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それから
しおりを挟む幻夢境刀を手に入れた。
それにより、アタナシアは私に宿る事になった。
私は不老不死となったのだ。
「アシュリー?! アシュリー!」
「エ、リアス……」
「良かった、起きた! あぁ……良かったっ!」
「うん……」
「いや……良くねぇ……アシュリー……アタナシアを宿したんだな?!」
「あぁ……そうするしかないって思ったから……」
「じゃあアシュリーがずっと生き続ける事になんだぞ?! 俺がいなくなって子供達が成長して! 自分よりも年老いていって先立たれてしまっても! アシュリーは一人でずっとっ!」
「うん……分かってる。全部分かってるよ」
「そんなの……!」
「エリアス……泣かないで……」
「泣いてねぇ……」
「エリアスが言ってたじゃないか。子供達が家族を作って子供を生んで育てて……そうしたら子孫がいっぱいになって、それはウルと一緒だって。だからきっと一人で寂しくなんてならないよ?」
「アシュリー……っ!」
「そして今度は……エリアスが生まれ変わって来てくれるのを待とうか? ふふ……なんて……」
「生まれ変わってくる! 俺もアシュリーと同じように、絶対またアシュリーに会いに戻ってくる!」
「うん……そうできたらして? 待ってるから」
「あぁ……必ずだ……約束する!」
「うん……だけどその約束に縛られないでね? エリアスが幸せになれるなら、私はそれで良いから……」
「んな事言うなよ……! 俺、絶対にアシュリーに会いにくる! アシュリーを見つける! だからんな事……あぁ……けどアシュリー……なんでこんな事……っ!」
「そんな悲しそうな顔して泣かないで……私、生まれ変わってくるのに無茶をしたから、もし私が死んだらその魂は、もう存在する事が出来なかったかも知れなかったから……だからきっと、これで良かったんだよ。ね?」
「ごめん……アシュリー……ごめん……」
「なんでエリアスが謝るの? 私がそうしたくてした事なのに。ほら、もう泣かないで?」
エリアスの目の涙を拭ってから、私は優しく微笑んだ。こうするしかないって思った。これが最善なんじゃないかって思った。
「ねぇエリアス……ギュッてして? いっぱいギュッってして?」
「あぁ……アシュリー……俺のアシュリー……」
「ふふ……エリアスの年老いた姿が見られるんだね……楽しみ」
「俺……アシュリーの年老いた姿、見たかった……きっとそうなっても、すっげぇ可愛いんだろうなって思ってたんだよ……」
「私は……私だけが老いていくのは抵抗があったかな。やっぱり……エリアスにはいつだって……か、可愛いって……言って欲しい、し……」
「どんな姿であってもアシュリーは可愛いに決まってんだろ?」
「そう、かな……ごめんね……一緒に年老いていけなくて……」
「それは俺を思ってのことをじゃねぇか……アシュリー……俺、長生きするからな……絶対しぶとく生きてやるからな……!」
「ふふ……うん、そうして? 長く一緒にいようね?」
「あぁ。それからもっと子供を作ろう。アシュリーが寂しくならねぇように……子供達でいっぱいにしよう? な?」
「そうだね……子育てが大変だけど、でも子供が増えるのは、やっぱり良いよね」
「いっぱいの子供達に囲まれて生きていこう? 幸せになろうな」
「今も充分幸せだよ……」
「そうだな」
エリアスが目に涙を浮かべながら口づけてくる。私はまだ分かっていないのかも知れない。愛する人がいなくなってしまって、一人でいる事の辛さを……
だけどエリアスに、もう良いよって、もう充分だよって言ってあげたかった。充分過ぎるほどに一人でいたエリアスに、そう言ってあげたかったんだ。
前世でエリアスが私に言った事がある。
「頼むから俺より先に死なないでくれ」
それはエリアスの親しい人達誰もがエリアスを置いて先立った事で、エリアスは絞り出すようにその言葉を口にしたのだ。それはまだエリアスが不老不死になる前で、そんな時からエリアスは自分から誰かがいなくなることを恐れていた。
それを私は破ってしまった。
だから今度はその約束を守らせて? 私にエリアスを見送らせて?
そんなふうに考えてると、私も自然と涙が溢れてくる。
エリアスに激しく貫かれながら熱く口づけを交わして……だけど二人の目には涙があって……
そうやって私達は涙を浮かべながら、お互いを求め合ったのだ。
それから……
エリアスがこれまでの人生で、この世界に貢献してきた事はとても多く大きかった。
ロヴァダ国はオルギアン帝国の属国となり、現在は押しも押されぬ強国となっている。その武力は高く、オルギアン帝国の武力としてその力は他国に大きく影響を及ぼす程となっている。しかしその国は豊かで、奴隷制度もなく皆が貧困に喘ぐ事なく生活をしている。
オルギアン帝国は今もその存在を強く他国に示すようにあり続けている。
魔物がいない時代は終わり、400年前と同じようにこの世に蔓延る事となった。だがそれにより冒険者や各国の武力は上がっている。それに力を貸したのがロヴァダ国だった。現在、ロヴァダ国には武力と魔法力に長けた人材を育成する機関として学園を造り、若手に積極的に強くなって貰おうと尽力している。
それにはエリアスも手を貸していた。
各地を巡り、魔力に長けている者、素質のある者を探し出してスカウトしていった。
引退したと言っても、エリアスはこうやって密かに力を貸していたのだ。
私達が各国の村や街に接ぎ木をして回ったお陰で、魔力は常に人々に供給され続け、それにより知らぬ間に少しずつ魔力保持力は上がっていった。
だけど、やはり私は『禍の子』だったのだと思わずにはいられない。
エリアスが引退宣言をジョルディに告げてから、世界は魔物の恐怖へと落とされていったからだ。
それにより亡くなった人がいても、それは本来そうだった事だってエリアスは言ってくれたけれど、魔物被害の話を聞くたびに私が悲しそうな顔をするから、それを気にしてエリアスは作り出したゴーレムを至る所に点在させ人々を魔物から守っていった。
接ぎ木のお陰で、魔力補充に行かなくても良くなったから、日々ゴーレム達は勝手に各国で活躍してくれている。
それでも魔物によって亡くなってしまった人がいることに私達は悲しんだ。エリアスは悔しそうに悲しそうにしながらも、私を気遣い涙を見せなかった。
だけど、もう自分の力で抑える事はしないと固く誓ったエリアスは、魔物被害を聞くたびに現地へ駆けつけ、回復魔法で壊された建物を復元し、傷付いた人々を治していった。勿論私も惜しまず協力した。
それにより、私達は救世主と呼ばれる事となっていった。
ウルが住む『ジークマリアの里』は少しずつ発展し、その規模も大きくなっている。それだけ魔物被害等で孤児になってしまった子供達が多くいる、という事だった。
そしてここでは孤児を皆で受け入れて一緒に育てるというスタンスを取っている。ここで育った人達でそうするのだ。
ウルにも子供ができて、アベルと三人で仲睦まじく暮らしている。
こうしてエリアスは引退したと言っても人々の役に立つ為に動く。
今もアスターとして行商の仕事を欠かさず、人々の生活を見て回っている。
そうして私達は人々と関わりながらも、穏やかに過ごしていったのだ。
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