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・第十二話「教帝若き天才を紹介し蛮姫それを導く事(後編)」
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「例えばこれ。新しい鍛造法で作られた剣! 絶対折れないし凄く良く切れる!」
「ほう。試してみて良かか?」
取り出されたのは、普通の鉄とは見た目からして明らかに違う、独特の波打つような輝きを持つ剣。戦士として早速興味をそそられるアルキリーレ。
「どうぞどうぞ! 家畜の肉に鎧用の鉄板を括り付けて試したけどざっくり刃が入るし、騎士に鎚矛で殴らせても刃毀れ一つも……」
「チェストぉおおっ!」
バキッ!
「折れたど」
「うっそだろぉ!? その斧何!? 見せて! え、そんな、素材は確かに質がいいけど普通!? お姉さんどんな腕力してんの!?」
最初からいきなり躓いた。自信満々繰り出した剣が、アルキリーレが切れ味より頑丈さに興味を持って自分の斧でぶっ叩いて検証してみた結果、普通に折られてしまったのだ。自信作の完敗に流石に動揺しおろおろし叫ぶレオルロ。
しかも斧が凄いのかと思ったらしかもアルキリーレの力によるもので、二重に混乱するレオルロだが、何とかショックから立ち直り次の武器を取り出す。
「それならこれ! 連弩! 弩は熟練射手が使う弓に比べて連射性・速射性に劣るってよく言われるけど、こいつなら威力そのままで連射もいけるんだ!操作方法は」
次に取り出したのは改良された弩だ。従来型の弩と違い上に太矢を収める容器と装填する機構、そして連続して弦を引き絞る為の機構が搭載されている。
「どれどれ」
これも早速手に取るアルキリーレだったが……
ぼきっ!
「……あ」
「操作法説明しようとしてる間に弄って壊すなあああ!?」
またぶっ壊してしまった。しかも今回は壊せるかどうか試そうとしたのではなく、蛮族なアルキリーレが複雑な機械を話半分で操作しようとしたせいで、わざとじゃ無かったので流石にちょっと表情を引き攣らせるアルキリーレ。怒るレオルロ。
「いやでも、すぐ壊れるようじゃ戦場では役に立たんど。落とそうが濡らそうが凍ろうが使えてこその武器ぞ」
だが、壊れた時点で問題があるとアルキリーレは指摘する。
雨、霧、雪、吹雪が多く、そこら中に小川もあり、霧深く朝露滴る森の中や春の泥濘等、極限環境だらけの北摩で投槍や投斧が弓に対して駆逐されずまた弩が流行らない理由でもあるが、軍事的には信頼性というものが大切なのだと。
そこに考えが及ばないのが、ペルロが才を見込んで紹介したとは言え天才少年もやはり戦下手な今のレーマリア人だった。
「え? じゃあこの携帯式投火器も駄目!?」
さっきとは別の方向性、想定以上ではなく想定外の指摘を受け動揺するレオルロは、弩から弓を外し長い金属筒と金属瓶を二つ付けた様な武器を持ち困り果てた。
投火器。レーマリアのみで実用化されている兵器で、門外不出の調合で作られた極めて強力かつ難消火の発火燃料を炉で加熱しサイフォンで噴射する兵器だ。炉とサイフォンが複雑かつ巨大なので、軍船に積載して海戦に用いるか馬車に積んだり攻城塔に乗せたりして城攻めに用いるのが主だが、それだって中々扱いが大変な代物だ。それを個人携帯可能な武器にしたのは、それ自体は物凄い技術だと言えた。事実アルキリーレも驚いた。元々の投火器自体が驚異的な代物だったというのにと。しかし懸念事項もある。
「アレば小型化したのは物凄かな。大した才能じゃ……じゃっどんこいも随分複雑そうじゃな……今度はちゃんと聞くから、使い方を教えたもんせ」
「う、うん、ええとね」
レオルロはやや早口で説明した。サイフォンではなく圧縮空気とポンプを用い、金属瓶をねじ込んで燃料を装填。炉では無くアルコールを染みこませた火縄で着火する。弩と同じく引き金で使用する。使用回数や射程はかくかくしかじかと。
「一発毎に装填が大変な弩と違い燃料金属瓶一つで何回も撃てるのは良かな。じゃっどん火が要るのと、燃料瓶と空気瓶と管が罅に弱いのと、あと射程距離が13歩尺位なのが気になるのう。かなり近寄らないと使いにくい割に、近寄られると脆い。弩よりも更に大きく重く機構的に放り投げて地面に置く訳にも行かんから、弓と違って即座に接近戦用の武器に持ち替えるっちゅうのもしにくそうじゃし……」
「うー……」
携帯投火器を壊さないように慎重に手に取り回して見つめながら思った所を指摘するアルキリーレと、それを聞いて緑の瞳をちょっとうるうるさせるレオルロ。
「というか大体、こん国の軍が弱いのは、兵や騎士が軟弱だからで、どんな武器ば持たせてもそこ直さんと無駄じゃなかか?」
「うーっ! 大きな兵器はまだ作ってないけど実験は済んでて作ったらもっとずっと凄いのもあるし! こっちの速射式投矢機は室内で試射は出来ないけどちゃんと凄いんだし! その内絶対びっくりさせてやるんだからな!」
そしてそもそも根本的に改良するべきは武器じゃなく兵士ではなかろうかと言うアルキリーレに、天才としての初めての駄目出しに涙目になってそう叫ぶレオルロだったが……
「よかよか」
「ふぇっ!?(////)
気にするなと言うと、アルキリーレはレオルロの頭を撫でてその顔を己の胸元に抱き寄せた。豊かで柔らかな感触に赤面するレオルロ。涙も引っ込む。
「泣き虫になんな、少年は怒って生意気なくらいがよか。絶対びっくりさせてくれるんじゃな、そん意気じゃ。泣くよかひっ飛べ」
抱きしめて頭を撫でながら、耳元にそう語り聞かせるアルキリーレ。こくこくと頷くレオルロ。
ちなみに横でペルロ十八世はかなり羨ましそうにしていた。この色欲聖職者!
「大体、最初の剣は、費用に問題無かなら普通に量産してよかと思うど」
「えっ?」
「俺が馬鹿力なだけじゃ。実際、この前叩き折った東吼の剣の倍は手応えば感じた。あれは十分強か。剣以外に使っても良かろうしな」
そして抱きしめていたのを離して、レオルロの瞳を見て言う。レオルロは胸を高鳴らせ、表情に明るさと力を取り戻した。
「分かった。うん、費用はちゃんと考えて作ったから大丈夫だよ、そこも自慢なんだ、普通にあれを作ると高くつくからね。初めて作った武器なんで問題もあったけど、残り二つも必ず改良して使えるようにするから! 待っててよ、アルキリーレ姉ちゃん!」
「おお! 期待しちょるど!」
にっかりとアルキリーレは笑って、意気込むレオルロの頭をわしわしと撫でた。
早速改良に取りかかったレオルロを置いて工房を後にしたアルキリーレとペルロ。ペルロはアルキリーレに問う。
「あまり期待には添えなかったかもしれななくてすいませんが、彼には意外と優しかったですね。その、我が友には初対面時やや塩対応だったとぼやかれましたが」
「頑張る少年には頑張り続けられるようにするもんじゃ。俺は叩くばかりの故郷の馬鹿共とは違うばい。大体、初めてでアレなら寧ろ驚きじゃ。可愛い奴よ、先が楽しみじゃ」
あくまで子供に対しての励ましのつもりだったのかもしれないけどアレは惚れちゃったよなあ、と、罪な女だなあとか増えるライバルとかでもまあ楽しいようなら何よりですとか、色々な思いが胸の内を巡るペルロ十八世であったが。
「そいにしても、こん国の有力者には年寄が少なく若者が多かのう」
国では各部族の旧弊に凝り固まった中年や老人とバチバチにやりあっていた身として、アルキリーレは少し不思議に思い。
「ああ、つい最近先代教帝が亡くなって、それを切っ掛けに世代交代が進んでね……新風を臨む機運に我が友カエストゥスの演説が刺さったのですよ。他にも有為な若い人材は多かったのですが……」
「ふうん?」
それにペルロが答えながら二人歩みを進める。アルキリーレは目を細めた。幾つかの思考が脳内を巡り連結する。
「実に参考になったど。……早速一仕事せねばな」
アルキリーレの脳内では、既に戦支度の筋立てが始まっていた。
「ほう。試してみて良かか?」
取り出されたのは、普通の鉄とは見た目からして明らかに違う、独特の波打つような輝きを持つ剣。戦士として早速興味をそそられるアルキリーレ。
「どうぞどうぞ! 家畜の肉に鎧用の鉄板を括り付けて試したけどざっくり刃が入るし、騎士に鎚矛で殴らせても刃毀れ一つも……」
「チェストぉおおっ!」
バキッ!
「折れたど」
「うっそだろぉ!? その斧何!? 見せて! え、そんな、素材は確かに質がいいけど普通!? お姉さんどんな腕力してんの!?」
最初からいきなり躓いた。自信満々繰り出した剣が、アルキリーレが切れ味より頑丈さに興味を持って自分の斧でぶっ叩いて検証してみた結果、普通に折られてしまったのだ。自信作の完敗に流石に動揺しおろおろし叫ぶレオルロ。
しかも斧が凄いのかと思ったらしかもアルキリーレの力によるもので、二重に混乱するレオルロだが、何とかショックから立ち直り次の武器を取り出す。
「それならこれ! 連弩! 弩は熟練射手が使う弓に比べて連射性・速射性に劣るってよく言われるけど、こいつなら威力そのままで連射もいけるんだ!操作方法は」
次に取り出したのは改良された弩だ。従来型の弩と違い上に太矢を収める容器と装填する機構、そして連続して弦を引き絞る為の機構が搭載されている。
「どれどれ」
これも早速手に取るアルキリーレだったが……
ぼきっ!
「……あ」
「操作法説明しようとしてる間に弄って壊すなあああ!?」
またぶっ壊してしまった。しかも今回は壊せるかどうか試そうとしたのではなく、蛮族なアルキリーレが複雑な機械を話半分で操作しようとしたせいで、わざとじゃ無かったので流石にちょっと表情を引き攣らせるアルキリーレ。怒るレオルロ。
「いやでも、すぐ壊れるようじゃ戦場では役に立たんど。落とそうが濡らそうが凍ろうが使えてこその武器ぞ」
だが、壊れた時点で問題があるとアルキリーレは指摘する。
雨、霧、雪、吹雪が多く、そこら中に小川もあり、霧深く朝露滴る森の中や春の泥濘等、極限環境だらけの北摩で投槍や投斧が弓に対して駆逐されずまた弩が流行らない理由でもあるが、軍事的には信頼性というものが大切なのだと。
そこに考えが及ばないのが、ペルロが才を見込んで紹介したとは言え天才少年もやはり戦下手な今のレーマリア人だった。
「え? じゃあこの携帯式投火器も駄目!?」
さっきとは別の方向性、想定以上ではなく想定外の指摘を受け動揺するレオルロは、弩から弓を外し長い金属筒と金属瓶を二つ付けた様な武器を持ち困り果てた。
投火器。レーマリアのみで実用化されている兵器で、門外不出の調合で作られた極めて強力かつ難消火の発火燃料を炉で加熱しサイフォンで噴射する兵器だ。炉とサイフォンが複雑かつ巨大なので、軍船に積載して海戦に用いるか馬車に積んだり攻城塔に乗せたりして城攻めに用いるのが主だが、それだって中々扱いが大変な代物だ。それを個人携帯可能な武器にしたのは、それ自体は物凄い技術だと言えた。事実アルキリーレも驚いた。元々の投火器自体が驚異的な代物だったというのにと。しかし懸念事項もある。
「アレば小型化したのは物凄かな。大した才能じゃ……じゃっどんこいも随分複雑そうじゃな……今度はちゃんと聞くから、使い方を教えたもんせ」
「う、うん、ええとね」
レオルロはやや早口で説明した。サイフォンではなく圧縮空気とポンプを用い、金属瓶をねじ込んで燃料を装填。炉では無くアルコールを染みこませた火縄で着火する。弩と同じく引き金で使用する。使用回数や射程はかくかくしかじかと。
「一発毎に装填が大変な弩と違い燃料金属瓶一つで何回も撃てるのは良かな。じゃっどん火が要るのと、燃料瓶と空気瓶と管が罅に弱いのと、あと射程距離が13歩尺位なのが気になるのう。かなり近寄らないと使いにくい割に、近寄られると脆い。弩よりも更に大きく重く機構的に放り投げて地面に置く訳にも行かんから、弓と違って即座に接近戦用の武器に持ち替えるっちゅうのもしにくそうじゃし……」
「うー……」
携帯投火器を壊さないように慎重に手に取り回して見つめながら思った所を指摘するアルキリーレと、それを聞いて緑の瞳をちょっとうるうるさせるレオルロ。
「というか大体、こん国の軍が弱いのは、兵や騎士が軟弱だからで、どんな武器ば持たせてもそこ直さんと無駄じゃなかか?」
「うーっ! 大きな兵器はまだ作ってないけど実験は済んでて作ったらもっとずっと凄いのもあるし! こっちの速射式投矢機は室内で試射は出来ないけどちゃんと凄いんだし! その内絶対びっくりさせてやるんだからな!」
そしてそもそも根本的に改良するべきは武器じゃなく兵士ではなかろうかと言うアルキリーレに、天才としての初めての駄目出しに涙目になってそう叫ぶレオルロだったが……
「よかよか」
「ふぇっ!?(////)
気にするなと言うと、アルキリーレはレオルロの頭を撫でてその顔を己の胸元に抱き寄せた。豊かで柔らかな感触に赤面するレオルロ。涙も引っ込む。
「泣き虫になんな、少年は怒って生意気なくらいがよか。絶対びっくりさせてくれるんじゃな、そん意気じゃ。泣くよかひっ飛べ」
抱きしめて頭を撫でながら、耳元にそう語り聞かせるアルキリーレ。こくこくと頷くレオルロ。
ちなみに横でペルロ十八世はかなり羨ましそうにしていた。この色欲聖職者!
「大体、最初の剣は、費用に問題無かなら普通に量産してよかと思うど」
「えっ?」
「俺が馬鹿力なだけじゃ。実際、この前叩き折った東吼の剣の倍は手応えば感じた。あれは十分強か。剣以外に使っても良かろうしな」
そして抱きしめていたのを離して、レオルロの瞳を見て言う。レオルロは胸を高鳴らせ、表情に明るさと力を取り戻した。
「分かった。うん、費用はちゃんと考えて作ったから大丈夫だよ、そこも自慢なんだ、普通にあれを作ると高くつくからね。初めて作った武器なんで問題もあったけど、残り二つも必ず改良して使えるようにするから! 待っててよ、アルキリーレ姉ちゃん!」
「おお! 期待しちょるど!」
にっかりとアルキリーレは笑って、意気込むレオルロの頭をわしわしと撫でた。
早速改良に取りかかったレオルロを置いて工房を後にしたアルキリーレとペルロ。ペルロはアルキリーレに問う。
「あまり期待には添えなかったかもしれななくてすいませんが、彼には意外と優しかったですね。その、我が友には初対面時やや塩対応だったとぼやかれましたが」
「頑張る少年には頑張り続けられるようにするもんじゃ。俺は叩くばかりの故郷の馬鹿共とは違うばい。大体、初めてでアレなら寧ろ驚きじゃ。可愛い奴よ、先が楽しみじゃ」
あくまで子供に対しての励ましのつもりだったのかもしれないけどアレは惚れちゃったよなあ、と、罪な女だなあとか増えるライバルとかでもまあ楽しいようなら何よりですとか、色々な思いが胸の内を巡るペルロ十八世であったが。
「そいにしても、こん国の有力者には年寄が少なく若者が多かのう」
国では各部族の旧弊に凝り固まった中年や老人とバチバチにやりあっていた身として、アルキリーレは少し不思議に思い。
「ああ、つい最近先代教帝が亡くなって、それを切っ掛けに世代交代が進んでね……新風を臨む機運に我が友カエストゥスの演説が刺さったのですよ。他にも有為な若い人材は多かったのですが……」
「ふうん?」
それにペルロが答えながら二人歩みを進める。アルキリーレは目を細めた。幾つかの思考が脳内を巡り連結する。
「実に参考になったど。……早速一仕事せねばな」
アルキリーレの脳内では、既に戦支度の筋立てが始まっていた。
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