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一縷の望み
しおりを挟むアシュリーには俺じゃない誰かがいる。
それは仕方のない事だ。
誰かを好きになるのは、人として当たり前の感情で、例え昔の事を覚えていたとしても、それとは関係のない事で……
ただ、一つだけ希望があるのだとすれば、アシュリーと抱き合って眠っていたのは、生まれ変わったディルクの可能性があるということだ。
その二人であれば納得がいく。いや、それで納得していいのか?
アシュリーが双子として生まれたのは前に盗み聞きして分かっている。けど、それが前みたいに魂を分けたディルクであるという事ではないかも知れない。普通に一つずつの魂で双子として生まれてきたのかも知れない。
一つの魂を二つに分けて生まれたのだとすれば、その魂を求めるように引き合ってしまうのは仕方のない事で、だからああやって抱き合うのは……まぁまだ納得できるところはある。
けどそうじゃなくて、普通に男女の双子で生まれたんなら……抱き合って寝るとか……しねぇよな……?
いや、どうなんだ? 双子ってそんなもんなのか? 知り合いに他に双子とかいなかったから分かんねぇなぁー……
って、考えても答えが出ないことに、思わず時間をかなり費やして考え込んでしまう。
まだ俺はアシュリーを諦めらんねぇんだな。
いや、気持ちは変わらない。それはこれからもずっとだ。けど、あわよくば俺の事を想って貰えねぇかな、とか考えてしまう。ダメだな、アシュリーの存在を確認出来た途端に欲望が大きくなってくる。何がアシュリーが幸せであればそれで良いだ。他に男の影が見えただけでこんなに焦っちまうんだ。全く、男として全然なってねぇよな。
あれが誰なのかは分かんねぇけど、アシュリーを大切にする奴じゃないとダメなのは大前提だ。本当にソイツは良い奴なのか?
まぁ、アシュリーを傷付けるような奴であれば、俺が容赦なく成敗してやるけどな!
何度も自分の中で現実を飲み込んで、でもまだ確証はないとばかりに一縷の望みをかけちまう。そう期待して色々考えてたらなかなか眠れなくて夜が明けて、スッキリしない頭でベッドで微睡んでいるところで、もう一度恐る恐るアシュリーにつかせているゴーレムの感覚を共有してみる。
って! キスしてんじゃねぇか!
おい、その手! どこ触ってんだよ!!
ダメだ、これ以上見てらんねぇ……!
すぐに共有を止めて、一人ベッドで身悶える。ったく、朝から何してんだよ?! でもアシュリーはその男を抱きしめてた。って事は、あれは合意の上での事だ。
あの男……俺のアシュリーに何してくれてんだよ……! 今すぐ行って殴り飛ばしてやろうか?!
って、それはダメだ。俺のアシュリーとか言ってしまったけど、アシュリーは俺のとかじゃねぇ。あぁー! こんな事ならアシュリーが生まれてすぐに探しだして確保しとくんだったー!
こんな事後悔してもどうしようもねぇけどな……
けどさっき見た男は……やっぱりディルクじゃねぇかな……
直視するにはキツい場面だったからちゃんと見れなかったけど、雰囲気や容姿がディルクっぽかった。って事は、ディルクはアシュリーと、今度こそ添い遂げたいと思ってるのかも知んねぇ。だからアシュリーに積極的にあんな事を……
まぁ、他の知らない奴よりはまだディルクであればマシだ。アイツならアシュリーを誰よりも大切にしてくれる。安心できる。
でもやっぱりーー!!
あ、ダメだ、考えてたら結構な時間が経っていた。一人でなにやってんだ。ベッドの上が身悶えたお陰でぐちゃぐちゃじゃねぇか……
ちゃんと皺を伸ばしてベッドメイキングしなおして、光魔法で浄化させておく。うん、綺麗になったな。
悩んでても仕方ねぇ。グズグズしてた自分が悪い。ウジウジしててもどうしようもねぇ。だからメソメソすんな、俺!
あんまり食欲は湧かないけど、ちゃんと朝飯を食っていく事にする。毎日している事をキチンとするって事は大切な事だからな。
さぁ気を取り直して……っても、あんまり取り直せねぇけど、やる事はやらなきゃいけねぇからな。
今日は朝一でオルギアン帝国の帝城へ行く。なるべく早くにロヴァダ国を再建させたいからな。帝城にある俺の部屋まで来て、侍従を呼んで皇帝のジョルディに取り次いで貰う。
お茶を飲んで少し待ったけどやっぱじっとしていられなくて、すぐにジョルディの元まで行ってしまう。またちょっと侍従に窘められたけどな。
「ハハハ、やはりすぐに来たか。忙しない男よ」
「まぁな。で、ロヴァダ国に出向してくれる人員は決まったか?」
「うむ。適切な人材が皇族にいたのでな。こういう事に長けた男でな。こんな時こそ力を発揮してくれる筈だ」
「それは良かった。すぐにでも出発してもらいたい。可能か?」
「明日には向かわせる。まずはシアレパス国へ転送陣で行ってから、あとは馬車になるが」
「それで充分だ。良かった。これで一安心だ」
ロヴァダ国の王都までは数日かかるが、その間俺がなんとかすりゃいいな。俺じゃ難しいと思ったら、空間移動で連れてくりゃいいか。うん、そうしよう。
また明日来る事を告げて、次はロヴァダ国へ行く。今日も上空を飛びながら村や街を見て、それから王都の様子も確認する。人々は相変わらず誰に何を言われずとも働いているようだ。昨日までいた監視する兵士達はいないが、それでもちゃんと働いている。それ以外、すべき事が分からないのかも知んねぇな。
王城へ行き、ここでも兵舎や訓練場、厨房に使用人達の待機場所や中庭なんかも見てみる。昨日より格段に綺麗になっている。俺の言い付け通り、ちゃんと掃除してたんだな。
この調子で王城以外も綺麗にしていくか。ここは見えるところばっかり綺麗で、ちょっと路地に入ったらゴミが散乱してて、全然だったからな。綺麗な街や村には犯罪は少ないもんなんだ。こういう事は大事だよな。
バルタザールの部屋へ行くと、朝から慣れない手つきでバルタザールも掃除していた。デップリした体で窓を一生懸命拭く様子に、思わず笑っちまった。
俺を見ると慌ててやって来て頭を下げる。うん、今日も俺に従順だな。偉いぞ。
「いつも会議とかしてる場所に官僚とかを集めてくれ。そうだな、午後から会議だとでも言って呼び出すようにな。あ、貴族連中も呼んでおいてくれな」
「分かりました」
「お前は今まで通りの感じで、偉そうな態度でいるんだぞ? あ、けど俺の言うことは絶対な」
「勿論です!」
こいつには一から十まで、全部きっちり言ってやらないとダメだからな。マジで子供みてぇだ。
とりあえず、俺はバルタザールの側近的な立場でいる事にしよう。で、政治を取り仕切ってる奴等を調査しよう。それにはまず警戒させちゃいけねぇからな。
あー、早くオルギアン帝国から有望な奴、来てくんねぇかなぁー?
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