慟哭の先に

レクフル

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無くしたくない

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 各地にいるゴーレムと感覚を共有し、情報を得る。

 俺じゃなくてゴーレムだけでも問題なく済んでいる所もある。けど、俺じゃないとどうにもならない事もある。

 どうすれば良いか……

 チラリとアシュリーを見ると、スヤスヤ眠っている。だからと言ってアシュリーを放置して出ていくような真似は出来ねぇ。ってか、俺がそうしたくない。もし俺がいない間にアシュリーがどっか行っちまったら……そう考えるだけでここから動く事が出来ねぇ……

 リュカの時もそうだった。すぐに帰ってこれる筈の仕事だった。それが入った遺跡の地下は時空の歪みがあって、俺には数時間の筈が実在は一週間経っていてその間にリュカは……

 今やっとこうやって俺の傍にいるアシュリーの存在が有り難くて有り難くて仕方がなくて、その存在が無くなってしまう事が怖くて怖くて仕方がねぇ。

 ディルクがアシュリーに魂を渡した時……

 ディルクの体からアシュリーへと魂が移って、崩れ落ちるようにディルクは力を無くしていってそれを俺は支えたが、その時にディルクを支えていた俺の手のひらに、いつの間にか紫の石と赤の石があったんだ。俺はそれを自分の物とした。赤の石はともかく、紫の石は思った人の元へも行く事が出来る。その力を自分のモノにしたかったからだ。

 だから俺はアシュリーと離れ離れになってしまったとしても、すぐにアシュリーの元まで飛んでいく事が可能となった。
 けど、それでもやっぱり離れるのが怖い。また会えなくなるかも知れないと思うだけで、どうしようもなくなっちまうんだ。

 それに、アシュリーは回復魔法が効かない。もし俺がいない間に何かあって負傷とかして、それで助ける事ができなかったら? そんな事になったら、俺は悔やんでも悔やみきれない筈だ。もう二度とリュカの時みてぇな事はゴメンだからな。

 各地のゴーレムの様子を見て、どうすれば良いのか気になりながらもここを動く事が出来ずに、俺は一人で悶々としていた。
 そうしているとアシュリーが目覚めたようだった。起きて辺りを確認するような動きをしている。何やってんだろう?


「あれ? あれ? ない……」

「アシュリー、か? どうした?」

「どこ? どこにあるの?……」

「あ、魔石か? それはさっきリュカが片付けてたぞ?」

「どこに……」


 アシュリーは必死で魔石を探している。俺の声が届いてないみたいだったから、今はアシュリーの人格なんだろう。

 ベッドの、自分が寝ていた場所を手探りで探して、それからベッドの下に落ちているかもと思ったのか、そこへも降りて屈んで探し出す。
 すぐにアシュリーの傍に行って、大丈夫だって背中をポンポンとする。そうすると俺の方を向いて、今にも泣き出しそうな顔をする。


「アシュリー、そんなの探さなくていいから。俺はここにいるんだ。そんな小さな魂の欠片に俺を重ねなくても……」

「エリアスなんだ……あの魔石にはエリアスの魂があるんだ。返さないといけないのに……ちゃんとエリアスに返さないといけないのに何処かにいってしまって……! エリアスの魂が……欠けたままになっちゃうっ!」

「アシュリー、大丈夫だから! 魂は俺に帰ってきてるから!」

「ごめん、エリアス! もっと早くに返さなくちゃいけなかったのに手離せなくて……! なんて……なんて未練がましいの……っ!」

「アシュリーっ!」

 
 堪えきれずに、思わず抱き寄せてしまった。
だけど、すぐにそれは跳ね返されてしまう。俺はアシュリーに両手で胸をドンッて押し返されてしまったんだ。

 そうされて俺は後ろに尻餅をついた感じになってしまった。アシュリーはどうしよう、といった感じでオロオロしだす。


「ご、ごめん、ビックリして……!」

「あ、いや、俺が悪い!」

「う、奪ってない?! 私、左手で触ってしまった……!」

「大丈夫だ! 俺は何ともない!」

 
 そう言ってコツン! って床を叩いて大きく音を鳴らした。それを聞いてアシュリーはホッとしたようだ。

 
「あぁ……良かった……良かった……」

「ごめん、アシュリー……」

「私を心配してくれたんだよね……その、魔石が何処かにいってしまって……大切な物だったから慌ててしまって……」


 そう言ってまた魔石を探すアシュリーを見てると、すっげぇ切ない気持ちになっちまう。

 もしかして、と思ったのか、アシュリーは空間収納へと手をやったみたいだ。そこで魔石を見つけた。安心したようにそれを胸にして、でも次の瞬間違和感に気づいたように魔石を何度も触り続ける。


「エリアスの魂が……ない……なんで……?」

「俺が触ったら帰って来てしまって……魂を魔石に付与すんのはセームルグがいねぇと出来なかったし……」

「ちゃんとエリアスの元へ帰った? 帰れたの?」


 アシュリーは魔石に問うように語りかけて、それから辺りをキョロキョロ確認するように顔を向けている。


「ちゃんと帰れた? エリアスの元へ帰れたの? どうしよう……帰れてなかったら……」

「大丈夫だから。俺の魂に戻ってきてくれてるよ。心配しなくて良いから……」

「ごめん、エリアス……ごめんなさい……」

「謝る必要なんかねぇから……」


 魂がなくなったただの魔石を、それでもアシュリーはそれを胸にして謝っていた。俺はそんなアシュリーの頭を優しく撫でる事しか出来なくて、アシュリーが落ち着くまで暫くはそのままでいてたんだ。

 一人になんか出来る訳ねぇ。こんな状態のアシュリーを一人になんか出来ねぇ。

 その後簡単に晩飯を作って、アシュリーと共に食事を摂る。アシュリーはテーブルまで歩いて来てくれるようになって、ベッドで食べることはなくなった。俺の向かいに座って、辿々しく食事をする。その様子は落ち込んでいるように見えた。

 
「さっきは……ごめんなさい……」

「え? 何がだ?」

「貴方は多分私を気遣ってくれていたんだと思う。それを私は突き飛ばしてしまって……」

「いや、急に知らねぇって思ってる奴から抱き寄せられたら誰だってそうするよ」

「大切な物を無くしたと思って慌ててしまって……すまなかった」

「俺を想っての事だろ? 嬉しいしかねぇよ」
 コツンコツン

「それにさっき触れてしまって……両手で突き飛ばした時だけど、触れても大丈夫だったみたいで安心した」

「あぁ。まぁ、腕輪が無くても俺には触れるんだけどな?」

「貴方が優しくその……頭を撫でてくれたりしたから……なんだか落ち着けたように思う。ありがとう」

「アシュリー……」

「貴方は優しい手をしているんだな……」

「そんな事……」


 そう言われて、なんか急に恥ずかしくなった。なんのご褒美だ? これ……! やべぇ、俺、自分を抑えられるかなぁ?! 抱きしめたくて仕方ねぇっ!

 アシュリーは俺の方を見て微かに笑う。その顔を見るだけでも、もう何でも良くなってくる。 

 こうやって一緒に食卓を囲むだけでも俺にとっては夢みたいなもんで、こんなひとときを無くしたくないって思ってしまう。

 絶対に無くしたくないって思ってしまう。




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