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怖かった
しおりを挟む突然帰ってきた巫女姿の女の子に、村人達は驚いて、何故? って感じで村長を見るけど、村長はちゃんと説明してくれたみたいだ。
村長がその対応に追われてる間、俺と巫女の女の子は村で炊き出されてたお汁粉を二人で簡易テーブルで食べていた。俺になついてくれたのかそばを離れようとせずに、伸びる餅を面白そうに見てお汁粉を食べていた。
「ほら、頬っぺに餅が付いてんぞ? 慌てて食べなくて良いからな? 喉にも詰まらないようにして食べろな?」
そう言って頬についた餅の欠片を取って俺が食べると、女の子はニッコリ笑った。その子はリノって名乗った。
「可愛い名前だな。似合ってる」
って言うと、顔を赤らめて
「うん!」
って笑いながら答えた。
うん、これでもう安心だな。
そうやって二人で食べてると、この子の家族が来た。村長に聞いたんだろう。さっきまで泣いていたのか母親は目を腫らしていて、駆け寄ってリノを抱きしめた。それから父親も兄弟達もリノを囲むようにして抱きしめて、皆が嬉し涙を流す。
少しの間そうしてて、次に家族揃って俺に深々と何度も何度も頭を下げる。
母親と手を繋いで立ち去ろうとした時、リノは不意に母親の手を離して俺の元まで駆け寄ってくる。どうしたのかと思って、膝を折って目線を合わすと、いきなり俺に抱きついてきた。
ビックリしてると、リノは俺の耳元で
「私、大きくなったら貴方のお嫁さんになるの」
って言って、俺の頬にキスをした。
その言葉にまた驚いてると、リノはニッコリ笑って、家族の元へと戻って行った。
ちっちゃくてもやっぱ女の子なんだな。リノの突然の告白に戸惑いつつ、何度も俺の方へ振り返り手を振るリノに、俺も笑顔で何度も手を振った。
そんな俺に、リノの父親がすっげぇ顔で睨み付けていた。
いや、怖ぇから! マジでさっきの邪神より怖えって! まぁ気持ちは分からなくもねぇけどな!
しかし……
この小さな村にもちゃんと生活があって、村人達は皆で力を合わせて一生懸命それを守っている。
大きな街だろうが小さな村だろうが関係ねぇ。そこに人の暮らしがあるのなら、それは等しく守っていかなきゃいけないんだ。
去っていくリノ達を見送りながら、俺は改めてそう感じた。
やっと説明が終わって疲れた表情の村長は、グッタリした状態で簡易テーブル席で座っていた。その村長の元まで行く。
「疲れたか?」
「あ、エリアス様! いえ、問題ありません!」
「無理はしなくていいよ。あと、『様』とかいらねぇから。で、やっぱ皆、戸惑ってたろ? 納得しねぇ奴もいてたって感じか……」
「そう、ですね……8年前に私の娘が巫女に選ばれた時に、何とか回避したくて領主に何度も懇願しに行き、魔物を積極的に倒しに行き、あの洞穴に結界を張ったのですが、その効果は乏しく村を危険に晒しました。それは私が第一に村の事を考えられず、娘の事を一番に思ってしまったからです……」
「それは……そうなっても仕方ねぇよ」
「その事があって、村人達は今回の事をまた危惧しているのです。リノの母親は私の姪なんですよ。今回も身内贔屓なのではないかとね」
「そうだったのか……」
「またこの村を危険に晒すのかと……あの時は、ベヒモスに引き摺られるように魔物が凶暴化し、村が魔物に襲われるのも時間の問題かと思われる程の事態となったのです。それを察した娘は……」
「自らあの洞穴へと行ったのか……」
「はい……元より能力は高く、森にかけた幻術等あの子には効かなかったのです。魔術や武力、勉学にも優れていて自慢の娘で……迫り来る凶暴な魔物にも一人で倒せる程の力を持ってしまったが為にあの場所まで一人で行って……っ!」
「そうか……」
「優しい子だったんです……成人したばかりで……どんなに恐ろしい思いしたのかと考えれば……今も尚……苦しくなります……っ!」
「それは……安心しろ。いや、安心は出来ねぇけどな」
「え……それはどういう……?」
「あの場所は特殊だ。かなり強い幻術がかけられてある。あの場所では恐怖を感じることはねぇよ」
「恐怖を感じない……?」
「あぁ。一番幸せに思う事が目の前に現れんだよ。だから幸せを感じたまま、皆石へと変わっていった」
「そうなんですか?! それは……せめてもの……」
「そうだな、俺もそう思う。けどな。それでも、それが幸せである筈がねぇんだって。幸せを感じながら命を奪われるなら良いとか、そうじゃねぇんだって。やっぱ、こんな事は無くさなきゃいけない事なんだ」
「そうですね……」
「実は俺も飲まれそうになった。俺は幻術には耐性がある。俺自身も幻術が使えるしな。けどその俺が危ないと感じる程に強烈な幻術だった」
「え?! それではどうなるんです?! エリアス様はどうにかすると言ってくださったではありませんか!」
「あぁ。それに二言はねぇよ。何とかする。ただ、相手の事をしっかり調べて準備して挑みたいとは思っている。最悪……」
「最悪?」
「……いや、なんでもねぇ。まぁ、とにかく俺に任せてくれよ。な?」
「はい……もうそれしか私達に助かる道はありませんから……」
まだ不安そうな顔をして俺を見てる村長に、生け贄の人達の魂が留まっている状態であるとは言えなかった。
それとあの幻術……マジでやべぇと思う。けどどうにかしてやらなくちゃな。
最悪俺があの場所で生け贄になる、か……?
俺は死なねぇから、無限に魔力やら生命力をやらを与えてやれんだろ? けどそうなったらアシュリーはどうなる?
まだ捕らわれる訳にはいかねぇ。せめてアシュリーに会って誤解を解いて、アシュリーの元気な姿と幸せを確認するまでは……
いや、ダメだ。こんな事を考えてちゃ。誰も犠牲になっちゃいけねぇんだ。それは俺もだ。だから必ず何とかしねぇとな。
それから俺はオルギアン帝国まで戻った。
ウルにあの邪神の事を調べて貰う為だ。
けどその前に……
「ウル! リュカは来てねぇか?!」
「うぁ! またいきなり来た!」
ウルは中庭でお茶を優雅に飲んでいた。周りには貴族の姫やらが数人いて、俺が来た事を驚いて見てた。
「ちょっと兄ちゃ! こんな所に勝手に来るとか、マナー違反やで?!」
「あ、悪ぃ! 俺、貴族社会のルールやらマナーやらは全然だからな。今忙しいか?」
「あ、の……皇太后様……もしやその方がエリアス様……?」
「え? あぁ、そうやで?」
「本当ですか?! キャァ! どうしましょう! まさか本当にいらしたなんて!」
「なんて素敵な方なんでしょう?!」
「あ、あの! よければ、その、サインを頂きたいのですがっ!」
「私、エリアス様のファンなんです! 何回も観劇を観に行かせて頂きました! お会いできるなんて、もう感激ですーっ!!」
口々に思いの丈をぶつけてくる煌びやかな御婦人達の圧に押されて、思わず俺は後退りしてしまった。
これはこれで恐怖だ……
「あー! もう! みんな落ち着きぃや! 大事な話があるねん! 今日はもう終わり!」
「えぇっ! そんなぁー!」
「せめて握手をさせて頂けないでしょうか?!」
「わ、私、バグしたいですわ!」
「私はこの身を捧げたいっ!」
「何言うてんねんっ! アカンっ! もう向こうへ行き! 二度と情報渡さへんで!」
「あぁ! それは困りますっ!」
「エリアス様ーっ!」
ウルの従者達に御婦人達は連れて行かれた。俺は何も出来ずにただ茫然とその場に立ち尽くすしか出来なかった。マジで怖かった。取って食われるかと思った。
「だからいきなり来たらアカンって言うてんのに! 兄ちゃがあのエリアスって知られてから、毎日大変やねんからな! 昔の事を教えろって、毎日毎日何人もこうやって来て、あたしはホンマ大変やねんで!」
「悪ぃ……まさかここまでって思って無かった……」
「ホンマ、女を侮ってたらアカンで!」
「いや、侮ってたりはしねぇよ。けど……マジで怖かった……」
「へぇー……兄ちゃにも怖いとかあるんや……」
「あぁ。勿論あるぞ? 今日は娘を持つ父親の目も怖かったしな」
「そうなん? 何があってそう思ったん?」
「あぁ、そうだな。その話をしに来た。けどその前に……リュカが来たか教えてくれ!」
「来てないわ。反応見たら分かるやろ」
「まぁそうだとは思ったけど、淡い期待くらいは持たせてくれよ」
「そんなん無意味や。で? 何があったん?」
いつものようにウルにバッサリ切られるが如く、リュカが来たと言う僅かな期待を粉々された。
まぁ昨日の今日だしな。うん。まだまだこれからだ。
それから俺はウルにあの村であった事を話した。
俺だけじゃどうにも出来ねぇかも知んねぇ。けどどうにかしたい。何か策があれば良いんだけどな。
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