殺伐蛮姫と戦下手なイケメン達

博元 裕央

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・第五十一話「想定外の事」

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馬鹿べこのかあないしちょっと!? 帰れ!」
「帰ってくれーっ!?」

 フロレンシア救援に向かう直前、アルキリーレとチェレンティが絶叫した。相変わらず考え方は近い二人だ。

「何だい何だい二人揃って!」

 反対の相手は、チェレンティの恥じらいの源ことボルゾ家の肝っ玉母さん、ルレジアである。物資を補給する馬車に乗ってきたのだ。

「いや二人揃ってというか、私達も流石にこれは同意見ですよ」
「看過できないというか……」
「危ないって!」
「帰れよ!」

 通常チェレンティは頭が上がらない相手であり、アルキリーレも得意な相手ではない。だが今回はペルロもカエストゥスもレオルロもアントニクスも揃って反対だ。

 何が反対って、まず、物資を持ってきた馬車隊に、ルレジアだけだなく多数の女性が乗ってきたのが問題だった。

 いや、食材を持ってくるだけでなく、料理煮炊きをしてくれるのはありがたいのだといえばありがたいのだ。何しろアルキリーレの要求と兵士の休息とを両立させるカエストゥスの一手的に、馬車の上で炊事しなければならないのだ。これはかなり難易度が高い。木造の馬車の上で煮炊きする為の道具だって文明帝国であるレーマリアにはあるのだが、流石に兵士にやらせるとなると休息の効果も薄れる。だが。

「レーマリア存亡の危機なんだろ?あたしたちだって黙っちゃいられないよ!負けたらどっちみち大変な事になるんだろ!?」

 ルレジア母さんと同年代くらいから、アルキリーレより若いくらいのまで。その女達が武装しているのが問題なのだ。

 この戦いがレーマリアの危機である。それは、噂を止めようも無い事からレーマリア全土に広まっていて。

「い、今はまだそこまでせっぱつまってはいません、御婦人っ!」
(それは、まあ、そう言いたいが)
(どうだかなあ……)

 それで特に一連の事件に詳しいレーマリアの人々の内、強く危機感を持ち発奮した女性陣が、何と自分達で自主的に鍛錬し、中古の武装を買い揃え自分達で部隊を作ってやってきてしまったのだ。規模は一個中隊マニプルス二百人程。

 それに対して民間人ましてや女性を動員する程まだ劣勢になってない、と説得しようとするカエストゥスだが……

 アルキリーレと、この中ではまだ戦が分かる方のチェレンティは、少し悩ましい表情だ。野戦戦力が九万対三万弱というのは、本来切羽詰まっているというか普通に詰んでいる状況である。それをアルキリーレが今の所何とか捌いて凌いでいるのだ。ちょっと、大丈夫だと言い切れはしない。唯まあ、突出して錬度が優れている訳ではない一個中隊マニプルスが加わった程度では誤差の範囲だとも思うが。

「首都じゃ、第三国家軍団レギオーの再建に加わろうって男達もいるんだ」
「私達だって!」

 わいわいとやってきた女性字が騒ぐ。武装して戦おうと言う意気軒昂極まりない女達だから何しろ威勢がいい。

 実際、レーマリア男は柔弱な者が多いが、レーマリア女は意外と気が強い。占領地での抵抗運動でも、女性が主体で行われている抵抗運動の方が多い程なのだ。

「大体子供レオルロだって軍にいるし」
「い、いや兵器の操作とか調整とかしてるんであって! 前線で殴り合おうとしてるのは違うから!」
将軍ドゥクスしてるのは女のアルキリーレさんだろ!?」
おいは、えーと、北摩ホクマ人じゃ! 何ち? 理由になっとらん?チェーストッ! やぞろしか! せからしか! うぜらしか! くせらしか!」

  最前線で武器を取っている訳じゃないからというレオルロの言い訳に対し、アルキリーレの言い訳はやや苦しい。元々弁が立つタイプではないのだ。

「大体剣闘士グラディアトルだって本来軍人じゃないでしょ!」
「あほ!少なくとも戦士ではあるわ!? いいから飯でも作ってろ!」
そこまでそこずいのはどげんかちもなあ」
「おいアルキリーレ!?」

 一際強い言葉を使ったアントニクスに対して反論が来て、ある意味アルキリーレより更に言葉に能力を割り振ってないアントニクスがあまりに拙すぎる言葉を返すのに逆にアルキリーレから文句が付く始末で、現場は大混乱だった。

「大体、何時までも揉めてる時間あるのかい?フロレンシアを助けに行くんだったら急がないとダメなんじゃないかい?」
「最初からそう言う心算だったな、母上マードレ……」
「きっさなか……」

 ルレジアの発言に頭を抱えるチェレンティ。顔をしかめるアルキリーレだったが。

「だあもう、こん馬鹿べこのかあ共が! 置いていくうっちょく!訳にもいかんか! 仕方ないしょんなか、ついてい! 但し陣形では最後尾じゃ! 戦場ゆっさばでこぎゃん勝手ばしたらおいが斬るど!」

 とうとう我慢が出来なくなった、またただでさえ兵士に無理を言って急いで次の戦場に駆け付けようとしていたアルキリーレが折れた。折れたとはいえ相当厳しい口調だが、どっちみち隊列の最後尾に配置するなら大して犠牲者も問題も出なかろうと。

 ところがこいつが、次の戦いに思わぬ影響を齎す事になるのだが……


「しかしおいも反対しちょって言うも何じゃが、男は女が戦うのはそんなに嫌か?」

 馬車で移動しながら、アルキリーレは呟く。

 首脳部用の大きく頑丈な馬車。丁度、アルキリーレ周辺の男達が集って乗っていたので、問う。戦う女について、どう思っていると。

「俺としちゃ、女が戦うどうこうってより、まずすぐ死なずにきちんと戦えるかどうかってのがなあ……アルキリーレはほら、強いだろ?」
「勿論おいつよかぞ!」

 すぐ答えたのはアントニクスだ。竹を割ったようにさっぱりした、単純無比の回答だ。アルキリーレとしては己の戦いが否定されないという事はまずまず嬉しく、うむ、と嬉し気に頷く。当たり前だぜ、と、アントニクスは親指を立てた。

「俺もまあ、そこは似たようなものだな。問われるのはあくまで実力で、それ以外は平等であるべきで、アルキリーレがどう生きるかは、アルキリーレが決めるべきだ」

 今回の件はあくまでまた母親にペースを乱された事による要素が強いチェレンティもアントニクスに近い立ち位置だ。才に矜持ある者同士の共感が二人に満ちる。

「そもそも私は戦自体が苦手だからなあ……兎に角誰にも死んでほしくない」
「そうですね。戦人いくさびとの思いも分かりますが、それでも。」
「特に、好きな人にはね。絶対に、死んで欲しくないよね」

 それに対してカエストゥスの言葉は、彼らしく平和的で。ペルロとレオルロもそれに同意する。これが一番、レーマリア人らしい反応という所だろうか。

「まあ、死んだけしんだ死なれたけしんみゃしたは普通はそうじゃろな」

 故郷では華々しき死は誉だったが、アルキリーレは故郷と違う今を愛おしく思う。男達が平和を愛しつつも同時に戦に生きる自分の在り方も認めてくれている事も。

 それを守る為に戦わねばならぬという一種の矛盾も乗り越えられると思った。

(こんなに複雑に考えた北摩人ほくまもんも居らんかもな)

 自動的なまでに単純な北摩ホクマ人らしからぬ、男達が与えたそんな己の変化をアルキリーレは愛おしんだ。愛が、心が、魂が、芽生えつつある事に感謝した。
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