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報酬の価値は人それぞれ
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――ひたすら歩いて依頼主の元へと向かう。
今回の依頼主は女性で、現在は住宅街の一画にいるようだ。依頼の内容が書いてある書類を見て、これは直ぐに何とかしてあげたいと思ったから、今こうして依頼主のもとへ向かっているが……
――次第に焦げくさい臭いが漂ってきた。
書類の裏に書いてある簡易地図を頼りに歩いて行くと、段々と焦げた臭いが強くなってくる。ここまでくれば分かるだろう……
……依頼の内容は『火災家屋の後片付け』だ。
どうやら火災後の後片付けを"全て国側が行う"なんてことはないらしい。仮の住居は貸し出されるみたいだがそれも一時的なものだ。時間が経てば撤去されてしまうだろう。
――ついに依頼主の元へ到着した。
辺りに焦げた臭いが立ち込める中、焼けてしまった家の前で女性が立ち尽くしている。女性は静かに涙を流しながら、手に持つ何かをずっと見つめていた。その手は震えて、今にも崩れ落ちそうな……
……実に話し掛けにくいな。
だがずっと待っているわけにもいかない。意を決して俺は女性に話し掛けた。
「あの、すみません。依頼を受けてここに来たんですけれども……」
「ッ!……そう、ですか。ありが――」
そこまで言うと彼女はまた俯いて涙を流し始めた。俺は何も言わずに彼女が泣き止むのを待つ。この状況で、俺にはかける言葉が見つからなかったんだ。
少しの間そうしていたが彼女が袖で目元を拭いながら話しかけてきた。
「取り乱しちゃってすみません。
……依頼を受けてくれた方なんですよね?」
ここで俺は依頼主に書類を渡すのが必要だということを思い出す。その書類を差し出しながら――
「えぇ、そうです……あぁ、これが書類ですね。
初仕事なんで至らぬ点もあると思いますがよろしくお願いします」
「初仕事なんですか! 初仕事が手伝いっていうのは珍しいですね」
「……やっぱりそうなんですか?」
「えぇ、最初は狩猟に行く人が多いですね。血気盛んな人が多いんで
初仕事が手伝いっていうのはかなり珍しいんですよ」
どうやら狩猟のほうが報酬が高いらしくそっちを受ける人が多いらしい。まぁ日々の生活は大事だしな。
「へぇ……そうなんですか。勉強になりました。
おっと、仕事は今から何をすればいいですか?」
「そうですねぇ……力仕事でも大丈夫ですか?」
……俺はそんな頼りなく見えるのか?
確かに他のギルド構成員と比べたらあれかもしれないが、一応鍛えてはいるんだぞ? それに神様から能力の上乗せもしてもらったしな。……まぁそれは周りから見えるようにはなっていないが。
「任せて下さい。こう見えても力はありますんでね!」
「ふふっ、じゃあ燃え残ってる……瓦礫を運んでくれます?」
そこからは単純だった。彼女が持てないような重さの瓦礫は俺が代わりに運びつつ彼女も軽い瓦礫を運ぶ。彼女に打診してまだ使えそうなものを別のところへ置いたりもした。
……彼女は時折燃え残りの何かを見つけては涙ぐむ。
作業をしているとぽつりぽつりと彼女が語り出したが、俺はそのたびに黙って耳を傾けた。そこで話を聞かないで無視をするなど、俺には出来なかった。それに話して楽になるのならばそれもいいだろうと思う。
聞くところによると、亡くなった両親の形見や子供の頃の宝物などが燃えてしまったらしい。家屋の状況から見るに、ほぼ全焼に近いこの状態では燃えてしまっても仕方ないな。
でも女性は『少しでも残っているだけ嬉しいです』と気丈に振舞っていた。
……でも、握りしめている手は震えている。俺は気付かぬふりを続けるだけだ。
――遂に作業が終わった。さすがに地面の焼け跡は消せないが瓦礫が隅の方に纏まっている状態だ。
「――ありがとうございました! 」
「いえいえ、どうやらお役に立てたようですね」
俺にとってはこれも"救い"の一つだ。
そんなことを考えていると彼女がおずおずとしながら話し始める。
「それで、報酬のことなんですが……」
「あぁ、依頼書には『応相談』って書いてありましたね」
「えぇ。身勝手な話ですが
これからの生活を考えるとお金を出すのが厳しくて……」
そりゃあ火事になったのだから再建とかで金がかかるよな。そんな状況で金を求めるほど、俺は薄情ではない。少し考えたが、ある事を思いついた。
「決めましたよ。一つ聞きたいこと・・・・・・があるんです」
「……え? 聞きたいことですか?」
「えぇ、"貨幣"について聞きたいんです。変な質問ではありますがね」
「貨幣……ですか? 」
不思議そうな顔をされたが、現物を出しながら教えてくれた。流石に一部の貨幣は持ってないらしく全てを見ることは出来なかったがな。
――例のごとく纏めて書こう。
基本は "金" "銀" 銅" "青銅"の硬貨がある。
それに対応して "半"金貨・銀貨・銅貨があるみたいだ。
ちなみに青銅は青銅だけらしい。
「……こんなものですかね」
「ありがとうございます。助かりました」
「いえいえ。また何か聞きたいことがあったら何時でも聞いて下さいね。
……それと書類にサインしておきました。こちらを受け取って下さい」
「確かに受け取りました。それでは失礼しますね」
俺は差し出された書類を受け取って彼女に会釈し、歩き出した。
次は普通に金を稼げる仕事をしよう。
今回の依頼主は女性で、現在は住宅街の一画にいるようだ。依頼の内容が書いてある書類を見て、これは直ぐに何とかしてあげたいと思ったから、今こうして依頼主のもとへ向かっているが……
――次第に焦げくさい臭いが漂ってきた。
書類の裏に書いてある簡易地図を頼りに歩いて行くと、段々と焦げた臭いが強くなってくる。ここまでくれば分かるだろう……
……依頼の内容は『火災家屋の後片付け』だ。
どうやら火災後の後片付けを"全て国側が行う"なんてことはないらしい。仮の住居は貸し出されるみたいだがそれも一時的なものだ。時間が経てば撤去されてしまうだろう。
――ついに依頼主の元へ到着した。
辺りに焦げた臭いが立ち込める中、焼けてしまった家の前で女性が立ち尽くしている。女性は静かに涙を流しながら、手に持つ何かをずっと見つめていた。その手は震えて、今にも崩れ落ちそうな……
……実に話し掛けにくいな。
だがずっと待っているわけにもいかない。意を決して俺は女性に話し掛けた。
「あの、すみません。依頼を受けてここに来たんですけれども……」
「ッ!……そう、ですか。ありが――」
そこまで言うと彼女はまた俯いて涙を流し始めた。俺は何も言わずに彼女が泣き止むのを待つ。この状況で、俺にはかける言葉が見つからなかったんだ。
少しの間そうしていたが彼女が袖で目元を拭いながら話しかけてきた。
「取り乱しちゃってすみません。
……依頼を受けてくれた方なんですよね?」
ここで俺は依頼主に書類を渡すのが必要だということを思い出す。その書類を差し出しながら――
「えぇ、そうです……あぁ、これが書類ですね。
初仕事なんで至らぬ点もあると思いますがよろしくお願いします」
「初仕事なんですか! 初仕事が手伝いっていうのは珍しいですね」
「……やっぱりそうなんですか?」
「えぇ、最初は狩猟に行く人が多いですね。血気盛んな人が多いんで
初仕事が手伝いっていうのはかなり珍しいんですよ」
どうやら狩猟のほうが報酬が高いらしくそっちを受ける人が多いらしい。まぁ日々の生活は大事だしな。
「へぇ……そうなんですか。勉強になりました。
おっと、仕事は今から何をすればいいですか?」
「そうですねぇ……力仕事でも大丈夫ですか?」
……俺はそんな頼りなく見えるのか?
確かに他のギルド構成員と比べたらあれかもしれないが、一応鍛えてはいるんだぞ? それに神様から能力の上乗せもしてもらったしな。……まぁそれは周りから見えるようにはなっていないが。
「任せて下さい。こう見えても力はありますんでね!」
「ふふっ、じゃあ燃え残ってる……瓦礫を運んでくれます?」
そこからは単純だった。彼女が持てないような重さの瓦礫は俺が代わりに運びつつ彼女も軽い瓦礫を運ぶ。彼女に打診してまだ使えそうなものを別のところへ置いたりもした。
……彼女は時折燃え残りの何かを見つけては涙ぐむ。
作業をしているとぽつりぽつりと彼女が語り出したが、俺はそのたびに黙って耳を傾けた。そこで話を聞かないで無視をするなど、俺には出来なかった。それに話して楽になるのならばそれもいいだろうと思う。
聞くところによると、亡くなった両親の形見や子供の頃の宝物などが燃えてしまったらしい。家屋の状況から見るに、ほぼ全焼に近いこの状態では燃えてしまっても仕方ないな。
でも女性は『少しでも残っているだけ嬉しいです』と気丈に振舞っていた。
……でも、握りしめている手は震えている。俺は気付かぬふりを続けるだけだ。
――遂に作業が終わった。さすがに地面の焼け跡は消せないが瓦礫が隅の方に纏まっている状態だ。
「――ありがとうございました! 」
「いえいえ、どうやらお役に立てたようですね」
俺にとってはこれも"救い"の一つだ。
そんなことを考えていると彼女がおずおずとしながら話し始める。
「それで、報酬のことなんですが……」
「あぁ、依頼書には『応相談』って書いてありましたね」
「えぇ。身勝手な話ですが
これからの生活を考えるとお金を出すのが厳しくて……」
そりゃあ火事になったのだから再建とかで金がかかるよな。そんな状況で金を求めるほど、俺は薄情ではない。少し考えたが、ある事を思いついた。
「決めましたよ。一つ聞きたいこと・・・・・・があるんです」
「……え? 聞きたいことですか?」
「えぇ、"貨幣"について聞きたいんです。変な質問ではありますがね」
「貨幣……ですか? 」
不思議そうな顔をされたが、現物を出しながら教えてくれた。流石に一部の貨幣は持ってないらしく全てを見ることは出来なかったがな。
――例のごとく纏めて書こう。
基本は "金" "銀" 銅" "青銅"の硬貨がある。
それに対応して "半"金貨・銀貨・銅貨があるみたいだ。
ちなみに青銅は青銅だけらしい。
「……こんなものですかね」
「ありがとうございます。助かりました」
「いえいえ。また何か聞きたいことがあったら何時でも聞いて下さいね。
……それと書類にサインしておきました。こちらを受け取って下さい」
「確かに受け取りました。それでは失礼しますね」
俺は差し出された書類を受け取って彼女に会釈し、歩き出した。
次は普通に金を稼げる仕事をしよう。
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