慟哭の先に

レクフル

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誤解

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 オルギアン帝国からの出向者達がロヴァダ国の王城に着いてから数日が経った。

 流石だ。やっぱルディウスはディルクだ、と改めて思う程に、その手腕には感心させられっぱなしだった。

 俺が支配下に置いているから、ここにいる奴等は皆が俺の言うことをちゃんと聞く。けど、聞くだけだ。自分から何かをしようとはしない。コイツ等を動かすのであれば、適切な指示が必要だ。その指示が、俺はかなり大雑把にしか伝えれてなくて、だから時々指示された奴等もこんな時はどうしたら……って感じで戸惑ってたりしていた。

 しかし、ルディウスは違う。指示が的確過ぎて、皆が指示された事に忠実に動いてくれる。人の動かし方を知ってんだな。流石としか言い様がない。

 ルディウス曰く、
「多くを指示せずに、一つの事に集中させてやれば良い。仕事を見ていれば誰がどの事に長けているのかは分かってくる。そこから人選していき、その者に合った適切な仕事を与えてやる。そうすると細かい指示は無くとも自然に自分のやり易いように動いてくれるのだ」
との事だ。

 それを聞いて、俺はただバカみてぇに
「へぇー……」
って言うだけしか出来なかった。

 まぁ、俺は昔から難しい事は分かんねぇから、魔物を討伐するとか、盗賊を討伐するとか、闇組織を討伐するとかをしてきたんだ。って、俺は討伐してばっかだな!

 いや、それだけじゃねぇぞ? 不穏な動きを感じたら秘密裏にスパイみたく動き調べもするし、もちろん暗殺とかもお手のものだ。後は孤児達の面倒見たり見させたり、国王の目が行き届きにくい小さな街や村の様子を確認したりしてるな。

 俺はそうやって、実践してるのが性に合ってるんだよなぁ。考えたりは無理だ。だからルディウスに任せる!

 俺の今のすべき事は、ロヴァダ国の王都から離れた村や街へ行き、現状を報告する事だ。何が足りてないのか、いや、足りてない物だらけだけど、どうやってそこは生計を立てているのかを調べるのだ。生産性を確認し、それに見合う収益を調べ、税金の割合も調べる。特産物も調べてるし、どの土地に何が適しているのかも調べている。調べてばっかでなかなか大変だ。

 けどこうやってるのが、ディルクの指示で動いていた400年前を思い出せてすごく懐かしい。アイツの指示は俺にも的確だからすぐに動く事が出来る。この感覚がすっげぇ懐かしくて嬉しくなってくる。

 ルディウスに扱き使われんのも悪い気はしねぇな。やってやろうじゃねぇかって思っちまう。それに、ルディウスは無理な事は言わない。出来る範囲のギリギリのところを突いてくる。それなら俺もギリギリまでやろうって思うんだよな。ホント人を使うのが上手いよ、アイツは!

 そんな感じで忙しく動きながら、俺は時々癒されるが為にアシュリーの様子を見ている。

 アシュリーは部屋にいる事が多い。今までずっと旅をしてきて疲れたからか、あまり外に出ようとしない。よくメイドと仲良さそうに話してるのを目にする。
 そして時々昼間なのに寝てる。疲れやすいのか? それともどっか悪いのか?

 それから時々ウルとお茶したり食事したりしている。ウルの様子も見れて、一石二鳥だ。

 夜はルディウスといる姿をよく見かける。ルディウスは毎日のようにアシュリーに会いに帰っている。そして二人は抱き合ったりしてる。時々キスなんかもしている。

 ……やっぱそういう事なのかな……

 二人のそんな場面を見る度に、すぐに俺は見ないようにゴーレムとの共有を切る。盗み見してるみてぇで……いや、実際してるんだけど、やっぱそこは見ちゃいけねぇからな。

 そして、その度に落ち込む。ひとしきり落ち込む。立ち直れなさそうになる程に落ち込む。

 だけどアシュリーとルディウス……ディルクの二人の幸せそうに微笑む姿を見る度に、俺の大好きな人達の幸せを奪っちゃいけないような気さえしてくる。

 400年前は、俺が横槍を入れてアシュリーをディルクから奪う形になった。その事に後悔なんてしてねぇし、それで良かったとも思っている。けど今回は? あんな幸せそうな二人の間にまた俺が立ち入ってしまっても良いのか?

 最近はそんな事ばかり考えてしまう。ホント、ウジウジしまくりだよな。情けねぇ。

 今は考えるのはよそう。この国の人達の生活を良くする為に、今はその事だけに没頭しよう!

 そう思いなおして仕事部屋へ報告に行く。そこにはルディウスの姿はなかった。


「あ、ヴァルツ殿、おかえりなさいませ!」

「あぁ。えっと……ルディウスは何処かに行ったのか?」

「あぁ……はい。さっきウルリーカ皇太后様が来られて一緒に帝城に帰られました」

「何かあったのか?!」

「いえ、そうではないようですよ。ルディウス様の恋人が呼んでる、とかそんな感じだと思います」

「恋人が呼んでる……」

「まぁ、休みもなく人一倍働いてるので、これくらいは大目に見て問題ないかと……」

「そう、だな……」

「でもやっぱり羨ましいですねー! スッゴい美人さんらしいじゃないですか! 俺も美人の彼女が欲しーい!」

「そういや、さっきルディウスが宝石商の者をここに呼んでいたな。ほら、ここは希少な宝石類が採掘される山があるからな。もしかして……」

「え?! それって、指輪とかを贈るつもりとかでしょうか?!」

「その可能性は大有りだな。そんな美人ならすぐに目をつけられるだろう? 早く結婚でもして自分のモノにしてしまわないと、気が気じゃないかも知れないからな」

「そうですよねー! いいなぁー! 結婚かぁー! 俺も結婚したいなぁー!」

「結婚……」

「あ、ヴァルツ殿、すみません、こんな話を聞かせてしまいまして……」

「いや、そんな事は……いい……」

「ヴァルツ殿……?」

「また……後で来る……」

「あ、はい、分かりました」


 結婚……そうか……ルディウスはそのつもりかも知んねぇって事だよな。いや、分かる。俺でもすぐに身を固めたいって思う。あの可愛らしいアシュリーだぞ? そう思うのが普通だ。当然だ。
 って事は、アシュリーとルディウスは兄妹とは周りに言ってないって事なんだな。

 前世でもそうだった。兄妹ということを隠し、アシュリーとディルクは結婚した。けどそれはアシュリーを守る為にだ。
 今世では本当に二人は結ばれるつもりなのか?

 そうか……

 結婚……するの、か……
 
 いや、まだ分かんねぇ。そうじゃねぇかも知んねぇし。

 けどもしそうなら

 俺は二人を祝福してやらなくちゃな……
 
  


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