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六天魔皇と星海の少女編 ルミナの告白

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真紅灼獄焔焉覇星激爆覇スカーレット・ノヴァ




指向を絞らずに出力全開で全方位に無制限で解き放つ時の

星命流転覇星激爆覇アストラル・ノヴァと非常に酷似していた

真紅の極光による大爆発に巻き込まれてしまったが




ルミナス・メモティック・フォールンナイトは生きていた。


あの真紅の大爆発は

星命流転覇星激爆覇アストラル・ノヴァと違い

究極の消滅魔法のような魔法ではなく

純粋な火力に主とした攻撃性であり

広範囲の対象を焼き尽くし焼滅させることに特化していた。

いや、それだけではない。


真紅の閃光がルミナに襲い掛かった瞬間

名前も知らない配下の人が身を挺して

ルミナのことを守ってくれたのだ。

運良くルミナは掠り傷一つもなく生還できたが

ルミナをはじめとした

ルミナスとラミレス以外の六天魔皇は全滅

その配下も一瞬にして全て灰になってしまった。



なんと、哀れなことだろうとルミナは思った。


配下の人々は元々、ルミナに対して反抗的だった。

無理もないであろう。

あの人達は、元々エクリム・カタルダ・ストロフィーさんの重臣だったのだ。

エクリム・カタルダ・ストロフィーさんは

カリスマも実力も全てを兼ね備えていた

まさしく六天魔皇の鏡のような方で、配下の方々にも非常に慕われていた人でした。


そして、新しくやってきた六天魔皇は

運だけでたまたま六天魔皇になったような

カリスマ性も実力も皆無な小娘。

分不相応な私に、どうして良い感情が抱けようか?


このままでは、下克上でもされて殺されてしまうのではないか?


そう思ったルミナは残虐な方法で部下を従わせた。

ルミナは、部下を皆殺しにして

エクリム・カタルダ・ストロフィーに関する記憶を完全に消去し

彼らの記憶を改竄してしまったのだ。


ルミナを快く思わない反逆者から、ルミナを盲信する従順な配下へと。


その結果が、これだ。

彼らは、自分の意志とは関係なくルミナを庇って死んだ。

彼らにとっては本望であろう。

何故なら、人格を弄りそのように設定しておいたからだ。


「……あの人達は、それでも幸せだったよね?」

だから、ルミナが気を病む必要はない。

そう思い込まなければ、やってられなかった。



それよりも、今考えるべきことは

モルドレッドさんのことである。


先程の真紅の極光は、彼女の仕業であろう。


強いとは思ってはいたが、正直言ってこれほどまでとは思わなかった。


あんな化け物じみた魔法を使う奴を殺す方法などない。



「………………」



いや、無いこともないか。


あるではないか。

アストラルの星屑。


赫神華から刻まれた自壊の秘術。

あれさえ使えれば神だろうがなんだろうが

圧倒できる超常の力を得られるだろう。

その代償として、自らの魂の核である

神核を犠牲にしなければならないが

ルミナは、震えながら胸に手を置く。


すると、自分の魂の形をはっきりと認識する。

そのまま神核に刻まれた刻印に魔力を送ろうとするが

出来なかった。


その時、ふとラミレス・ブラティーが大急ぎで走っていく姿が視界の端に映った。

どうやら古城に向かったようである。

躊躇している場合ではなかった。





「止めなくちゃ…モルドレッドさんが危ないかも…」


……危ない?何を考えているんだろう…私は


ルミナは自分があり得ない思考をしていることに気づいて頭を振った。


ラミレスとモルドレッドが潰し合ってくれるなら

願ってもないことだろうに、何を馬鹿げたことを…

私は漁夫の利を狙って傷ついた彼女達にトドメを刺せばいいんだ。



それなのに…

なぜかモルドレッドさんのことだけを想ってしまう。


自分の気持ちが分からなくなった。

精神系の異能を生まれ持ったルミナは

昔から他人の感情には聡かったが

自分の感情については何も分からなかった。



モルドレッドさんを、助けたいのか殺したいのか

それは分からない、だけど…

ルミナの足は自然と古城の方に向かっていた。


そのときだった。


通信が入った。



『ちょうどいい、先に行ってモルドレッド・レガリアを殺せ。

派手にやっても構わんぞ?

幸いにも、先の爆発で妙な魔力が古戦場に充満して

遠視魔法は妨害されている

貴様の犯行を目撃する者は存在しない。


さあ、フレアリカを葬り去った愚かなあの小娘に

赫神華の恐ろしさを刻み込んでやれ!!

殺害に成功したら、ひとまず貴様を殺さないでおいてやろう。』

プツリと通信が切れた。


ルミナは涙を流していた。

怖い…苦しい…死にたくない…死にたい……

負の感情に心が支配されていく。


やっぱり私は、赫神華の使い捨ての道具でしかないのだ。








「………あれ?」


記憶が抜け落ちている。

私は今まで何をしていたんだろう?


「なによ…これ……夢…でも見てるのか?」


見渡す限り何もかもが更地と化していた。




パキッ


「えっ…これって……!?」


何かを踏んづけてパキッという音が聞こえた

私は慌ててその場から身を引いた。

それは赤黒い硝子の破片のようなものだった。

こ…これって、もしかして、戦神の神核?



うう…どうして…こうなったんだっけ?




確か、シャルロットと一緒に逃げて…

それから…うぅっ……だめだ…思い出せない。



「はっ…そうだわ!シャルロット!」


私は妹の姿を探すが、何処を探しても見つからなかった。


「うぅ…何処に行ったのよ…シャルロット…!!」





「それなら、貴女が消し炭にしてしまったのではなくて?

モルドレッド・レガリアさん?」



……最悪な状況になってしまった。


シャルロットがいないし

魔力は何故かスッカラカンになってしまった


私を助けてくれるような人はいない。


このままでは、マズイ、死ぬ、殺されてしまう。


「まったくもって素晴らしい威力でしたわねえ?

いったいどんな不正を行ったのですの?

まさか魔法…なんていうつもりじゃありませんよね?

大方、事前に大量の爆薬でも仕込んでいたのでしょう?

貴女のような卑怯者は六天魔皇に相応しくありませんわよ!」


お前はさっきから何を言っているんだ?


…と言いたいところだが、そんなことを言える空気ではない。 


「えっと…他の人はどうしたのよ?もしかして一人なのかしら?」


「ええ…そうですわ…そうですわよっ!!!

貴女の卑劣な罠のせいで

誰も彼も虐殺してしまったのですわ!!!

シャイニスもミューリアムもサンドも

クルル・ヘル・ルシファーもルミナスも!!」


「わ、わけがわからないわよ!!」


「巫山戯たことをおっしゃりますのね?

モルドレッドさん、貴女のせいで……!!

貴女のせいで…六天魔大神魔戦争ラグナロクは滅茶苦茶になりましたのよ!!!!」


「……は? 」

本当に、 何を言っているんだこいつは…?


私のせいで、滅茶苦茶………?


「なんですのッ…その腑抜けた面は…!!」


ラミレスが憤怒の感情を露にすると

暗黒の魔力が増大し、闇色の魔力がラミレスの剣に宿り


全てを滅ぼす黒炎に変換されていく。



「貴女のような危険な異分子は今すぐ排除しなければなりませんわっ!!」


「貴女のような六天魔皇以下の雑魚に見せるには

勿体無い程の魔法をお見せしましょう!!!」



「これで終わらせてあげますわ…!!

終焉焔獄炎ブレイズ・ロ……ウグッ!?」



私は目を瞑ってその場で縮こまってしまった。


希望は完全に潰えてしまった。

私に残された運命は、死だと思った。

しかし、いつまで経ってもラミレスの魔法は飛んでこなかった。


不審に思って顔を上げると

そこには、私の予想だにしなかった光景があった。


ラミレスの胸から真っ赤な腕が生えていた。

その真っ赤な腕からは

ドバドバと真っ赤な血液が零れ落ちてラミレスの足元を濡らしている。


ラミレスは何が起こったのか理解出来ないという表情をしており

自分の心臓を貫いて突如生えてきた

血で真っ赤に染まった不気味な腕を見下ろしていた。



 「な…ん…ですの……!?」


ブシュ、とラミレスの胸から腕が引き抜かれ

ラミレスはゴミでも捨てるように乱雑に放り投げられて大岩に叩きつけられた。

ラミレスの全身から力が抜けていき

まるで糸が切れた操り人形のようにその場に崩れ落ちる。


しかし、まだ息があった。

最後の力を振り絞るように、己を殺した者の顔を拝もうとしたが

視界が霞んでしまっていて何も見えない。

魔力の気配を察知して視線を空に向けると

その瞬間、ラミレスに巨大な隕石が降ってきた。

「…終滅焉煉獄焔獄炎隕石弾インフェルノ・エンド。」


漆黒の太陽のような獄炎を纏った巨大な隕石が飛来した。


ラミレスは咄嗟に防御魔法を展開する。

しかし、どんな魔法も防げる六天魔皇の魔力で生み出される

無敵の防御魔法の障壁にも絶対の弱点が存在する。


それは、物理には滅法、脆いというものだ。

隕石のような圧倒的な質量を持った魔法で攻撃されれば

ほとんどの魔法は質量を持たない故に

たとえ、漆黒の太陽を召喚したとしても

防御魔法の効果で威力が分散し受け止められ無力化されてしまうが

どんな魔法さえも防ぐ防御魔法でも

質量で無理矢理押し潰せば壊れるのだ。



この魔法はルミナがモルドレッドの記憶を改竄する際に

解析し、模倣し、改良した終焉焔獄炎滅弾ブレイズ・エンドを上回る

超火力の魔力に防御魔法が通用しない圧倒的な質量を加えた魔法だ。




ラミレスは必死に抵抗して防御魔法を展開するが

骨が粉々に砕かれたような破砕音がした。

彼女は死ぬ瞬間まで必死に藻掻いていたが

ラミレスは陸に打ち上げられた魚のように痙攣していたが

やがて、ピクリとも動かなくなった。



「……………え?」


衝撃のあまり言葉が出なかった。


世界最強と謳われている六天魔皇が

いとも簡単に殺されてしまったのだ。

しかも私では思いつかないような残忍な方法で

だが、驚いたのはそれだけではなかった。


ラミレスの死体の側に立っていたのは

私のよく知る人物だったのだ。




それは白く、まるで天使のようで

雪の妖精のような可憐な佇まいをしている

儚げな雰囲気のある白銀の少女。

左目は、雪の結晶のようで視線が吸い込まれてしまうような

氷のように透き通っている綺麗な水色の瞳だが


右目は血のような紅に染まっていて、まるで吸血鬼のようだ。

いつもの小動物のような可愛らしさは無く

何処か不気味で恐ろしい何かを感じる。


夢でも幻でもなかった。


白銀の少女

ルミナス・メモティック・フォールンナイトだった。



「モルドレッドさん!無事だったんですね…!」






彼女の右腕はラミレスの血で真っ赤に染まっていた

ラミレスの胸から腕を引き抜いた際に血が跳ねて

ルミナの綺麗な顔に真っ赤な血が付いている。

しかし、そんな物騒な様子とは全然似つかない

無邪気な笑顔を浮かべながら私の方へ駆け寄ってくる。


私はそこで気づいた。



彼女の右目が血に濡れたような真紅に染まっていることに。

まるで、これでは真祖の吸血鬼のようではないか?




「よかったです…やっと、会えました。」


心底『よかった』と思っているような表情だったが

しかし私にはルミナに

どこか恐ろしいものを感じて思わず後ずさってしまった。



「う…うん、ルミナこそ無事で本当によかったわ」


「……それより、その…ルミナってそんなに強かったの……?」


はじめてルミナの戦った所を見たが

あそこまで強いなんて思わなかった。


あれ…?……可笑しいな…?はじめて……?


私達、何回もルミナと一緒に戦っていたはずなのに

彼女の強さに関する記憶が朧げになっている?



私が記憶の混濁に戸惑いを隠せないでいると


ルミナは血まみれの腕を見下ろしてから微笑んだ



「全然、強くなんかないですよ。」

「ラミレスさんは油断してました。

だから、こんな私でも倒す事が出来たんです。

ただ、運が良かっただけなんです。」



運が良かった…たったそれだけで殺せるものなの?

それに、何かが可笑しい、私は違和感を覚えた


「でも、ルミナって確か魔法使いじゃなかったの…?

素手で身体を突き破るって…そんなことも出来たの?」


「フフ…誰でも出来ますよ?吸血鬼になら」


「吸血鬼……ルミナが…?」


「あれ?言ってませんでしたっけ?

私、実はモルドレッドさんと同じで

真祖の血を引いている吸血鬼なんですよ…?」



「そ、そう…なんだ…」


「はい、これで、六天魔皇はほとんど死んでしまいました。」


彼女の口調にはそこはかとない違和感が滲んでいた。

まるで後はお前だけだ、とでも言いたげなような

異常な空気がそこには漂っていた。




ルミナは私に向かってゆっくりと歩を進める。


そうして、私に背を向けたまま、小さく呟いた



「…覚えていますか?一緒に星を見た夜に

私がモルドレッドさんに質問したこと。」





「ああ……確か、人質がどうのこうのって……」


「そうです。そしてモルドレッドさんはこう言いましたよね?

『脅してくる組織の方を倒しちゃえばいいんだ』

凄いなあって思いました、そしてこの有様を見て

もっと凄いなあって思いました。

あの言葉は、偽りでも虚言でも見栄っ張りとかじゃなくて

本当に本当のことなんだってわかりましたから。」


「でも、私にはそんな風にはなれない。

私程度の力じゃ、赫神華には敵わない。

どんなに努力をしても、血反吐を吐いても

組織に従順であっても、泣いてやめてくださいって懇願しても

奴らは、私の大切な人を殺して、奪っていくんです。

私には、どうすることも出来なかった。

私には、勇気が無かったから、心が弱かったから

だから、私に与えられた選択は一つしかないんです。 」



ルミナは何かに取り憑かれたように言葉を連ねて紡いでいく。


私は、その異様な雰囲気に圧倒されてしまった。

雰囲気どころではない。


ルミナの身体からは高密度の魔力が溢れている。


何が起きているのか理解出来なかった。


「そう、私には、過去や未来なんか最初から無いんだ

私は最初から、殺人鬼になる運命だったのでしょう。

私は、幸せになっては、いけなかったんです。


誕生日を祝われたり、家族と一緒に星を見に行った

大好きだった家族との幸せな記憶も

お姉ちゃんに頭を撫でられて嬉しかった記憶も

虐められていた私を優しく慰めてくれた

お姉ちゃんの暖かな温もりも、優しさも

私が幸せだったと感じていた記憶は

全部、全部私の弱い心が作り出した幻想で

偽りで虚構の記憶ではじめから幻だったに違いないんです。」



「ルミナ!さっきからいったいどうしたのよ!」


私が理解できずに狼狽していると

一通り、話し終えたルミナはくるりと振り返った。




「モルドレッドさん、ごめんなさい。

あの時、そんなわけがないって庇ってくれた時

本当に嬉しかったです。

だけど、すみません。

あの連続殺人事件を引き起こした殺人鬼

その正体は、私だったんです。」



ルミナの瞳から涙が零れ落ちていく。



「ルミナ…泣いているの…?どこか…痛むの…?」


「あはは、何処も痛みなんて感じませんよ…

だって、痛む心さえ、もう無くしてしまいましたから。」


ルミナの心がとっくに壊れてしまっていたのだ。

ルミナは涙を零しながら泣いていた。



「やっぱり、モルドレッドさんは優しいですね…

こんな状況でも、私なんかのことを心配してくれるなんて…

聞いてましたか?私、赫神華の人殺しなんですよ?」


「そんな訳の分からない冗談はいいわよっ!!

何があったかなんて知らないけど

心がボロボロになって泣いてるなら

一緒に、私達の家に帰りましょう?」


「…ごめんなさい、私はもう、あそこには戻れません。

私の居るべき場所は、あんな暖かな所じゃないんです。



帰りたくても、もう帰れないんです。

私は、今日、ここで死んでしまうでしょうから。

モルドレッドさんには、私の事情を知ってほしかったんです。

何も知らないまま、殺し合うのは

お互いにとっても、悲劇だと思いましたから。」


ルミナがゆっくりと血塗れの手を私に近づける

白くて細い華奢な真っ赤な腕が、私の眼前まで迫ってくる。


星命が輪廻する星海アストラル・プラネリウム……。」



私の意識は完全に消失していき、星海に誘われた。


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