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すれ違い
しおりを挟む少しだけしか眠っていないつもりだった。けど目覚めたらもう陽は結構高くにあって、昼前あたりの時間だと思われた。
「あ、れ……ここって……」
目覚めるとアシュリーのベッドで眠っていた。そうだ、俺はアシュリーと一緒に眠っていたんだ。この胸にしっかり抱いて眠っていた筈だ。
なのになんでアシュリーがいない?! すぐに起き上がって部屋の中を見渡す。するとテーブルに何かが置かれてあるのが見えた。
「これ……魔石……」
置かれていたのは魔石が3つと革袋だった。その魔石を手にした途端、俺に魂が戻ってきた。って事は、これは俺が英雄に埋め込んだ魔石って事だよな? これを持ってたのはアシュリーで、それを置いて行ったって事なのか?!
この革袋には見覚えがある。これは俺がアシュリーを見つけた時、倒れたアシュリーを宿屋で休ませ、出ていく時に置いていった白金貨を入れた革袋だ。
「嘘だ……なんでだよ……なんでこんな物置いて出ていくんだよ……っ!」
すぐに空間移動でアシュリーの元へと飛んでいく。そこは薄暗い森の中。ここは……そうか、ディルクに似せたゴーレムがアシュリーに攻撃した場所だ。
その森の中に一人、アシュリーが佇んでいた。
「アシュリーっ!」
「え?! エリアス?! なんで!」
「俺の声が聞こえてんだな?! 良かった! 何処に行こうとしてたんだよ! まだちゃんと目も見えねぇのに!」
「もう大丈夫だ! 私の事は気にしなくていい!」
「そんな訳にはいかねぇだろ?!」
「待ってエリアス……なんで私がここにいるのが分かったんだ……?」
「え? それは俺が紫の石を持って……」
「紫の石……? なんでエリアスが紫の石を持っているんだ?! あれはディルクが待っている筈なのに!」
「あ、いや、それは……!」
「ディルクを……倒した、の……?」
「いや、俺は何も……!」
「じゃあなんで! ディルクが簡単に紫の石を手離すなんて考えられない!」
「あ、いや、だから、そのっ!」
「ディルクは?! ディルクはどこ?! どうなったの?!」
「ディルクは……っ!」
「え……嘘……違うよね? ディルクはロヴァダ国で仕事をしてる……筈だよ、ね……?」
「アシュリー……っ!」
「嫌だ……違う……そんな訳ない……」
動揺しているアシュリーを抱き寄せる。けどアシュリーは両手で俺を突き放した。体が離れた瞬間、アシュリーは目の前の歪みに消えていった。
「アシュリー!」
すぐにまたアシュリーを思って空間移動で行こうとする。けど、それは阻まれてしまう。アシュリーの元へ飛んでいく事はできなくなった。
「マジで……止めてくれっ! なんで俺の元から去ろうとすんだよっ!」
分かっている。それは俺がアシュリーについた嘘が原因なんだ。アシュリー以外に想う人がいると言ってしまった、たった一つの嘘……
良かれと思ってついた嘘が、自業自得とばかりに俺に返ってくる……!
「どこに行った?! アシュリー!」
思いを巡らせる。アシュリーが行きそうな場所……帝城か?!
すぐに空間移動でウルの元へ行く。ウルは昼食を自室で食べていて、俺がいきなり現れたからすっげぇビックリした。
「な、なんなん?! なにいきなり来てんねん!」
「ウル! アシュリーは来てねぇか?!」
「え?! 姉ちゃどっか行ったん?!」
「アシュリーはディルクが死んだことをまだ知らなかったんだ! けど俺が紫の石を持ってることに気づいて!」
「ちょ、ちょっと待って! 言ってる事が分かりにくいけど、とにかく姉ちゃは行方不明で、ディルクがどうなったのか知る為にここに来る可能性があるって事なんか?!」
「そう! そうだ! まだアシュリーは目もちゃんと見えない状態なんだ! 一人にさせちゃダメなんだ!」
「分かったから落ち着きいや! あたしも探すやん!」
「ありがとう、ウル!」
給仕係もメイドも侍従も執事も、急に現れた俺に戸惑いつつ、何やら分からない話をする俺達をどうしようって感じでオロオロ見ていてた。
そんな中、俺とウルはすぐに動き出す。
「ウル、ディルクの部屋はどこだ?!」
「こっち! ここからちょっと遠いけど!」
「場所さえ知ってたらすぐに飛んで行けたのにっ!」
「そんなん言うてもしゃあないやろ! とにかくあたしについて来て!」
「あぁ!」
走ってウルの後をついていく。暫く走って、やっとディルクの部屋に着いた。ウルはヘトヘトになって息も絶え絶えな状態だ。そんなウルに回復魔法を施すとすぐに呼吸は整った。
「流石やな! ありがとう!」
「こんくらい訳ねぇよ! で、ここがディルクの部屋なんだな?!」
「そうや。今は使ってる人はいなくて、でも物とかの片付けは何もしてない。ディルクは慕われてたからな。使用人とかもそうやけど、知り合いの貴族達も暫くはそのままにしておいて欲しいってなってん。まぁ、それはあたしもやってんけど」
「そうか……じゃあ、ここには来ても誰もいねぇって事か?」
「いや、毎日掃除はしてるみたいやで? それに食事とお茶の時間に来て、ちゃんとディルク用に食事やらお茶やら出してるみたいやねん」
「じゃあメイドとか……あ、いた!」
居間にいると別の部屋からメイドが出てきた。そのメイドは目が赤かった。どうした? 泣いてたのか?
「あ、れ……? 皇太后様! いかがなさったんですか?!」
「メアリー、どっから出てきたん?!」
「あ、はい、アリア様のお部屋からです!」
「アリア……アシュリーか?! アシュリーが来たのか?!」
「え?! あ、はい! 今までいらっしゃって! ですが突然消えるように何処かへ行かれてしまったんです!」
「クソっ! 一足遅かったか……っ!」
「で、姉ちゃは何しにここに来たん?!」
「あ、はい! その、ルディウス様がどちらにいらっしゃるのかを聞きに来られました!」
「で、メアリーはなんて言うたん?!」
「それは……ルディウス様が逝去なさったと……正直に申し上げました……アリア様はご存知なかったようでして……」
「マジか……っ!」
「あ、あの、いけませんでしたか?! 申し訳ございません!」
「なんも分からんねんから、そう言ってもしゃあないわ。メアリーはなんも悪ないで」
「分かってる……! けど……っ!」
「その時の姉ちゃはどんな感じやったん?」
「ひどく衝撃を受けられたようでして……ですがその後何も言わずに姿を消されました……」
「アシュリー……っ!」
「分かった。ありがとう、メアリー。仕事に戻ってええから」
「はい……」
メアリーが申し訳なさそうに肩を落として出て行って、俺とウルはその場にただ呆然と立ち尽くす。
「姉ちゃの行きそうな場所、分からへんの?」
「分からねぇ……」
「何があったか、ちゃんと教えてくれへん?」
「あぁ……」
ひとまずウルの自室に戻って、テーブルで話をする事にした。今までの事を話していくと、またウルに怒られた。
「なんで姉ちゃの人格になった時にここまで連れて来ぉへんねん! 兄ちゃの声が聞こえてへんのやったら、姉ちゃはずっと不安なままやったやろ?!」
「そうだよな……けど最初は触れさせても貰えなかったからな……」
「それでも! ここに連れて来れるチャンスはあった筈やで!」
「あぁ、そうだな……」
「こんな事になってからあたしを頼るとか、ホンマ勘弁して欲しいわ!」
「すまねぇ……」
「判断がずっと間違ってるねんで! なんでそうなんねん!」
「マジでそうだよな……」
「とにかく! あたしも姉ちゃが心配やねんからな! 兄ちゃだけが姉ちゃを心配してるとか思っとったら大間違いなんやからな!」
「はい……」
マジでウルの言う通りだ。ここに連れてくる事くらい、しようと思えばできた筈だ。それをしなかったからこうなった。俺、間違いまくりだよな……
アシュリー……何処へ行った?
まだ目も見えてねぇし、体も万全な状態じゃねぇのに……
ディルクがもうこの世にいない事を知ったアシュリーはどうなる? 元は一つの魂だ。ディルクの魂が自分に戻ってきた事は理解できたのか?
なんにせよ、アシュリーは悲しんでる筈だ。ディルクの魂を受け入れるよりも、ディルクとして存在して欲しいと、きっと願っていたはずだからな……
こんな時に傍にいられないなんて……!
何処にいるのか、必ず見つけ出す!
俺にはアシュリーが必要なんだ!
もうアシュリーのいない生活なんて考えたくねぇんだよ!
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