第二王子の婚約者候補になりましたが、専属護衛騎士が好みのタイプで困ります!

春浦ディスコ

文字の大きさ
12 / 31

第12話 お土産話

しおりを挟む
ついに巡業からアランが帰ってくる。
護衛騎士と二十日顔を合わせていなかっただけなのに、どんな顔をすれば良いかしらとシャルロットはそわそわとしていた。
侍女のビアンカが丁寧に櫛をとぎ、綺麗な編み込みに真珠の髪飾りをつけてくれた。

「特別な日でもなんでもないけれど……」
「シャルロット様はいつでもお美しいですが、今日はとびきり可愛くして差し上げたいのです……!」

ビアンカが真剣な顔で化粧を施す。
年上だけど、可愛らしいという言葉が似合うビアンカと話すとシャルロットは明るい気持ちになった。

「講師の方へ連絡してくれたかしら」
「はい、つつがなく」
「ありがとう、助かるわ」

シャルロットが朝の支度が終わったタイミングで、ノック音がした。
ビアンカが扉に近づき誰が来たか確認する。

「アラン様です」
「ええ、通して」

シャルロットは立ち上がり扉に近づくとアランが入ってきた。
すると、ビアンカが片付けをしてまいりますと、そそくさと退室して行った。

シャルロットがアランを見上げる。

「アラン!お帰りなさい!……少し焼けたみたいね?」
「ただいま戻りました。ずっと馬を走らせていましたから。なにか不都合はありませんでしたか」
「ええ、問題なく過ごしていたわ。代わりの護衛様がしっかり付いてくれていたわ」
「安心しました。本日より護衛に戻ります」
「……。指導はどうだった?」
「どの町でもたくさんの子供が来てくれましたよ」
「剣術大会を三度も優勝したあなたに指導してもらえるなんて、きっと皆さん喜んでくれたでしょうね」
「みんな真剣に取り組んでいましたね。将来騎士になるために騎士学校に入ると言う子供も」
「あなたの背中に憧れてたくさんの子が騎士になるわ」

アランに目を輝かせる子供がいとも簡単に目に浮かぶ。

「そうですね、騎士団に入ってくれればしごきますよ」
「本気を出したあなたにきっとびっくりしちゃうわ……女性達もたくさん来た?」

シャルロットは思わず踏み込んだ質問をしてしまい、口に出してからしまったと思った。

「女性?まあ、いらしていたと思いますよ」
「そ、そう。たくさん、お話したりした?」
「宴会で少し会話しましたね」
「え、宴会?」
「有権者と上長に言われて仕方なくですが」
「そう……」

シャルロットは途端に沈んだ気持ちなった。
お酒の場でアランに言い寄る女性がこれまた簡単に想像できる。
美しく妖艶な女性と一夜を共に過ごしたとしてもおかしくはないし、これほど魅力的であれば、特定の恋人がいつ出来てもおかしくはない。
ずっとそばにいるため考えられていなかった。
そう、アランに恋人がいてもおかしくないのだ。

沈む気持ちを自覚したが、自分から聞いて勝手に落ち込むなんてアランを困らせるだけだ。
気持ちを切り替えるために、頭に浮かんだ仮想の美しい女性をかき消すようにシャルロットは小さく首を振った。

アランが口を開く。

「……今日は談話室に行かれないのですか?」
「ええ、先生がこちらに来てくれるの」
「分かりました」
「お昼も夕食も自室で食べる予定だから、今日は一歩も自室から出るつもりはないわ」

シャルロットが得意そうな顔でアランに告げる。

「今日はあなたの仕事はないかもしれないわね」

アランはすぐにシャルロットの意図に気づいた。

「ずっと働き詰めでしょ?本当は今日も休んでほしいのだけど、きっとあなたはいいえと言うから」
「あなたの専属護衛騎士ですから、休みはいりません」
「休みがないといつか倒れてしまうわ」
「そんなヤワな体ではありません」
「あなたに言ってもキリがないなら、上の人に言わなくっちゃだわ」

まったくもう、とプリプリと怒った様子のシャルロットにアランは逆らえる気がしないが、この立場を誰にも譲りたくはなかった。

「……今日は前室で待機しているので、何かあればお構いなく申し付けてください」

「ええ、もちろんよ」

満足気なシャルロット。
講師がやってきたためアランは頭を下げて前室に戻った。

巡業の最後の日に、宴会を断って夜通し馬で駆けてきてよかったと、アランは胸がいっぱいになっていた。
確かに体は疲労しているが、二十日ぶりに会うシャルロットにアランの心が満たさせる。

前室に戻ると奥に配置されている簡易ベッドに体を預けた。
少なくとも二時間は家庭教師すら出てこないだろう。
アランはシャルロットの優しさに甘えて、体を休ませるために目を閉じた。

アランは巡業の間、地元の領主や有力者、その娘達から毎日のように夜の飲み会の誘いがあった。
アランは全く興味がなく辟易していたが、同行した上長の勧めで渋々何度か参加した。
そこで女性に言い寄られる度にげんなりし、シャルロットが恋しくなった。
垂れかかる女性の手に断りをいれる度に、何度も繋いだシャルロットの柔らかくしっとりとした手を思い出した。
周りを気づかってばかりのシャルロットと自分のことばかり話しては興味を引こうとする女性達に天と地ほどの差があった。

アランは巡業の間、気が気でなかった。
巡業の間は仕方がないとはいえ、代わりの護衛にもダンスの相手にならないように、触れることなどないように、キツく言い付けておいた。
不必要に近づくなどもってのほか。
美しく、そして誰にでも情け深いシャルロットを目の前にして、話して、触れて、惚れない奴などいないと思っていたからだ。

しかし、他の騎士に牽制などまるで意味の無いことだとも分かっていた。
シャルロットはフリード殿下の婚約者候補なのだから。
もう一人の婚約者候補もいるが、どう考えてもシャルロットのほうが魅力的だろうと本気でアランは考えている。

専属護衛騎士でいられる期間もそう長くはないかもしれない。
シャルロットのそばにいられる限られたこの幸福な日々を誰にも譲りたくなかった。
アランはシャルロットへの気持ちを強く自覚していた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

男として王宮に仕えていた私、正体がバレた瞬間、冷酷宰相が豹変して溺愛してきました

春夜夢
恋愛
貧乏伯爵家の令嬢である私は、家を救うために男装して王宮に潜り込んだ。 名を「レオン」と偽り、文官見習いとして働く毎日。 誰よりも厳しく私を鍛えたのは、氷の宰相と呼ばれる男――ジークフリード。 ある日、ひょんなことから女であることがバレてしまった瞬間、 あの冷酷な宰相が……私を押し倒して言った。 「ずっと我慢していた。君が女じゃないと、自分に言い聞かせてきた」 「……もう限界だ」 私は知らなかった。 宰相は、私の正体を“最初から”見抜いていて―― ずっと、ずっと、私を手に入れる機会を待っていたことを。

勘違い妻は騎士隊長に愛される。

更紗
恋愛
政略結婚後、退屈な毎日を送っていたレオノーラの前に現れた、旦那様の元カノ。 ああ なるほど、身分違いの恋で引き裂かれたから別れてくれと。よっしゃそんなら離婚して人生軌道修正いたしましょう!とばかりに勢い込んで旦那様に離縁を勧めてみたところ―― あれ?何か怒ってる? 私が一体何をした…っ!?なお話。 有り難い事に書籍化の運びとなりました。これもひとえに読んで下さった方々のお蔭です。本当に有難うございます。 ※本編完結後、脇役キャラの外伝を連載しています。本編自体は終わっているので、その都度完結表示になっております。ご了承下さい。

独身皇帝は秘書を独占して溺愛したい

狭山雪菜
恋愛
ナンシー・ヤンは、ヤン侯爵家の令嬢で、行き遅れとして皇帝の専属秘書官として働いていた。 ある時、秘書長に独身の皇帝の花嫁候補を作るようにと言われ、直接令嬢と話すために舞踏会へと出ると、何故か皇帝の怒りを買ってしまい…? この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。

【完結】初恋の彼に 身代わりの妻に選ばれました

ユユ
恋愛
婚姻4年。夫が他界した。 夫は婚約前から病弱だった。 王妃様は、愛する息子である第三王子の婚約者に 私を指名した。 本当は私にはお慕いする人がいた。 だけど平凡な子爵家の令嬢の私にとって 彼は高嶺の花。 しかも王家からの打診を断る自由などなかった。 実家に戻ると、高嶺の花の彼の妻にと縁談が…。 * 作り話です。 * 完結保証つき。 * R18

【完結】 初恋を終わらせたら、何故か攫われて溺愛されました

紬あおい
恋愛
姉の恋人に片思いをして10年目。 突然の婚約発表で、自分だけが知らなかった事実を突き付けられたサラーシュ。 悲しむ間もなく攫われて、溺愛されるお話。

コワモテ軍人な旦那様は彼女にゾッコンなのです~新婚若奥様はいきなり大ピンチ~

二階堂まや♡電書「騎士団長との~」発売中
恋愛
政治家の令嬢イリーナは社交界の《白薔薇》と称される程の美貌を持ち、不自由無く華やかな生活を送っていた。 彼女は王立陸軍大尉ディートハルトに一目惚れするものの、国内で政治家と軍人は長年対立していた。加えて軍人は質実剛健を良しとしており、彼女の趣味嗜好とはまるで正反対であった。 そのためイリーナは華やかな生活を手放すことを決め、ディートハルトと無事に夫婦として結ばれる。 幸せな結婚生活を謳歌していたものの、ある日彼女は兄と弟から夜会に参加して欲しいと頼まれる。 そして夜会終了後、ディートハルトに華美な装いをしているところを見られてしまって……?

義姉の身代わりで変態侯爵に嫁ぐはずが囚われました〜助けた人は騎士団長で溺愛してきます〜

涙乃(るの)
恋愛
「お姉さまが死んだ……?」 「なくなったというのがきこえなかったのか!お前は耳までグズだな!」 母が亡くなり、後妻としてやってきたメアリー夫人と連れ子のステラによって、執拗に嫌がらせをされて育ったルーナ。 ある日ハワード伯爵は、もうすぐ50になる嗜虐趣味のあるイエール侯爵にステラの身代わりにルーナを嫁がせようとしていた。 結婚が嫌で逃亡したステラのことを誤魔化すように、なくなったと伝えるようにと強要して。 足枷をされていて逃げることのできないルーナは、嫁ぐことを決意する。 最後の日に行き倒れている老人を助けたのだが、その人物はじつは……。 不遇なルーナが溺愛さるまで ゆるっとサクッとショートストーリー ムーンライトノベルズ様にも投稿しています

だったら私が貰います! 婚約破棄からはじまる溺愛婚(希望)

春瀬湖子
恋愛
【2025.2.13書籍刊行になりました!ありがとうございます】 「婚約破棄の宣言がされるのなんて待ってられないわ!」 シエラ・ビスターは第一王子であり王太子であるアレクシス・ルーカンの婚約者候補筆頭なのだが、アレクシス殿下は男爵令嬢にコロッと落とされているようでエスコートすらされない日々。 しかもその男爵令嬢にも婚約者がいて⋯ 我慢の限界だったシエラは父である公爵の許可が出たのをキッカケに、夜会で高らかに宣言した。 「婚約破棄してください!!」 いらないのなら私が貰うわ、と勢いのまま男爵令嬢の婚約者だったバルフにプロポーズしたシエラと、訳がわからないまま拐われるように結婚したバルフは⋯? 婚約破棄されたばかりの子爵令息×欲しいものは手に入れるタイプの公爵令嬢のラブコメです。 《2022.9.6追記》 二人の初夜の後を番外編として更新致しました! 念願の初夜を迎えた二人はー⋯? 《2022.9.24追記》 バルフ視点を更新しました! 前半でその時バルフは何を考えて⋯?のお話を。 また、後半は続編のその後のお話を更新しております。 《2023.1.1》 2人のその後の連載を始めるべくキャラ紹介を追加しました(キャサリン主人公のスピンオフが別タイトルである為) こちらもどうぞよろしくお願いいたします。

処理中です...