慟哭の先に

レクフル

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村の管理者

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 ウルと楽しく話をしていると、エリアスが帰ってきた。

 エリアスは私を見ると安心したようにまたすぐに抱きつきにきた。少しの間だったのに、離れている事が気になって気になって仕方がなかったようで、何度も
「良かった! いてくれて良かった!」
って涙ぐんで言っていた。

 そしてまたウルに
「大袈裟やねん!」
って足蹴にされていた。

 エリアスも席に着いて、一緒にお茶を飲む感じでジョルディ皇帝に報告した事を話してくれる。

 もちろん、私の横にピッタリくっついてだ。
 それを見たウルは深いため息をついていた。私はただ困ったように笑うしか出来なかったけど、こうしてくれるのが少し嬉しいとも感じてしまう。私も大概重症だな、と思う。

 
「で、ジョルディはなんて?」

「あぁ……支援はしてくれそうだ。家畜とか畑の肥料とか当面の食料やら衣服、生活に必要な道具と、あと人員も用意してくれるってよ」

「良かった! これで安心だね!」

「そうだな。まぁ、住居の割りふりとか、役割を誰にするとか、誰にどんな仕事をさせるとか、考える事は色々あるけどな。必要な物を書き出して見積書を作成しなきゃいけねぇし、まぁやる事はいっぱいあるけど、それでも村が使えるって事が大きいな。すっげぇ助かった。ありがとな、アシュリー」

「ううん、そんなの全然! 私も嬉しい!」

「住人の殆どが子供だからな。大人の指導が必要になるし、第一に管理者が必要なんだよな。それを誰にするかでジョルディと話してたけど、なかなか良い人物がいねぇんだよなぁー」

「奴隷の事を分かってくれていて、子供達に甘いだけじゃなくてしっかり指導出来る人、か……」

「いや、いるにはいるんだけどな? ただ、やっぱそういう奴はあちこちで引っ張りだこ状態なんだ。ロヴァダ国は立て直しの最中だから優秀な人物が皆何処かに駆り出されててな。俺が常にいる訳にもいかねぇしな……」

「んー……難しいよね……しっかり管理できて指導力があって、子供達に優しくて、でも甘やかしすぎずにしっかりサポート出来る人……あ……!」

「ん? 誰か思い付いたか?」

「あ、うん……えっと……ウルなら適任かなって……」

「え?! あたし?!」

「そうか! ウルな! ウルはここの仕事とかはどうだ?」

「あたしの仕事なんかたかが知れてるけどな。定例会とかに出席して意見言うたり、誰かの相談受けたりするくらいや。けど……管理者かー……」

「あ! ねぇ! ウル! そこにアベルと一緒に管理するってのはどう?!」

「えっ?! なんでいきなりそうなんの?!」

「え? アベル?」

「あっと……ウル、エリアスに言って良い?」

「ええけど……」

「あぁ、ウルと結婚する奴だな!」

「なんで兄ちゃも知ってるねん!」

「アシュリーと一緒に噂話を聞いたからな! そっか、それは良いかも知んねぇな! ウルなら安心して任せられるし、アベルってのと結婚して一緒に管理してくれよ!」

「まだするって言うてへんやん!」

「やっぱりダメかな? 良いと思ったんだけど……」

「あたし一人で決める事とちゃうし、アベルはリフレイム島に帰るつもりでいてるし、ジョルディにも許可が必要やし……」

「ウルは? ウルはどう思う? 管理者になったら村に住む事になるとは思うけど、それはウルにはどうなんだ?」

「それは……やってみたい気持ちは、ある……」

「そっか! なら前向きに考えていこう! アベルに話してみたらどうかな!」

「俺はジョルディにちゃんと許可を取らせるぞ?!」

「待って! ちょっと待ってぇや! 話が急すぎんねん! それに、あたしが結婚とか、そんなん無理ちゃうん?! あたしは皇太后って立場やねんで?!」

「あ、それ、ジョルディが問題ねぇって言ってたぞ?」

「は?」

「エリアス、それどういう事?」  

「いや、さっき話のついでにウルの結婚についても聞いてみたんだ。なんか立場的にどうとか、ウルはそんな事言いそうだったからな。皇族とか貴族社会って面倒なシガラミとかあんだろ? そんなのに縛られてたりしたら厄介だなって思ってな」

「なに勝手に聞いてくれてんねん!」

「あ、でも、ウルに恋人がいた事は知ってたぞ? 相手の素性も調べて分かってるって」

「えっ?! 嘘っ! な、なんでっ!」

「護衛を撒いて会ってたみてぇだけど、オルギアン帝国の暗部組織、舐めちゃいけねぇぞ? 皆、分かってウルに好きにさせてたんだ」

「あたしは泳がされてたって事なん?!」

「違ぇよ! 皆ウルに自由にさせてやりてぇって思ってたんだよ! 長年ウルは表立って何かする訳じゃなかったけど、ウルの助言で助かった人が多いのも事実だし、この国に貢献してきた事は誰もが言わずとも分かってる事なんだよ! そんなウルに、ジョルディも皇太后だとかでこれ以上縛り付けたくねぇってよ!」

「そんなん……嘘、や……」

「ヴェンツェルが亡くなって……350年程か? もうそろそろこの帝城から解放されても良いと思うぞ? あ、勿論ウルがそうしたけりゃ、だけどな!」

「なんなん……いきなり……」

「とは言ってもさ、ここの事も気になるだろうから、ここと村を繋ぐ転送陣を設置して、いつでもここまで帰って来れるようにすれば良い。俺とアシュリーも村の様子は見に行くし。な?」

「うん。私の住んでた村だからね。ウルは私で出来ることはするって言ってくれてたじゃないか。ウルになら、安心してあの村を任せられる」

「姉ちゃも……なに、言うて……」

「もうそろそろ自分の幸せを考えてもバチは当たんねぇぞ?」

「兄ちゃ……」

「もう、ウル! 泣かないで!」

「ハハハ、泣き虫だな!」

「う、煩い! 兄ちゃに言われたないわ!」


 涙ぐむウルを抱きしめると、私とウルを一緒にエリアスが抱きしめる。なんだかこう言うの、久しぶりだな。凄く良いな。

 けどそうか。ウルはそうやって見守られていたんだな。長年皇太后としてこの帝城に従事してきて、誰とも再婚せずに身内の面倒を見て、頼ってくる者には適切なアドバイスをし、悩みを聞き……

 それは大きな事を成し遂げたという事では無かっただろうけど、きっと救われた人は多かった筈だ。ウルのそんな功績を、今の皇帝ジョルディは分かっていたんだな。

 
「ウル、今度アベルに会うのはいつ? その時にでも聞いてみたらどうかな?」

「けど……いきなりやし……言うってなったら、私がこの国の皇太后やって言わなアカンやん? それでアベルはなんて言うか……」

「んなの、本気で好きな相手だったら気になんねぇぞ? 相手が誰とか立場がどうとか、そんな事は絶対に気になんねぇ筈だ。だから大丈夫だ」

「皆兄ちゃみたいに単純ちゃうねん! 色々複雑に考えたりすんねん!」

「え? そうか? 好き同士ならなんの問題もねぇじゃねぇか。なぁ?」

「エリアスの言うことは最もだけど、どうだろう……」

「ウルも、そんなんで嫌とか言う奴ならこっちから振ってやりゃあ良いじゃねぇか」

「もう、エリアス! 女の子の気持ちはそんなに単純じゃないんだからな! 頭では分かってても、少しでも嫌われる要素があるかもって思うだけで身動き取れなくなったりするんだからな!」

「ん? アシュリーもそうなのか?」

「えっ!? あ、いや、その……例え話、だけど……」

「俺はアシュリーがどんなでも嫌いにはならねぇぞ?」

「え……どんな、でも?」

「あぁ。すっげぇ太ってても、すっげぇ痩せてても、俺はアシュリーであればそれで良い」

「年老いて、しわくちゃになってしまっても?」

「当然だ。もしアシュリーが男として生まれてきてたとしても、俺はアシュリーと分かった瞬間に惚れる筈だ。そうなる自信があるぞ?」

「え?! エリアスはどっちもいける人だったの……?」

「違ぇよ! アシュリー限定だって! どんな容姿に生まれてきていても、俺はアシュリーなら好きになるって事を言いたいんだって!」

「エリアス……」


 そう言われて嬉しいのと恥ずかしいのとで、思わず下を向いた。エリアスは俯く私の顎を手で上げて、優しく微笑む。目と目が合って、そうしたらエリアスの顔が近づいてきて、唇と唇が触れそうになって……


「ちょっとちょっとちょっと!! さっきから何二人の世界に入ってるねん! あたしの事で話し合ってくれてたんとちゃうんか?!」

「あ、ごめん……」

「えっと……まぁ、そう言う事だ。ウル!」

「説得力ないわ!」


 ウルが私とエリアスの間に割って入って怒ってる。けど、こんなのが良い。すごく楽しいって思ってしまう。

 でも、ウルが悩む気持ちも分かる。自分の事を、少しでも受け入れて貰えない可能性があるとすれば戸惑うのは当然の事だ。

 アベルが快く引き受けてくれれば良いんだけどな……
 


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