神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜 あやめ

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第2章 絶世の美女

第62話 エレナとお姉ちゃん

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「紺野さん、バイバーイ!」

 小学校の下駄箱前。下校にむけて靴を履き替えていた紺野エレナは、同じクラスの女の子に声をかけられ、慌てて返事を返した。

 モデル事務所に所属しているエレナは、現在小学四年生。母親似の人形のように整った顔立ちと、父親似の茶色の瞳。金色に靡くストロベリーブロンドの髪はとても細く煌びやかで、その長く柔かなな金色の髪は、黒髪が多いこの日本の小学校では一際目を引いていた。

 初めてここ桜聖第一小学校に転校してきた時、学校中で「金髪の美少女がやってきた!」と、それはそれは噂の的となったものだった。だが、エレナがこの街、桜聖市に引っ越してきて早五ヶ月。騒いでいた生徒たちはある程度収束し、少しずつだが環境にもなれてはきたが、この見た目と、モデルを目指しているということもあってか、エレナはまだどこかクラスで浮いた存在であり、なかなか「友達」が出来ることはなかった。

(……作文、明日までだっけ)

 小学校を後にし、一人通学路を歩きながら、エレナは先日、先生が話していたことを思い出した。

 次の授業参観では『将来の夢』について、みんなの前で発表するらしい。今から一週間ほど前の授業で配られた原稿用紙。ここ数日授業でも作文を書く時間がもうけら、もちろん、エレナも同じくそれに取りかかったのだが

 ――私の将来の夢は、モデルになることです。

その一文を書いたあと、なぜかその先の文は、全く思い浮かばなかった。

(将来の夢なんて、もう決まってるのに……)

 閑静な住宅街をとぼとぼとす進みながら、エレナは考える。自分の将来の夢に悩む必要など、本来はないはずだった。それも、母が来る授業参観で発表する作文。

「他の答え」など、あるはずもない。

(帰ったら、ちゃんと書かなきゃ……)

――チリン

「……?」

 すると、その先でやにやら鈴の音が聞こえてきた。

 まるで猫が戯れているように、リンと軽やかになる鈴の音。その音に気付いてエレナが、前方に視線を向けると、その数メートル先に、髪の長い女の人が歩いているのが見えた。

 年は17~8歳、腰元まで伸びた栗色の長い髪に、細いながらも柔らかそうな身体付き。どこかふわりとした優しげな雰囲気を纏ったその女性に気づいた瞬間、エレナの表情はパッと明るくなる。

「お姉ちゃん!」
「………?」

 エレナが声をかけると、その女性は、わずかに遅れて振り向いた。すると、無邪気にかけよってくるエレナに気づいた女性は、エレナを見るなりにっこりと微笑みかける。

「……いま帰り?」
「うん!お姉ちゃんは?」

 そう言ってエレナが、ぎゅっと女性の腕に抱き着くと、女性の栗色の髪がサラリと揺れた。

「どこか出掛けるの?」
「…うん。今から商店街に買い物に行こうと思って」
「そうなんだ。あ、そういえば、一人暮らしは、もうなれた?」
「…ん? あー……それが、まだまだ全然。桜聖大に入学できたはいいけど、大学に通いながら、全部一人でしなきゃならないし、やっぱり大変かな? それより、今日は撮影とかレッスンはないの?」
「今日はないよ。でも帰ったら、作文書かないと」
「作文?」
「うん。次の授業参観で、将来の夢について発表するの」
「……」

 エレナの言葉を聞き、女性が少しばかり表情を曇らせる。

「お母さんには……言えた?」

 その問いかけに、エレナはピタリと立めると、悲しそうに俯いた。

「無理だよ、言えない」
「……」

 その瞬間、エレナの手が微かに震えた気がして、女性が目を細める。

「……ねぇ、エレ――」
「あ、でも、お姉ちゃんが話を聞いてくれるから、私、頑張れるよ!」

そう言うと、エレナは女性の腕から離れ、数歩進んだのち、また振り向いた。

「心配しないでね、お姉ちゃん。私なら、大丈夫だから!」
「……」

 そう言うと、ありったけ笑顔を向け、エレナは軽く手を降り走り去っていく。

 だが、心配そうに見つめる女性に背を向け、自宅へと進む途中、エレナは今にも泣きそうになるのを堪えながら、キュッと唇を噛み締めた。

言えない。
言えない。

(本当は……モデルなんて、やりたくないだなんて――)


もし、そんなことを言ったら、お母さんは───



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