神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜 あやめ

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第9章 【過去編】偏愛と崩壊のカタルシス

第121話 偏愛と崩壊のカタルシス④

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 幼稚園を辞めさせられ、部屋に閉じ込められてから、早3ヶ月がたち

 季節は秋を迎えていた。

 この頃になると、もう諦めもついていて、部屋から出してほしいと泣きわめくこともなくなった。

 そして、基本、母はいつも家にいて、閉じ込めているからといって、俺一人おいて出掛けることは一切なく、扉を叩けば、来てはくれた。

 ただ、部屋からでられるのは、トイレや食事の時など正当な理由があるときだけで

 その食事も、体重管理されるのはもちろんだけど、肌が荒れるのもよくないからと色々と制限を強いられた気がする。

 お菓子なんて食べた日には、夕飯をぬかされて、お腹がすいて眠れないときもあった気がする。

「飛鳥、ここ間違ってるわよ」
「うん……」

 さらに言えば、閉じ込められているからといって、一切、なにもしていないわけではなかった。

 幼稚園にいかない代わりに、まだ3歳だったけど、文字の読み書きや、その他の教養をみっちり母に仕込まれた。

 特に、モデルの仕事をして、大人の世界で働く以上、相手に失礼なことがないようにと、言葉遣いや礼儀作法には、かなり厳しかった気がする。


 ──バンッ!!!

「飛鳥! なんど言ったら、わかるの!?」
「ッ!?」

 そして、母は怒るととても怖かった。

 机を叩き、母が怒りに任せに手をふりあげる。

 だけど、叩かれることは決してない。

 モデルにとって、綺麗な顔と傷のない体がなによりも大切だと

 母は口癖のように言っていたから。

 でも、それが余計に、自分の"存在価値"は、ソレしかないのだと、言われているような気がして

 母が愛しているのは「俺」ではなく

 俺の「容姿」だけなのだと言われているような気がして


 ──とてもとても、辛かった。




 ガシャン!パリーン!

 そして、叩かれない俺のかわりに、近くある食器や物はよく壊れた。

 俺や父に向けられた怒りの捌け口が、全て物にあたることで解消されていた。

 だけど、それを目にする度に、いつか自分もあの食器のようになってしまうのではないか?

 そう考えると、ひどく身体が震えて

「っ、ごめ……ッ、ごめんな、さッ」

 泣きながら、謝り続けることしかできなかった。

 そして、誰にも助けを求められず、たった一人だった俺に、できることは

(はや……く。はやく、おさまって……っ)

 部屋のすみで、頭を抱えうずくまり、母の癇癪が治まるまで、ただただ耐える。

 そして、それが──「日常」だった。




 ◆



「飛鳥くん、目線こっちね~」

 だけど、そんな日々をすごしていても、スタジオにいくと俺はとにかく笑顔だった。

「飛鳥くん、今日もいいねー」
「ありがとうございます♪」

 モデルの仕事をはじめて8ヶ月が経ち、4歳を間近に控えた頃には、大人の顔色をうかがうのも大分うまくなっていた。

 カメラマンに声をかけられれば、愛嬌をふりまいて、どんな指示を受けても笑顔で返事をし、ミスひとつなく仕事をこなす。

 言われたことには忠実に従うし、挨拶だって欠かさないし、どんな時でも笑顔で、わがままなんて絶対言わない。

 なんて、扱いやすい子供だろう。

 だからか──

「飛鳥くん。本当しっかりしてますね~」

「まだ3歳とは思えないほど、お利口さんで!」

「こんなに可愛い上に、お行儀もいいなんて、将来が楽しみですね~」

 ──なんて、よく言われた。

 子供らしくない子供。

 母から教わったそれを忠実にこなすだけで、いつしか周りの大人たちも、俺を子供扱いしなくなった。

 そうするうちに、この容姿に、その出来の良さを買われてか、仕事はどんどん増えていった。

 ◆

「飛鳥くん! 次は、こっちの衣装ねー」

「はい!」

 だけど俺は、別にモデルの仕事が楽しくて、笑っているわけではなかった。

 どんなに成果を出しても、どんなに褒められても。充実感なんて得られた試しもない。

 俺がモデルの仕事を完璧にこなすのは、ただひとつ。

「母」が満足する「結果」をだすためだけ。

 ただそれだけのために、笑い続けた。

 どんなに嫌でも
 どんなに辛くても
 どんなに泣きたくても

 必死に笑って、最高の笑顔を作る。

 いや、そうしなくては、ならなかった。

 仕事中は、常に視線を感じてた。

 母の刺さるような視線。
 ミスなんて絶対許されない。

 だからこそ、母に怒られないように。

 母の機嫌を損ねないように。

 ただそれだけを考えて、仕事をした。


 ◆◆◆


 そして、そんな生活を続けていたある日。ついに父と母の離婚が決定した。

 俺が4歳になって暫くたったころ、寒い1月下旬のことだった。

 モデルになってから、父の顔はほとんどみていなかった。

 だけどその日は、母が体調を崩ずして部屋で寝ていて、俺の部屋には珍しく鍵がかけられていなくて、そんな時に、たまたま偶然

 ──父が帰ってきた。



 バタン──

 物音がして、父が帰ってきたのだと気づいて、俺は慌てて鍵がかけられていないドアを開けて、父のもとに走った。

 部屋からでて、その廊下の先に父が見えた。

 仕事の途中で寄ったのか、いつもの見慣れたスーツ姿の父は、リビングから出ると、すぐにまた玄関の方に向かって行った。

 その去っていく父の後ろ姿を追うように、俺は慌てて父のもとに駆け寄ると、俺に気づいたのか、玄関で靴を履いたあと、父が声をかけてきた。

「……飛鳥か?」

 久しぶり聞くその声に、ひどく安心した。

 もう、この人しかいないと思った。

 でも父は今にも玄関から出ていきそうで、俺はそんな父に、ゆっくりと手を伸ばすと──

「……ぉ、と……さっ」

 すがるように、父の服の袖を掴んだ。

 すると父は、そんな俺を見下ろし、申し訳なさそうな顔をする。

「飛鳥、父さんと母さん、離婚することになったんだ。だから、俺もう、この家には帰ってこないから」

「……っ、」

 帰ってこない。

 それを聞いて、父の服を掴む手に更に力を込めた。

 一緒に行きたい。

 できるなら、そう言いたかった。

 だけど、もし母が聞いていたら?

 そう考えたら、声が震えて、言葉が上手くでてこなくて……

「お……とぅ……───」

 行かないで……っ

 お願い、どうか


 俺を、置いてかないで───


「っ、……ぁ……ッ」


 祈るように手を伸ばして、連れていってと、言葉にならない声でうったえた。

 だけど

 ────パシッ

「ッ……!?」

 掴んだ手を強引に振りほどかれて、俺は父を見上げた。

「飛鳥……お前はもう、俺の子供じゃない」

 一瞬、なにを言われたのか、分からなかった。

 だけど、父は俺を真っ直ぐに見つめると

「だからもう、ここでサヨナラだ。ごめんな、飛鳥──」

「…………」

 振りほどかれた手が、すごく痛かった。

 バタンと締まる扉の音が、酷く耳に響いた。

 父にとっては自分は

 もう「いらない」存在なのだと思った。


「……お……とぅ……さ……?」

 ドサッと膝をつき
 力なく玄関に座り込むと

 赤くなった瞳からは、とめどなく涙があふれてきて

「……っ、ぅ……うぅ……ッわぁぁぁぁぁぁぁあああ……!」


 その後は

 ただただ、体の奥から叫ぶように


 声をあげて───泣いた。





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