻るよう告げる。
 それを聞いた兵士達はすぐに王城へと戻って行く。あとには呆然とその様子を見ている住人達だけが残った。
 
 辺りをキョロキョロ確認するように見て、それから一息つくようにして安堵の表情を浮かべる。今まで監視されて、気が緩まる時が無かったんだろうな。

 今日のところはバルタザールに任せよう。

 一気に何でもは無理だ。けど、なるべく早くにこの国の人々を普通・・にしたい。ここの住人達は皆が無表情だった。話すこともせず、笑うことも悲しむこともなく、ただ生きている、といった感じだった。当たり前にある人としての感情を当たり前のように出せるようにしてやらなきゃな。

 ベリナリス国にある家に帰ってきて、外にあるニレの木の元へ腰かける。空には星が輝いていて、アシュリーと、リュカとこうやって空を見上げて話した事を思い出す。
 このニレの木は魔力を放出していて、ここら一帯がすげぇ魔力に覆われている。普通の人はこの場所に来ると、魔力の多さにあてられて近づく事すら出来ないが、俺とアシュリーとリュカにとっては心地良い場所なんだ。下手な魔物も近寄れないこの場所に俺は家を建てて、リュカと共に暮らしていた。

 もしアシュリーがこの場所を覚えていてくれているんなら、すぐに来てくれたと思う。けどアシュリーは来なかった。って事は、記憶は断片的にしか思い出せていないかも知れない。
 それでも、俺の事を知ってくれてる事が嬉しい。

 昨日、聖女のゴーレム越しに見たアシュリーは男に抱き上げられていた。って事は、もしかしたら傷で動けなかった、という事なのか?
 けど、傷があるなら無理をしてあの場所まで行くか? それとも知り合いに回復魔法が使える人がいなくて、聖女の元までやって来たのか? いや、聖女は助けを断られていたから、それはないよな。

 やっぱり傷はとっくに治って、久し振りにあの孤児院に行きたくて男と一緒に行って、それでイチャイチャしてた、とか……?

 あ、そんな事を考えてたら気持ちが沈んできた……! 

 俺じゃなくても仕方ねぇ。アシュリーにはアシュリーの人生がある。また今世でも俺に関わる必要もない。分かってるけど、俺の気持ちが勝手に求めてしまう。

 やっぱ一人になると考えちまうな。けど、こんなふうに想いを馳せるのも悪くはない。アシュリーになら心をかき乱されても構わない。

 そうだな。俺はアシュリーになら、どれだけ傷付けられても構わないな。全部受け止められる。
 
 あぁ……

 はやく会いてぇな……

  
 

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