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女の子の戦術
しおりを挟む翌朝、早くに起きてすぐに朝食を摂り、支度をする。
ウルがメイドに服を何着も用意させて、あれでもないこれでもないと、私に服を合わせて悩んでいる。
私はされるがままになって、ウルに言われるように着替えて見せる。
「姉ちゃはどれ着ても似合うからなぁー」
って言いながらも、コーディネートに悩んでいた。ウル曰く、今日のコーディネートは背伸びした女の子って言うテーマらしい。
甘過ぎず、かといって大人っぽくなり過ぎず、あどけなさの残る大人女子風にしたいらしいのだ。
って事で、服は白を基調としたふわふわのワンピース。レースも使われているけど、襟やスカート部分の下には刺繍が然り気無く施されてあって、これが甘くなり過ぎなのを抑えてるらしい。これは肩口のない服で、腕を出すのに抵抗があるって言ったら、上着を羽織るから問題なし! で片付けられた。
じゃあいつもの外套を……って言ったら、
「なんでやねん!」
って激しくつっこまれてしまった。
上着は私の髪色に合う青を合わせて、アクセサリーも靴もウルに全て仕立てられた。
「ダニエラ、どう?」
「素敵です! スッゴくお綺麗でお可愛らしくて! テーマ通りです!」
「そう、かな……でもこれじゃ剣も装着できないし……」
「何言うてんの?! デートに剣とか必要ないねん! それに相手は兄ちゃやろ?! どんな奴も敵にはならへんわ!」
「まぁ……そうだけど……そうか……じゃあ行ってくる」
「何言うてんの? 今からヘアメイクやで」
「え?」
「はい、こちらにいらしてくださいね」
「え、まだ?」
「これからが本番やっちゅーねん」
「えー!」
ウルにそう言われて、私はメイド4人で更にあれやこれやと何やら施されていく。
髪を結っている者、メイクをする者、手の爪になんかしている者、足になんかしている者と分かれて、とにかくなんか色々されている。
とりあえず私はされるがまま状態で身を任せるしかできなかった。
「出来上がりました! いかがでしょうか?! ウルリーカ皇太后様!」
「うわぁー! これはヤバい! これはアカン!」
「え? えっと、なに? あれ?! 爪の色が変わってキラキラしてる!」
「あまりお手入れがされていなかったのですが、磨けば光り方が尋常でない原石です。と言うか、そのままでも勿論お美しいのですが、こうも遣り甲斐があるとは……」
「さすがやなぁ……綺麗過ぎるわ……」
「え?!」
「鏡見てみ?」
ウルに言われて、用意された鏡を見てみると、そこには女の子っぽくなった自分がいた。
「ウ、ウルっ! こんな、格好で! エ、エリアスに、会えないっ!」
「なんでやの! 兄ちゃ絶対にビックリすんで! 更に姉ちゃに釘付けやで! あ、でもこれ以上は困るか……」
「こんなっ! 女の子っぽい格好で! は、恥ずかしい……!」
「デートやったら普通に皆これくらいはするねん。兄ちゃも期待してると思うで?」
「え?! そういうもの、なのか?」
「だから泊まって貰ってんから。兄ちゃに可愛いって言って貰いたいやろ?」
「それは……うん……」
「頭に着けてたベルトは服装に合えへんから、青の石を外して首飾りにしたからな。それ、着けとかなアカンねやろ?」
「うん……」
「外したら髪と目が黒くなったからな。ビックリした。兄ちゃの呪いかと思った」
「そんな訳ない!」
「アハハ! 流石にそれは無いわなぁ!」
そうやってウルとメイド達に散々持ち上げられて、戸惑いつつも緊張しながら帝城を出た。
出る前に今から待ち合わせ場所に行く事をピンクの石を握ってエリアスに告げてから行く事にする。
勿論、エリアスからは朝起きてから、いや起きる前から石が光りまくってて、握った時には安心したような声が聞こえてきたりして、それから何度もエリアスと話をしながら用意に至ってた。
『やっと会える』
って嬉しそうな声が聞こえてきて、私も
「うん……会えるね」
って恥ずかしく思いながら言う。
なんだかんだ言いつつ、帝城を出たのは昼前だった。女の子の準備って大変なんだなって思った。
そう考えると、今までの自分はなんて無頓着だったんだろうって思って、女の子として何もしてこなかった事は恥じる事なのかな? って考えさせられてしまった。
空間移動で広場近くの路地に着く。そこから『黒龍の天使』像まではすぐだ。
路地から出て広場に向かう。今日は天気が良くて晴れていて、少し涼しい感じで、気候の良い日で良かったって思った。
すれ違う人になんか見られてるような気がする。やっぱり似合わないんじゃないかな……
いつも男の子っぽい格好しかしてないから、今の自分がどうなのかは正直分からない。ウル達に誉められて調子に乗っちゃったけど、本当は全然似合ってないんじゃないかな……
ちょっと待って! やっぱりこんな格好見たらエリアスが変に思うかも知れない! でも優しいエリアスは私に気遣って何も言えなくなるかも知れない!
そう思うと急に足取りは重くなって、待ち合わせ場所に行くのが怖くなってきた。
やっぱりいつものような格好の方が良かったんじゃないかな……どうしようか……
そう思いながらゆっくりゆっくり進んで行く。けど気づけばその足は止まっていて、私はどうしようかと俯いていた。
「あの、お嬢さん……どう、なさったんですか?」
「え?」
後ろから声を掛けられて、思わず振り返ると男の人がいた。
私を見て驚いたような顔をして、顔を赤くして目を逸らす。
あぁ……彼はきっと私の魅了にあてられてるんだ……
「なんでもありません。では……」
そう言って踵を返して、急いでその場を離れる。
今、魔力制御の石は首飾りとして着けている。だから魅了が抑えきれていないかも知れない。どうしよう……
周りを見ると私を見ている男の人の目があちこちにあって、私の所へ近づいて来ようとしてるみたいに見える。
もしかしてそれは杞憂かも知れない。ただの自意識過剰かも知れない。
だけど急に怖くなって、助けを求めるように待ち合わせ場所まで駆け足で向かう。
『黒龍の天使』像の前にはエリアスがいた。
良かった……エリアスがいた……
こっちを向いて私を見つけたエリアスは、目を見開いてスッゴく驚いた顔をする。
「アシュリー……?」
「エリアス、あ、ごめん、その、待たせて……」
エリアスの顔を見たら安心して、今までの怖い思いとかが無くなっていった。
辺りを見てみると、私の元まで来ようとしていた男達は、エリアスを見て立ち止まったようだった。
「えっと、とにかくここを離れよう? あ、どこ行こうか……あの……エリアス?」
まだ私の事を凝視しているエリアスは、さっきから何も言わないでいる。どうしたのかな……
あ、もしかしてこの格好が変だからじゃないのかな?!
「あ、えっとね、エリアス……その、これは……ウルにこうしてもらって……に、似合わない、よね……」
「すっげぇ……やべぇ……」
「え?」
「アシュリー……やべぇって……」
「あ、やっぱりそうだよね、ごめんっ! えっと、どうしよう?! あ、服屋に行って別の服を……」
「可愛い過ぎんだろ……」
「え……?」
「やべぇ……すっげぇ可愛い……なんだこれ……本当に存在する人なのか……?」
「エリアス?」
「アシュリー……マジで可愛い……ってか、こんな格好で危ねぇじゃねぇか!」
「え? 危ない?」
「他の男の目がだよ!」
「あ、そうだよね?! 魔力制御の石が首飾りになってるから魅了が抑えられてないのかも! だから……」
「いや、そうじゃねぇ! ……ったく……無自覚にも程があんだろ……けど大丈夫だ。俺が守るから」
「あ、うん……あのね、今日は剣も短剣とかも装備してないんだ。ウルが必要無いって言って。でも何かあったら魔法で対処できるし、大丈夫かなって」
「あぁ。しかし……あちこちから目線が集まっててやべぇな……とにかく王都へ行くか……それともここで行きたい場所はあるか?」
「あ、うん、えっと……この服ウルが選んでくれたんだけど……やっぱり似合わないって思うから何処か服屋にでも言って着替えようかなって……」
「え?! 似合わねぇとか、そんな訳ねぇだろ?! すっげぇ似合ってる! 目茶苦茶可愛いじゃねぇか!」
「本当に……?」
「嘘な訳ねぇだろ? 誰にも見せたくねぇよ……こんな綺麗で可愛い子……」
「エリアス……」
「でも、そうだな。他にも女の子っぽい服とか持ってても良いよな。俺の前だけで良いから着て欲しいしな。あ、部屋着を買おうか。寢衣もヒラヒラしたのにしよう!」
「こうやって外で着るのはダメって事?」
「他の奴等に見せたくねぇんだよ……みんながアシュリーを好きになっちまうからな」
「そんな事ないよ……」
「分かってねぇよな……とにかく、まずはコブラルへ行こうか?」
「あ、うん」
エリアスは指を絡ませるようにして手を繋ぐ。その手をぐいって上げて、私の手にキスをする。そうされて思わず顔を下に向けてしまう。人前なのに……
エリアスは本当は抱き上げて歩きたいくらいだって言ってたけど、流石にそれはってなって、手を繋ぐに留まっている。だからこれくらい許してくれって言って微笑んだ。
その顔を見たら許すしかなくなっちゃうじゃないか……
手を繋いで二人で路地に入って人目を避けて、空間移動でインタラス国の王都コブラルへ行く。
これからがデートの始まりだ。
エリアスといっぱい楽しめたら良いな。
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