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ウルの恋
しおりを挟むそこは帝都の外れにある大衆居酒屋。
帝城に近い場所は皇族貴族、富豪なんかを相手にする店が並んでるけど、帝城から離れれば離れる程に一般市民に馴染みやすい店が増えてくる。
あたしはたまに帝都に買い物にきて一人でプラプラしてるけど、いつも一緒に護衛が三人もついてくる。ホンマはもっとついてこようとするけど、かなり拒否してこの人数。ホンマに面倒やわ。
で、ちょっとあたしが誰かに話しかけられようものならすかさずあたしの前にやって来て、思いっきり威嚇しまくりよる。
そんなんしてたら、そら誰も近寄らへんわな。
店に入ろうとしても、まずは店内におる人を全員外に出して貸切状態にしてから入店って事になる。ホンマ、そこにいたお客さんに申し訳ないわ。
それは私が皇太后ってヤツやから。だから仕方がない事やって分かってる。けど、村育ちのあたしにはこれが窮屈に思ってまう。
頭では分かってる。護衛もこれが仕事やから、なんかあったらコイツ等の責任になるやろし、だからなるべく何もせんと大人しくしててんけど……
それでもやっぱりストレスは溜まってて、護衛の目を盗んであたしは今日も逃げ出した。これでも兄ちゃと一緒に旅したり魔物倒したりした事もあるから、そこら辺のヤツより身体能力はあると自負してんねん。
それに、弱くなりたくなかったから毎朝剣と魔法の訓練してるし。
で、何とか護衛を撒いて、その大衆居酒屋までやって来た。
ここはたまにこうやって私が立ち入る店やねん。
周りは露店も多くって、所狭しと並んでる店や人がいて、雑多な感じが何とも言えん味わいを醸し出してる。
今は昼過ぎで、けどここには客が多い。この居酒屋は昼食も摂れて、商売人やらが遅い昼を食べに来てたりする。まぁ、昼間っから酒を煽ってるヤツも多いけどな。
店内は狭くてテーブル席が八つ、あとはカウンター席で、全てが満席状態やった。
「あ、ウルちゃん! ごめんねぇ! 満席なのよ! 相席して貰っても良い?」
「あぁ、うん。あたしはかまへんで?」
「じゃあ……あそこ、一人で座ってる人がいる場所やけど、そこにお願いねー」
「分かった。あ、エールとなんか適当におつまみ持ってきてー」
「はーい!」
女将にそう注文してから席に着く。何度もここに来てるから、女将とは顔見知りになったから気さくに話せるけど、こう言うのがええねん。堅苦しいのは性に合わへんねん。
席に着いて目の前におるヤツを見たら、ソイツは店内やのにフードを目深に被ってる。チラリと見える髪はキレイな薄い金色で、それはあたしのお母さんの色と似てて、でもくせっ毛じゃなくてストレートでサラリとしてて、きっと光に透かしたらキラキラ綺麗なんやろなぁって思った。
けど綺麗なんは髪だけやなくて、その瞳も金色に輝いてて、端正な顔立ちをしてた。思わずその顔に見とれてしまう程に、ソイツはここら辺にいるヤツ等とは違った人種と言うのが分かるくらいやった。
そんな綺麗な顔してるヤツが、あたしを見て驚いた顔してる。で、開口一番が
「なんでそんな事が出来るねん!」
やった。
「え? え? なんなん? あんた?」
「そんな耳を露にして! なんとも無いんか?!」
「うん。なんとも無いで? って、あんた……その口調……もしかして、あんたもエルフなん?」
「そ、そうや……って、そんな大きい声でエルフとか言うなや……」
「なんで? ええやん別に」
「はーい、ウルちゃんおまたせー! エールと、トムトのカプレーゼ! あとでエゾヒツジが手に入ったからステーキにして持ってくるわねー」
「あ、ありがとうー!」
「なっ……!」
「ん? どうしたん?」
あたしと女将のやり取りを見て、ソイツはまた驚いた顔をする。なんなん、コイツ?
「エルフやのに……なんで普通に接してくれてんねん……あり得へん……」
「ん? あぁ、もしかしてここに来たのん最近なんか? ここはそんなにエルフに偏見とかあらへんで? あんたもそのフード、取ってみたら? 誰も何も言わへんで?」
「けど……」
「って言うか、あんたもしかして……リフレイム島から来たん?」
「え?! リフレイム島を知ってるんか?!」
「やっぱり! その口調! あたしと一緒やん! って事であたしもリフレイム島出身や!」
「ホンマか! こんな所で同郷の人と会えるとは思わへんかったわー!」
さっきまでの強張った感じが抜けて、途端に表情が明るくなって嬉しそうにあたしを見るその目が綺麗で、思わず見とれてしまった。
ソイツはアベルって名乗った。あたしより若いエルフで、年齢は325歳って言うてた。人からしたら結構な年寄りに見えるかも知れんけど、エルフからしたらそうでもない。
あたしは今413歳やけど、エルフ間では年齢差は然程気にならへん。長寿やから、年齢より見た目が重視されてたりする。
「で、アベルはなんでリフレイム島を出てきたん?」
「あぁ……お父んの意向でな。これでも俺、村長の息子やねん。って言っても、兄弟が他にもおるから跡継ぐとかはせんでも良いねんけどな。リフレイム島だけやなく、世間を知ってこいって言われて、まぁほぼ強制的に旅に出されたって感じやな」
「へぇー。そうなんやー。で、どうやった? 外に出てみて」
「最悪やった。村を出ても、リフレイム島であればエルフはあちこちにおるから、別に何も言われへんかったけどな。アクシタス国に行った時は全く人が寄って来ぉへんし、なんやったら後をつけられて捕まえようとしてきよるし……」
「アクシタス国かぁ! あたしもあそこは嫌な思い出があるねん!」
「やっぱりそうか! なんやねん、あの国は!」
「あたしは12歳の頃、お母さんを探しにリフレイム島を出たんやけどな? 初めて見る露店とか大きな建物とかに嬉しくなってはしゃいでしまってん。そしたら荒くれた冒険者とぶつかって、ソイツ等はあたしを見世物小屋に売ろうとか言うてたわ」
「ホンマか?! それでどうやって助かったん?!」
「一緒にお母さんを探しに行ってくれてた人が助けてくれたで。その人は強いから」
「そうか……良かった……」
「ふふ……もうかなり昔の話やで? そうか……まだアクシタス国はそんなんなんやなぁー」
「それからインタラス国に行って、グリオルド国に行って、ベリナリス国に行ってからオルギアン帝国に来たな。他の国でも、殆どが俺を避けるし、子供は石を投げてくるし、物を買われへんかったりもしたな」
「まだそんな差別があったりすんねんなぁ……」
「せやからな、俺はずっと耳を隠して旅をしててん。もうウンザリやったからな」
「そうなんや……まぁでも、ここは大丈夫やで? ほら、あたし、なんも隠してないやろ?」
「そうやな。ウルは普通にしてるし、って事はここはエルフやからって差別とかせぇへんねんな」
「うん。だから安心してフード脱ぎいや」
「そうやな……」
それでもアベルはなかなかフードを脱ごうとはせぇへんかった。
よっぽど嫌な目に合ったんやろうな。
でもあたしに諭されて、アベルは恐る恐るフードを脱いだ。
その姿はやっぱり美しくって、凛とした感じで、でも儚そうに見えて、思わずそのまま見惚れてしまった。
思えばあたしはアベルに一目惚れやった。
生まれて初めての一目惚れやってん。
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