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第9章 【過去編】偏愛と崩壊のカタルシス
第120話 偏愛と崩壊のカタルシス③
しおりを挟むそれは、三歳の誕生日を迎えたその年、幼稚園に入園して、しばらくたった五月の頃
──突然やって来た。
「おかあさん!どこいくの!?」
母に手を強引に引かれて、街の中を進む。いつもより、少しオシャレな服を着せられて、いつもと違う雰囲気の母。
俺は、どこに連れて行かれるのかもよくわからず、ただただ母を見上げると
「今から、オーディションを受けにいくのよ?」
「おー……でぃしょん?」
母は、振り返ることなくそう言った。
「なーに、それ?おれ、いきたくな……」
「どうして? だって飛鳥は、モデルになりたいんでしょう」
「……え?」
その時の母の顔をみたら、なぜか否定の言葉が出せなくなった。
モデル?
それと同時に、言葉の意味が全く理解できなかった。
俺はモデルと言うものがなんなのかすら、よくわかっていなかったから……
「さぁ、飛鳥。行きましょう?」
「……っ」
だけど、その母の声が酷く冷たいものに感じて、俺は結局、小さく頷くことしかできなかった。
そしてその後は、受からなければいいと思っていたオーディションには見事に合格し、元々、容姿に優れていこともあってか、瞬く間に子供服などのファッションモデルとして写真をとられる日々が始まった。
◆◆◆
「飛鳥くん、可愛いですね! 絶対、将来有望ですよ~」
「ありがとうございます」
カメラマンの声に母が頷き、笑顔をうかべた。
あれから数ヶ月経っても父は帰って来なかったけど、それでも俺がモデルとして活躍すれば、母は嬉しそうに笑ってくれて、次第に泣くことも少なくなった。
そんな母に、俺は──
(おかあさんが、よろこぶなら……いいかな?)
と、母が喜ぶならと、そのままモデルの仕事を続けることにした。
だけど、そんなある日──事件は起こる。
◆◆◆
「ねぇ、飛鳥くんってモデルしてるんでしょ?」
それは、幼稚園での出来事。
平日の昼は、モデルの仕事がある日以外は、いつも幼稚園に通っていて、その日も、同じ組の女の子が、俺に向かって、無邪気に笑いかけてきた。
「うん……してるよ?」
「すごーい! 飛鳥くん、カッコいいもんねー」
「……そうかな?」
「うん! あのね、私、大きくなったら、飛鳥くんのお嫁さんになりたい!」
「……およめさん?」
子供なら、よくあることかもしれない。
その子は、どうやら俺の事が好きだったらしく、俺の前に身を乗り出して、満面の笑みで、そう語りかけてきた。
俺は、ただただ驚くと……
「なんで、おれのお嫁さんになりたいの?」
「だって、私、飛鳥くんのことスキだもん! それに結婚したら、ず~っと一緒にいられるんだよ!」
ずっと一緒?
その言葉に、ほんの少し疑問を持った。
結婚したら、ずっと一緒にいられる。
なら、うち父と母は?
お父さんは帰ってこないのに、ずっと一緒になんていられるわけない。
でも……
「そっか、じゃぁ、ずっと一緒にいられたらいいね!」
そう言って、にっこりと笑いかけると、その子は顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに俯いた。
それは、祈るような願いだった。
結婚したもの同士が
ずっと一緒にいられるなら
どうか、父と母も
ずっと一緒にいてほしい。
ケンカしても
帰ってこなくても
いつか、また仲直りして
ずっと、ずっと
家族のままでいてほしい。
───ガッ!!?
「いッ!?」
だけど、その時、突然後から髪を引っ張られた。
「お前、金髪なんて、フリョーじゃん!」
「っ……いきなり、なに!?」
見れば、それは、女の子の幼馴染の男の子で、突然、意味も分からないことでケンカを吹っ掛けられた。
「ちょっと、マサル君! なにするの!?」
「こんな女みたいなやつと、結婚なんてできるわけないだろ!?」
「できるよ! だって飛鳥くん、男の子だもん!」
「こんなやつ、見た目がいいだけじゃん!?」
「はぁ、なんだよそれ!」
今思えば、この男の子は、その女の子の事が好きだったのかもしれない。
よくある、嫉妬に巻きこまれただけなのかもしれないけど
その頃の俺は正直まだ子供で、そういうものを軽く受け流せるほどの知識もなければ、大人でもなくて……
結局、髪の色や容姿をからかわれたこともあり、子供らしいものではあったけど
その男の子と、ケンカになった。
◆
「あの、申し訳ありませんでした!!」
そして、ケンカになったことが先生にも伝わり、帰り際、先生が母に向けて頭を下げた。
「あの、ケンカになった時に頬を少しひっかいたみたいで……相手の親御さんにも、さっき連絡して……っ」
先生の横に立ち、頬の引っ掻き傷に手を当てると、それはヒリヒリと傷んだ。
だけど、他にも少しケガはしたけど、正直、頬をひっかかれたくらいなんてことはなくて
だから、あんなことになるなんて、思いもしなかった。
「ケンカの原因は、何でしょうか?」
ポツリと母が呟くと、先生は申し訳なさそうに眉を下げる。
「それが、髪の色をからかわれたみたいで……あ、でも、相手の男の子にも話をして、ちゃんと仲直りし」
「結構です」
「え?」
「もう、結構です。この子の髪は地毛です。それをからかうような子が通う幼稚園には、これ以上あづけられませんから、今日限りで、やめさせていただきます」
「……っ」
一瞬、母が何を言っているのか、わからなかった。
だけど、母がすごく怒っているのはわかって
頬の傷を押さえる手が
──ひどく震えた。
◆◆◆
そして、それから自体は目まぐるしく変わっていく。
なぜなら、次の日、部屋から出ようとしたら、ドアが開かなくなっていたから。
「……あれ?」
壊れたのかと思って、俺は必死にドアを叩いて母に知らせた。
「おかぁさん!! たすけて、ドアがあかないっ!!」
すると、それからほどなくしてドアが開くと、母の顔を見て、俺は安心と同時にキュッと母に抱きついた。
だけど母は、そんな俺の前に座り込み
傷ついた頬をなでると……
「お母さんね。飛鳥のその綺麗な顔が大好きよ」
「え?」
その母の手は
どこかひんやりと冷たかった。
見つめる視線が
いつもの母ではない気がして……
──あれ?
いつものお母さん……って?
ほんの少し前まで見ていた
あの優しい笑顔。
それを、ここ最近、見ていないのに気づいて
「お……かぁ……さん……?」
母の異様な雰囲気に
体が震えだして目頭が熱くなる。
だけど、母はそんな俺を抱きしめて
「飛鳥、あなたはもうモデルの仕事だけをしていればいいわ。お母さんの言うこと、聞けるわね?」
「………」
耳元で囁かれた声に、視界が暗くなる。
抱きしめられているはずなのに
安らぎなんて一切感じられず
母は、その後薄く笑みを浮かべたあと、俺から離れると
──ガチャ!!
「っ……!?」
部屋を出る瞬間、扉に鍵がかかる音がした。
扉が開かなかったのは、母がカギをかけたからだと気づいて、俺は手を震るわせながら、またドアを叩きはじめた。
「お、かぁ……さん?……ねぇ、あけて……おかあさんッ!」
何度も何度も何度も、扉を叩いた。
だけど、母はもう
そのあと返事をしてはくれなかった。
そして、それからだ。
俺が仕事の時以外、家から出してもらえなくなったのは
「ぅ……、な、んで……おかぁ、さん……っ」
だけど、それでも
俺は懲りることなく母に訴え続けた。
「……ぅ……やだ…っ、ここから、だしてっ」
涙を流しながら、何度と扉を叩く。
あけて
出して
外に出たい
だけど、母の言葉はいつも決まっていて
「飛鳥、お母さんね。飛鳥のその綺麗な顔が大好きよ」
「……っ」
「外に出て、また怪我でもしたら、どうするつもりなの? 外はね、恐ろしいもので溢れているの。でも、ここにいれば大丈夫。飛鳥、私が守ってあげる。危険なものから、全て……だから───」
「絶対に出してあげない」
そして、それは
まるで、"呪い"のように
幼い俺の心に
深く深く、しみついていった。
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