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後日談
+ひとの噂も75日
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「と、とまり!!」
冬休み明け、いつも通り教室に入ると友野がすごい勢いでとまりのもとへやってきた。
「なにかしたの?そんなに私にあいたかったの?」
「なに能天気なこと言ってんの、ばか。あんた、私たちには彼氏いないとか言っておいて、彼氏できたんでしょ?!見た人いるんだから!」
「は、はぁー!?お、おにいちゃんと見間違えたんじゃ……」
「あんたのおにーちゃんの顔なんて知ってるよ!でも、なんかすごくイケメンなのと新幹線乗ってたって隣のクラスの子が言ってたんだから!」
トカゲつれてなかったけど、今思えば九重さんだったかも。と噂が広まり、冬休みの終わり頃、友野は塾でその噂を知る。
ひどいじゃないか。友達なら嘘をつくな、嘘を。あとそんなにイケメンな彼氏なら見てみたいので写真見せろ。と続ける友野にとまりは思わずシュリを見た。
――我関せずと尻尾振ってるのがかわいいがむかつく。
というか。そんなばかな。
いろいろ、……その色々あった冬休みだったが、シュリは自制の効く知的生命体である。
自室ですらろくに人間化しない”元”魔王兼ペット兼恋人はとまりだって写真は持っていないし、当面様々な偽装工作(主に世間体と祖父母用)が済むまではシュリのことは周囲に言わないことにしようと、兄妹とシュリは話し合っていた。
だというのに。
かおが、顔がいいのがいけない。
シュリの顔が良すぎて、ちょっとその辺歩くだけで注目されすぎて、噂になるとは。
とまり+トカゲの方が目立たない可能性すらある。顔がいい人間、というだけなら本来なら肩乗りトカゲより一般的なはずなのに。おかしい。異世界基準をもちこんだのがまずかったのだ。
「とまり、フリーズしないで答えなさいよ」
「友野どしたの」
「あー!由利、前言ったあれ!とまりに聞いてるのに固まって何にもいわないの!これ黒だよ」
「あれか……とまり、私は悲しいよ……あんたなら表情ですべてがわかると思っていたのに……」
由利まで加わってかしましく問い詰められると、クラスのほかの人までとまりを見てくる。中には噂のことを知っているのか、ほかの人に説明をしているものまでいるようだ。
どんだけ人間形態のシュリは目立つんだ。
とまりは、肩と頬でシュリを挟む。苦し気にじたばたするシュリ。シュリが悪い。シュリが悪い!
とまりはこういう時に感じるシュリの筋肉と内臓とうろこの感触が好きだが、これをやった後、シュリは何故か少し大きくなり、体重も500gほど重くなる。たぶん嫌なので、反撃しているのだろう。だが、今日は存分にやる。シュリが悪い。
二人の攻防をみて、「とまり、あの、言いたくないのはわかったけど、なんでシュリちゃんをいじめるのさ」と、友野がいうまでそれは続いた。
結局とまりは「あれはトカゲ仲間」という説明を繰り返し、釈放された。
「このシュリがとてもかわいいから……この眼とか、尻尾とか……だからだもん。シュリのせいで誤解された……」
誤解、のあたりでシュリが頬をびったんびったんいつもより強くとまりの頬をたたく。
「なにさシュリの馬鹿!」
「……うん、トカゲと本気で喧嘩するとまりに彼氏ができた場合、何も言わずにおめでとうって祝福するほうがいい気がする。なんかごめん」
友野はちょっと引きながら言った。
◇◇◇
そんなこんなで当面、人間形態のシュリは封印された。
だが、大学に行けば、人間形態になる機会も増える――はず。となると、色々必要なものはある。
その一つが、服だった。
「別に我は通販でいいのだが」
「だめだよ、シュリ。あの服、足がつんつるてんだったって。元をたどっていったらやけに細かい噂になってたんだから。つんつるてんのズボンはよくないよ。その、春休みになったら、で、でーとするんだから、ちゃんといい服着てほしいし」
とまりは少し顔を赤らめていった。
どうせ何着ても似合うけど、サイズだけは合わせてもらいたい。とまりの恥ずかしさで少しぶっきらぼうな言葉にシュリは、「そうか」と返した。
というか、なんでつんつるてんより髪の毛長いとかそう言うのはそこまで言われないんだろう。イケメンすぎてみんな混乱してるんじゃないかな……。
わかっているようなわかっていないような。そんなシュリはトカゲ姿でとまりの肩にいる。
そんな二人は駅中の無難オブザ無難な服屋にいた。
服に関しては、真鳥がいるのだから、借りればいいじゃないかと思ったのだが、盛大に拒否されていた。
――サイズが違うし、色々、あーその、……とりあえず、貸したくないものは貸したくない。俺あんまり服持ってないし。
珍しく真鳥の口は歯切れが悪かった。
確かに悲しいかな、兄は日本人男性の平均身長、シュリは目算でそれより15センチは身長が大きい。
足の長さが違いすぎる。兄も男だ、きっとプライド的なものがあるのだろう。とまりはそう思った。
そんなこんなで、とまりはお小遣いを抱えて、とりあえずズボンだけは試着ができる店で買わねば。と意気込んできたのだった。
とはいえ、割合人が多いここで人間形態シュリが現れたら噂がまた広がる。
学校だけならともかく、ご近所さんに見られてとまりちゃんに彼氏が!等という話を祖父母が聞いたら、どういう反応をするのかわからない。二人とも心配性なのだ。
なので、こうすることにした。
1、シュリはとかげのまま
2、シュリの着れそうなサイズをとまりが試着室に持ち込む。
3、試着室の中でシュリが人間形態になって試着する。
(あんまりよくはないだろうけど……致し方ない……)
ようは試着だけすればいいのだ。試着だけすれば。
変なことを中でしなければいいのだ。
とまりはひたひた頬に尻尾を当ててくるシュリを無視して、素早く(する必要もないのだけれど)それっぽいズボンをかごに入れて試着室に走る(走る必要もない)。
そして、運良く開いていた大きめの試着室に飛び込み、とまりは大きく息をした。
(おちつけ、なんかめっちゃくちゃ泥棒しているくらいの気持ちになってしまう。小心者過ぎる……)
「……これを着ればいいのか」
とまりが心を落ち着かせている間に、シュリは肩から降りて、スッと人間形態になった。
「そ、そう。これ早く……」
試着室から会話が聞こえるのはおかしいはずだ。とまりは、シュリを見ないようにしながらかごを押し付ける。
みてはいけない。今はまずい。
(う、かっこいいい……そして、やっぱり人間形態だとときめきが……)
横目で見てしまった、”彼”にドキドキする。
シュリはトカゲ姿のときは不埒なことはしてこない。一応彼の中で何らかの縛りがあるらしい。とまりとしても、それは非常にありがたいことだった。何しろ、シュリは常に一緒にいる。変にタガが外れてしまったら、とんでもないことになってしまう。頭ピンク状態である。
だが、人間形態のときはその分手を出す……らしい。冬休み中最初の数日とあと一日だけ家に二人きりのときに人間形態になったが……。
そこそこイチャイチャしてしまった。服が苦手と言って、素っ裸だったが。
それでも様になるのは顔の良さと均整のとれた彫刻じみた肉体のためだろう。
(ぐ……イケメン恐るべし……。でも、とりあえず、パジャマでもなんでも家で着るものも買わないと……裸族は心臓に悪い……。でも、パジャマかぁ……どっちかっていうとバスローブ的なものでもいいけど。その辺で売ってるかなぁ……?それは試着しなくてもいいか。家の中だし)
バスローブで部屋にいるシュリを想像してみるとしっくりくる。――が、なんか勝手に頭の中のシュリがワインを持ってたり、薔薇を背負っていたりする。しっくりが行き過ぎている。とまりは頭をふって、妄想をおいだした。
しかし、今更ながら思うと、理想を越えた完璧なマッチョイケメンの外見に中身がシュリなんて、もはやとまりにとってサービスが過ぎる存在である。
(せっかくの人間形態……やっぱり見ておいた方がいいカナ……一週間は見てないし……)
今後ずっと、それこそ一生一緒にいるのだから、試着中くらい我慢できる。
と、思ったのだが、やはり、人間形態《シュリ》の魅力にはあらがえない。とまりは深呼吸して、(ちょっとくらい……)とシュリを振り返った瞬間だった。
「はぁ!!!」
「ん?どうした」
思わぬ大声にシュリはのんびりととまりを見た。
シュリはズボンをはこうとしている。両足を入れ、今にも上にあげれば御終いといったところ。だが。
「ぱんつ、ぱんつはいてないじゃん」
「あたりまえだ。裸だったのだから。もってくるわけないだろう」
「そ、そうか……で、でもさ!ぱんつはかないで、試着するのはやめよう!?」
「汚れてはいないぞ?さっき一応魔法で体を綺麗にした。――そもそもパンツは嫌いだ。服は最低限でいい。今まではいたこともない」
シュリはとまりを落ち着かせるように持っていたズボンを手放して両手を上げた。ぶらんぶらん
彼の”彼”を見て、とまりは後ずさる。
恥ずかしからではない。
とある疑惑に気づいたからである。
「――まさか、いままでずっとノーパン……?大学行った時も?あの道中も?!」
「あぁ、そうだ。真鳥にも履けと言われたが断った」
「…………!おにいちゃん!!」
小声でとまりは兄を呪った。
兄が服を貸したくない原因がノーパンで自分の服を着てほしくないというのもあったのだろう。
まぁ、兄の服を着たところでつんつるてんだったことは変わりはないが。
真鳥はなんならとまりよりも潔癖なところがあるのだ。
「――あまり長くいるとばれるぞ、さっさと――」
「だめだめだめ!!」
とまりは必死に小声で叫んだ。
「今日は帰る!また今度来る!はやくトカゲに戻って!!!」
「だが――」
「……殴るよ?」
真剣にこぶしを振り上げたとまりに、数秒シュリは固まっていたが、「わかった」と言ってトカゲに戻った。
とまりは、冷や汗を全身にかきながら、シュリをつかんで肩にのせ、試着するはずだったズボンをもって試着室から飛び出した。
そして、ズボンをもどして、男性用下着コーナーに走る。
「む、とまり、我はパンツなんて履かな――」
「ちょっと黙ってて」
「………」
とまりは周囲の様子もうかがうことなく、真剣に男性用パンツを何種類も選び、レジへ向かった。
(家の中裸族なら、まだ許せる。常にノーパンの彼氏だけは、ノーパン彼氏はヤダ!!!)
その後、”元”魔王と勇者(妹)は長時間にわたる論争を行い、勇者(兄)も駆り出された。
結局、”元”魔王がパンツをはくようになったか。――それは三人しか知らない。
ちなみに、鬼気迫る勢いで男性用パンツを何枚も購入していたとまりは、ご近所さんにみられていたらしい。九重さんちのとまりちゃん、男性用パンツめっちゃ買ってたよ。と噂になった。
その噂を聞いて困惑した祖母に「とまちゃん、そんなところで何をしていたの?」と聞かれたとまりは、ぶるぶると唇を噛んだ後絞り出すように言った。
――おじいちゃんへの、プレゼントかってたの。
祖父は孫の買ってくれたパンツを喜んで履いて、みんなに自慢し、祖父孝行なお孫さんでよかったね、とみんなからいわれて鼻高々だった。
「知らぬが仏ってやつか」と、真鳥はこっそりつぶやいた。
冬休み明け、いつも通り教室に入ると友野がすごい勢いでとまりのもとへやってきた。
「なにかしたの?そんなに私にあいたかったの?」
「なに能天気なこと言ってんの、ばか。あんた、私たちには彼氏いないとか言っておいて、彼氏できたんでしょ?!見た人いるんだから!」
「は、はぁー!?お、おにいちゃんと見間違えたんじゃ……」
「あんたのおにーちゃんの顔なんて知ってるよ!でも、なんかすごくイケメンなのと新幹線乗ってたって隣のクラスの子が言ってたんだから!」
トカゲつれてなかったけど、今思えば九重さんだったかも。と噂が広まり、冬休みの終わり頃、友野は塾でその噂を知る。
ひどいじゃないか。友達なら嘘をつくな、嘘を。あとそんなにイケメンな彼氏なら見てみたいので写真見せろ。と続ける友野にとまりは思わずシュリを見た。
――我関せずと尻尾振ってるのがかわいいがむかつく。
というか。そんなばかな。
いろいろ、……その色々あった冬休みだったが、シュリは自制の効く知的生命体である。
自室ですらろくに人間化しない”元”魔王兼ペット兼恋人はとまりだって写真は持っていないし、当面様々な偽装工作(主に世間体と祖父母用)が済むまではシュリのことは周囲に言わないことにしようと、兄妹とシュリは話し合っていた。
だというのに。
かおが、顔がいいのがいけない。
シュリの顔が良すぎて、ちょっとその辺歩くだけで注目されすぎて、噂になるとは。
とまり+トカゲの方が目立たない可能性すらある。顔がいい人間、というだけなら本来なら肩乗りトカゲより一般的なはずなのに。おかしい。異世界基準をもちこんだのがまずかったのだ。
「とまり、フリーズしないで答えなさいよ」
「友野どしたの」
「あー!由利、前言ったあれ!とまりに聞いてるのに固まって何にもいわないの!これ黒だよ」
「あれか……とまり、私は悲しいよ……あんたなら表情ですべてがわかると思っていたのに……」
由利まで加わってかしましく問い詰められると、クラスのほかの人までとまりを見てくる。中には噂のことを知っているのか、ほかの人に説明をしているものまでいるようだ。
どんだけ人間形態のシュリは目立つんだ。
とまりは、肩と頬でシュリを挟む。苦し気にじたばたするシュリ。シュリが悪い。シュリが悪い!
とまりはこういう時に感じるシュリの筋肉と内臓とうろこの感触が好きだが、これをやった後、シュリは何故か少し大きくなり、体重も500gほど重くなる。たぶん嫌なので、反撃しているのだろう。だが、今日は存分にやる。シュリが悪い。
二人の攻防をみて、「とまり、あの、言いたくないのはわかったけど、なんでシュリちゃんをいじめるのさ」と、友野がいうまでそれは続いた。
結局とまりは「あれはトカゲ仲間」という説明を繰り返し、釈放された。
「このシュリがとてもかわいいから……この眼とか、尻尾とか……だからだもん。シュリのせいで誤解された……」
誤解、のあたりでシュリが頬をびったんびったんいつもより強くとまりの頬をたたく。
「なにさシュリの馬鹿!」
「……うん、トカゲと本気で喧嘩するとまりに彼氏ができた場合、何も言わずにおめでとうって祝福するほうがいい気がする。なんかごめん」
友野はちょっと引きながら言った。
◇◇◇
そんなこんなで当面、人間形態のシュリは封印された。
だが、大学に行けば、人間形態になる機会も増える――はず。となると、色々必要なものはある。
その一つが、服だった。
「別に我は通販でいいのだが」
「だめだよ、シュリ。あの服、足がつんつるてんだったって。元をたどっていったらやけに細かい噂になってたんだから。つんつるてんのズボンはよくないよ。その、春休みになったら、で、でーとするんだから、ちゃんといい服着てほしいし」
とまりは少し顔を赤らめていった。
どうせ何着ても似合うけど、サイズだけは合わせてもらいたい。とまりの恥ずかしさで少しぶっきらぼうな言葉にシュリは、「そうか」と返した。
というか、なんでつんつるてんより髪の毛長いとかそう言うのはそこまで言われないんだろう。イケメンすぎてみんな混乱してるんじゃないかな……。
わかっているようなわかっていないような。そんなシュリはトカゲ姿でとまりの肩にいる。
そんな二人は駅中の無難オブザ無難な服屋にいた。
服に関しては、真鳥がいるのだから、借りればいいじゃないかと思ったのだが、盛大に拒否されていた。
――サイズが違うし、色々、あーその、……とりあえず、貸したくないものは貸したくない。俺あんまり服持ってないし。
珍しく真鳥の口は歯切れが悪かった。
確かに悲しいかな、兄は日本人男性の平均身長、シュリは目算でそれより15センチは身長が大きい。
足の長さが違いすぎる。兄も男だ、きっとプライド的なものがあるのだろう。とまりはそう思った。
そんなこんなで、とまりはお小遣いを抱えて、とりあえずズボンだけは試着ができる店で買わねば。と意気込んできたのだった。
とはいえ、割合人が多いここで人間形態シュリが現れたら噂がまた広がる。
学校だけならともかく、ご近所さんに見られてとまりちゃんに彼氏が!等という話を祖父母が聞いたら、どういう反応をするのかわからない。二人とも心配性なのだ。
なので、こうすることにした。
1、シュリはとかげのまま
2、シュリの着れそうなサイズをとまりが試着室に持ち込む。
3、試着室の中でシュリが人間形態になって試着する。
(あんまりよくはないだろうけど……致し方ない……)
ようは試着だけすればいいのだ。試着だけすれば。
変なことを中でしなければいいのだ。
とまりはひたひた頬に尻尾を当ててくるシュリを無視して、素早く(する必要もないのだけれど)それっぽいズボンをかごに入れて試着室に走る(走る必要もない)。
そして、運良く開いていた大きめの試着室に飛び込み、とまりは大きく息をした。
(おちつけ、なんかめっちゃくちゃ泥棒しているくらいの気持ちになってしまう。小心者過ぎる……)
「……これを着ればいいのか」
とまりが心を落ち着かせている間に、シュリは肩から降りて、スッと人間形態になった。
「そ、そう。これ早く……」
試着室から会話が聞こえるのはおかしいはずだ。とまりは、シュリを見ないようにしながらかごを押し付ける。
みてはいけない。今はまずい。
(う、かっこいいい……そして、やっぱり人間形態だとときめきが……)
横目で見てしまった、”彼”にドキドキする。
シュリはトカゲ姿のときは不埒なことはしてこない。一応彼の中で何らかの縛りがあるらしい。とまりとしても、それは非常にありがたいことだった。何しろ、シュリは常に一緒にいる。変にタガが外れてしまったら、とんでもないことになってしまう。頭ピンク状態である。
だが、人間形態のときはその分手を出す……らしい。冬休み中最初の数日とあと一日だけ家に二人きりのときに人間形態になったが……。
そこそこイチャイチャしてしまった。服が苦手と言って、素っ裸だったが。
それでも様になるのは顔の良さと均整のとれた彫刻じみた肉体のためだろう。
(ぐ……イケメン恐るべし……。でも、とりあえず、パジャマでもなんでも家で着るものも買わないと……裸族は心臓に悪い……。でも、パジャマかぁ……どっちかっていうとバスローブ的なものでもいいけど。その辺で売ってるかなぁ……?それは試着しなくてもいいか。家の中だし)
バスローブで部屋にいるシュリを想像してみるとしっくりくる。――が、なんか勝手に頭の中のシュリがワインを持ってたり、薔薇を背負っていたりする。しっくりが行き過ぎている。とまりは頭をふって、妄想をおいだした。
しかし、今更ながら思うと、理想を越えた完璧なマッチョイケメンの外見に中身がシュリなんて、もはやとまりにとってサービスが過ぎる存在である。
(せっかくの人間形態……やっぱり見ておいた方がいいカナ……一週間は見てないし……)
今後ずっと、それこそ一生一緒にいるのだから、試着中くらい我慢できる。
と、思ったのだが、やはり、人間形態《シュリ》の魅力にはあらがえない。とまりは深呼吸して、(ちょっとくらい……)とシュリを振り返った瞬間だった。
「はぁ!!!」
「ん?どうした」
思わぬ大声にシュリはのんびりととまりを見た。
シュリはズボンをはこうとしている。両足を入れ、今にも上にあげれば御終いといったところ。だが。
「ぱんつ、ぱんつはいてないじゃん」
「あたりまえだ。裸だったのだから。もってくるわけないだろう」
「そ、そうか……で、でもさ!ぱんつはかないで、試着するのはやめよう!?」
「汚れてはいないぞ?さっき一応魔法で体を綺麗にした。――そもそもパンツは嫌いだ。服は最低限でいい。今まではいたこともない」
シュリはとまりを落ち着かせるように持っていたズボンを手放して両手を上げた。ぶらんぶらん
彼の”彼”を見て、とまりは後ずさる。
恥ずかしからではない。
とある疑惑に気づいたからである。
「――まさか、いままでずっとノーパン……?大学行った時も?あの道中も?!」
「あぁ、そうだ。真鳥にも履けと言われたが断った」
「…………!おにいちゃん!!」
小声でとまりは兄を呪った。
兄が服を貸したくない原因がノーパンで自分の服を着てほしくないというのもあったのだろう。
まぁ、兄の服を着たところでつんつるてんだったことは変わりはないが。
真鳥はなんならとまりよりも潔癖なところがあるのだ。
「――あまり長くいるとばれるぞ、さっさと――」
「だめだめだめ!!」
とまりは必死に小声で叫んだ。
「今日は帰る!また今度来る!はやくトカゲに戻って!!!」
「だが――」
「……殴るよ?」
真剣にこぶしを振り上げたとまりに、数秒シュリは固まっていたが、「わかった」と言ってトカゲに戻った。
とまりは、冷や汗を全身にかきながら、シュリをつかんで肩にのせ、試着するはずだったズボンをもって試着室から飛び出した。
そして、ズボンをもどして、男性用下着コーナーに走る。
「む、とまり、我はパンツなんて履かな――」
「ちょっと黙ってて」
「………」
とまりは周囲の様子もうかがうことなく、真剣に男性用パンツを何種類も選び、レジへ向かった。
(家の中裸族なら、まだ許せる。常にノーパンの彼氏だけは、ノーパン彼氏はヤダ!!!)
その後、”元”魔王と勇者(妹)は長時間にわたる論争を行い、勇者(兄)も駆り出された。
結局、”元”魔王がパンツをはくようになったか。――それは三人しか知らない。
ちなみに、鬼気迫る勢いで男性用パンツを何枚も購入していたとまりは、ご近所さんにみられていたらしい。九重さんちのとまりちゃん、男性用パンツめっちゃ買ってたよ。と噂になった。
その噂を聞いて困惑した祖母に「とまちゃん、そんなところで何をしていたの?」と聞かれたとまりは、ぶるぶると唇を噛んだ後絞り出すように言った。
――おじいちゃんへの、プレゼントかってたの。
祖父は孫の買ってくれたパンツを喜んで履いて、みんなに自慢し、祖父孝行なお孫さんでよかったね、とみんなからいわれて鼻高々だった。
「知らぬが仏ってやつか」と、真鳥はこっそりつぶやいた。
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