殺伐蛮姫と戦下手なイケメン達

博元 裕央

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・第四十八話「会戦の事(後編)」

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「射よ!」
「撃てぇええい!!」

 後世、先の騎兵戦と合わせレーマリア中原会戦と呼ばれる戦いは、この時代の通例に沿いまず射撃戦から始まった。

 レーマリアの弓兵・弩兵、東吼トルク側の弓兵がまず猛然と撃ち合う。

「発射!」
「発射っ!」

 そしてそれに続くのが双方の大型兵器だ。戦場でも移動させられるよう車輪を備えた機械式大型射撃兵器、レーマリアの投矢機バリスタ投石機マンゴネル東吼トルク大型回転投石機トレビシェットの周囲を双方の兵達が忙しく動き回り、木と綱の機構が唸りと軋みを挙げて作動し、人力に遙かに勝る巨大な質量を投射する。

 騎兵戦の時にも述べたように東吼トルクの複合弓は強い。歩兵射撃部隊の弓は騎兵用の馬上の取り回しの観点を捨てて連射性を落とさない範囲で更に大きく強くしている。機械式のレーマリアの弩に対して威力で勝るとも劣らず速射性で勝る。

 対して大型兵器では東吼トルク投矢機バリスタを持たず、その代わりレーマリアの投石機マンゴネルより東吼トルク大型回転投石機トレビシェットはより大きく強いが、必然取り回しに難はあるという格好だ。

 一長一短といった所だが……

「うわああああ駄目だああああ」
「進めええええええいっ!!」

 忽ちレーマリア軍は崩れ始めた。やはり大半の兵は弱い! アルキリーレが扱いに熟練を要する割りに遅い長柄斧槍ハルバートから威力は兎も角単純で扱いやすい長槍に歩兵の武器を切り替えさせたのだがそれを活用する暇も無い程脆い!

 即座に東吼トルク筆頭将軍ガルジュンは味方の騎兵に敵騎兵を拘束させ、歩兵戦でけりをつけんと歩兵隊を前進させた。戦奴歩兵バジバズークと前回騎兵戦で敗走した軽騎兵アキンジはグズグズしていれば敵諸共督戦射兵ジャンダルマに撃たれかねないので中でも一際必死に突き進む。苛烈なる東吼トルク軍法だ。

「ふはは容易い! 追え追えぇい! 崩れるのが早くて追うのに苦労する程だわい!」

 表面に薄く精鋭歩兵を張ろうと全体が崩れてしまえば、歩兵・射撃兵隊の左右の端は多少崩れにくいものの、相変わらず属州を奪い取った前回の戦争と同じように敵は崩れていく。不吉な騎兵戦の敗勢を払えた事で、嵩に掛かって東吼トルク軍は攻める。その騎兵も前衛騎兵は忽ち崩れて横に逃れ、精鋭騎兵を味方騎兵で抑える事に成功した。敵味方ががっちりと組み合って、最早敵の最も軽快すべき戦力である精鋭騎兵は身動き取れず後方強襲の余地は無い。あとは崩れゆく歩兵・射撃兵を追い散らせば大勢は決する。

「ふはは、これは……」


「勝ったな」

 ガルジュンが勝ったなと正に言おうとした瞬間。アルキリーレが味方精鋭騎兵部隊の中でそう言った。味方軍が崩れつつあるように見える最中だというのに。

 その理由は、あえてわざわざそこに弱点を作るように中央に集中して配置した練度の低いシルビ家地方軍団アウクリシアと第二国家師団レギオーが後退しているのは予定通り・命令通りだからだ。更に、アルキリーレはそこにトリックを仕込んでいた。

 陣を張る時、既にアルキリーレは布石を打っていた。確かにアルキリーレは、精鋭部隊である執政官親衛隊プラエトリアニ教帝近衛隊ケレレス剣闘士グラディアトル隊の騎兵部隊を隠密用の鎧から合戦用の鎧に着替えさせ、同じ鎧を着た歩兵隊・・・・・・・・・を歩兵隊の前面に配置した。敵の偵察隊が周囲をうろついているのに、わざとそれを見せたのだ。

 そう。同じ鎧を着た部隊・・・・・・・・。即ち、歩兵部隊の正面は、実は精鋭部隊ではなく精鋭部隊と同じ格好をした通常兵部隊だったのだ。歩兵の精鋭部隊は、あくまで左右だ。崩れる味方歩兵を追って前進する敵歩兵は、勢いづいて前後に伸びながら味方精鋭部隊の間に入っていくことになる。そして、あらかじめ逃げて良いと言って置いた味方通常歩兵部隊は、後方中央に配置された、最精鋭部隊ほどではないがしっかりと鍛え抜かれた第一国家師団レギオーとボルゾ家地方軍団アウクリシアが動かないのでその左右に分かれて逃げる事になる。この、最精鋭以外の兵の練度にも二段櫂あるというのも、チェレンティの上方封鎖によりアルキリーレが練兵に使える時間の目測を誤り東吼トルク軍が見落とした罠だった。

 そして敵騎兵と激突し動きが取れない味方最精鋭騎兵隊と別に開戦冒頭に左右に敗走したに見えた一般騎兵隊だが、これも第一国家師団レギオーとボルゾ家地方軍団アウクリシアに由来する、チェレンティ・ボルゾが指揮する二番目に練度の高い部隊だ。逃げた振りして後方に回っていく事が出来るくらいに。

 故に。

「待たせたのぅ、ニアンフレ! おかげで釣れた・・・わい!」
「耐えるのは、得意だ!」

 眼前の敵騎兵を猛然と切り捨て突き落とし行動の自由を得て馬首を返したアルキリーレは、進路上にいた剣闘士グラディアトル歩兵の名を呼び激励した。答えて笑い返すのはあの時と違う立派な鎧と垣盾設置式大盾で敵の射撃に耐え抜いた、槌使いの南黒ナンゴク剣闘士グラディアトル。ニアンフレとは彼の名だ。

 そしてアルキリーレは号令した。

挟み潰せぇいチェストオオ!!」
「何だとぉ!?」

 気がつけば前後に長く伸びながら前進した東吼トルク軍は、前方の歩兵・射撃兵部隊の内崩れなかった第一国家師団レギオーとボルゾ家地方軍団アウクリシア、左右に踏み留まった執政官親衛隊プラエトリアニ教帝近衛隊ケレレス剣闘士グラディアトル隊、後方に回り込んだチェレンティ率いる第一国家師団レギオーとボルゾ家地方軍団アウクリシアの騎兵部隊に包囲される格好となっていた。歩兵隊は今度こそ長槍を活用し敵をがっちりと阻む!

 敗走するふりをして敵を包囲網に引きずり込む、北摩ホクマ軍法釣り野伏せ。装備の偽装等を交えた、その変形だ。

「……!」

 二番目の練度の第一国家師団レギオーとボルゾ家地方軍団アウクリシアの歩兵部隊に守られてとはいえ味方の先方がどんどんと崩れていく中で、この時のためにカエストゥスは敵の進路上で踏み留まり続け堪え続けていた。アルキリーレの策が発動したのを見て、頷き拳を握る。戦場で出来る事は少なかったが、信じて踏み留まるという大将として出来る事をしたカエストゥスの度量と漸く身についた度胸も、この策の土台だった。同時、ペルロ十八世とその周りに付き従う司祭プリースト達も、逃げてきた味方先鋒兵士を神秘で落ち着かせ治療し場を安定させる。

「仰角もう目盛り三挙げ、張力もう一巻き、角度良し、撃て!」

 そしてレオルロが天才的頭脳による弾道計算能力で、絶妙な位置に投矢機バリスタ投石機マンゴネルの射撃を集中させる。

 ……レオルロの成果はまだ本命と一か八かの時用の切り札があるのだが、それはまた後の物語。

「チェストォオオオオッ!!」

 今この時はレオルロの射撃が絶妙にアルキリーレの前面を切り開いたという事実が決定的な成果を挙げた。アルキリーレの獅子の咆吼チェストが戦場に轟き渡り、鉈薙刀が唸りを上げ、カエストゥスがレオルロに与えた頑丈な骨太の軍馬が荒れた戦場を力強く疾駆した。

 アルキリーレの目が輝く。髪が戦場の風に靡く。五感が神秘により拡充され……

「おのれ、レーマリアのざこ共がぁっ!」
「ちいいっ!?」

 縦に伸びて薄くなった敵陣、そうなれば当然将の守りも浅くなる。チェレンティとその部下達が苦戦する先。手放しで馬を乗り熟し長い両腕に一本づつ槍を持って、二槍流で奮戦する敵将ガルジュンの姿。帰属として剣術を学んでいるとはいえ華奢で非力なチェレンティの五指幅短剣チンクエディアでは近づく事すら出来ないでいたが。

おいが相手ぞ!」
「貴様! その言葉その髪、北摩ホクマの……!」

 アルキリーレが辿り着き挑みかかる。眼前の相手を大将首と理解して。当然ガルジュンも即座に理解する。黄金の獅子めいたこの相手、敵の女将軍。レーマリア人らしからぬ軍事能力の理由。

「うおおっ!」
「チェーストーッ!!」

 神秘を使った僧侶バラーム将軍シディナン師と違い、ガルジュンは純粋な武人だ。二本の槍をまるで太鼓の桴か何かのように軽々と早く強く振り回す。既に何名ものレーマリア騎兵を馬から叩き落としている。

 だがアルキリーレも獅子の咆吼を放ち、威圧された周囲の東吼トルク騎兵に邪魔されぬよう数本帯びた斧を何本か連続投擲し始末しながら突撃!

 激突!アルキリーレの鉈薙刀がガルジュンの槍一本を両断!旋回する鉈薙刀の柄が突き出されるガルジュンの二本目の槍を弾く!弾かれ旋回し再度叩き付けられんとするガルジュンの二本目の槍をアルキリーレの鉈薙刀が破壊!

「おのれぇっ!」

 腰に帯びた曲刀に手をやるガルジュン。

「遅かっ!」
「ぐわあっ!?」

 鉈薙刀を振りかぶる間の隙をアルキリーレは片手で強引に塗り潰す。最後に遺っていた斧を投擲。曲刀を掴もうとしていたガルジュンの腕が吹っ飛ぶ。直後。

「~~~~っ……!?」
「首、貰うたっ!!」

 打毬ポロ打毬杖マレットの如く旋回した鉈薙刀が、ガルジュンの太首を吹っ飛ばした!

「ひいーっ!ちぇ、チェストだあああああっ!?」

 騎兵戦を生き残った軽騎兵アキンジが、シディナン討ち死にの再演に悲鳴を上げた。

 軽騎兵アキンジ達は最早督戦射兵ジャンダルマの制裁よりもアルキリーレを恐れて逃げ惑い、それが呼び水となって東吼トルク第一軍は瓦解していく。

 チェストの叫びが死神の呼び声として東吼トルク軍に刻み込まれる始まりだった。
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