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・第十四話「蛮姫執政官親衛隊を閲兵する事」
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かくして早速、執政官親衛隊の者達が集められた。
(彼等は皆信頼できる筈だ、との事だったが、さて、どうだか)
執政官親衛隊の中でも特に信頼できる者を集めるよう、とアルキリーレは言ったが、カエストゥスは別に信頼できない者はおらぬと一通り呼び集めた様子であった。尤も、アルキリーレの考えからすれば別にそれも問題では無い。
総数は数百人。歩兵隊と騎兵隊と射撃兵隊に別れて兵種毎に鎧の構造は異なるが、何れも揃いの磨き上げられて輝く金属鎧。兜に派手な羽根飾り、背中に高級で目にも鮮やかな色合いの外套と陣羽織をつけ、全身鎧ではない一部兵種の者が部分鎧の下から見せる軍服もこれまたカラフルで舞台俳優さながらの出で立ちだ。騎兵隊の馬も毛並み輝く美々しい駿馬ばかりで毛並みの色までもが輝く栗色に統一されている。
武器は、歩兵は射撃兵に遠距離攻撃の役割を集束させた為投擲武器類を廃し武装は長柄斧槍を掲げた者と剣と盾を帯びた者の二種。騎兵は長槍と剣で武装している者が大半だが、一部の部隊は長槍の代わりに馬上短弩※を装備していた。射撃兵は全員弩兵で、馬車に投矢機と投石機が一台づつ。数百人の隊である事を考えれば投矢機と投石機は随分な贅沢だ。
※ちなみにカラコールとは地球の軍事用語とは異なり、この馬上用の小型に作られた弩の弦を引く機構が回転式で金具の根元が蝸牛の殻を思わせる螺旋状である事に因む弩の名称である。
これまた同一の装備は同一の規格で作り揃えられた代物。品質も実によさそうに見える。鋼の質は一級、長柄の柄や弩の台尻も磨き込まれた高級な木材が使われ、装備のあちこちに彫金や飾り彫りまで施されている。
射撃兵が撃ち怯ませ、歩兵が長柄斧槍を振りかざして射撃兵を守り踏み込む者は剣で斬り、敵が怯んだ所を騎兵が崩す。一部の騎兵の馬上短弩装備は、敵の迎撃射撃に対する牽制や激突直前に敵兵を混乱させるのが目的と言った所か。
(装備の質は羨ましいが)
北摩の軍が装備は基本的に自弁であり外見はてんでバラバラ、質も低く、兜と鎖帷子を持っているものや略奪した別々の鎧の部品を継ぎ接ぎして歪な一揃いをでっち上げているものはまず大した物持ちと言って良いレベルで、毛皮や革鎧を纏うものはまだましであり、盾と武器だけ、あるいは武器だけで勇猛果敢を示すべく上半身裸で入れ墨やボディペインティングを誇示するというのもかなりいたというていたらくであった。だが。
(見栄えばかりじゃな)
青年の兵士は上品なお坊ちゃん、壮年の士官は実直な商家の家長か忠実な執事と言った雰囲気であり、統制は兎も角野獣の如き剽悍精強さを誇った北摩兵を見慣れたアルキリーレからすれば、何処か遊びじみて見えた。
(ならば予定通り)
と、整列はきちんと熟して待っていた執政官親衛隊達に、アルキリーレはカエストゥスと共に跨がった馬を進ませ現れた。
ざわ、と執政官親衛隊達は騒めいた。見栄え良く仕立てた神話じみた軽装鎧を軍服の上から纏い煌びやかな鞍を置いた白馬に跨がる執政官カエストゥスは彼等の見慣れた主だが、その傍ら、リクエスト通りカエストゥスが揃えた不格好一歩手前な程に骨太な赤毛馬に跨がるアルキリーレの姿が彼等を驚かせた様子であった。
カエストゥスが持ってきた鎧を、アルキリーレはある目的の為に先に述べた〈別々の鎧を継ぎ接ぎ〉していた故郷の戦士のように分解して仕立て直していた。
兜の庇のみを鉢金として被り、鬣のような豪奢な金髪を靡かせる。何着も貰ったドレスの内一着を鎧下として使えるようにあちこち弄り、袖を切り詰め肩鎧と手甲を付け、本来板金鎧の隙を埋めるのに下に着用する鎖帷子を主に用いてドレスに防御を施し、胸元に乳房の盛り上がりを隠さぬように本来別用途の装甲を複雑に組み合わせた形の胸甲を着用、鎧の草擦を切り詰めたスカートと組み合わせ、大きく露にした脚部にオーバーニーロングブーツめいて脚甲を履く、といった出で立ちだ。
無論フル装備の鎧を体力的に苦手とするカエストゥスとは訳が違う。アルキリーレは故郷では男装して寧ろ一分の隙も無い鎧を着こなしていた実だ。フル装備は重いからが理由では無い。それは、あくまでこの姿を取る事に意味がある為だ。
カエストゥスの軽装鎧も指揮官としての見栄えを意識してはいるが、カエストゥスが体力的に軽装鎧を必要としせめて見栄えだけは繕ったのに対し、アルキリーレの鎧はある目的の為に見栄えを優先して敢えて装備できる装甲量に制限を掛けたのだ。
そのアルキリーレの目的が、次からの言葉で明らかになる。
「俺がこの度、執政官カエストゥス・リウスの軍犬を預かり諸君等を訓練教導する軍略相談役、アルキリーレ・ゲツマン・ヘルラスじゃ!」
「……!!」
アルキリーレは大喝した。亡命に秘した名も躊躇わず名乗り上げる、その大喝に兵士達は一瞬純粋に驚き威圧された。
ざわざわざわざわ……!
だがすぐ、無数の驚きの声が場に満ちあふれる。大分訛りは激しいが意図は通じた様子のざわめきだ。
(無論そうじゃろう。突然故の不審、不信、女の下風に立てまいという思い、下心)
北摩男であればこの時点で全員死ぬまで抗命する男尊女卑狂戦士と化すだろうとアルキリーレは思っている。だが図書館で調べカエストゥスの言葉で確信を持ったように、レーマリア男はそうではない。
女を戦わせないのではなく自分が女の為に戦いたいという思い、女に認められ称賛されたいという思い。そこに彼等の心を掌握する為の一手を打つ。その為に、女である事を強調するこの姿をアルキリーレは武器として能動的に選んだのだ。北摩で男装を選んだのと同じく、あくまで手段として。どんな姿になろうと己の在り方は変わらぬという自負がある為に。
尤もどちらかというとアルキリーレは欲望を見据えて考えての装いだったが。
「「「「「なんだか良く分からんが凄い美人だ!!」」」」」
という素直な感想が全体の割合の内では大半だったのだが、それは特に問題は無かった。何故なら、ここから兵士達はどっちにしろアルキリーレが想定した反応と同じ反応を返したからだ。
「無論俺の実力を諸君等は知ぃまい! 故に本日はその一旦を示す! 我と思わん者は木剣か木槍を取り俺と一騎打勝負ば挑めぃ! 歩兵戦でん騎兵戦でん射撃戦でん受けて立つ! 勝った者には俺をくれてやっぞ!」
「「「「「うおおおおおおお!!!」」」」」
「ええええええ!?」
そんな過激な提案をすると聞かされていなくて驚くカエストゥスを除く一同大興奮である。何しろ皆、権利を預かるだの軍略相談役だの訓練教導だのはこの段階で大半頭から吹っ飛んでいる。あるいは最初から話半分だったかもしれない。兎に角、戦って勝てば世にも稀な絶世の美女が手に入る、という所に全員の意識は集中していた。せいぜい違うのは個々の騎士道精神的な清い付き合いをしたいかと肉欲的下心の比率くらいだろう。貴族同士で美姫を巡る恋争いに馬上槍試合で決着を付けるなんていう雅な実話もちょくちょくあるのがレーマリアという国である。違うのは美女自身が戦うと言っている事でこれは流石に異国を舞台にした空想的な御伽噺にしか無い話だが、勝って異郷の美姫を娶るというのはよくある筋書きで有る。男達は寧ろ、騎士道精神的にどうご婦人に出来るだけ怪我をさせずに勝つかを考えていた。
無論、男達の情熱と恋慕と欲望は、金的を喰らった睾丸めいて惨たらしく粉砕される事となる。
(彼等は皆信頼できる筈だ、との事だったが、さて、どうだか)
執政官親衛隊の中でも特に信頼できる者を集めるよう、とアルキリーレは言ったが、カエストゥスは別に信頼できない者はおらぬと一通り呼び集めた様子であった。尤も、アルキリーレの考えからすれば別にそれも問題では無い。
総数は数百人。歩兵隊と騎兵隊と射撃兵隊に別れて兵種毎に鎧の構造は異なるが、何れも揃いの磨き上げられて輝く金属鎧。兜に派手な羽根飾り、背中に高級で目にも鮮やかな色合いの外套と陣羽織をつけ、全身鎧ではない一部兵種の者が部分鎧の下から見せる軍服もこれまたカラフルで舞台俳優さながらの出で立ちだ。騎兵隊の馬も毛並み輝く美々しい駿馬ばかりで毛並みの色までもが輝く栗色に統一されている。
武器は、歩兵は射撃兵に遠距離攻撃の役割を集束させた為投擲武器類を廃し武装は長柄斧槍を掲げた者と剣と盾を帯びた者の二種。騎兵は長槍と剣で武装している者が大半だが、一部の部隊は長槍の代わりに馬上短弩※を装備していた。射撃兵は全員弩兵で、馬車に投矢機と投石機が一台づつ。数百人の隊である事を考えれば投矢機と投石機は随分な贅沢だ。
※ちなみにカラコールとは地球の軍事用語とは異なり、この馬上用の小型に作られた弩の弦を引く機構が回転式で金具の根元が蝸牛の殻を思わせる螺旋状である事に因む弩の名称である。
これまた同一の装備は同一の規格で作り揃えられた代物。品質も実によさそうに見える。鋼の質は一級、長柄の柄や弩の台尻も磨き込まれた高級な木材が使われ、装備のあちこちに彫金や飾り彫りまで施されている。
射撃兵が撃ち怯ませ、歩兵が長柄斧槍を振りかざして射撃兵を守り踏み込む者は剣で斬り、敵が怯んだ所を騎兵が崩す。一部の騎兵の馬上短弩装備は、敵の迎撃射撃に対する牽制や激突直前に敵兵を混乱させるのが目的と言った所か。
(装備の質は羨ましいが)
北摩の軍が装備は基本的に自弁であり外見はてんでバラバラ、質も低く、兜と鎖帷子を持っているものや略奪した別々の鎧の部品を継ぎ接ぎして歪な一揃いをでっち上げているものはまず大した物持ちと言って良いレベルで、毛皮や革鎧を纏うものはまだましであり、盾と武器だけ、あるいは武器だけで勇猛果敢を示すべく上半身裸で入れ墨やボディペインティングを誇示するというのもかなりいたというていたらくであった。だが。
(見栄えばかりじゃな)
青年の兵士は上品なお坊ちゃん、壮年の士官は実直な商家の家長か忠実な執事と言った雰囲気であり、統制は兎も角野獣の如き剽悍精強さを誇った北摩兵を見慣れたアルキリーレからすれば、何処か遊びじみて見えた。
(ならば予定通り)
と、整列はきちんと熟して待っていた執政官親衛隊達に、アルキリーレはカエストゥスと共に跨がった馬を進ませ現れた。
ざわ、と執政官親衛隊達は騒めいた。見栄え良く仕立てた神話じみた軽装鎧を軍服の上から纏い煌びやかな鞍を置いた白馬に跨がる執政官カエストゥスは彼等の見慣れた主だが、その傍ら、リクエスト通りカエストゥスが揃えた不格好一歩手前な程に骨太な赤毛馬に跨がるアルキリーレの姿が彼等を驚かせた様子であった。
カエストゥスが持ってきた鎧を、アルキリーレはある目的の為に先に述べた〈別々の鎧を継ぎ接ぎ〉していた故郷の戦士のように分解して仕立て直していた。
兜の庇のみを鉢金として被り、鬣のような豪奢な金髪を靡かせる。何着も貰ったドレスの内一着を鎧下として使えるようにあちこち弄り、袖を切り詰め肩鎧と手甲を付け、本来板金鎧の隙を埋めるのに下に着用する鎖帷子を主に用いてドレスに防御を施し、胸元に乳房の盛り上がりを隠さぬように本来別用途の装甲を複雑に組み合わせた形の胸甲を着用、鎧の草擦を切り詰めたスカートと組み合わせ、大きく露にした脚部にオーバーニーロングブーツめいて脚甲を履く、といった出で立ちだ。
無論フル装備の鎧を体力的に苦手とするカエストゥスとは訳が違う。アルキリーレは故郷では男装して寧ろ一分の隙も無い鎧を着こなしていた実だ。フル装備は重いからが理由では無い。それは、あくまでこの姿を取る事に意味がある為だ。
カエストゥスの軽装鎧も指揮官としての見栄えを意識してはいるが、カエストゥスが体力的に軽装鎧を必要としせめて見栄えだけは繕ったのに対し、アルキリーレの鎧はある目的の為に見栄えを優先して敢えて装備できる装甲量に制限を掛けたのだ。
そのアルキリーレの目的が、次からの言葉で明らかになる。
「俺がこの度、執政官カエストゥス・リウスの軍犬を預かり諸君等を訓練教導する軍略相談役、アルキリーレ・ゲツマン・ヘルラスじゃ!」
「……!!」
アルキリーレは大喝した。亡命に秘した名も躊躇わず名乗り上げる、その大喝に兵士達は一瞬純粋に驚き威圧された。
ざわざわざわざわ……!
だがすぐ、無数の驚きの声が場に満ちあふれる。大分訛りは激しいが意図は通じた様子のざわめきだ。
(無論そうじゃろう。突然故の不審、不信、女の下風に立てまいという思い、下心)
北摩男であればこの時点で全員死ぬまで抗命する男尊女卑狂戦士と化すだろうとアルキリーレは思っている。だが図書館で調べカエストゥスの言葉で確信を持ったように、レーマリア男はそうではない。
女を戦わせないのではなく自分が女の為に戦いたいという思い、女に認められ称賛されたいという思い。そこに彼等の心を掌握する為の一手を打つ。その為に、女である事を強調するこの姿をアルキリーレは武器として能動的に選んだのだ。北摩で男装を選んだのと同じく、あくまで手段として。どんな姿になろうと己の在り方は変わらぬという自負がある為に。
尤もどちらかというとアルキリーレは欲望を見据えて考えての装いだったが。
「「「「「なんだか良く分からんが凄い美人だ!!」」」」」
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「「「「「うおおおおおおお!!!」」」」」
「ええええええ!?」
そんな過激な提案をすると聞かされていなくて驚くカエストゥスを除く一同大興奮である。何しろ皆、権利を預かるだの軍略相談役だの訓練教導だのはこの段階で大半頭から吹っ飛んでいる。あるいは最初から話半分だったかもしれない。兎に角、戦って勝てば世にも稀な絶世の美女が手に入る、という所に全員の意識は集中していた。せいぜい違うのは個々の騎士道精神的な清い付き合いをしたいかと肉欲的下心の比率くらいだろう。貴族同士で美姫を巡る恋争いに馬上槍試合で決着を付けるなんていう雅な実話もちょくちょくあるのがレーマリアという国である。違うのは美女自身が戦うと言っている事でこれは流石に異国を舞台にした空想的な御伽噺にしか無い話だが、勝って異郷の美姫を娶るというのはよくある筋書きで有る。男達は寧ろ、騎士道精神的にどうご婦人に出来るだけ怪我をさせずに勝つかを考えていた。
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