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・第四十九話「会戦後の事」
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レーマリア軍は初の大勝利に、平和を好み争いを好まぬ国民性とはいえそこそこ沸き返っていた。大勝利なのにそこそこなあたりどれだけ平和的なのかというところだが、実際完全に包囲し将を討ち取ったにも関わらず、第一軍は潰走したが殲滅されきってはいなかった。
これはアルキリーレが兵の練度と追い詰められた敵が死に物狂いで抵抗した場合の損耗を思えば殲滅は不可能であると考えた事もあるが、ある程度鍛え上げられたとはいえ敵を討ち取ることより自分達が生き残ることを優先し死を敵味方問わず忌むレーマリア人気質のせいもあった。民族冗談として〈好戦的なレーマリア人は国土拡大期に皆戦って死んだので今は平和的なレーマリア人しかいない〉と言われる事もあるが……
ともあれそれ故包囲の隙間を抜けて落ち延びる東吼軍もいたが、アルキリーレも兵が包囲殲滅に及び腰である事と損害を軽微に留める事を重んじた上で同時に無論敵兵をできる限り漸減しその戦意を砕いて他の東吼軍に再合流する数を最低限に留めるべく、投矢機や弓や弩で〈追い払う為〉と称して射撃させ、また自身直属の騎兵を噴き居て追い立て追い散らしてやった。故に少なくとも戦力としての第一軍は壊滅したとも言えた。また、完全包囲殲滅を狙ってしつこく戦い続け無かった為にレーマリア軍の損害はある程度軽微に留められた。今、手元の戦力は負傷による後送も計算に入れて二万三千五百程か。
「勝利万歳! 将軍万歳!」
「ありがとー!」
「生き残れたー!」
「助かったー!」
「勝利万歳! 将軍万歳!」
敵を倒せた国を守れたというより生き残れたという感慨の方が強いし、少ないとは言え亡くなった者を痛む気持ちもレーマリア人は非常に強い。それでも大勝利だからこそ犠牲者が少なく、また生き残れた者が多かったのだという事から、勝利に、そして勝利をもたらした将軍たるアルキリーレに兵達は歓呼の声を挙げた。
「執政官万歳! 教帝陛下万歳!」
アルキリーレがそう叫び答える。レーマリア人の平和気質からしてまあまずあるまいが、将軍たる己の声望が執政官や競帝の権威を越えてしまっても問題があるだろ、という表情でアルキリーレは傍らのチェレンティを見た。アントニクスは何も考えずに万歳三唱していたが、チェレンティはちょっと悪戯がばれた子供のように苦笑した。ここでアルキリーレを押し立てれば天下が取れるんじゃないか?とつい思いついてしまったことを、やるつもりはないと詫びるように。アルキリーレも苦笑した。
「単神万歳! 摂理と愛に栄えあれ! 諸君等の献身に実りはある! 神それを望み給う!」
ペルロ十八世も勝利を神に感謝する祈りを高らかと唱え、レーマリア中原は各機に包まれた、が。
「さて、お主等! 次ん戦場へ急ぐど!」
「「「「「ええーっ!?」」」」」
直後アルキリーレが次の戦いに向けての行動開始を宣言し、兵士達は驚愕した。
既にすっかり、いやぁ勝った勝ったと言いながら、兵糧で美味しい料理を作り勝利の美酒を味わい一晩心ゆくまで祝宴を楽しむつもりだったのである。
(いやお前等ええーってなあ!?)
アルキリーレとしては寧ろ兵士達が驚愕した事に驚愕したかったのだが、正直流石のアルキリーレとしても、戦場で何とかきちんと戦う程度の勇敢さと武芸を仕込む事までは行ったが、連戦の根気や国家観・戦略を教え込む事までは時間が足りなかった。それは仕方ないし、きちんと休ませてやらねば戦えないというのも分かるのだが。
何しろ的はまだ第二軍も第三軍も本軍も健在であり、七万人もいるのだ。
「こうしちょっ間にも三つん街が攻められちょっど、放っちょけっか! 我々は直ちに農商都市フロレンシアん救援に向かうど!」
加えてこの戦況は初戦を飾ったとはいえ大局的には第一軍敗れるの報が第二軍・第三軍・本軍に伝わるまでの時間との尚武であり、また敵が各都市を陥落させた場合の影響も計り知れない。第二軍・第三軍・本軍に包囲や合流をされたら拙い。
故に敵第二軍・第三軍がそれぞれの都市にへばりついている間に背後を襲って、敵の後背を突き都市を防衛する地方軍団とで挟み撃ちにする事で味方の犠牲を最低限にして撃破しなければならないのだ。
「皆、聞いてくれ!」
悩むアルキリーレを助けるべく、そこでカエストゥスが立ち上がった。
「既に首都ルームに早馬を送った。大勝に報いて、直ちに恩賞と祝勝の糧食を満載し諸君等を輸送する為の馬車隊が訪れる! 今宵の勝利の宴は馬車の中でしようではないか! 但し次の戦に二日酔いを残さぬように!」
絶妙のタイミングで声を張る。そしてそれ以上に絶妙のタイミングで、既に手を打っていたのだ。およそ人を喜ばせる事に関してはレーマリア随一と呼ばれる男の面目躍如として、兵士全員に移動手段と高級な酒食に特別恩賞まで払おうというのだ。
「「「「「おおーっ! 執政官! 執政官! 執政官万歳!」」」」」
勝った時より更に沸き立つ兵士達。何とも平和的というか文化的というか現金というか俗っぽいというか。
これを見て、アルキリーレもまた方向性を変えてアピールを行う。
「それなら良かな! 農商都市フロレンシアの女子の半分は街ば守った地方軍団に惚れようが、残り半分は街ば救ったお前等に惚れようぞ! 行くど!」
「「「「「おおーっ!」」」」」
俗な話であるが、女の為なら頑張るというのは練兵の頃学んだ事である。これでレーマリア軍は再び動き出した。
「助かったど。やはりレーマリアば率いるはレーマリアん執政官よな」
「執政官としての仕事をしただけさ」
移動準備、馬車の迎え入れ準備と、戦闘後の疲労を堪え働き始めたレーマリア軍を見ながらアルキリーレは苦笑し、カエストゥスは役割分担だと答えた。
「こげんな手はほんまに得意じゃの……じゃが大丈夫じゃっど?」
首都ルームの方向から集まってくる大量の馬車には文明人たるレーマリアの兵達の戦勝を寿ぎ慰撫する様々なものが、矢や太矢やの補給やレオルロが職人に設計通りの加工を依頼していた発明品の一部や医薬品に換えの武器等の軍需物資に加えそれらを押しのけかねない程パンパンに乗せられている。幾らレーマリアが富裕とはいえここまで大量の物資を動員して大丈夫か、故郷北摩の貧しさと比して圧倒的とはいえ流石に心配になってくるアルキリーレだが。
「我が家の私財も丸々投じて考えているが、今後のカウント来年度の予算は、国が滅ばなかった時考えればいいさ。今アルキリーレがする苦労の百分の一にも及ばない」
実際それなりに無茶はしているようだった。
「…………」
だが、それ以上にカエストゥスを苦しめているのは、兵士の死傷者の様子であった。血の跡の残る戦場に、悲しげな視線を注ぐ。
アルキリーレのような戦人からすれば、レーマリアの軍であの程度の犠牲で済んだのは快哉すべき壮挙である。だが平和になれたレーマリア人からすれば、この犠牲も耐えられるギリギリの悲しみなのだ。体は鍛えられる。勇気も、何とか鍛えられる。だが覚悟は一朝一夕には行かない。
「……」
育ちの違い、感性の違い。アルキリーレは己の愛、愛する人々の為に戦う事が、必ずしも彼等の全てを救うわけでも無く、レーマリア人の深い愛が、時として己に価値観の断絶を与える事を噛み締めた。
だが戦いは始まってしまったし、そして今後も続く。戦いを始めなければ、東吼は塗炭の苦しみの隷属を強いるまで侵略の手を緩めなかっただろう。戦いに負けてもそうなる。
故に戦いは続く。続けざるを得ない。アルキリーレに、愛に出来る事は何か。
これはアルキリーレが兵の練度と追い詰められた敵が死に物狂いで抵抗した場合の損耗を思えば殲滅は不可能であると考えた事もあるが、ある程度鍛え上げられたとはいえ敵を討ち取ることより自分達が生き残ることを優先し死を敵味方問わず忌むレーマリア人気質のせいもあった。民族冗談として〈好戦的なレーマリア人は国土拡大期に皆戦って死んだので今は平和的なレーマリア人しかいない〉と言われる事もあるが……
ともあれそれ故包囲の隙間を抜けて落ち延びる東吼軍もいたが、アルキリーレも兵が包囲殲滅に及び腰である事と損害を軽微に留める事を重んじた上で同時に無論敵兵をできる限り漸減しその戦意を砕いて他の東吼軍に再合流する数を最低限に留めるべく、投矢機や弓や弩で〈追い払う為〉と称して射撃させ、また自身直属の騎兵を噴き居て追い立て追い散らしてやった。故に少なくとも戦力としての第一軍は壊滅したとも言えた。また、完全包囲殲滅を狙ってしつこく戦い続け無かった為にレーマリア軍の損害はある程度軽微に留められた。今、手元の戦力は負傷による後送も計算に入れて二万三千五百程か。
「勝利万歳! 将軍万歳!」
「ありがとー!」
「生き残れたー!」
「助かったー!」
「勝利万歳! 将軍万歳!」
敵を倒せた国を守れたというより生き残れたという感慨の方が強いし、少ないとは言え亡くなった者を痛む気持ちもレーマリア人は非常に強い。それでも大勝利だからこそ犠牲者が少なく、また生き残れた者が多かったのだという事から、勝利に、そして勝利をもたらした将軍たるアルキリーレに兵達は歓呼の声を挙げた。
「執政官万歳! 教帝陛下万歳!」
アルキリーレがそう叫び答える。レーマリア人の平和気質からしてまあまずあるまいが、将軍たる己の声望が執政官や競帝の権威を越えてしまっても問題があるだろ、という表情でアルキリーレは傍らのチェレンティを見た。アントニクスは何も考えずに万歳三唱していたが、チェレンティはちょっと悪戯がばれた子供のように苦笑した。ここでアルキリーレを押し立てれば天下が取れるんじゃないか?とつい思いついてしまったことを、やるつもりはないと詫びるように。アルキリーレも苦笑した。
「単神万歳! 摂理と愛に栄えあれ! 諸君等の献身に実りはある! 神それを望み給う!」
ペルロ十八世も勝利を神に感謝する祈りを高らかと唱え、レーマリア中原は各機に包まれた、が。
「さて、お主等! 次ん戦場へ急ぐど!」
「「「「「ええーっ!?」」」」」
直後アルキリーレが次の戦いに向けての行動開始を宣言し、兵士達は驚愕した。
既にすっかり、いやぁ勝った勝ったと言いながら、兵糧で美味しい料理を作り勝利の美酒を味わい一晩心ゆくまで祝宴を楽しむつもりだったのである。
(いやお前等ええーってなあ!?)
アルキリーレとしては寧ろ兵士達が驚愕した事に驚愕したかったのだが、正直流石のアルキリーレとしても、戦場で何とかきちんと戦う程度の勇敢さと武芸を仕込む事までは行ったが、連戦の根気や国家観・戦略を教え込む事までは時間が足りなかった。それは仕方ないし、きちんと休ませてやらねば戦えないというのも分かるのだが。
何しろ的はまだ第二軍も第三軍も本軍も健在であり、七万人もいるのだ。
「こうしちょっ間にも三つん街が攻められちょっど、放っちょけっか! 我々は直ちに農商都市フロレンシアん救援に向かうど!」
加えてこの戦況は初戦を飾ったとはいえ大局的には第一軍敗れるの報が第二軍・第三軍・本軍に伝わるまでの時間との尚武であり、また敵が各都市を陥落させた場合の影響も計り知れない。第二軍・第三軍・本軍に包囲や合流をされたら拙い。
故に敵第二軍・第三軍がそれぞれの都市にへばりついている間に背後を襲って、敵の後背を突き都市を防衛する地方軍団とで挟み撃ちにする事で味方の犠牲を最低限にして撃破しなければならないのだ。
「皆、聞いてくれ!」
悩むアルキリーレを助けるべく、そこでカエストゥスが立ち上がった。
「既に首都ルームに早馬を送った。大勝に報いて、直ちに恩賞と祝勝の糧食を満載し諸君等を輸送する為の馬車隊が訪れる! 今宵の勝利の宴は馬車の中でしようではないか! 但し次の戦に二日酔いを残さぬように!」
絶妙のタイミングで声を張る。そしてそれ以上に絶妙のタイミングで、既に手を打っていたのだ。およそ人を喜ばせる事に関してはレーマリア随一と呼ばれる男の面目躍如として、兵士全員に移動手段と高級な酒食に特別恩賞まで払おうというのだ。
「「「「「おおーっ! 執政官! 執政官! 執政官万歳!」」」」」
勝った時より更に沸き立つ兵士達。何とも平和的というか文化的というか現金というか俗っぽいというか。
これを見て、アルキリーレもまた方向性を変えてアピールを行う。
「それなら良かな! 農商都市フロレンシアの女子の半分は街ば守った地方軍団に惚れようが、残り半分は街ば救ったお前等に惚れようぞ! 行くど!」
「「「「「おおーっ!」」」」」
俗な話であるが、女の為なら頑張るというのは練兵の頃学んだ事である。これでレーマリア軍は再び動き出した。
「助かったど。やはりレーマリアば率いるはレーマリアん執政官よな」
「執政官としての仕事をしただけさ」
移動準備、馬車の迎え入れ準備と、戦闘後の疲労を堪え働き始めたレーマリア軍を見ながらアルキリーレは苦笑し、カエストゥスは役割分担だと答えた。
「こげんな手はほんまに得意じゃの……じゃが大丈夫じゃっど?」
首都ルームの方向から集まってくる大量の馬車には文明人たるレーマリアの兵達の戦勝を寿ぎ慰撫する様々なものが、矢や太矢やの補給やレオルロが職人に設計通りの加工を依頼していた発明品の一部や医薬品に換えの武器等の軍需物資に加えそれらを押しのけかねない程パンパンに乗せられている。幾らレーマリアが富裕とはいえここまで大量の物資を動員して大丈夫か、故郷北摩の貧しさと比して圧倒的とはいえ流石に心配になってくるアルキリーレだが。
「我が家の私財も丸々投じて考えているが、今後のカウント来年度の予算は、国が滅ばなかった時考えればいいさ。今アルキリーレがする苦労の百分の一にも及ばない」
実際それなりに無茶はしているようだった。
「…………」
だが、それ以上にカエストゥスを苦しめているのは、兵士の死傷者の様子であった。血の跡の残る戦場に、悲しげな視線を注ぐ。
アルキリーレのような戦人からすれば、レーマリアの軍であの程度の犠牲で済んだのは快哉すべき壮挙である。だが平和になれたレーマリア人からすれば、この犠牲も耐えられるギリギリの悲しみなのだ。体は鍛えられる。勇気も、何とか鍛えられる。だが覚悟は一朝一夕には行かない。
「……」
育ちの違い、感性の違い。アルキリーレは己の愛、愛する人々の為に戦う事が、必ずしも彼等の全てを救うわけでも無く、レーマリア人の深い愛が、時として己に価値観の断絶を与える事を噛み締めた。
だが戦いは始まってしまったし、そして今後も続く。戦いを始めなければ、東吼は塗炭の苦しみの隷属を強いるまで侵略の手を緩めなかっただろう。戦いに負けてもそうなる。
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