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・第三十三話「闘技場事件後始末の事(前編)」
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そんなこんなで、闘技場事件は終結した。だがある意味カエストゥスやペルロ十八世が忙しくなるのはこれからである。
まず最後の最後に割り込んできたシルビ家地方軍団については、現地で宣言したように兵士達には責は問わぬ。士官やシルビ家に属する下級貴族等は取り調べに於いてどこまでが当人の自由判断であったかに置いて裁定が下され、己の意思では無かった者は許され、そうでなく己の意思で事に加わった者は対応した処罰を受ける事になるだろう。
その執行と赦免において、法律と権威によって適正に処理せねばならぬ。法律においては執政官たるカエスティスの仕事であり、権威においては教帝たるペルロ十八世の仕事であった。
そしてベルスコニス・シルビら保守派の面々について、調査を鋭く加えなければならない。汚職、東吼への内応、この事件を奇貨として纏めて汚濁を一掃してしまわなければならない。
皮肉にもそれは、事の発端であったチェレンティ・ボルゾやアントニクスの願いの一部でもあった事だ。
そして問題なのは、シルビ家関係はそれでいいとして、正にそのチェレンティ・ボルゾとその配下達をどうするかであった。
「常識的に言えばまあ極刑です。威迫者の掌握、執政官暗殺未遂、教帝である私については、まあ暗殺か拉致か私の態度を見て決めるつもりだったかもしれないが、それは誤差という程ですからね。……その上で我が友、そしてアルキリーレ殿。貴方達がどうしたいか、という所に、私としては出来る限り沿いたいと考えていますが」
どうせカエストゥスは甘い事を考えているし、どうせアルキリーレは常識と法に囚われない乱世的な考えを巡らせておるのでしょう、と、ペルロ十八世は笑った。
場所は教帝宮堂、ペルロ十八世の私室。表は教帝近衛隊が固め、執政官親衛隊はこの場を任せ一部は衛士隊と共にベルスコニスの仲間達を抑えに回っている。
そして残りの執政官親衛隊はあの場にいたアントニクスらチェレンティの部下達を一先ず闘技場を仮の留置所として押し込め、出入り口を抑え閉じ込めている。そしてチェレンティ・ボルゾ本人は……
「どうするんだ?」
この場に連行されてきていた。覚悟を決めた様子で寧ろ泰然と己の処罰を問う。
「アルキリーレ。彼が私を暗殺しようと思ったのは、偏にこれまでの私の政治が情けなかったからだと私は思う。外交戦争においては言わずもかなだが……内政についても、私も是正を試みてはいたが、穏当な手を取ろうとするあまり、速度ある対応とは言えていなかったかもしれない」
優しすぎるカエストゥスは己を暗殺しようとした相手を弁護しようとするように、そう言った。アルキリーレは、それに流石に少し行き過ぎではと思いながらも。
「まあ、俺がま少っと早よお主の所に来て、諸々の事が進んでいればどうなっちょったかは……どうかのう」
「さあ、な」
アルキリーレがより強行な改革を早期から推し進めさせていれば決起する必要は無かったか? とチェレンティに問い、チェレンティは顔を背けた。
だがそれは、そうだとすればあまりにも馬鹿馬鹿しすぎる、という憤慨が多分に込められていて……つまりその要素はあったかもしれないとプライドとして認めにくいという要素はあるのだろう。
アルキリーレはチェレンティへの警戒を怠ってはいない。武器を突きつけられ、腰の五本指幅短剣を剣帯毎捨てて投降したとはいえ、簡単なボディチェックはしたが急ぎ連行を優先した結果まだ暗器を何処かに呑んでいる可能性も否定できない。尤もそれを使っても状況を打破できぬ状況で軽挙に出る程阿呆ではないとも確信していたし、仮に動こうとしても即座に斬れると分析してはいたが。
「少っのともこん事件ば生んだのがお主の不徳ちゅうは、完全に否定するは難しい……といえばまあ難しいと言えん事もなか」
そんなチェレンティへの言葉とは別に、アルキリーレはカエストゥスに諭しまた考える事をさせる。
「慈悲の政治を行うなら、そよ阻む者は慈悲無く排除せんと、慈悲は消されるのがこん世の定め……遅そなるだけでも、今必要としちょっ者に間に合わん事もある」
優しくあろうとする事は、時として結局その易しさを失わせてしまう。この世から優しさを守るには逆に獰猛なまでの攻撃性が必要な時もある。
緊急の場合、進路上にあるものを壊してでも進まなければ間に合わない事もある。
「まあ、そいはそいで道ば誤れば、慈悲の政治のつもりの無慈悲に成り果てるがの」
だからと言って勇み足に粛清を繰り返せば、己やチェレンティと同じどころかもっと酷い事に落ちる。
「大事なのは、諸々兼ね備えつつ、遅くならぬ事じゃな」
そんな現実の片方しか知らなかった者として、片方しか知らぬ者達へアルキリーレは告げた。
「俺としては、チェレンティが溜め込んでおる情報等は要るち思うと。威迫者の摘発、腐敗元老院議員の名簿、東吼の情報網……その他、チェレンティが天下ば取ったらやろちしちょった事。戦力。どれ一つとっても無駄には出来んと……懐に毒蛇を入れる訳には行かんが。それは毒蛇かどうかじゃの」
そして客観的かつ冷静な評価として、レーマリアを東吼から守るには少しでも多く色々なものが要る。
だがまだ謀反気があるなら、その時はチェレンティの命はメリットとリスクを考えても切り捨てざるを得ない。例えボルゾ家の情報や兵力を尤も効率的に読み解き運用するのに必要な人材だとしても、信頼性が無ければ使いようがない、と。
「どうする」
アルキリーレはカエストゥスに問い。
「こうしよう……入ってきて下さい、ルレジアさん」
カエストゥスは答えた。浴場での問答の時と違い、その時より成長して、自ら能動的にドアの外に声を掛け、可能性を呼び込んだ。
「!?」
初めてチェレンティの顔から覚悟が吹っ飛んだ。驚きの表情の原因となった、その声に応じて入ってきた人物とは……
まず最後の最後に割り込んできたシルビ家地方軍団については、現地で宣言したように兵士達には責は問わぬ。士官やシルビ家に属する下級貴族等は取り調べに於いてどこまでが当人の自由判断であったかに置いて裁定が下され、己の意思では無かった者は許され、そうでなく己の意思で事に加わった者は対応した処罰を受ける事になるだろう。
その執行と赦免において、法律と権威によって適正に処理せねばならぬ。法律においては執政官たるカエスティスの仕事であり、権威においては教帝たるペルロ十八世の仕事であった。
そしてベルスコニス・シルビら保守派の面々について、調査を鋭く加えなければならない。汚職、東吼への内応、この事件を奇貨として纏めて汚濁を一掃してしまわなければならない。
皮肉にもそれは、事の発端であったチェレンティ・ボルゾやアントニクスの願いの一部でもあった事だ。
そして問題なのは、シルビ家関係はそれでいいとして、正にそのチェレンティ・ボルゾとその配下達をどうするかであった。
「常識的に言えばまあ極刑です。威迫者の掌握、執政官暗殺未遂、教帝である私については、まあ暗殺か拉致か私の態度を見て決めるつもりだったかもしれないが、それは誤差という程ですからね。……その上で我が友、そしてアルキリーレ殿。貴方達がどうしたいか、という所に、私としては出来る限り沿いたいと考えていますが」
どうせカエストゥスは甘い事を考えているし、どうせアルキリーレは常識と法に囚われない乱世的な考えを巡らせておるのでしょう、と、ペルロ十八世は笑った。
場所は教帝宮堂、ペルロ十八世の私室。表は教帝近衛隊が固め、執政官親衛隊はこの場を任せ一部は衛士隊と共にベルスコニスの仲間達を抑えに回っている。
そして残りの執政官親衛隊はあの場にいたアントニクスらチェレンティの部下達を一先ず闘技場を仮の留置所として押し込め、出入り口を抑え閉じ込めている。そしてチェレンティ・ボルゾ本人は……
「どうするんだ?」
この場に連行されてきていた。覚悟を決めた様子で寧ろ泰然と己の処罰を問う。
「アルキリーレ。彼が私を暗殺しようと思ったのは、偏にこれまでの私の政治が情けなかったからだと私は思う。外交戦争においては言わずもかなだが……内政についても、私も是正を試みてはいたが、穏当な手を取ろうとするあまり、速度ある対応とは言えていなかったかもしれない」
優しすぎるカエストゥスは己を暗殺しようとした相手を弁護しようとするように、そう言った。アルキリーレは、それに流石に少し行き過ぎではと思いながらも。
「まあ、俺がま少っと早よお主の所に来て、諸々の事が進んでいればどうなっちょったかは……どうかのう」
「さあ、な」
アルキリーレがより強行な改革を早期から推し進めさせていれば決起する必要は無かったか? とチェレンティに問い、チェレンティは顔を背けた。
だがそれは、そうだとすればあまりにも馬鹿馬鹿しすぎる、という憤慨が多分に込められていて……つまりその要素はあったかもしれないとプライドとして認めにくいという要素はあるのだろう。
アルキリーレはチェレンティへの警戒を怠ってはいない。武器を突きつけられ、腰の五本指幅短剣を剣帯毎捨てて投降したとはいえ、簡単なボディチェックはしたが急ぎ連行を優先した結果まだ暗器を何処かに呑んでいる可能性も否定できない。尤もそれを使っても状況を打破できぬ状況で軽挙に出る程阿呆ではないとも確信していたし、仮に動こうとしても即座に斬れると分析してはいたが。
「少っのともこん事件ば生んだのがお主の不徳ちゅうは、完全に否定するは難しい……といえばまあ難しいと言えん事もなか」
そんなチェレンティへの言葉とは別に、アルキリーレはカエストゥスに諭しまた考える事をさせる。
「慈悲の政治を行うなら、そよ阻む者は慈悲無く排除せんと、慈悲は消されるのがこん世の定め……遅そなるだけでも、今必要としちょっ者に間に合わん事もある」
優しくあろうとする事は、時として結局その易しさを失わせてしまう。この世から優しさを守るには逆に獰猛なまでの攻撃性が必要な時もある。
緊急の場合、進路上にあるものを壊してでも進まなければ間に合わない事もある。
「まあ、そいはそいで道ば誤れば、慈悲の政治のつもりの無慈悲に成り果てるがの」
だからと言って勇み足に粛清を繰り返せば、己やチェレンティと同じどころかもっと酷い事に落ちる。
「大事なのは、諸々兼ね備えつつ、遅くならぬ事じゃな」
そんな現実の片方しか知らなかった者として、片方しか知らぬ者達へアルキリーレは告げた。
「俺としては、チェレンティが溜め込んでおる情報等は要るち思うと。威迫者の摘発、腐敗元老院議員の名簿、東吼の情報網……その他、チェレンティが天下ば取ったらやろちしちょった事。戦力。どれ一つとっても無駄には出来んと……懐に毒蛇を入れる訳には行かんが。それは毒蛇かどうかじゃの」
そして客観的かつ冷静な評価として、レーマリアを東吼から守るには少しでも多く色々なものが要る。
だがまだ謀反気があるなら、その時はチェレンティの命はメリットとリスクを考えても切り捨てざるを得ない。例えボルゾ家の情報や兵力を尤も効率的に読み解き運用するのに必要な人材だとしても、信頼性が無ければ使いようがない、と。
「どうする」
アルキリーレはカエストゥスに問い。
「こうしよう……入ってきて下さい、ルレジアさん」
カエストゥスは答えた。浴場での問答の時と違い、その時より成長して、自ら能動的にドアの外に声を掛け、可能性を呼び込んだ。
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