118 / 289
第12章 執事の恋人
執事の正体
しおりを挟む「おい、ルイ!」
その後、屋敷を後にしたレオとルイは、お互い素に戻り、あまり人通りのない路上を歩いていた。
夕日が照らす中、スタスタと先を行くルイにレオが声をかければ、ルイは足を止め、ご立腹なレオに一言。
「そんなに怒らないでほしいな」
「怒りたくもなるだろ! 今頃、結月は……」
「婚約者に電話中なんでしょ? 僕だって、そんなことわかってるよ。でも、次いつ会えるか分からないし、今伝えておくべきだと思って」
「伝えるって、なにを」
その後、怪訝な顔を浮かべたレオを、ルイは真っ直ぐに見つめた。
先程、結月には「誰にも言わないでください」といわれた。あんなにも切実に、レオには知られたくないと願っていた。
それでも──
「レオは、気づいてないの?」
「え?」
その言葉に、より一層苦い顔をした友人を見て、ルイは、まだ気づいていないのだと悟る。
あんなにも顔を赤くし、分かりやすい反応をしていたのに……
いや、それだけ彼女も、必死に隠していたのだろう。今の二人の……お嬢様と執事としての日常を守るために──
「好きみたいだよ、レオのこと」
「……え?」
夕日がゆっくりと落ちる中、ルイがはなった言葉に、レオは混迷し更に眉を顰めた。
それは、あまりにも唐突で、一瞬、何の話をしているのか、うまく飲み込めなかった。
「好きって……」
「だから、結月ちゃん、レオのことが好きみたいだよ。家族や使用人としてじゃなくて、ちゃんと"男"として──」
「……ッ」
ハッキリと断言された言葉。
それと同時に、心臓が激しく波打つ。
「好き? 結月が?」
「なに、僕の言葉、信じられない? 言っとくけど、冗談じゃないよ」
「それは、分かるが……でも、俺を好きなら、なんでわざわざ彼女に会いたいなんて……」
「忘れるためだよ」
「え?」
「恋人に会えば、忘れられると思ったんだって。執事を好きになってしまった、その『恋心』を」
「……っ」
秋の夕暮れに、風が冷たく吹きぬけた。
ルイの悲し気な瞳が、よりいっそう哀愁を誘って、レオはその言葉の重みをかみしめる。
なんど、願ったか分からない。
結月が、また自分を愛してくれたらと。
だけど、その結月は、今、その自分への思いをなかったことにしようとしている。
忘れようとしている。
その事実に、息も出来ないほど、胸が苦しくなる。
「レオもバカなことしたね。前任の執事の件もあったし、使用人たちの警戒をとくためだったんだろうけど、正直、彼女がいるなんて言ったのは、確実にレオの落ち度だ」
「……」
「まぁ、記憶が戻りさえすればなんとかなると思ったのかもしれないけど、君にしては浅はかだったね。愛があれば、思い出すと思った? でも、残念ながら、レオがどんなに結月ちゃんの事を想っても、彼女は、自分がレオの彼女だなんて一切気づきもしないし、今は完全に僕がレオの恋人だと思ってる。さっき言われたよ『五十嵐と幸せになってください』って」
「……」
「あはは、笑っちゃうよね。僕のこと完全に女だと思ってるし、思い出すどころか、嫉妬の一つもしやしない。むしろ、僕となら本気でレオが幸せになれると思ってる。どうする? 執事さんなら、その"お嬢様の望み"も叶えてあげるの? なんなら、僕と本当に結婚しちゃう?」
クスクスと笑うルイの声は、陽気な声音とは対照に、少し苛立っているようにも感じた。
それは、結月にか
それとも、この不甲斐ない執事にか──
「ねぇレオ。正直思うんだよね。どうしてレオだけが、こんなに苦しまなきゃいけないのかなって……」
「……」
「レオが結月ちゃんのことを、大事に思ってるのはわかるよ。傷つけたくないのも、悩ませたくないのも……でもさ、本当に愛し合ってるって言うなら、二人で苦しむべきじゃない?」
二人で──それはまるで、どんな苦労も共に分かち合おうと誓いあった夫婦のように、結月と共に苦しめと、そう言われているようにも聞こえた。
苦しめたくなかった。
困らせたくなかった。
だからこそ、自然と記憶を思い出してくれるのを待ち続けた。
でも──
「このままいけば、バッドエンド。君は、忘れられて、彼女は婚約者のものになる」
「……」
「レオは、いいの? このままなかったことにされて。せっかく、好きになってくれたのに──また、忘れられてもいいの?」
✣
✣
✣
「いらっしゃい、黒沢」
阿須加家の別邸にて──結月の母親である美結が、ペルシャ猫を愛でながら声をかけた。
ゆったりと広いソファーに腰かけて、優雅に猫を撫でる美結。すると、その前に立ったの、阿須加専属の運転手──黒沢 人志。
そして、数枚の書類が入っているであろう封筒を差し出されれば、要件がなにかはすぐに分かった。
「奥様、探偵に依頼していた『望月 玲二』の件ですが……」
望月 玲二──その名を聞いて、美結が手を止めると、膝元にいたペルシャ猫が、するりと美結の元から抜け出した。
ちょうど利き手が空き、美結が封筒を受け取れば、その中にはいっている書類を一枚一枚、確かめ始める。
「……思ったより、時間がかかったわね」
「それはもう。なんせ8年も前に事故死した男のことですから、あまり情報もなく」
美結が書類に目を通せば、それと同時に黒沢が要点のみ伝えた。
「望月 玲二は、当時阿須加のホテルでコンシェルジュとして働いていました。妻は他界していて、家族構成は、高齢の母親と息子の3人。事件の後、母親の方は姉家族が引き取ったそうですが、息子の方は養子にだされたそうです」
「養子? その息子の引き取り先が書かれてないけど?」
「それは、どうやら施設を介さず、引き取られたようで。しかも海外に移住したらしく、引き取り先のことまで詳しくは」
「そう……役に立たないわね」
手にした書類を見つめ、美結が不満そうに眉をひそめた。すると……
「まぁ、いいわ。息子の名前は分かったから」
だが、美結が目にした、その書類には『望月 玲二』の息子の名が、しっかりと明記されていた。
──『望月 レオ』と。
「どうやら……私の予想通りだったみたいね」
「え?」
「いいえ、こっちの話よ。そうだわ、黒沢。このことは一切他言しないでね。もちろん、洋介にも」
「旦那様にも、ですか?」
「えぇ……まぁ、どのみち死んだ従業員のことなんて、洋介は記憶にもないでしょうけど」
そう言うと、美結は黒沢からライターを借り、書類に一枚一枚、火を付け始めた。
「ちょ、奥様、なにを!?」
「もう、必要ないわ。こんな書類」
燃え盛る書類を数枚、洋介が日頃使っている灰皿の中にへ放り込む。
少しずつ形の無くなる書類を見つめながら、美結は小さく目を細めた。
(『望月 玲二』の息子が、今更、うちに何の用かしら?)
疑惑は、確信に変わり、美結は、屋敷に潜り込んだ息子の姿を思い浮かべた。
名前を変えて潜り込んできた──あの執事の姿を。
1
あなたにおすすめの小説
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる