慟哭の先に

レクフル

文字の大きさ
130 / 166

離れた結果

しおりを挟む

 インタラス国 王都コブラル

 その国はオルギアン帝国より南の位置にあり、ここもまたオルギアン帝国の同盟国となっている。

 その昔、私はエリアスとこの国で出会ったのだ。

 初めての出会いは最悪だった。
 私が王都へ向かう旅の途中の街道で馬車が襲われた。その襲った者達の中にエリアスがいて、盗賊が馬車を襲ったと勘違いした私は助けに入ってエリアスと戦ったのだ。
 お互い負傷し、何とか逃げ切ったエリアスと、その後訪れた王都コブラルのギルドで再会して、盗賊じゃない事を知った。そして一緒に闇組織を討伐する事になって……

 エリアスは生まれた国は違えど、インタラス国は彼の故郷みたいなもので、長年ここのギルドで冒険者として働いていた。
 私を助ける為にオルギアン帝国のSランク冒険者となったエリアスだけど、幼くして奴隷になって魔眼に目覚めた事により捨てられて、行く宛も無くさ迷うエリアスを受け入れてくれたこの国に今も恩義を感じているようだった。

 エリアスは王都にあったスラム街一帯を買い取って、そこに孤児院を造った。そこには私達の部屋もあって、私達は子供達に囲まれてそこで暮らしていた。

 今はここで育った子が成長してから運営に携わっていく事が殆どで、エリアスは金銭的に援助しているらしい。
 エリアスを知っている人は皆先立っていき、エリアスも人に自分の姿を見せずにいたから、今ここにエリアスを知る人は誰もいない

 それでもエリアスはこの国、この王都には思い入れがあって、時々様子を見に来るんだと言っていた。


「あ、ギルドがある。あの頃と同じ場所にあるんだね。建物は変わってるけど」

「あぁ。何回か建て直したり改築したりしてるから、今は原型がなくなってるよな」

「あそこでエリアスと再会したよね。懐かしい」

「俺を盗賊だって思ってな。なかなか信じて貰えなかった」

「ふふ……そうだったね。あ、そう言えばこの近くに武器屋があったよね? 今はどうなってるんだろう?」

「あぁ。後を継ぐ奴がいなかったみたいだからな。一代限りで店は無くなったよ」

「そうなんだ……」

「俺達の住んでいた場所に行ってみるか?」

「うん!」


 エリアスに連れられて、私達が住んでいた孤児院までやって来た。

 そこは私達が暮らしていた時と同じように、建物は老朽化なんかもしないで、あの頃と同じ状態でそこに存在していた。
 広々とした庭には畑があって、子供達は大人に混じって畑仕事をしていた。
 家畜もいて、牛鴨の世話をしている子供達もいてて、皆が一生懸命で、そして元気で笑顔で、まるであの頃と同じ風景に感慨深くなる……


「エリアス……ここは変わらないね……」

「あぁ。定期的に俺が建物を復元させていたからな。朽ちる事はねぇよ。この場所だけは……ちゃんと残しておきたかった」

「うん……あの頃のままだ……」


 知らずに流れていた涙を、エリアスが優しく拭ってくれる。

 そうやって孤児院の前で様子を伺ってると、私達に気づいた小さな女の子が駆け寄ってきて声をかけてきた。


「あの、お客様ですか!」

「え? ううん、違うよ? ただちょっとね、みんな頑張って働いてるなぁって、感心して見ていただけなんだ」

「あの! えっと! あなたはエリアスさんとアシュリーさんですか!」

「えっ?! な、なんでだ?!」

「どうしたの?」


 後ろからここで働いてる女性が、女の子と私達が話しているのを見て声をかけてきた。
 その女性が私達を見て驚いた顔をする。


「え?! いや、でもそんな筈は……」

「え? あの、どうしたんですか?」

「あ、いえ……その……この孤児院は400年以上前に建てられたんですが、その創業者の肖像画が、一階にある食堂に飾られてあるんです。その肖像画に描かれてある人達に、貴方達がそっくりでしたので……」

「そう、なんだ……」

「そっか……そんな事してくれてたんだ……」
 
「その方は慈悲深く、愛情に飢えた子供達に、たくさんの愛を与えてくださったのです。そして今も、その方の縁のある方からこの孤児院に援助をしてくださっているんですよ。もしかして、貴方達はその縁のある方なのでしょうか……?」

「いや……俺達は関係ねぇよ。ただ前を通っただけだ。じゃな」

「あ、待ってエリアス!」

「え? エリアス……? やっぱり貴方達は……!」


 さっさとその場を立ち去るエリアスに連れられるように、私もその場を後にする。
 足早に歩くエリアスについて行く。少しして足を止めたエリアスは、辛そうな顔をしていた。

 
「エリアス? どうしたの?」

「いや……俺、途中であの孤児院手放したからな。リュカを失って……あの時は他の子供を見るのが辛くてな……だから恩を感じて貰う必要なんかねぇんだよ。なのに……」

「そんな事ない。確かにリュカを失ったって悲しみもあったかも知れないけど、エリアスなりの考えで離れたっていうのもあったんでしょ? 皆に危害が及ぶと思って。けどその後も手助けしてたんでしょ? だからそんなふうに思う必要ないよ」

「アシュリーの帰る場所を一つ無くしちまって……ごめんな?」

「大丈夫だよ! 今はニレの木のあるあの場所が、あの家が私の帰る場所だから! エリアスがいる場所が私の帰る場所だから……!」

「アシュリー……!」


 エリアスが私を抱きしめる。そんなふうに思ってたんだ。私と一緒に暮らした場所を手放した事に罪悪感を持っていたなんて……
 子供達が好きで、人が好きなエリアスが、やっとの思いで造った孤児院を手放したのは、自分以外の誰かを思っての事なんだ。
 それが正しいかどうかは分からないけど、エリアスは本当は手放したくはなかった筈なんだ。
 
「大丈夫だよ」
って笑って、エリアスの両頬を手で包み込むようにして笑うと、エリアスは私の額に額をコツンってくっ付けて、ホッとした感じで
「そうか……」
って微笑んだ。

 
「あ、ねぇ、エリアス! 私に服を買ってくれるんじゃなかったっけ? 早く行こう! あ、お昼もまだだから、お腹が空いた! 美味しい物が食べたい! そうだ、露店で色々買って食べようよ!」

「あぁ……そうだな。先に飯にすっか」


 今度は私がエリアスの手を引っ張って行くようにして早歩きで王都の中心部へ向かっていく。
  
 露店で売られている牛鴨の串焼きとかホットドッグを買って、ベンチに座って食べる。
「久し振りにこうやって食べるよね」
なんて言いながら、昔もこうやってエリアスと露店で食べ物を買って歩きながら食べたりしたことを思い出す。
 
「夜は取って置きの店に連れていくから」
って、エリアスは思わせ振りに言ってくる。
「どんなお店?」
って聞いても、
「夜になったら分かるだろ?」
って教えてくれなかった。

 そうやって露店で飲み物を買って飲みながら歩いて、服屋へ行く。
 本当は服が欲しい訳じゃなかったけど、なんかエリアスを元気付けたくて服屋へ入った。

 そこは女の子が着る服をメインに置いていて、客層も女の子が多かった。その中にいる事をエリアスは気にならないのか聞いてみると、
「離れるより全然いい」
って言って、一緒に私の服を選んでくれていた。

 
「この服、良いな。あ、これも。これなんかもどうだ?」

「えっ! そんないっぱい!」

「着てみてくれよ」

「お客様、試着室がございますので良ければどうぞ」

「え、でも……」

「あ、あとこれに合う服も持ってきてくんねぇか?」

「はい、只今!」

「エリアス、服だらけになっちゃうよ!」

「全部似合うだろうし、色んな服を着たアシュリーが見たいんだ。ダメか?」

「ダメとかじゃないけど……」

「ではこちらを試着と言うことでよろしいですね?」

「あぁ。着たら見せてくれよな」

「もう……」

「お連れ様は男性ですので、申し訳ございませんがこちらでお待ち下さいね」

「え、近くまで行くぞ?」

「他の女性も着替えておりますので……」

「エリアス、大丈夫だよ。すぐに戻って来るから」

「アシュリー……」


 少し戸惑っているエリアスに、大丈夫って笑顔で言って、
「他にも何か選んで待ってて!」
って言ったら、
「分かったよ」
ってため息混じりに頷いて、だけど思ったよりノリノリで服を選んでくれていた。
 そんなエリアスを見て安心して、店員に連れられて試着室へ行く。

 何故か途中で担当が変わり、店の奥の方にある試着室へと案内された。

 店員が扉を開いて、中に促されて足を踏み入れた瞬間、私は何処かに落ちていくような感覚に襲われる。

 真っ暗で何も見えなくて聞こえなくて、何が起こったのか全く分かってなくて……

 戸惑ってると、後ろから頭をガツンと殴られたような衝撃があって、そのまま私の意識は朦朧としていった……



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

処理中です...