神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜 あやめ

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【過去編】情愛と幸福のノスタルジア

第130話 情愛と幸福のノスタルジア①

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 その後、飛鳥との電話を切った侑斗は、手にした写真を元に戻し、その隣にあった「妻」の写真に目を向けた。

 あの時、飛鳥を助けてくれた女の子は、のちに侑斗は結婚して「神木 ゆり」と名前を変えた。

 写真を見つめながら、侑斗はゆりと初めて出会った時のことを思い出す。

 ゆりが刺された、あの日から、飛鳥はよくうなされ、泣きながら目を覚ますようになった。

 深く深く心に突き刺さった、母親への恐怖心。

 それは、長い歳月が経った今でも、未だに癒せていない。

 それなのに、またミサが飛鳥の前に現れた。

 不安がよぎる。

 どうか、もうこれ以上、飛鳥に関わらないで欲しい。

 あの子が必死になって、守り抜いてきた幸せを掻き乱さないで欲しい。

「ゆり……子供たちを、見守っててくれよ」

 侑斗は、小さく小さく呟くと、その後祈るように目を閉じたのだった。










 
 ─情愛と幸福のノスタルジア─









 ◇◇◇


 星ケ峯ほしがみね──その町の総合病院。

 あの日、ミサに刺された少女「阿須加 ゆり」は、その後、救急車で運ばれ、この病院に入院していた。

 腰元部分を刺され、それなりに出血は多かったものの幸い傷は浅く、致命傷には至らなかったため、二週間の入院で事なきを得た。

 あの日から、早いもので一週間。

 ゆりは、一人で入室している病室のベッドの上で、なにをするわけでもなく暇を持て余していた。

 すると、丁度そのタイミングで、ガラッとスライド式の扉が開くと、病室の入口からパタパタと男の子が駆け寄ってきた。

「ゆりさん! 会いたかったー!」
「飛鳥~私も会いたかった~♪」

 飛鳥が笑顔でゆりに抱きつくと、ゆりも嬉しそうに、飛鳥を抱きしめる。

 傍から見たら、感動のご対面的!!

 なのかもしれないが……

「会いたかったって、昨日もあってるだろ?」

 目の前で嬉しそうにハグをする女子高生と息子の姿を見て、侑斗が苦笑いでツッコむ。

 そう、侑斗と飛鳥は、昨日もここに来たのだ。

 実は飛鳥、侑斗に引き取られてからは、保育園に通っている。

 今日は、日曜で侑斗が休みだったため昼間に来たが、飛鳥は、保育園が終わったあと、必ず、ゆりの元に行きたがるのだ。

 しかも、この一週間、毎日かかさず!

「ゆりさん……体、もう痛くない?」

 飛鳥が目を潤ませて、心配そうにゆりを見上げると、ゆりはそんな天使のような男の子の姿をみて困ったような顔をする。

 どうやら飛鳥は、ゆりが刺されてしまったことに、深く責任を感じているようだった。

「大丈夫~! 歩けるし、食べれるし、先生も、順調に回復してるって! それに私、飛鳥のパパと違って若いから、すぐに傷なんて塞がっちゃうよ~」

「わるかったな。どうせ、俺はもうオジサンだよ」

 今の侑斗の年齢は30歳。

 確かに、女子高生と比べたらギズの治りは遅いかもしれないが、自分が歳を取ったと言う実感はあまり無かったりもする。

「それとこれ、頼まれてたやつ」
「ありがとう! お兄さん♪」

 侑斗が荷物を手渡すと、ゆりはにこやかに笑ってお礼を言い、中の物を確認しはじめた。

 あんな事があった後だというのに、彼女は今日も明るい。

「飛鳥」
「?」

 すると侑斗は、ゆりから飛鳥に視線を移すと、ズボンのポケットから財布を取り出し、飛鳥に声をかける。

「ちょっと、おつかいしてきてくれ」

「おつかい?」

「そう、部屋を出て、右に真っ直ぐいったら、自販機があるから、そこで、ジュース買ってきて。ゆりちゃんは何がいい?」

「え?」

 侑斗は前かがみになり飛鳥に声をかけると、続けてゆりに視線を流す。

「え、じゃぁ……お茶」

「だってさ飛鳥! 俺はコーヒーのブラックね。飛鳥も好きなの選んでいいよ。お茶とコーヒー、覚えた?」

「うん! おぼえた!」

「さすが飛鳥! 覚えるの早いなー!」

 その後飛鳥は、侑斗からお金を預かるとパタパタと病室から出ていった。

 病室には、侑斗とゆりの2人だけが残り、静かになった病室で、侑斗が飛鳥が出ていった入口を見つめていると、ゆりが小さく言葉をかけてきた。

「飛鳥……あれから、どうなの?」

 声を重くし問う。そのゆりの問いかけに、侑斗はすぐさま神妙に面持ちをかえると、その後、ベッド横の丸イスに腰掛けた。

「君の前じゃ、あーして笑ってるけど、毎晩のようにうなされてるよ。夜中、泣いて目が覚めて『ゆりさん、死んじゃったりしない?』って泣きわめいてる。『病院にいるから大丈夫』っていってるのに、よほど怖かったんだろうな、こうして、毎日君の顔を見ないと不安で仕方ないみたいだ」

 それを聞いて、今度はゆりが申し訳なさそうに眉を下げた。

「ごめん……私が、避けるなり、かわすなり出来てたら、よかったのに」

「いや、あれは俺のせいだよ。きっと君のことを俺の浮気相手かなにかと、勘違いしたんだろうし……どのみち、自分の母親が人を刺すところなんて見たんだ、トラウマにもなるだろ」

 二人は、飛鳥のことを思い、胸が息苦しさでいっぱいになった。

 あんな小さな子に、大きな心の傷を与えてしまった。

 自分たちが、もっと早く気づいていたら……

「まぁ、飛鳥のことは俺が何とかするし、君は気に病まなくてもいいよ。それより、いい加減、親御さんの連絡先、教えてほしいんだけど?」

「っ……だから、うちの親、死んだって言ったじゃん」

「それは、産みの親だろ? 義理の両親はいるって飛鳥から聞いた」

「……っ」

 瞬間、ゆりは信じられないとばかりに顔を蒼白させると、額に手を添え頭を抱えた。

「マジで、飛鳥ぁぁ!? あぁ~口止めしとけばよかった~!」

 ゆりは、先日勢い余って飛鳥に話してしまったことを、深く深く後悔する。

 よくわからなかったなんていいながら、なんて頭のいい子だろうか……

「てか、それ話すために、わざわざ飛鳥は追い出したの?」

「あぁ、いくらなんでも、このまま親御さんに黙ったままってわけにはいかないし、ちゃんと謝罪もしたいし」

「だから、いいって! 刺された本人が治療費だけ払ってくれたら、示談で済ますっていってるんだから、わざわざ親に知らせる必要なんてない……!」

「あのな……っ」

「いいでしょ、別に! もともと家出してたんだし、こっちもタダで衣食住提供してもらって、逆にラッキーだったし! それに、私が刺されたおかげで、母親には監護能力がないってことで、飛鳥の親権もお兄さんに移ったんでしょ? こんな傷一つで、飛鳥が助かったんなら、私はそれで十分──」

「こんな傷じゃないだろ! 一歩間違えば、死ぬところだったんだ!」

「……っ」

 少しばかり声が荒くなった侑斗に、ゆりは言葉をつまらせた。

 真面目な顔をして見つめられ、耐えきれず視線をそらせば、病室内には、わずかな緊張感が生まれる。

「別に……死んでもよかったし」
「……っ」

 だが、ボソリと放った、そのゆりの言葉に、今度は侑斗が眉根を寄せた。

 病室内はシンと静まり返り、肌を刺すような張りつめた空気がただよう。

 侑斗は、その後何も言わないゆりを苦々しく見つめると

「ここに……飛鳥がいなくてよかった」

「……」

 その言葉に、ゆりは反論もせず、黙ったまま、その顔をしかめた。

 侑斗は、そんなゆりに背をむけると、立ち上がり、飛鳥の様子を伺いに行くため病室の入口の方へと歩き出す。

 だが──

「君のあの制服、星ケ峯高校の制服だろ?」

「え?」

「俺のマンション、その高校の近くにあるんだ。制服見て分かった。調べる方法なら他にもある。学校に連絡して事情を話せば、学校から御両親に連絡してくれるだろう」

「──ッ」

 学校に連絡──その言葉に、ゆりは一気にその身を奮い立たせると、とっさに身を乗り出し大声を発した。

「なにそれ! 余計なことしないで!!」

「君はまだ未成年で学生だ。退院した後のことも考えろ。そんな体で、また家出させるわけにはいかない」

「……ッ」

 侑斗は、ゆりのに視線だけ送ると、反論するゆりに冷静な言葉を投げかけた。

 どうやら、本気らしい。

 その瞬間、ゆりの胸には、ジワリジワリと暗雲が押し寄せる。

 それと、同時に全身から嫌な汗が流れ始め、ベッドの上に敷かれたシーツをきつく握りしめると、ゆりは、まるで威嚇するかのようにきつく侑斗を睨みつける。

「あー分かった!! どうしても、連絡するっていうなら、今すぐここから出てってやる!!」

「はぁ!? なに、言ってッ」

 大声を発したゆりに、侑斗は言葉を失った。

 まだ完治してないのに、病院から抜け出そうとでもいうのか、ワガママにもほどがある。

「お願いだから……ほっとぃて……っ」

「…………」

 だが、その後、肩を震わし必死に訴えるその姿は、威嚇している割には、とてもとても弱々しく見えた。

 侑斗は、再びゆりの前まで戻ると、必死に訴えるゆりに、再度声をかける。

「親御さんと……なにかあったの?」
「……ッ」

 まるで子供に語りかけるかのような、優しい声。

 すると、その侑斗の言葉を聞いて、ゆりがその瞳に少しだけ、涙を浮かべたのが見えた。





 ◇◇◇

 一方、その頃、飛鳥はというと、自販機の前で、一人頭を悩ませていた。ゆりのお茶も、侑斗のコーヒーも、ちゃんと覚えている。

 だが、飛鳥は……

(と、とどかない……っ)

 まだ、4歳なのだ。

 身長が全く足りず、自販機のボタンを押すことが出来ない飛鳥は、目の前の自販機を見上げたまま、一人立ち尽くしていたそうな……。


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