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・第五十話「都市を巡る東吼側の対応の事」
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さて、東吼軍である。
「何たる事か、無様な」
四散した東吼第一軍が敵国中に寄る辺なく、第二軍・第三軍に逃れて情報を伝え、第二軍・第三軍、そして伝令が飛ばされ本軍が第一軍敗北を知った。
一番にその報に接したのは漁港都市アクアリアを攻略中の陸軍長官ズイミシュト、第二軍指揮官。貴族的な容姿に、ガルジュンへの失望を滲ませる。
ガルジュン将軍の上役でより戦略に明るい彼としては、ガルジュンの判断はあの時点でガルジュンが得ていた情報と、戦うという方針の上での判断は間違っていなかったと弁護できなくも無いが、戦闘後明らかになった事実と、何よりまずあの場で戦うべきだったかという観点からすれば誤りだと感じた。
確かに野戦軍が敗れれば籠城する都市は一気に崩れるだろうが、最悪第一軍はレーマリア野戦軍を引きつけ抑止しておくだけでも良かったのだ。そうして各地の軍が各都市を攻略するまで保たせればそれはそれで用は済む。レーマリア軍を率いているのが北摩人……それも現地で見られた情報と対レーマリア諜報で不自然に抹消されていた情報の隙間から付き合わせて恐らく先の北摩の覇者たるバルミニウス・ゲツマン・ヘルラスであると言うならば、そうすべきであった。事前に知り得なかった以上詮無いことだが。
「北摩人、森の獣め」
毒づくズイミシュトだが、だからといってどうしようも無かった。
加えて彼と彼の第二軍が担当する漁港都市アクアリシア攻略は中々進んで折らず、そういう意味ガルジュン将軍が待つ事が出来なかったのは漁港都市アクアリア攻略戦の進捗の無さにもあると言えるだけ、尚更苛立つズイミシュトであった。
これはアルキリーレが都市を救援するにあたってアクアリアより農商都市フロレンシアを優先した理由なのだが、農業と周辺の農産物を集約しての商業の拠点でアリ、平坦な土地にあって兵糧が一際豊かとはいえ城に拠るしかないフロレンシアと違い、アクアリアは海と川の中州と網の目の様な運河が組み合わさった水の都である。有事にはそれら海と河川と運河が、全て水堀として機能するのだ。また港湾都市だけあってレーマリア海軍拠点の一つでもあり、沿岸の制海権をレーマリアが保持している事もあって東吼軍は海からの攻撃も受ける事になる。
富裕な名門氏族の出であったズイミシュトは海軍とは別に個人的二海賊を雇い対抗しているが、更に運河は天才レオルロが手を加えた傑作であり、およそ水を守りとする都市に対する攻撃策としての河流の変更や水を逆用しての水没攻めの類いが極めて効きにくい。どころか。
「三番水門と五番水門を開け。十二番水門を閉め。二十番堤防区画を水没させよ!」
このような指示を行う事で、東吼軍が攻め寄せた区画に逆にアクアリア側が自在に水攻めを行えるのだ。そして郷土を守る時ならば発奮出来るレーマリア軍地方軍団は地元民が戦う時それを有効に活用する事が可能だった。
「一番二番水門閉鎖、水流を海岸へ解放、第三運河より突撃せよ!」
と、急に運河の水を海に向けて運河を空にする事でそこを渡河して反撃したり。
「撤退完了。一番に版水門開放!三番運河冠水まで沿岸防御!」
水を引かせた運河を味方が渡りきった後追ってきた敵を運河内に釘付けにして、水を戻す事で水攻めにする事も可能であった。
まあレーマリア兵の質が高くないことと防御を優先する消極的戦術故にあくまで牽制寄りで東吼軍の損害は多くは無かったが、攻めあぐねたのは事実で。
「この運河を造った者の頭脳は一個軍に匹敵する」
とズイミシュトが舌を巻いた程だ。
この水の守りの強靱さは皇帝が率いる本軍が襲う貿易港都市ネアンパニウムにもあり、更にネアンパニウムは首都ルームに次ぐ大都市で地方軍団も増強され、水の守りと海軍の支援に加え城も大きく、更に背後にはヴェスペイ山があり、本軍の規模が他より大きいとはいえ対抗出来る規模がある。
「故に、先にフロレンシア、それでも足りんくばアクアリアじゃ。肝心な事はフロレンシアの第三軍とアクアリアの第二軍を合流ばさせん事にごつ」
故にアルキリーレはそう判断した。
本軍がネアンパニウムを陥落させる前に第二軍・第三軍の双方か最低限片方を撃破する。それで皇帝が戦況不利として戦争継続を断念し撤退すればそれに越した事は無い。撤退せぬ場合安全となった都市を守っていた地方軍団等や短時間の他方面国境の国家軍団からの兵数抽出等で戦力を補充し決戦。只管に盛風力の徒な他の北摩人と違い、アルキリーレはそういう風に冷静に考える事の出来る女だった。
「となると危うきはフロレンシア。兵を出せ!」
かくして次なる戦の舞台は、農商都市フロレンシアとなった。
となれば第二軍に取れる手は、急ぎフロレンシア攻撃中の第三軍と合流しレーマリア野戦軍を迎撃する、第三軍との合流を間に合わぬと判断し皇帝率いる本軍と合流する、当初命令通りアクアリア攻撃を続行するの三つ。三番目の選択肢は論外、一番目と二番目の選択肢は今から間に合うかによるが、もし実際には間に合ったのに二番を選んで戻ってしまった場合馬鹿面晒して制裁を受ける為おめおめ皇帝の元に戻る事になる。加えて、二番を選んだ場合ネアンパニウムが陥落していない場合兵站が破綻しかねない。故に第三軍との合流を目指すとズイミシュトは……
「ちょっと待って。父上、つまり皇帝陛下からの命令だよ、ズイミシュト陸軍長官」
決断しようとした時不意にかけられる声。ズイミシュトは仰天した。今正に跨がろうとした馬の影から、黒外套の集団を連れた山猫めいた少年が現れたのだ。
少年皇子将校セフトメリム。その伝言は都市防衛戦後の戦局を大きく変える。
「何たる事か、無様な」
四散した東吼第一軍が敵国中に寄る辺なく、第二軍・第三軍に逃れて情報を伝え、第二軍・第三軍、そして伝令が飛ばされ本軍が第一軍敗北を知った。
一番にその報に接したのは漁港都市アクアリアを攻略中の陸軍長官ズイミシュト、第二軍指揮官。貴族的な容姿に、ガルジュンへの失望を滲ませる。
ガルジュン将軍の上役でより戦略に明るい彼としては、ガルジュンの判断はあの時点でガルジュンが得ていた情報と、戦うという方針の上での判断は間違っていなかったと弁護できなくも無いが、戦闘後明らかになった事実と、何よりまずあの場で戦うべきだったかという観点からすれば誤りだと感じた。
確かに野戦軍が敗れれば籠城する都市は一気に崩れるだろうが、最悪第一軍はレーマリア野戦軍を引きつけ抑止しておくだけでも良かったのだ。そうして各地の軍が各都市を攻略するまで保たせればそれはそれで用は済む。レーマリア軍を率いているのが北摩人……それも現地で見られた情報と対レーマリア諜報で不自然に抹消されていた情報の隙間から付き合わせて恐らく先の北摩の覇者たるバルミニウス・ゲツマン・ヘルラスであると言うならば、そうすべきであった。事前に知り得なかった以上詮無いことだが。
「北摩人、森の獣め」
毒づくズイミシュトだが、だからといってどうしようも無かった。
加えて彼と彼の第二軍が担当する漁港都市アクアリシア攻略は中々進んで折らず、そういう意味ガルジュン将軍が待つ事が出来なかったのは漁港都市アクアリア攻略戦の進捗の無さにもあると言えるだけ、尚更苛立つズイミシュトであった。
これはアルキリーレが都市を救援するにあたってアクアリアより農商都市フロレンシアを優先した理由なのだが、農業と周辺の農産物を集約しての商業の拠点でアリ、平坦な土地にあって兵糧が一際豊かとはいえ城に拠るしかないフロレンシアと違い、アクアリアは海と川の中州と網の目の様な運河が組み合わさった水の都である。有事にはそれら海と河川と運河が、全て水堀として機能するのだ。また港湾都市だけあってレーマリア海軍拠点の一つでもあり、沿岸の制海権をレーマリアが保持している事もあって東吼軍は海からの攻撃も受ける事になる。
富裕な名門氏族の出であったズイミシュトは海軍とは別に個人的二海賊を雇い対抗しているが、更に運河は天才レオルロが手を加えた傑作であり、およそ水を守りとする都市に対する攻撃策としての河流の変更や水を逆用しての水没攻めの類いが極めて効きにくい。どころか。
「三番水門と五番水門を開け。十二番水門を閉め。二十番堤防区画を水没させよ!」
このような指示を行う事で、東吼軍が攻め寄せた区画に逆にアクアリア側が自在に水攻めを行えるのだ。そして郷土を守る時ならば発奮出来るレーマリア軍地方軍団は地元民が戦う時それを有効に活用する事が可能だった。
「一番二番水門閉鎖、水流を海岸へ解放、第三運河より突撃せよ!」
と、急に運河の水を海に向けて運河を空にする事でそこを渡河して反撃したり。
「撤退完了。一番に版水門開放!三番運河冠水まで沿岸防御!」
水を引かせた運河を味方が渡りきった後追ってきた敵を運河内に釘付けにして、水を戻す事で水攻めにする事も可能であった。
まあレーマリア兵の質が高くないことと防御を優先する消極的戦術故にあくまで牽制寄りで東吼軍の損害は多くは無かったが、攻めあぐねたのは事実で。
「この運河を造った者の頭脳は一個軍に匹敵する」
とズイミシュトが舌を巻いた程だ。
この水の守りの強靱さは皇帝が率いる本軍が襲う貿易港都市ネアンパニウムにもあり、更にネアンパニウムは首都ルームに次ぐ大都市で地方軍団も増強され、水の守りと海軍の支援に加え城も大きく、更に背後にはヴェスペイ山があり、本軍の規模が他より大きいとはいえ対抗出来る規模がある。
「故に、先にフロレンシア、それでも足りんくばアクアリアじゃ。肝心な事はフロレンシアの第三軍とアクアリアの第二軍を合流ばさせん事にごつ」
故にアルキリーレはそう判断した。
本軍がネアンパニウムを陥落させる前に第二軍・第三軍の双方か最低限片方を撃破する。それで皇帝が戦況不利として戦争継続を断念し撤退すればそれに越した事は無い。撤退せぬ場合安全となった都市を守っていた地方軍団等や短時間の他方面国境の国家軍団からの兵数抽出等で戦力を補充し決戦。只管に盛風力の徒な他の北摩人と違い、アルキリーレはそういう風に冷静に考える事の出来る女だった。
「となると危うきはフロレンシア。兵を出せ!」
かくして次なる戦の舞台は、農商都市フロレンシアとなった。
となれば第二軍に取れる手は、急ぎフロレンシア攻撃中の第三軍と合流しレーマリア野戦軍を迎撃する、第三軍との合流を間に合わぬと判断し皇帝率いる本軍と合流する、当初命令通りアクアリア攻撃を続行するの三つ。三番目の選択肢は論外、一番目と二番目の選択肢は今から間に合うかによるが、もし実際には間に合ったのに二番を選んで戻ってしまった場合馬鹿面晒して制裁を受ける為おめおめ皇帝の元に戻る事になる。加えて、二番を選んだ場合ネアンパニウムが陥落していない場合兵站が破綻しかねない。故に第三軍との合流を目指すとズイミシュトは……
「ちょっと待って。父上、つまり皇帝陛下からの命令だよ、ズイミシュト陸軍長官」
決断しようとした時不意にかけられる声。ズイミシュトは仰天した。今正に跨がろうとした馬の影から、黒外套の集団を連れた山猫めいた少年が現れたのだ。
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