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7話 ロリ魔王、神話の時代の夢を見る

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二千年前、まだダークネストが魔界と呼ばれていた

神話の時代。

人の国の王を暗殺し人間界を滅亡させて、
漆黒の太陽を精霊の森に落とし跡形もなく焼き払い
毎日血塗られた戦いに身を置き、永遠と戦い続けて
神々すら殺し尽くそうとしたそのあまりの鬼畜の所業から
魔王と恐れられた一人の少女がいた。

玉座に座る魔王の前方に佇んでいるのは

魔王によって地に堕とされ、魔王の配下にされた

この世界を創造した創造の神とその妹の破壊神である。



魔王の名は■■■■■というらしいが
誰も魔王の真名を知らないのである。





「・・・・というわけなんじゃが、どうだ?
我ながらなかなか面白い提案であろう?」



玉座に座り、両腕を組みながら、魔王は言葉を発した。


それだけで並の人間ならば、畏怖を覚えそうな言霊だったが
今、彼女の目の前にいる人物に限ってはその心配もないでだろう。


美しい銀色の長髪にスラっと整っている顔立ち
そして目を引くのは宝石のような輝きを放つ
彼の蒼い瞳である。

定められた宿命すら断ち切る神人の光を宿した
神々に祝福されて聖剣に選ばれた人類最強と名高い
伝説の勇者レガリア。


(後に彼の勇気と優しさと力を受け継いだ
子孫が魔王の愛弟子になるとは
この時は魔王さえも思いもしなかったであろう。) 


そして彼の後ろに控えているのは
全ての精霊の母である、大精霊レナヴァ。


無表情で無口な白髪の少女の姿をしている
魔界がかつて存在していたであろう
この世界を生み出した創造神ティアーナ・アンドロメダ・ガブリエーレ。


金髪のツインテールと赤色の破壊の神眼が
特徴的な少女の姿をしている破壊神
デストロイア・アンドロメダ・ガブリエーレ



魔王を含め、あらゆる世界の命運を左右し
後の時代に伝説として名を語り継がれるであろう
五人の人物が、魔王城で一堂に会していた。



「お前の話はわかった。おかしな条件でもない。
だが、今更和睦だと?」



勇者レガリアが言った。



「・・・そうだけど?なにかダメだったか?」



「魔王。貴様はこれまでいったい何人の人間を殺してきた?」


冷めた瞳で魔王は答えた。


「はあ……………ダル………
逆に訊くが、勇者レガリア
君達人間こそ……特に人類代表のお前は
これまでいったい何人の魔族を殺してきた?」



勇者の台詞を、魔王はそっくりそのまま返した。


人と魔族、どちらが先に剣を抜いたのか。

今となっては知る術もない。

知ったところで今更どうにか出来るモノではない。



きっかけは多分、些細なことで……単純な話なのだ。

どちらかが、どちらかを殺した。

そして、殺された方は復讐をしたのだ。

後はもうずっとその繰り返しで

殺されたから復讐して、復讐されたから殺し返す。

憎しみは両種族の間で際限なく積み重なり合い
悲劇の連鎖はもはや止められないところまで加速していった。



人も魔族も、根本的な部分は良い意味でも悪い意味でもそっくりだ。



「残虐の限りを尽くしたお前の言葉を信じろ……というのか!?」



「残虐でなければどうしたと言うのだ?
抑止力となる絶対的な悪として君臨して
魔王を恐れさせなければ、人間は平気で魔族を殺すし
魔族も平気で人間を殺す。
お互い正義という大義名分を掲げて…
僅かな罪悪感すら覚えず
殺戮の限りを尽くした者は英雄とさえ称えている。」



「魔族が残虐な行為を行うからだ!」

「そうか?私には人間も魔族も護りたいものを守りたかっただけように見えたが?」


「仮に魔族が残虐な存在だったとして
そうさせたのが人間だと言ったら…?
魔族だって人間と同じだ。
最初から残虐な存在ではなかったと言ったら
お前は…その言葉を信じられるか?」



「魔族に一切の非はないと言うのか?」

「まさか…そんな訳ないであろう。」

「戦争に正義も悪もないということだ。」



鋭い眼光を放ち、魔王は勇者を睨める。



「勇者レガリア、貴様らは、愚かだなぁ。
魔王さえ倒せば世界が平和になると信じて疑わない。
しかし、本当にそうか?そうだと信じられるか?
むしろ、魔王を倒したことで世界が滅びに向かってしまう可能性は?
貴様ら人間はそんなこと考えたこともないであろう?」



「どうかなんて決まっている。
お前さえ倒せば世界は平和になるんだ!」



「いいや。貴様は本当はわかっているはずだ。
それらは幻想に過ぎない……。
人間は純粋でもあるが同時に醜い生物だからなあ
魔王を殺したところで、新たな火種を作るだけ。
人間と魔族、どちらかを根絶やしにされなければ
この争いは終わらない。いや……」



魔王はただ喋っているだけだ。

しかし、絶大な魔力を有する彼女がそうするだけでも
一言一言がまるで魔法のような強制力を有していた。



「たとえ魔族が滅びようとも
人間はまた新たな敵を作るだろうなあ。
私には分かるのだよ……勇者レガリア
仮に私を殺したとしても

次は精霊を、精霊を根絶やしにすれば、自らを作った神々を。
そして神々を滅ぼせば、今度は人間同士で争い始める未来がな…!」



「確かに。人には弱い部分もある。
だけど、俺は人を信じたいし、人の優しさを信じたいんだ!」


その言葉を聞いた魔王はゲラゲラと笑った。


勇者レガリアは、ずいぶんと人が良すぎる。
彼は人間の醜さを知らないわけではないはずなのに
それでも人の優しさを信じようという勇気を持っているのだ。



「ならば、勇者レガリア。
人間のついでにこの魔王の優しさを信じてみるというのはどうだな?
ほら?信じてみろよ。
人間の優しさを信じられるなら
魔王の優しさだって当然信じられるよなあ?」



勇者レガリアはすぐには答えられない。

この申し出が本当なのか、疑っているのだろう。



「先程も言った通りだ。
この魔界をこことは異なる世界に転移されるのだ。
そして数千年は魔界と外の世界を隔てる壁を作ろう」


魔族に対する差別、偏見、思い込み、確執、憎悪、怨恨が存在しない
別の世界へ魔界を移して
数千年もの間、人間との関わり合いがなくなれば
互いへの怨恨もそのうち消え失せるだろうと思っての提案だった。



「信じろ。勇者レガリア
貴様らが信じてくれるなら
その心の強さは我の力となりどんな願いだって叶えられるはずだ。

この魔王の命すべてを魔力に変えて理想の世界に作り変えてみせよう。
貴様らの協力があれば、それだけの大魔法も発動できる」



「平和のために死ぬというのか!?
魔王とまで呼ばれたお前が…!!?」



「勝手に魔王と私を呼んだのは貴様ら人間だ。
それに死ぬわけじゃあない。
我は輪廻転生を長年し続けていた。
死ぬことにも生まれ変わるのにも慣れている。
手頃な次の器を見つけて、転生するとしよう。
まあ、次にこの魔界に帰ってくるのは
未来を視ても二千年後ぐらいだろうが…」


「また、この地に戻るまでに
二千年かけてゆっくりと
私は人間のことを知る為に旅でもしようと思うよ」




勇者レガリアは黙り込む。

しばらくして、彼は覚悟を決めたように言った。



「……わかった……お前を、信じてみよう……」



自ら提案しておきながら、魔王は驚きを隠せなかった。


魔王は自身の悪評を知っており
それでもなお、なんとか信じてもらえるように
できる限り誠意を尽くして説明していた。

人間、精霊、神々にはデメリットのない証拠も見せた。


残る問題は感情だけ、互いの間に積み重ねられた
憎悪と怨恨だけだった。



だからこそ、それは本当に勇気のいる言葉なのだ。

彼が勇者と呼ばれている意味が、
このとき、この魔王にもわかった気がしたのだ。



「ありがとう…勇者。私を信じてくれて」



すると、勇者レガリアは僅かに笑う。



「まさか魔王に礼を言われる日が来るとは思わなかったよ」



「こっちこそ…勇者に感謝を言う日が来るとは思わなかったよ。」



まっすぐ二人は視線を交わす。

立場は違えど、その力と心の強さはこれまで互いに認め合ってきた。



今、ようやく長い戦いが報われようとしている。



「それじゃ、すぐに始めよう」



魔王はゆっくりと玉座から立ち上がる。


そして、目の前に手をかざした。

【ダイナマイトバースト・イグニッション】

今まで魔王が使ってきた魔法とはかけ離れていて

神々しさを感じる神魔文字で描かれた白銀の魔法陣が
魔王の眼前に浮かび上がった
魔王は魔法陣の鍵穴に手を突っ込み捻り、封印を解く。

封印を解いた魔法陣を背後に回すと
魔法陣が眩い輝きを放ちながら
機械仕掛けの機神…デウス・エクス・マキナに変化する。

魔王が指を鳴らすとそれを合図に
九つの光輪から凄まじい勢いで炎が噴き荒れ狂い
大気を激しく揺らす。

九つの白い光の柱に包まれた
魔王は黒い衣装から神々しさを感じる
ほぼ全裸の純白の衣装へと変わる。

そして世界を作り変える創世の力を使う際に
世界中に鳴り響く尊厳な鐘の音を何度も鳴らしながら
魔王城に広がる青白い炎を制御しつつ
この魔王城そのものとも言える大魔法を発動させる。



その瞬間、城中に眩い
青白い光の粒子と黒い光の粒子が無数に立ち上り始めた。

いくつもの魔法文字が、壁や床、天井などに描かれていく。

この魔王城の正体は
自身の力に封印する魔法を生み出した際に
魔王が創造した始祖の魔力の封印を解く為の鍵であり巨大な魔法陣そのものなのだ。





「さあ、勇者よ…その聖剣で思い切り、我を切り裂いてみろ。
この体が世界を作り変える魔法を発動させる為の鍵そのものだ」



魔王は前に出て、服を脱いで無防備な裸体をさらす。



最初に、大精霊レノヴァが
続いて創造神ガブリエーレが、彼女に手の平を向けた。

放たれたのは途方もなく真っ白な波動。
まるで間近で見る太陽のようだ。
無限にも等しき魔力の塊が、激しく輝いていた。


いくら魔力を注ぐ為とはいえ、
それだけの量を無防備に浴びれば魔王の体とて
ただではすまないだろう。



最後に勇者レガリアが、聖剣を抜いた。



「転生の準備は?」



「もうとっくに済ませている。さあいつでも来るがいい」



パチパチと火花を散らすように激しい魔力の奔流がけたたましく耳を劈く。

この世のすべての魔力を集めたような
大魔法の行使に耐えかね、魔王城が崩壊を始めた。



レガリアは床を蹴り、手にした聖剣を思いきり突き出す。



神の魔力が込められ、真っ白な光と化した聖剣が
まるで吸い込まれるように、魔王の心臓を貫いた。



「ぐえーーー!!やーらーれーた~……ゴホッ!!」



血が魔王アルビオンの胸から滴る。

彼女の口元が赤く濡れていた。



これで、理想の世界が………大望の願いは叶う。



もううんざりだったのだ。

いつまで経っても終わらず民が戦い続けるこの世界に。
彼女が幾度も転生を繰り返してでも叶えたかった
理想の世界である
みんなが幸せになれる世界とは程遠く
退屈で不毛なこの世界に、彼女は飽きていたのだ。



「……勇者レガリア。改めて礼を言うわ。
もしも、貴様が二千年後に生まれ変わることがあるとすれば」


「そのときは家族か……友人として暖かく迎えることにしよう。」


「魔王………」


死に際にフッ、と魔王は笑った。



「さらばだ……勇敢で優しい漢、勇者……レガリア………」



光とともに彼女の体は消えていった――



そして二千年後。

「シャルロットちゃ~ん!起きてくださ~い!」

「シャルロット~!そろそろ起きなさい!」

「師匠~!着きましたよ!
魔族が人間と共存している異世界ダークネスト!」



「んあ?ああ~もう着いたの?」


転生した魔王は未来視した通り、
二千年後、再びこの魔界に戻ってきた。
そして、二千年前の記憶を夢として見ていたようだ。


「この世界は外の世界から見かけより広大で
異世界バーミストの4倍は広いらしいな。」

「零さんは……ぐれぐれも歩いてる途中で寝たり
迷子にならないでくださいよ!」

「むむ………善処するぞ…モルモル。」

「モルお姉ちゃ~んそういえば
マンソンのおっさんとかパパやママはどうしたっけ?」

「シャルロット…アンタもう数日前の話を忘れたの?」

「私達今日からダークネストに引っ越しすることになったのよ。

アルトさんやマンソンに護衛に付いてもらって
パパとママはダークネストに一緒に行くってことになったのよ?」


「ふーん…そっか~忘れてたわ」




こうして、二千年前この世界を支配していた
世界最強の魔王は再びこの地に降り立ったのでした。








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