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離れた結果
しおりを挟むインタラス国 王都コブラル
その国はオルギアン帝国より南の位置にあり、ここもまたオルギアン帝国の同盟国となっている。
その昔、私はエリアスとこの国で出会ったのだ。
初めての出会いは最悪だった。
私が王都へ向かう旅の途中の街道で馬車が襲われた。その襲った者達の中にエリアスがいて、盗賊が馬車を襲ったと勘違いした私は助けに入ってエリアスと戦ったのだ。
お互い負傷し、何とか逃げ切ったエリアスと、その後訪れた王都コブラルのギルドで再会して、盗賊じゃない事を知った。そして一緒に闇組織を討伐する事になって……
エリアスは生まれた国は違えど、インタラス国は彼の故郷みたいなもので、長年ここのギルドで冒険者として働いていた。
私を助ける為にオルギアン帝国のSランク冒険者となったエリアスだけど、幼くして奴隷になって魔眼に目覚めた事により捨てられて、行く宛も無くさ迷うエリアスを受け入れてくれたこの国に今も恩義を感じているようだった。
エリアスは王都にあったスラム街一帯を買い取って、そこに孤児院を造った。そこには私達の部屋もあって、私達は子供達に囲まれてそこで暮らしていた。
今はここで育った子が成長してから運営に携わっていく事が殆どで、エリアスは金銭的に援助しているらしい。
エリアスを知っている人は皆先立っていき、エリアスも人に自分の姿を見せずにいたから、今ここにエリアスを知る人は誰もいない
それでもエリアスはこの国、この王都には思い入れがあって、時々様子を見に来るんだと言っていた。
「あ、ギルドがある。あの頃と同じ場所にあるんだね。建物は変わってるけど」
「あぁ。何回か建て直したり改築したりしてるから、今は原型がなくなってるよな」
「あそこでエリアスと再会したよね。懐かしい」
「俺を盗賊だって思ってな。なかなか信じて貰えなかった」
「ふふ……そうだったね。あ、そう言えばこの近くに武器屋があったよね? 今はどうなってるんだろう?」
「あぁ。後を継ぐ奴がいなかったみたいだからな。一代限りで店は無くなったよ」
「そうなんだ……」
「俺達の住んでいた場所に行ってみるか?」
「うん!」
エリアスに連れられて、私達が住んでいた孤児院までやって来た。
そこは私達が暮らしていた時と同じように、建物は老朽化なんかもしないで、あの頃と同じ状態でそこに存在していた。
広々とした庭には畑があって、子供達は大人に混じって畑仕事をしていた。
家畜もいて、牛鴨の世話をしている子供達もいてて、皆が一生懸命で、そして元気で笑顔で、まるであの頃と同じ風景に感慨深くなる……
「エリアス……ここは変わらないね……」
「あぁ。定期的に俺が建物を復元させていたからな。朽ちる事はねぇよ。この場所だけは……ちゃんと残しておきたかった」
「うん……あの頃のままだ……」
知らずに流れていた涙を、エリアスが優しく拭ってくれる。
そうやって孤児院の前で様子を伺ってると、私達に気づいた小さな女の子が駆け寄ってきて声をかけてきた。
「あの、お客様ですか!」
「え? ううん、違うよ? ただちょっとね、みんな頑張って働いてるなぁって、感心して見ていただけなんだ」
「あの! えっと! あなたはエリアスさんとアシュリーさんですか!」
「えっ?! な、なんでだ?!」
「どうしたの?」
後ろからここで働いてる女性が、女の子と私達が話しているのを見て声をかけてきた。
その女性が私達を見て驚いた顔をする。
「え?! いや、でもそんな筈は……」
「え? あの、どうしたんですか?」
「あ、いえ……その……この孤児院は400年以上前に建てられたんですが、その創業者の肖像画が、一階にある食堂に飾られてあるんです。その肖像画に描かれてある人達に、貴方達がそっくりでしたので……」
「そう、なんだ……」
「そっか……そんな事してくれてたんだ……」
「その方は慈悲深く、愛情に飢えた子供達に、たくさんの愛を与えてくださったのです。そして今も、その方の縁のある方からこの孤児院に援助をしてくださっているんですよ。もしかして、貴方達はその縁のある方なのでしょうか……?」
「いや……俺達は関係ねぇよ。ただ前を通っただけだ。じゃな」
「あ、待ってエリアス!」
「え? エリアス……? やっぱり貴方達は……!」
さっさとその場を立ち去るエリアスに連れられるように、私もその場を後にする。
足早に歩くエリアスについて行く。少しして足を止めたエリアスは、辛そうな顔をしていた。
「エリアス? どうしたの?」
「いや……俺、途中であの孤児院手放したからな。リュカを失って……あの時は他の子供を見るのが辛くてな……だから恩を感じて貰う必要なんかねぇんだよ。なのに……」
「そんな事ない。確かにリュカを失ったって悲しみもあったかも知れないけど、エリアスなりの考えで離れたっていうのもあったんでしょ? 皆に危害が及ぶと思って。けどその後も手助けしてたんでしょ? だからそんなふうに思う必要ないよ」
「アシュリーの帰る場所を一つ無くしちまって……ごめんな?」
「大丈夫だよ! 今はニレの木のあるあの場所が、あの家が私の帰る場所だから! エリアスがいる場所が私の帰る場所だから……!」
「アシュリー……!」
エリアスが私を抱きしめる。そんなふうに思ってたんだ。私と一緒に暮らした場所を手放した事に罪悪感を持っていたなんて……
子供達が好きで、人が好きなエリアスが、やっとの思いで造った孤児院を手放したのは、自分以外の誰かを思っての事なんだ。
それが正しいかどうかは分からないけど、エリアスは本当は手放したくはなかった筈なんだ。
「大丈夫だよ」
って笑って、エリアスの両頬を手で包み込むようにして笑うと、エリアスは私の額に額をコツンってくっ付けて、ホッとした感じで
「そうか……」
って微笑んだ。
「あ、ねぇ、エリアス! 私に服を買ってくれるんじゃなかったっけ? 早く行こう! あ、お昼もまだだから、お腹が空いた! 美味しい物が食べたい! そうだ、露店で色々買って食べようよ!」
「あぁ……そうだな。先に飯にすっか」
今度は私がエリアスの手を引っ張って行くようにして早歩きで王都の中心部へ向かっていく。
露店で売られている牛鴨の串焼きとかホットドッグを買って、ベンチに座って食べる。
「久し振りにこうやって食べるよね」
なんて言いながら、昔もこうやってエリアスと露店で食べ物を買って歩きながら食べたりしたことを思い出す。
「夜は取って置きの店に連れていくから」
って、エリアスは思わせ振りに言ってくる。
「どんなお店?」
って聞いても、
「夜になったら分かるだろ?」
って教えてくれなかった。
そうやって露店で飲み物を買って飲みながら歩いて、服屋へ行く。
本当は服が欲しい訳じゃなかったけど、なんかエリアスを元気付けたくて服屋へ入った。
そこは女の子が着る服をメインに置いていて、客層も女の子が多かった。その中にいる事をエリアスは気にならないのか聞いてみると、
「離れるより全然いい」
って言って、一緒に私の服を選んでくれていた。
「この服、良いな。あ、これも。これなんかもどうだ?」
「えっ! そんないっぱい!」
「着てみてくれよ」
「お客様、試着室がございますので良ければどうぞ」
「え、でも……」
「あ、あとこれに合う服も持ってきてくんねぇか?」
「はい、只今!」
「エリアス、服だらけになっちゃうよ!」
「全部似合うだろうし、色んな服を着たアシュリーが見たいんだ。ダメか?」
「ダメとかじゃないけど……」
「ではこちらを試着と言うことでよろしいですね?」
「あぁ。着たら見せてくれよな」
「もう……」
「お連れ様は男性ですので、申し訳ございませんがこちらでお待ち下さいね」
「え、近くまで行くぞ?」
「他の女性も着替えておりますので……」
「エリアス、大丈夫だよ。すぐに戻って来るから」
「アシュリー……」
少し戸惑っているエリアスに、大丈夫って笑顔で言って、
「他にも何か選んで待ってて!」
って言ったら、
「分かったよ」
ってため息混じりに頷いて、だけど思ったよりノリノリで服を選んでくれていた。
そんなエリアスを見て安心して、店員に連れられて試着室へ行く。
何故か途中で担当が変わり、店の奥の方にある試着室へと案内された。
店員が扉を開いて、中に促されて足を踏み入れた瞬間、私は何処かに落ちていくような感覚に襲われる。
真っ暗で何も見えなくて聞こえなくて、何が起こったのか全く分かってなくて……
戸惑ってると、後ろから頭をガツンと殴られたような衝撃があって、そのまま私の意識は朦朧としていった……
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