152 / 166
エピローグ
しおりを挟むベリナリス国のニレの木のそばに建つ家は以前よりも増築されて大きくなって、庭には様々な野菜のなる畑がある。
色とりどりの花が咲き乱れ、小さな遊具も置かれてある。
庭の一角にゆったりと座れる椅子があり、そこがエリアスのお気に入りの場所となっている。私はその横に椅子を置いてエリアスの手をしっかり握って、エリアスと共に子供達の様子を見守っている。
今日がそうだと、セームルグから一週間程前から聞いていた。
「今日も良い天気だね。暖かくて気持ちいい」
「そうだな……」
「あ、エリアスは寒くない?」
「あぁ……大丈夫だ……」
「ねぇエリアス、知ってる? ツインソウルっていうの」
「いや……」
「魂の片割れなんだって。私の本当の魂の片割れはディルクなんだけど、エリアスとはそんな感じがする」
「魂の……」
「うん。きっとね。一度会ったら離れられなくて、お互いが求めてやまないんだ。そんな存在。ね? 私とエリアスみたいでしよ?」
「あぁ、そうだな……きっとそうだ……アシュリー……」
「ん? なぁに?」
「幸せだった……」
「うん……私もすっごく幸せだった。ううん、今もこれからも幸せだよ」
「あぁ……そうだな……」
「エリアスはおじいちゃんになって髪が白くなっても格好良くて……私はずっとエリアスに恋をしていたよ」
「俺も……いつまでも美しいまま変わらないアシュリーに……惚れ続けてた……今もだ……」
「うん……愛する人と沢山の子供達に囲まれて……私は楽しくて幸せで……エリアスと一緒になれて良かった」
「必ず……アシュリーの元に……」
「うん。待ってる。ずっと待ってる」
「あぁ……アシュリー……愛している……これからも……ずっと……」
「私も……いつまでも愛しているよ……エリアス……」
優しく口づけをすると、エリアスはゆっくり微笑んで、それから静かに目を閉じた……
握っていた皺だらけの手は力を無くし、するりと私の手から溢れ落ちそうになったけれど、私はその手を離さないように両手でしっかり握りしめて頬に寄せる。
「かぁたん、とぅたん、ねんね?」
「うん……そうだね、レクス……お父さん、眠っちゃったね……」
「お父さんにお花摘んできたよー!」
「アデル、ありがとう。じゃあお父さんの手元に置いてあげてね?」
「ねぇお母さん、どうして泣いてるの?」
「なんでだろうね、ゾラン……」
「ねぇ見て見て! お花の冠作ったの!」
「ラビエラ……じゃあそれ、お父さんにあげようね?」
沢山の子供達に囲まれて、私の愛するエリアスはこの世を去った。
それは暖かな陽射しが降り注ぐ、穏やかな日の出来事だった。
ルディウスは現在、オルギアン帝国でエリアスがしていた仕事を受け継いでいる。
私達の子供達はやはりその能力は高く、常人では出せない力を発揮する。だけどそれは一部の人にしか知らせておらず、影で支える人物となっている。
子供達の腕には能力制御の腕輪がつけられている。
これは異能の力を持つ私達には必須の物で、その昔、前世で私の母が作り出した物だった。それをウルとリュカが解析して材料と配合を研究してくれ、増産することが可能になったのだ。
これにより子供達も誰に遠慮する事なく触れる事が出来るようになった。
リュカは結婚して、現在3人の子供がいる。その子供も大きくなってきて、一番上の子はもうすぐ成人を迎える。
「リュカ……」
「お母さん……」
ニレの木のそばに横たわるようにして、エリアスは花に包まれて眠っていた。子供達は手に花を持っていて、それを一人一人エリアスに届けていく。
私はエリアスの手を離すことができなくて、いつまでも両手でしっかり手を繋いだままにしていた。
「お父さん……いっぱい愛してくれて……ありがとう……大好きよりもっといっぱい大好きの……愛してるよ……」
「リュカ……覚えてたの……?」
「うん……所々ね? 不意に思い出す事もあって。今も思い出したりするんだよ? それがね、宝物を見つけたみたいに凄く嬉しいの。お父さんと二人で過ごした時の事とか、お母さんの中に魂として存在していた時の事とか……でもそれを言うと、他の子達に悪いかなって。私だけいっぱい思い出あって、なんかズルい気がして……」
「ふふ……リュカらしい……でもエリアスもきっと喜んでる。リュカは優しい子に育ってくれたから……」
「お父さんとお母さんのお陰だよ。私、凄く愛されたって胸を張って言えるもん。お父さんとお母さんの子供に生まれて来れて良かった」
「ありがとう……リュカ……」
「ほら、ルディウスもアリアも来たよ。皆でお父さんを見送ってあげよう?」
「うん……」
私はあれからもエリアスとの子供を産んだ。
子供は全員で12人。既に孫も7人いて大所帯となったのだ。
一番下の子は今3才で、まだまだこれから成長するのに手が掛かる。エリアスは自分が先立った時に、私が寂しさで塞ぎこまないようにって考えてくれていたんだろうな。
そして、私に子供という宝物を沢山残してくれた。
皆が集まって、エリアスを取り囲んで皆がエリアスに言葉をかけていく。それは感謝の言葉ばかりで、誰もが涙を流してその命を惜しんだ。
「母さん、じゃあ……もう送るよ?」
「待ってルディウス……! もう少し待って!」
「母さん……」
「エリアス……エリアス……一人で寂しくない? ねぇエリアス……やっぱり嫌だ……エリアス……! 私を置いて行かないで……っ! エリアス!!」
「お母さん……お父さんは強いんだよ? ずっと一人でいた程、凄く強いんだよ? だけどお母さんは一人じゃない。私達がいるから……」
「アリア……」
「そうだよ。お父さんを不安にさせちゃダメだよ……」
「リュカ……」
涙でいっぱいの私を皆が支えてくれる。
だけど……
こんなに辛いの? こんなに辛い思いを、貴方はずっと一人で耐えてきたの?
だから私がアタナシアを宿した時、あんなに泣いてくれたの?
こんな思いを私にさせたくなかったから?
なんて優しい人……
今になってまた貴方の優しさに触れる事になるなんて……
ルディウスが光の精霊エレインを呼び出した。光輝いて美しい精霊、エレインが姿を現す。エレインはそっとエリアスの元に近寄り、光で優しくエリアスを包み込む。
「待って……! エリアスを連れて行かないで! エリアス! お願い、エリアス!」
「母さん!」
光に包まれるエリアスに手を伸ばした所をルディウスがその手を取って止める。
ルディウスに肩を後ろから支えられる形で、私はエリアスを見送る事になってしまった。
眩しく光輝いて、それが静かに無くなっていくと、そこにエリアスの姿はもうなかった。
涙が止まらなくて、エリアスがいない世界にいる自分が耐えられなくて、ただその場から動けずにいて……
その時、優しく私を呼ぶ声が聞こえた。
「アシュリー……」
「え……」
それは聞き馴染んだ声で、私が心から求める存在で……
振り返るとそこにはエリアスがいた。
「お父さん!」
「とうたん!」
「なんで?! すごく若い!」
「エリアスっ!」
そこには若かりし頃のエリアスの姿があった。それは霊体で、うっすらとしていて向こうにある景色が見えていた。
それでもエリアスがそこにいてくれる事が嬉しくて、思わず両手を広げて抱きつきにいく。けれどエリアスには触れなくて、後ろにあったニレの木に頭をガツンって打ち付ける。
「痛いっ!」
「おい! 大丈夫か?!」
「エ、エリアスに……触れないよ……」
「そりゃな……俺、霊体だから。ごめんな? 先立っちまって……」
「エリアス……やっぱり嫌だ……エリアスがいないの、嫌だ……!」
「アシュリー……そんな泣かないでくれよ……」
「だって……!」
「かぁたん……」
「ほら、レクスも不安そうにしてるだろ? アシュリーを心配してんだよ」
「レクス……」
「皆が心配してる。だからあんま泣くなよ。な?」
「でも……」
「言ったろ? 俺、必ずアシュリーの元に戻ってくるって。それまで待っててくれよ。頼むから……」
「エリアス……」
「皆もアシュリーを助けてくれな? ルディウス、頼むぞ? 力になってやってくれ。な?」
「あぁ。分かってるよ、父さん」
「俺は空から皆を見守っている。これからもアシュリーを……お母さんを助けてやるんだぞ? いいな?」
「「「「はい!」」」」
「アシュリー……愛してるよ。俺の想いは永遠に変わらない。約束する。必ずまた戻ってくる。それまで待っていて欲しい」
「うん……うん……!」
優しく微笑んで、エリアスが空へと上がって行く。
「エリアスっ! 今までありがとう! 愛してる! 私もずっと愛してるよ!」
後ろ姿で顔を少しだけこちらに向けて微笑んで、エリアスは手を振って天へと還って行った。
私はその姿が見えなくなっても、暫くは見上げたままその場から動けずにいたんだ……
月日は優しく穏やかに流れていく
今私はこのニレの木のそばにある家で、一人で暮らしている。
あれから……
エリアスが天に還ってから、120年の時が流れた。子供達は巣立って行き、私の子孫達はあちらこちらに存在する。
今日はレクスの曾孫の様子でも見に行こうか。昨日はリュカの玄孫がもうすぐ子供を産むから様子を見に行ったし……
その後はウルの所に遊びに行こう。そうだ、朝作ったカップケーキを持って行こう。
ニレの木にもたれ掛かってそんな事を考えていると、不意に私の腰に着けていた短剣がカタカタと震えだした。
「え……? なに……?」
思わず短剣を手にしたら、それは浮き上がって光り輝く。そして、短剣に埋め込まれていた赤の石と紫の石が短剣から飛び出すようにして弾けて消えた。
私は呆然とその様子を見ていて……
「もしかして……」
まだ短剣はカタカタ震えてる。見ると白の石が迷っているような感じで震えてるように見てとれる。
白の石はセームルグ……
長年エリアスに宿っていたセームルグが反応している、と言うことは……
「セームルグ、もしエリアスが生まれたんなら……傍にいてあげて!」
私がそう言うと、短剣から白の石は弾けて飛んで行った。
あぁ……やっと……やっとエリアスが生まれて来てくれた……!
「エリアス……待ってたよ……ずっと……ここで……!」
きっとエリアスは私の元へ来てくれる。
私を見付けて、「待たせたな!」って笑ってやって来てくれる。それとも私が探しに行けばいい? あぁでも、なんて嬉しいんだろう! こんなにいきなり世界が色付くなんて……!
ねぇ、エリアス? 貴方も私がこの世に生まれたのを知った時はそうだった? 同じように感じてくれた? ねぇ?
話したいことがいっぱいあるの。
聞きたいこともいっぱいあるの。
また貴方との日々が始まると信じている。
「エリアス……生まれてきてくれて……ありがとう」
まだ私達の物語は終わらないんだね。
これからもきっと、ずっと続いていく。
愛する人と共に 永遠に続いていく。
<完>
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】
iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
王様の恥かきっ娘
青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。
本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。
孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます
物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります
これもショートショートで書く予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる