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第3章 お兄ちゃんの高校時代
第63話 遅刻と忘れ物
しおりを挟む「やばーい!遅刻するぅ!!」
ただでさえ、慌ただしい朝。
華は歯磨きを終え、再びリビングに顔を出すと、バタバタと慌てた足取りで、ソファーにかけていたブレザーの上着を手に取った。
華が「今にも遅刻しそうだ」と、慌てふためいている理由。
それは、昨晩遅くまで「兄と弟と共にゲームに勤しんでいたから」という、遅刻の理由にするには、なんとも呆れ返る行いのせいである。
昨夜、夕食を終えた後、なにげなくゲームを始めてから、かわるがわるお風呂に入ったまではいいのだが、三人で対戦を始めてしまったのが運のつきだった。
次の日も学校があるというのに、気がつけば深夜二時。さすがにマズいと、それからずくにベッドにはいったのだが、結果、寝坊して今に至る。
華達の父、侑斗は、現在海外にいるが、正直こう言うときに、静止の声をかけるべき保護者がいないというのは本当に厄介なものである。
「あれ?飛鳥兄ぃ、着替えないの!?」
すると、上着を手に取った瞬間、いまだにダイニングテーブルのイスに腰掛け、まったりとしている兄に気づいて、華は焦りある声で言葉をかけた。
見れば、兄の姿はTシャツにスエットといったラフな……と言うか寝間着姿のままで、朝食の準備はしっかりしてくれたが、大学に行くなら、兄だって、そろそろ準備を始めなくてはヤバイはずだ。
「飛鳥兄ぃ!大学は?」
「ふぁぁ~だって俺、今日は午後からだもん」
「はぁ!!?」
華の問いかけに、以前眠そうな飛鳥は、一つあくびをして返事を返した。
「なにそれ、裏切者!!」
「なにいってんの。俺、一回は止めたじゃん『明日大丈夫か?』って」
テーブルに肘をつき、いつもの綺麗な顔を向けて目を細めると、飛鳥は「それを無視してゲーム続けたのはお前たちだろ?」と、意地悪そうに微笑んだ。
すると
「華ー、俺もういくぞ!」
今度は玄関から急かすような蓮の声が聞こえてきた。
「あ!まって、蓮!」
華は慌てて制服の上着を羽織り、鞄を手に取ると、玄関に向かおうと、リビングの扉にてをかける。
だが──
「ひゃ──わ!?」
その瞬間、いきなり背後からガシッと首根っこを掴まれて、制服のジャケットの襟元をグイッと引っ張られると、華の身体は強制的にリビングから出るのを阻止された。
「ちょっと、飛鳥兄ぃ!?なにやってんの!!?」
華をとらえた相手は、兄の飛鳥だった。
遅刻寸前の妹に何をするのか、華が困惑していると、飛鳥は酷く呆れたように声を発した。
「お前さ……ブラ透けてる」
「!!!?」
瞬間放たれた言葉に、華は一瞬キョトンとしたかと思えば、その表情は沸騰したやかんのように、一気に沸点をあげる。
「きゃぁぁッ!どこ見てんの、変態!!?」
「は?見せてんの、お前だろ?」
変態──などと言われ、飛鳥は顔に怒りマークを浮かべると、心外だとばかりに反論する。
どうやら、ジャケットの下に着ている白いブラウスの上から、華の下着が透けて見えたらしく、それに気づいた飛鳥は、とっさに何を捕まえたようだった。
「もう高校生なんだから、少しは気を付けろよ。とりあえず着替えてこい!」
「えー上着、着るんだから、このくらい大丈夫だよ!体育の時は更衣室で着替えるんだから」
「バカかお前!? 大体、華は無防備過ぎるんだよ!ボケッとしてると」
「飛鳥兄ぃは気にしすぎなの!!もう行くね!本当に遅刻するんだってば!!?」
そう言うと、華は再びリビングから出ようと試みる。
だが──
「あーそう。じゃぁ、俺が着替えさせてあげようか?」
「!!!!?」
すると、反抗的な妹の態度に嫌気が差したのか、笑っていない笑顔で、半強制的に華の制服を脱がしにかかろうとする飛鳥に、華は顔を青くし、兄に罵声を浴びせた。
「きゃぁぁぁ!!?ちょ、待っ」
「ほら、時間ないんだろ。脱げ、今すぐ」
「ひぃぃぃ、鬼!悪魔!!ひゃ、やだ…ちょ、やめっ──もう、わかった!わかったからぁぁ!!飛鳥兄ぃのバカー!!?」
結局、兄相手に諦めるしかなくなった華は慌てて自室に戻ると、今度はしっかりと下着が透けないよう、中のインナーを黒色のものに着替え、準備を整えると玄関まで走る。
「じゃ、いってきまーす!!」
「華、走るぞ!」
バタバタと慌てながら、双子が出ていくのを見届け、一人家に残った飛鳥は、深く深くため息をつく。
「華のやつ、本当にわかってんのかよ……」
妹の華は、少し無防備過ぎるところがある。
男所帯で育ったせいなのか?
はたまた、大事に育て過ぎたのか?
“男性の危険性”を、まるでわかっていない。
「育て方……間違ったかな?」
飛鳥は親のような一言を呟くと、そんな自分に呆れつつ、再びリビングへと足を進める。
途端に静かになったからか、急に睡魔が襲ってきたが、小さくあくびをするだけにとどめると、飛鳥は、軽く背伸びをして、キッチンに行き、眠気覚ましにと冷たい水をコップに注ぐ。
「?」
だが、その水を飲もうとコップを口につけた瞬間、キッチンのカウンターテーブルの上に置かれた可愛らしい包みに目を奪われた。
飛鳥はその包みが、朝自分が作った双子のお弁当の片割れだと気づくと
「ありゃ? 華のやつ、もしかして、弁当……忘れてる?」
せっかく作ったお弁当を見事忘れて行った妹に飛鳥は「はは」と渇いた笑みを浮かべると、なんとも言えない心境になったとか……
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