魔王メーカー

壱元

文字の大きさ
100 / 202
第二章 後編

第三十五話 後編

しおりを挟む
    大量の瓦礫と埃の中に、グレアは敵の影を見た。

躊躇いなくその胸部に「光槍グシャルボーレアス」を見舞う。

一瞬の煌めきの後、放ったばかりの光線にその身を掘削されたのは、グレアの方であった。

「へ?」

魔力不足による疲労と大半が消滅した脇腹に走る激痛で、彼女は思わず跪いた。

厚い砂埃が晴れて見えた敵の姿は、想像を絶するものだった。

頭部以外が、幾つもの「偽金」の塊で覆われ、同様の素材で作られた、鳥にも似た翼が背中から生えていた。

それらの部品全てに水晶部と満タンの「液体魔力」が備わっていた。

「『契約』の関係で魔力は有り余っているのでな。過剰に備えさせて貰った。…だが『光』属性魔法を使うなら、反射を常に考えろ」

「くっ…うっ…」

屈辱と痛み、そして絶望に震えるグレアに、敵は杖の先端を向けた。

「まあ、無駄な助言かもしれんが」

「やめろ!!」

絶叫に近い怒声と共に「闇」が発生し、敵の全身を包み込む。

だが、宵闇を貫通して魔力が飛び出し、ラーラの腹に一瞬にして生成された「偽金」の柱が衝突する。

「がはっ」

ラーラは地面に倒れると、激しく吐血し、そのまま嘔吐した。

「無力だな」

ただ一言だけそう吐き捨てると、ゼゼゾームは立ち上がろうとするグレアに向き直り、その頭を生成した「偽金」塊で素早く強打した。

彼女は気絶し、地面に伏した。

眠る彼女に、怪物は再び杖を向ける。

「待って下さい」

ラーラの掠れた声。

そのアメジストのような瞳には大粒の涙が溜まって落ち、端正な色白の顔は、綯い交ぜになった様々な負の感情によって歪み切っていた。

「その人は、私の大事な人なんです...!    どんなに死にたくても死にたくても、我慢して十六年生きてきて…やっと見つけた、大切な宝物なんです…」

何とか声を絞り出すと、ラーラは再び咳き込んだ。

口から噴出した血液が地面に跳ねて水音を立てる。

「お願いします…何でもしますから、どうか、その人を殺さないで…!!    お願い、します…!!」

吐瀉物に額を突っ込むことも厭わず、彼女は平伏する。

その曲げた手足はぷるぷると震えていた。

無限にも思われる十数秒の沈黙の後、ゼゼゾームは口を遂に開いた。

「そうか、こいつはお前の愛する者なのだな。気が変わった。殺さないでおこう」

ラーラがぐしゃぐしゃになった顔を上げる。

ゼゼゾームの口元が暗いフードの中で三日月形に歪む。

「丁度、お前達を使って実験したいことがある」

そう言うと、杖を翳し、グレアに魔法を放つ。

グレアの身体がピクリと跳ね、目が見開かれる。

「『秘密のラーラ』、お前に催眠が効かないのは知っている。それが発端で城中がこうなったこともな」

グレアがゆっくりと立ち上がる。

「しかし、こいつは違う。お前によって運良く私の『鍛造フェイテンガム』から逃れただけだ。それが気に食わない。それも動機の一つだ」

「この実験の目的は…」とゼゼゾームは再度グレアに魔法を掛けた。

「お前のような厄介者が心砕けた場合に、『鍛造』が有効になるかどうかを検証することだ」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから

渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。 朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。 「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」 「いや、理不尽!」 初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。 「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」 ※※※ 専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

氷弾の魔術師

カタナヅキ
ファンタジー
――上級魔法なんか必要ない、下級魔法一つだけで魔導士を目指す少年の物語―― 平民でありながら魔法が扱う才能がある事が判明した少年「コオリ」は魔法学園に入学する事が決まった。彼の国では魔法の適性がある人間は魔法学園に入学する決まりがあり、急遽コオリは魔法学園が存在する王都へ向かう事になった。しかし、王都に辿り着く前に彼は自分と同世代の魔術師と比べて圧倒的に魔力量が少ない事が発覚した。 しかし、魔力が少ないからこそ利点がある事を知ったコオリは決意した。他の者は一日でも早く上級魔法の習得に励む中、コオリは自分が扱える下級魔法だけを極め、一流の魔術師の証である「魔導士」の称号を得る事を誓う。そして他の魔術師は少年が強くなる事で気づかされていく。魔力が少ないというのは欠点とは限らず、むしろ優れた才能になり得る事を―― ※旧作「下級魔導士と呼ばれた少年」のリメイクとなりますが、設定と物語の内容が大きく変わります。

処理中です...