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【過去編】情愛と幸福のノスタルジア
第131話 情愛と幸福のノスタルジア②
しおりを挟む(どうしよう、届かない)
侑斗におつかいを頼まれ、自販機の前に立った飛鳥は、身長がとどかず、ボタンを押せないことに途方に暮れていた。
(なにか、イスとかないかな?)
キョロキョロと辺りを見回し、踏み台になりそうなものを探す。
だが、病院の廊下に踏み台になるようものは、一切見当たらず、飛鳥は再び頭を悩ませる。
(どうしよう……)
「ボク、どうしたんだい?」
「?」
すると、そんな飛鳥を見て、中年の男性が声をかけてきた。
この病院の患者なのか、パジャマ姿のその男性は飛鳥を見てニコリと笑う。
だが、飛鳥はその男性をみて一気に警戒心を高めると、不安に煽られるまま、その場から一歩後ずさる。
《外の世界はね。恐ろしいもので、溢れているの》
母親がすり込んだ言葉が、何度と頭の中をかけめぐる。
(……どうしよう。やっぱり、こわい)
だが──
「あ。もしかして、ジュースを買いに来たのかい?」
「あら、おつかいかしら? 偉いわね~」
すると、男性の周りに集まるようにして、周りにいた大人たちも飛鳥に声をかけてきた。
「あーまだ小さいから、届かないのね?」
「なにが欲しいの?」
「おいで、抱っこしてあげよう!」
困り果てる飛鳥を見て、大人達は再び飛鳥に明るく語りかけてきた。
飛鳥が、恐る恐る自分の買いに来たものを伝えると、そのあと自販機にお金を入れ、男性が飛鳥を抱きかかえる。
自販機のボタンが届く位置まで近づくと、男性の指示通り、飛鳥がお茶のボタンを押せば、ガタンッと、激しい音を立ててペットボトルのお茶が出てきた。
その後、三人分のジュースのボタンを押し終えて、床に下ろされると飛鳥は再び男性達を見上げた。
世の中には、怖い人がいっぱい。
そう、思っていた。だけど、きっとそれ以上に、優しい人だって、たくさんいるのかもしれない。
「おじさん達、優しいね。ありがとうございました!」
不意に温かい気持ちになると、飛鳥は力を貸してくれた男性達に向けて、天使の様な笑顔をむけた。
「いいんだよ」
「おつり、落とさないようにね~」
すると、飛鳥のその笑顔を見て、大人達もニッコリと笑顔になる。
(あの子、めちゃくちゃ可愛いな)
(癒される)
(てか、将来絶対イケメンだわ。あの子)
そして、実は飛鳥。この年にして既に人をたらし込む片鱗を見せ始めていたとか。
◇◇◇
「……親御さんと、なにかあったの?」
肩を震わせ、反抗的な態度を見せたゆりに、侑斗が優しく声をかけると、ゆりは、その言葉を聞き、強く唇を噛み締めた。
病室は再び静まり返り、2人の間に重苦しい空気が漂う。
すると、そんな空気をかき消すように、ゆりが、小さく小さく話し始めた。
「あの人たち、私が刺されたって聞いても、心配したり、悲しんだりしないよ。むしろ、喜ぶんじゃない?」
「おい、いくらなんでも、娘が刺されて喜ぶ親なんて……」
「それが、いるんだよ。私の親、昔からお金が大好きなの。なんせ私をひきとったのも、祖母の遺産が目当てだったし……だから、私が刺されたって知ったら、きっと喜ぶよ。私の怪我だとか、後遺症だのでちあげて、一生たかれる相手ができるんだから」
「……」
「確かに刺したのは奥さんだし、賠償責任は奥さんにあるんだろうけど、正直、あんな綺麗な奥さんなら、お金以外になに要求してくるか分からないよ? まぁ、奥さんが憎くて、地獄にでも落ちろっていうなら話は別だけど……お兄さん、そこまでは思ってないでしょ? 私も、もうお金のために、あの人達に利用されたくない。それに私、もう二度と、あの家には帰りたくないの」
「どうして、そこまで……」
淡々と、あくまでも冷静な声色で話し続けるゆり。
だが、その後、少しだけ間を開けたかとおもえば、ゆりの表情は、わずかに険しいものに変わった。
「中1……の時……」
「え?」
「夜中、私の部屋に、父親が入ってきたの……っ」
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