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・中巻「スチームパンクがノスタルジックなだけとは限らない」
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「私はハリエット・ショームズ。17歳。新英帝国貴族院議員シェイクロフト・ショームズの娘です。ここは新英帝国首都新倫敦、ロースター街にあるショームズ家の屋敷です。私と同じ顔をした貴方、貴方は、何者なのですか?」
「お、オレはH・S-17。他の事は、あー、正直、説明するにゃ前提となるこっちの事情についても話さねえと拙いんだろうが、それにゃまずオレが居た場所と此処がどう違うのかがわかんねーと上手く説明できねーよな……」
そう尋ねた私に、髪を染めて不思議な格好をしている以外私と同じ顔をしたその人は、下町言葉に似ているけれど少しそれとも違う様な口調で答えて。
しかしその、本当に不思議というか、ええと……
流石に破廉恥ではありませんの!? その、体に密着したレオタードやストッキングみたいな薄い布一つと言うのは!? 顔だけじゃなく体つきも同じなものですから、私の体が堂々と展示されているようでその、恥ずかしいのですけど!?
「そ、それでは、こちらから説明させて頂きますが、こほん、ええと、お互い、立ち話するには難のある姿だと思いませんこと?」
「そうか?」
「そうなのです! 私も着替えて来ますから、貴方も、衣服は此方で用意しますので、身支度を整えて下さいませ!」
本当に一体、どういう所から来たのかしら、この人は!
「ちょ、ちょっと待て、着替えろって、これにか!?」
「て、天然シルク、だと……!?」
「う、うわー、凄い見た目だけど、着心地はやっぱ少し鬱陶しいな……」
等と何やら大騒ぎしていたH・S-17様が着替え終わったので、改めて席に着き、お話をする事となりました。それにしてもなぜイニシャルだけを名乗られるのかしら?
「え? あんた、その服……?」
「ああ、この衣装は、まあ、確かに淑女の装いではありませんけど、その、こういう時にはこの出で立ちの方が身が引き締まるんですの」
私の服を着たH・S-17様が、それとは違う私の装束に少々面食らった様子です。その、確かに男装ではありますけど……
「少々、探偵を嗜んでおりまして。探偵として事件と向き合う時はこの姿と決めてますの……だ、大体あの黒いレオタードよりよっぽどマシだと思うのですけど!?」
「探偵? 確かに、焚書されるのを見た本にそんな感じなビジュアルの探偵は居たが……!?」
不躾な指摘が思わず口に出てしまいましたが、幸いH・S-17様はそれどころではない様子でしたけど、何やら聞き捨てならない言葉が。
ともあれ私は私の知る新倫敦の今とそこに至る歴史をかいつまんで彼女に説明しました。知らない人がいるなど信じられませんでしたが。
聖ジェームズ・ワット卿の興した産業革命即ち第一次蒸気革命から聖エイダ・バベッジ卿による階差機関の完成による第二次蒸気革命、20世紀に入っての新素材と新燃料の開発から発生した超高度蒸気機関による第三次蒸気革命、新英帝国による世界統一文明化。その結果の世界首都としての新倫敦を。
「……ああー、多分、そこ、か。そこで違いが生じたんだな……」
新大陸の牧童めいて荒っぽく頭をかいたH・S-17様はそう言われると、改めて自己紹介をなされた、のですが。
「……酷い、酷すぎます。そんなの、あんまりですわ……」
「お、おいおい、確かにクソッタレだが他人事だぜ、泣く程か!? ってか、よく信じたなぁおい!?」
企業が全てを支配し善悪では無く利益不利益が人の行動規準となる世界。人間が半分機械化され、一部の支配者以外は番号で管理され……彼女の名前はそういう事だったのです……その人間が持つ経済価値を元に生殺与奪が行われる世界。
彼女は良く信じたなと言いましたが、これでも探偵です、騙りと本音の違いは分かりますし、何よりも彼女の体が証拠でした。
首筋に付けられた蓋の付いた金属の孔、彼女の居た世界で階差機関の代わりに使われているという電子計算機というものに接続する為という見た事も無いそれ、そして、掌の中から出てくる銃……正直首筋の孔もそうでしたけどその、彼女には失礼ですが非常におぞましく気持ち悪くちょっと眩暈がしそうでした……
ともあれ。
「そういう事情でしたら、どうか、これからは我が家にお住まいなさいな」
「えぇ!?」
と、全てを聞いた後私は彼女に告げたのです。
「行くあても無く、元の世界に戻る手段も無く、何より戻るべき世界でも無いでしょう?それなら、そんな人を保護するのは義務というものです」
「いや、それは、そいつぁ……」
彼女は、酷く戸惑った様子でしたが。
「……頼む」
実際行くあてがないので、結局そういってくださいました。
その後二人でお茶にしたのですが。
「う、旨ぇ……て、天然素材のサンドイッチなんて、初めてだ……」
と、涙を流して喜んでおられました。聞けば、彼女の世界での食料は得体の知れない材料から合成されたものが大半であるとの事。
そんな高い技術力のある世界なのに、先程の彼女の身の上と同じくなんて野蛮な! 文明的ではありませんわ! 食品偽装なんて私達の世界はとうに終わった問題ですのに!
あんまり美味しそうに食べるのだから、料理長も喜んでおりました。
ところが、その、夕食はお気に召さなかったようで。
「なんで折角の天然野菜をぐったりするまで煮るんだよ!? 素材の味が台無したぁ思わねぇのか! あんまりだぜ!? あと、味は卓上の塩胡椒だけかよ!?」
と、茹野菜を前に愕然としてまた別の涙を流しておいででした。随分お怒りの様子で厨房に突撃なされて。その後料理を自分でお作りになられまして、私ご相伴に預かったのですが。
「まあ、見事な味!昔頂いた事のあるアジア植民地のお料理を思い出しますわ!」
私はしたなくも驚いてしまいました。彼女の料理、とても美味しかったのです!
「知識罪で燃やされた親父の蔵書に料理本もあってな。買える範囲の合成食料じゃできなかったんで、やったのは今晩が初めてだが、案外いけるもんだな。大体一応調味料や香辛料の類あんのに何で使ってねぇんだ」
そう言って少し嬉しそうにする彼女でしたが。
「す、すいません、その、頂き物なのですが使い方を存じている者が身内におりませんで……それはともあれなんて非道な! 許せません! 焚書等中世レベルの野蛮の所業ですわ!」
「うわ、ま、またかよ!?」
彼女のお父上の最後、そして知識罪という法律、どちらも本当に酷い話です! 興奮してしまい、H・S-17さんに驚かれてしまいましたが。
「……しかしつくづく、オレと同じ顔が善良な良家の子女してるって……」
「貴方は善良ではないのですか? 最初のどたばたや過去は環境が強いた事。こうして一緒に過ごすと、貴方が善良ではないは思えないのですが」
「いや、それは……」
そういうやりとりをすると、私と同じ顔をした彼女は、なぜか照れた様な焦った様なでも少し苛立ったような表情で、顔を背けるのでした。
ともあれ、そんな風に彼女は私達の家族となったのですが……
「真実の為悪と戦う正義の探偵か……オレと同じ顔で。違和感凄いが、けど、頭イイなお前」
「つ、ついてきて何ですか!?」
住み込み料理人という扱いになった彼女ですが、その、私は先に言った通り個人として探偵をしているのですが、その現場についてくるんです。そして私を見て、違和感と頭痛を堪えてる様な表情で頭を抱えるのです。困るならついてこなくてもと思うのですが……
「でも、貴方のお陰でもありますのよ。証拠、有り難うございました」
「ま、オレの手柄ってよりサイバーアイのおかげだけどさ。リンク切れで機能が落ちてるのは兎も角、この位ならな」
「謙遜なさらないの」
彼女、凄く五感が鋭いの。確かに私は彼女の言う通り推理力に自信があるから探偵をしているんだけれど、それでも彼女が一緒にいるととても助かるわ。なので出来れば居て欲しいと思うのだけど、無理強いは出来ないと思うし。
「それにしても、何でそんなに何かを悩んでおられるのですか?」
「……何でもねえよ」
だからそう尋ねたのだけれど、彼女は何も答えてくれませんでした。
そうして、何日か過ごし……あの事件が、起こったのです。
「……話がある」
酷く苛立った表情で何日も図書館に通い詰めた彼女が、私を呼び。
「…この世界。長くないぜ。そのうち、滅ぶ世界だ。オレんとこと同じにな」
暗い瞳でそう告げたのが始まりでした。
私の今まで生きてきた人生の中で一番激しい悲しみと、衝撃と、恐れと、不安と、そして別れを知る事になった事件の。
「お、オレはH・S-17。他の事は、あー、正直、説明するにゃ前提となるこっちの事情についても話さねえと拙いんだろうが、それにゃまずオレが居た場所と此処がどう違うのかがわかんねーと上手く説明できねーよな……」
そう尋ねた私に、髪を染めて不思議な格好をしている以外私と同じ顔をしたその人は、下町言葉に似ているけれど少しそれとも違う様な口調で答えて。
しかしその、本当に不思議というか、ええと……
流石に破廉恥ではありませんの!? その、体に密着したレオタードやストッキングみたいな薄い布一つと言うのは!? 顔だけじゃなく体つきも同じなものですから、私の体が堂々と展示されているようでその、恥ずかしいのですけど!?
「そ、それでは、こちらから説明させて頂きますが、こほん、ええと、お互い、立ち話するには難のある姿だと思いませんこと?」
「そうか?」
「そうなのです! 私も着替えて来ますから、貴方も、衣服は此方で用意しますので、身支度を整えて下さいませ!」
本当に一体、どういう所から来たのかしら、この人は!
「ちょ、ちょっと待て、着替えろって、これにか!?」
「て、天然シルク、だと……!?」
「う、うわー、凄い見た目だけど、着心地はやっぱ少し鬱陶しいな……」
等と何やら大騒ぎしていたH・S-17様が着替え終わったので、改めて席に着き、お話をする事となりました。それにしてもなぜイニシャルだけを名乗られるのかしら?
「え? あんた、その服……?」
「ああ、この衣装は、まあ、確かに淑女の装いではありませんけど、その、こういう時にはこの出で立ちの方が身が引き締まるんですの」
私の服を着たH・S-17様が、それとは違う私の装束に少々面食らった様子です。その、確かに男装ではありますけど……
「少々、探偵を嗜んでおりまして。探偵として事件と向き合う時はこの姿と決めてますの……だ、大体あの黒いレオタードよりよっぽどマシだと思うのですけど!?」
「探偵? 確かに、焚書されるのを見た本にそんな感じなビジュアルの探偵は居たが……!?」
不躾な指摘が思わず口に出てしまいましたが、幸いH・S-17様はそれどころではない様子でしたけど、何やら聞き捨てならない言葉が。
ともあれ私は私の知る新倫敦の今とそこに至る歴史をかいつまんで彼女に説明しました。知らない人がいるなど信じられませんでしたが。
聖ジェームズ・ワット卿の興した産業革命即ち第一次蒸気革命から聖エイダ・バベッジ卿による階差機関の完成による第二次蒸気革命、20世紀に入っての新素材と新燃料の開発から発生した超高度蒸気機関による第三次蒸気革命、新英帝国による世界統一文明化。その結果の世界首都としての新倫敦を。
「……ああー、多分、そこ、か。そこで違いが生じたんだな……」
新大陸の牧童めいて荒っぽく頭をかいたH・S-17様はそう言われると、改めて自己紹介をなされた、のですが。
「……酷い、酷すぎます。そんなの、あんまりですわ……」
「お、おいおい、確かにクソッタレだが他人事だぜ、泣く程か!? ってか、よく信じたなぁおい!?」
企業が全てを支配し善悪では無く利益不利益が人の行動規準となる世界。人間が半分機械化され、一部の支配者以外は番号で管理され……彼女の名前はそういう事だったのです……その人間が持つ経済価値を元に生殺与奪が行われる世界。
彼女は良く信じたなと言いましたが、これでも探偵です、騙りと本音の違いは分かりますし、何よりも彼女の体が証拠でした。
首筋に付けられた蓋の付いた金属の孔、彼女の居た世界で階差機関の代わりに使われているという電子計算機というものに接続する為という見た事も無いそれ、そして、掌の中から出てくる銃……正直首筋の孔もそうでしたけどその、彼女には失礼ですが非常におぞましく気持ち悪くちょっと眩暈がしそうでした……
ともあれ。
「そういう事情でしたら、どうか、これからは我が家にお住まいなさいな」
「えぇ!?」
と、全てを聞いた後私は彼女に告げたのです。
「行くあても無く、元の世界に戻る手段も無く、何より戻るべき世界でも無いでしょう?それなら、そんな人を保護するのは義務というものです」
「いや、それは、そいつぁ……」
彼女は、酷く戸惑った様子でしたが。
「……頼む」
実際行くあてがないので、結局そういってくださいました。
その後二人でお茶にしたのですが。
「う、旨ぇ……て、天然素材のサンドイッチなんて、初めてだ……」
と、涙を流して喜んでおられました。聞けば、彼女の世界での食料は得体の知れない材料から合成されたものが大半であるとの事。
そんな高い技術力のある世界なのに、先程の彼女の身の上と同じくなんて野蛮な! 文明的ではありませんわ! 食品偽装なんて私達の世界はとうに終わった問題ですのに!
あんまり美味しそうに食べるのだから、料理長も喜んでおりました。
ところが、その、夕食はお気に召さなかったようで。
「なんで折角の天然野菜をぐったりするまで煮るんだよ!? 素材の味が台無したぁ思わねぇのか! あんまりだぜ!? あと、味は卓上の塩胡椒だけかよ!?」
と、茹野菜を前に愕然としてまた別の涙を流しておいででした。随分お怒りの様子で厨房に突撃なされて。その後料理を自分でお作りになられまして、私ご相伴に預かったのですが。
「まあ、見事な味!昔頂いた事のあるアジア植民地のお料理を思い出しますわ!」
私はしたなくも驚いてしまいました。彼女の料理、とても美味しかったのです!
「知識罪で燃やされた親父の蔵書に料理本もあってな。買える範囲の合成食料じゃできなかったんで、やったのは今晩が初めてだが、案外いけるもんだな。大体一応調味料や香辛料の類あんのに何で使ってねぇんだ」
そう言って少し嬉しそうにする彼女でしたが。
「す、すいません、その、頂き物なのですが使い方を存じている者が身内におりませんで……それはともあれなんて非道な! 許せません! 焚書等中世レベルの野蛮の所業ですわ!」
「うわ、ま、またかよ!?」
彼女のお父上の最後、そして知識罪という法律、どちらも本当に酷い話です! 興奮してしまい、H・S-17さんに驚かれてしまいましたが。
「……しかしつくづく、オレと同じ顔が善良な良家の子女してるって……」
「貴方は善良ではないのですか? 最初のどたばたや過去は環境が強いた事。こうして一緒に過ごすと、貴方が善良ではないは思えないのですが」
「いや、それは……」
そういうやりとりをすると、私と同じ顔をした彼女は、なぜか照れた様な焦った様なでも少し苛立ったような表情で、顔を背けるのでした。
ともあれ、そんな風に彼女は私達の家族となったのですが……
「真実の為悪と戦う正義の探偵か……オレと同じ顔で。違和感凄いが、けど、頭イイなお前」
「つ、ついてきて何ですか!?」
住み込み料理人という扱いになった彼女ですが、その、私は先に言った通り個人として探偵をしているのですが、その現場についてくるんです。そして私を見て、違和感と頭痛を堪えてる様な表情で頭を抱えるのです。困るならついてこなくてもと思うのですが……
「でも、貴方のお陰でもありますのよ。証拠、有り難うございました」
「ま、オレの手柄ってよりサイバーアイのおかげだけどさ。リンク切れで機能が落ちてるのは兎も角、この位ならな」
「謙遜なさらないの」
彼女、凄く五感が鋭いの。確かに私は彼女の言う通り推理力に自信があるから探偵をしているんだけれど、それでも彼女が一緒にいるととても助かるわ。なので出来れば居て欲しいと思うのだけど、無理強いは出来ないと思うし。
「それにしても、何でそんなに何かを悩んでおられるのですか?」
「……何でもねえよ」
だからそう尋ねたのだけれど、彼女は何も答えてくれませんでした。
そうして、何日か過ごし……あの事件が、起こったのです。
「……話がある」
酷く苛立った表情で何日も図書館に通い詰めた彼女が、私を呼び。
「…この世界。長くないぜ。そのうち、滅ぶ世界だ。オレんとこと同じにな」
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