いつか世界の救世主―差し伸べるは救いの手―

明月

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異世界の荒くれ者

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――彼女と別れたあとはギルドへの帰路に着く。

行きの道では地図ばかりに気を取られていてしっかりと周りの様子を見ていなかったから、今度は少し辺りを見ながら帰ろうかな。

……俺が今いるところは住宅街であろうか? 

辺りには基本的に家しか見当たらない。ぱっと見たところ同じような造形の家が狭い間隔で並んでいるが、たまに大きな家やら広い庭付きの家が見受けられる。

まぁ……ここでも貧富の差があるのだろう。どの時代にも格差があるというのは至って自明なことだ。


そんな事を考えながら暫く歩きつつ、辺りを見回しながら道なりに進んでいると次第に喧騒が近づいて来る。それと同時にいい香りが鼻へと漂ってきた。嗅いでいるだけで腹が減ってくるような……



――辺りを見るに俺が今歩いているのは商業区域のようだ。

周辺には屋台のようなものが幾つも並び、そこら中から食欲を掻き立てる良い匂いを発している。肉を焼いているところから野菜を焼いている所、座って食べられるようにランチのようなものを作っている所など様々だ。


今すぐにでも何か買って食べたいが持ち合わせがないため諦めるしか無い。早くほかの依頼をこなして金を手に入れないといけないな……。

時折「食っていかないか?」と呼び止められるが、金が無いから無理だと答えると残念そうな顔をしながら「次は買ってくれよ?」 と言われる。……そんなことが何度かあった。

別に言われるだけなら良いのだが……


……たまに可哀想な人を見る目をしてる人が居る気がするのは俺の思い過ごしだろう。
  きっとそうだ。そうであって欲しい。あぁ、ひもじいなぁ……



ま、まぁ取り敢えず商業区域はそんな感じだな。

飲食物の他には衣服や鉱石類など多種多様なものが売られているみたいだ。色々な種類の魔石も売っているようだし金が溜まったら改めて買いに来よう。



――そのまま一直線に歩いていると屋台の数も少なくなり辺りは静けさを取り戻した。全くいないわけではないが、人通りもまばらになっている。

やっぱり騒々しい空間にいるよりは静かな所にいたほうが落ち着――

「――ちょっと! やめて下さい!!」

「別に良いじゃねぇか。ちょっと遊んでこうぜ?」

「嫌です! そこを退いて下さい!」

何やら薄暗い路地裏から声が聞こえる。よく見ると男が女性に詰め寄ってちょっかいをかけているみたいだ。よく言われる"ナンパ"的なものだろう。

少しだけ路地の奥のほうに居るようだ。


……本当にこんな事する奴いるんだな。

小説とかではよくありがちな事だけどリアルで見ることになるとは……。さすが『異世界』――いや、異世界だからじゃなく元の世界でも居たっけか?

少し様子を見て必要そうなら助太刀するかと思ったその時……

「もういい加減にし――」

「うるせぇ! テメェは黙って言うことを聞きゃいいんだよ!!」


そう怒鳴りながら男が取り出したのは――ナイフ。女性にその切っ先を向け脅すような言葉を掛けるすがたは紛うことなき悪人だ。

「ひいっ! な、何をするんですか!」

「良いから大人しくしろよ? でないと……わかるよなぁ?」

ナイフを手に、ニタニタと気色の悪い笑顔を浮かべた男が女性へにじり寄る。女性も後ずさりして距離を取ろうとするが、背後の壁に気がつかずに追い詰められてしまった。その顔ははっきりとは見えないが、かなり青ざめているように感じる。これはさすがにまずいだろう。

そう思った俺はあることをするために準備を整える。

「嫌ぁ! 誰か……」

「けけっ、誰も来やしねぇよ!」


――すぐに助けるからちょっとだけ待ってくれ。


そう心で呟き手に魔力を集中させる。実のところ俺が練習したのは属性魔法だけではない。本には"無属性"の魔法が記述されていたためどちらかと言うとそっちを中心に練習していた。

――手を銃の形にして、指先へと意識を集中する。

魔法の銃弾が指先から飛び出すイメージだ。よく小さい子供が指を鉄砲に見立てて「バーン!」とか言って遊ぶだろう? まさにそれだ。

無属性の魔法を打ち出すこの魔法は『魔弾』と言うらしい。

わざわざ銃の形にする必要はないのだが、俺にはこれがしっくりきた。
男に指先を向ける。俺は絶対に外さないと自己暗示する。

――刹那的に視界がクリアになり、時間が遅く流れる感じがした。
  全てがゆっくりと動いて見える。

そして狙いを定め、口を開き魔法名を綴る――

「――『魔弾』」

……刹那、指先にほぼ透明な球体が形作られ、高速で飛んでいくと思い通りに対象を撃ち抜いた。


――俺は男の手の内にあるナイフを狙ったんだ。

魔弾は吸い込まれるように高速で飛んでいき、ナイフを弾き飛ばす。カランカランとナイフが転がり、男の顔は驚愕に満ちていた。

「何だ!? 一体何が――」

「――『剛脚』」


ようやく俺の存在に気づいたか。だが、もう遅い。
俺は瞬時に足へと魔力を込め魔法名を発する。これも無属性魔法の一つで、身体強化のようなものらしい。とても分かりやすい魔法だな。

魔弾に続いて飛び出した俺は瞬時に距離を詰めて男に肉薄する。俺はそのままの勢いで腹を蹴り飛ばして男を吹き飛ばした。足にぐにゃっとした気持ち悪い感触が伝わったが……それは不意打ちと俺の思惑が成功した証拠だ。

「グガッ?!」

なんとも形容しがたい声を上げて吹き飛んでいくが、地面に落ちるとそのまま転がって行き……少し呻いた後に動かなくなった。


……まさか死んでないよな?

一応近づいて確認したが気を失っていただけだった。さすがに蹴っただけで死ぬほど柔ではないか。直ぐに俺は女性の方へ向き直り、笑顔で話しかける

「お怪我はありませんでしたか?」

「――っ! は、はい。おかげさまで」

しどろもどろになりながらの回答だが、どうやら怪我はないようだ。

「なら良かった。……そうだ、コイツはどうします?」

俺が男を指差しながら女性に質問すると、聞きなれないものが耳に入ってきた。それは……

「――とりあえず治安隊・・・に差し出しましょう……」

どうやらならず者や犯罪者などは治安隊とやらに差し出すのが一般的らしい。今回はナイフを出して脅してきたから十分差し出す対象になる。あれでは「ナンパ」ではなく「恐喝」だからな。

治安隊に差し出した後「道中にはお気をつけ下さい」と言って彼女と別れた。なんだか色々とあったがこれで一件落着だ。


俺は改めてギルドへの帰路に着く。

……次の依頼ではちゃんとお金を手に入れよう。
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