殺伐蛮姫と戦下手なイケメン達

博元 裕央

文字の大きさ
46 / 63

・第四十六話「会戦の事(前編)」

しおりを挟む
「今帰ったど! 勝利じゃ!」
「アルキリーレ! 無事でうわあああああああ!?」
「レオルロ、お主わい武器えものば役ん立ったど! 見事みんごと! よか少年ちごじゃ!」
「本当!? ありがうわああああ!?」
「何ちさっきからわあわあと!」
「アルキリーレ! お疲れ様です、これはレオルロの調合した栄養飲料に単神教モナドの神秘を付与した回復飲料エリクサでうわああ!?」
「だからさっきからわあわあとどぎゃんしとっとじゃ!」

 騎兵戦を勝利しレーマリア軍本隊に合流したアルキリーレ、早速本陣でカエストゥス、レオルロ、ペルロの三人が出迎え口々に無事を喜び発明の貢献を確かめ疲労の回復に努めようとするが皆驚き慄き叫ぶ。アルキリーレはきょとんとして首を傾げやがて訝しんで問い叫んだ。

「いや、そりゃあな、あれだよ、首級なまくびと返り血が理由だよ」

 漸く、まだ比較的慣れている方のチェレンティが突っ込みを入れた。

 そう、アルキリーレ、息せき切って帰ってきただけあって、金髪が赤毛に見える程戦場で派手に叩き切りまくった結果の返り血塗れの上、手にした鉈薙刀の切っ先にまだ仮面の奥で無念そうに目を剥いた敵将シディナンの首が突き刺さっている。この首を掲げてお前等の将は討たれたぞと敵兵共の士気を砕いて追い回していたからなのだが、さっきからカエストゥス、レオルロ、ペルロと向き直る度にアルキリーレの自慢げな笑顔より先に生首がドンである。

「そ、それは返り血なんだな!? 怪我は無いんだな!? それなら良かっ」
「おう、無傷じゃ。大勝利じゃど! それ見い! おいん手柄首じゃっど!」
「ひゃああああ!?」

 元気で帰ってきたから無事かと思ったら血塗れで驚き心配していたカエストゥスだが、怪我は無い事を知って安心……した所でアルキリーレが摘んだ花かもいだ果実でも見せるように笑顔で生首をずいと突きつけてくる。カエストゥスはとうとう尻餅を突いた。

「何ぞ、褒めんとか!? 勝利じゃっど!?」

 しまいにはちょっとむくれるアルキリーレ。北摩ホクマでは敵将の首は誉れの証なのだ。喜んで貰えると思って差し出していたのである。

「俺も一緒になって暴れて、痛快な大活躍だったと思うとはいえ、闘技場コロセウムで死者が出た時も流石にここまではやらんわ……」

 だが皆の反応もやむを得まい。一緒に戦った北摩混血ホクマハーフのアントニクスすらレーマリア育ち故にちょっと引いているのだ。レーマリアでは誰もこんな事はしない。

「あれだ、文化の違いだ。釣った魚とか優勝トロフィーとか、猫が捕まえたネズミを飼い主に持ってくるくらいの感覚なんだ、アルキリーレとしては」
「何ぞ、レーマリアでん首は喜ばれんとか。じゃあ耳か鼻ば削いで」
「ぶ、武器か鎧の一部でも持ってきてくれればいい!」
「そんで良かとか、少しく本人特定ばしにくか気もすっが、まあよかど」

 威迫者マヒアスを率いる過程である程度血腥い行為をした事もあるチェレンティが何とか説明し諭し抑えバランスを取る。

 尚も感覚が殺伐でやっっぱりレーマリア人であれば怖くて出来ないような手柄の確認方法を提案するのを抑える。何とかアルキリーレも文化の違いは認識したようで。

「ともあれ次の戦じゃ。まずおいに従った騎兵共と馬共にもこん回復飲料エリクサば飲ませちくいやったんし、こいは中々効くど、良か! ペルロ、レオルロ、かたじけないかっちけなか! そいと、今ん状況は!?」
「敵第一軍と睨み合っている所だ。もうじき会敵する」

 馬を降りて床几に腰掛け、回復飲料エリクサを飲みながら陣幕の内に設えられた卓の上に広げられた地図と、その上に並べられた敵味方戦力を示すコマを睨むアルキリーレ。カエストゥスが、本来彼が主将だが傍らに立ち、アルキリーレに説明する。

「ん、分かった。そうそうレオルロ、良か鎧じゃったど。合戦用いっちゃびらの奴も頼むど。あ、騎兵隊にも約束しちょるから陣羽織や新品の鎧いっちゃびらば返しちゃれ」

 そしてどかっと床几に腰掛けたアルキリーレの鎧を小姓めいてレオルロが返り血に表情を引き攣らせながらも脱がし、合戦用の新しい金で飾った鎧を着せていく。

 そしてその間誰にもやれる奴がいないので、硬い表情をしながらチェレンティが敵将の首をかたづけた。ペルロがその首に、異教の祈りですいませんが、と、弔いの儀式を行う中、アルキリーレは彼我の戦力を数え、地形を見、軍勢の配置を見、策を巡らせた。

 幸い、先の戦いは奇襲が決まった快勝故に味方の犠牲は負傷者込みでもごく少数だった。合流してこの戦場の戦力は、首都ルームに待機させてもしもの守りと後方の供えにしている第三国家軍団レギオー残存戦力である三千を除いて二万五千五百、的は二万一千から大体一万九千程には減った筈……

「ん?」

 と、早速軍略を巡らせ始めたアルキリーレがふと気づくと、カエストゥス、ペルロ、レオルロの三人が神妙な顔で並んでいた。傍らには促した様子のチェレンティとアントニクスも。

「ごめんね、まず言わなきゃならない事があった」

「慣れない習慣に少し動揺してしまい、すいませんでした」
「その通りだ。無事で良かった。よく戦ってくれた。勝ってくれてありがとう」

 ペルロ、レオルロ、カエストゥスが、揃って深々と腰を折り礼をする。うん、とチェレンティが頷き。

「えい、えい、おーっ!」

 タイミングを読んで、アントニクスが改めて勝鬨を上げさせた。

「「「えい、えい、おーっ!!」」」

 長らく戦からも勝利からも遠ざかっていたレーマリア男等からの、拙い勝鬨がそれに同調する。

「……うむ! 良かど! 祝着至極ぞ!」

 その声に、アルキリーレが心底嬉しげににっかりと笑って応え。

兵子へこの配置じゃがの、こうせよ。それと、さっき言うた陣羽織と鎧きらきらしかのじゃがな、予備・・があったじゃろ……」

 そして会戦の準備を開始した。立ち上がり、地図に広げられた駒を動かすと、陣幕から出て遠くを眺めながら。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

人見知りと悪役令嬢がフェードアウトしたら

渡里あずま
恋愛
転生先は、乙女ゲーの「悪役」ポジション!? このまま、謀殺とか絶対に嫌なので、絶望中のルームメイト(魂)連れて、修道院へ遁走!! 前世(現代)の智慧で、快適生活目指します♡ 「この娘は、私が幸せにしなくちゃ!!」 ※※※ 現代の知識を持つ主人公と、異世界の幼女がルームシェア状態で生きていく話です。ざまぁなし。 今年、ダウンロード販売を考えているのでタイトル変更しました!(旧題:人見知りな私が、悪役令嬢? しかも気づかずフェードアウトしたら、今度は聖女と呼ばれています!)そして、第三章開始しました! ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

処理中です...