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ザイルの思惑
しおりを挟むウルから連絡が入り、俺は帝城に向かった。
帝城の俺の部屋に着いてベルを響かせるように鳴らし、いつものように侍従のザイルを呼び出す。
バタバタと音をさせてザイルはやって来たが、それを見てすぐにどういう事か理解した。
ザイルの後ろには何人も近衛隊がいて、俺を捕らえに来たのが思考を読まなくても分かる程だったからだ。
「ザイル……何してんだよ……」
「流石はヴァルツ様。もうお分かりなんですね。では大人しくして頂けますか?」
「ウルを質に取ったか……それだけじゃねぇな。各地にいる孤児院にも兵士を派遣して子供達も……か。やる事が酷くねぇか?」
「そうでもしないと、貴方の力で皆が一瞬にして殺されるでしょうから。苦肉の策です」
「何が苦肉だよ。ったく……お前の入れ知恵か。色んな奴等から協力を得たな。ジョルディのやり方に納得してねぇ弟のバルトロメウスが首謀者なんだろうけど……」
「ジョルディ皇帝陛下にはヴァルツ様がいらっしゃる。その存在は大きく、貴方の後ろ盾さえ無ければジョルディ様等よりバルトロメウス様の方が皇帝として相応しいのです!」
「俺が皇帝を決めたんじゃねぇよ。けどバルトロメウスはダメだ。アイツは強欲で、自己中心的な考えをしている。それが分からねぇのか? アイツが皇帝になりゃ、属国との友好は無くなるぞ?」
「それは仕方がないのではありませんか? 最近では我が帝国は他国に舐められているじゃないですか! 強者としての力を誇示しなければならないんですよ!」
「お前がそんな野望の塊だったとはな……」
「ヴァルツ様が罪人エリアスだと言うことを知って、私にも転機が訪れたと思いましたよ! いつまでも何処の誰かも分からなかった奴の侍従で終わるつもりなんかありませんでしたらね!」
「ほう……で……俺を公開処刑にするつもりか」
「よくお分かりで! その時に貴方を匿ったとして、ジョルディ皇帝陛下を糾弾致します! 大々的に知らせ、皆に知らしめます! これでバルトロメウス様が次の皇帝になられるのです!」
「俺は誰が皇帝になろうがどうでも良い。そろそろ引退も考えてたしな。けど、関係のない子供を人質に取るとか、そんな事が平然と出来る奴を俺は認めねぇ……!」
「貴方に認めて貰えなくても関係ありませんよ。貴方は処刑されるんですから」
「殺せるもんなら殺してみろって感じだけどな」
「抵抗しようとすれば、すぐに各地にいる兵士達は動きますよ? 通信の魔道具でこちらの話は各地にいる兵士に筒抜けですから。さぁ、どうします? 抵抗しますか?」
「各地にいるゴーレムの魔力も途切れさせたんだな……魔力妨害の魔道具でも使ったか。用意周到だな」
「貴方の力を侮ってはいませんよ。調査に調査を重ねましたからね。最近は女に現を抜かしていたでしょう? 気が緩んでいたんですね。お強く孤高の存在だった貴方が女ごときに骨抜きにされる等……嘆かわしい限りです」
「女ごときだと……?」
「うっ……や、止めなさいっ! その威圧をすぐに……! でないと人質の命に保障は出来ませんよ?! 私の声が聞こえなくなった時点で人質を殺すように言ってます、から!」
「……分かってるよ……」
ザイルは用意周到な奴だった。俺が幻術を使えるのを知っていたようだったし、目だけでどうにか出来ることも知っていたようだった。
だから離れた場所にいる子供達を人質にして、ザイルの声が聞こえなくなったり、従うような感じになった時点で一人一人殺害していくように指示していたんだ。
ったく……どうしてくれんだよ……
俺、アシュリーにすぐ帰るって言っちまったんだよ。約束、破っちまうじゃねぇか。
ザイルと話しながら、俺は首から引きちぎったピンクの石を握りしめていた。それでウルと話をしていたんだ。
ウルも、オルギアン帝国からの伝達で、ジョルディが俺を呼んでいるから伝えて欲しいと言われたらしく、帝城にいた頃なら不審に思ったことでも、慣れない土地でこんなやり取りも初めてだった事もあって、気づかなかったと言っていた。
俺に帝城へ行くように告げてから、その伝達を告げに来た者達に拘束されたそうだ。
ウルもアベルもそこら辺の奴等よりも強いんだけど、ここでも子供達を人質に取られ、手出し出来なかったようだ。
なんか、俺の事で皆を危険な目にあわせた事を申し訳無く思ってしまう。
ウルに、とにかく抵抗せずに大人しくしておいて貰うことを告げて、俺はザイルに拘束されて魔力制御の手錠を後ろ手にかけられ、頑丈に結界を張った牢獄に入れられた。
ってか、これくらいじゃ俺には何の効果もねぇんだけどな……
外には何人も俺を見張る兵士がいる。コイツ等も家族を人質に取られたか。俺が不審な動きをすると、コイツ等が責任を取らされんだな。いちいちやる事が悪どいよな。
ゴーレムを作り出して俺の代わりにしようか。けど、ここじゃゴーレムを作れても、維持させるのは難しいな。そうなりゃコイツ等の家族がヤられちまう。
じゃあ、幻術で俺がここにいるように見せるか。いや、定期的に交代させるらしいから、違う奴に代わるとすぐバレるな。
今は少し大人しくしといた方がいいか……
いや、それでもアシュリーに事情を話しておきたいから、一度アシュリーの元へ帰ろうか。
そう思って空間移動で行こうとするけれど、何かに阻まれて飛んで行くことは出来なかった。全く、マジで面倒だな! ザイル! 後で絶対に殴ってやるからな!
ここに来てからウルと話す事も出来なくなった。なんか色々妨害するのが施されてんだろうな。
「ストラス……」
風の精霊、ストラスを呼び出す。帝城の地下にある牢獄に爽やかな風が吹いて、軽やかにストラスが姿を現した。
「なぁに、エリアス? なんでこんな所にいるの?」
「なんか捕まっちまってな」
「こんなの訳なく出られるでしょ? エリアスなら」
「そうだけどな。人質を取られたんだ。でな? その人質がどうなってるか見て来てくんねぇかな? 場所は……」
ストラスに場所を伝えて様子を見て来て貰う事にする。ストラスは喜んで風と共に消えて行った。
さて、これからどうするか……
アシュリーは俺が帰って来なかったら心配するだろうな。まぁ、こうなったのはすべて俺が原因なんだけど。
しかし、ここは厄介な場所だな。
帝城の東端の地下五階にある牢獄。ここは地下に行く程に暗くなり、湿気も多くジメジメしていて、夏でも薄ら寒い状態になる。
地下一帯は迷路のようになっていて、もし抜け出したとしても簡単には地上に出られないように策が練られてある。
知らない者が迷い込もうものなら、至る所にある罠によってすぐに絶命してしまうだうな。
俺はここに何度か来たことがある。だからある程度ここの構造は知っている。そしてこの地下五階には罠以外にも様々な魔術が施されている。
体力低下・魔力低下・速度低下・能力低下に加え、ここには幻術も付与させてんな。まぁ、これくらいの幻術じゃ俺には効かねぇけどな。俺に幻術を見せたいなら邪神連れてこいってんだよな。
けど、普通の人がここに入るとなると大変な事になるな。気が狂っちまうな。もちろん、全ての牢獄がこうじゃねぇ。ここは極悪人が入れられる場所だ。地下へ行く程に凶悪犯が入れられる事になっていて、まぁここはその最下層って感じだな。
だから俺を見守ってる兵士達も辛そうだ。それでも全ての能力やらを上げる付与はされていて、自身に結界を張っているみたいだけど、それも効かない程にここは強い魔術が組まれてるんだな。
この兵士達はジョルディ派だ。だからこうやって使われたんだろうな。
俺はコイツ等にそれとなく、この場所にある全ての効力を無効化する述をかけてやった。するとすぐにそれに気づき、辺りをキョロキョロ見てから俺に深く頭を下げる。俺はニッコリ笑っておくだけにする。
今はヴァルツの時の仮面は着けてねぇ。さっきザイルに取れと言われたからそうしている。仕方なく体型も元に戻した。
それを見た奴等は驚き、俺への警戒をかなり上げてきた。だからここでは何もしねぇって。
とにかく俺は囚われの身となった。
アシュリー……
俺が帰って来ないのを心配して、余計な事に首を突っ込まなきゃ良いんだけどな……
頼むから俺が帰るまで、家で大人しく待っていてくれよ?
今はそこが何処よりも安全なんだからな。
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