169 / 554
第10章 涙の向こう側
第156話 心配と気配
しおりを挟む「あかりー、おはよう!」
その日、あかりが講義室につくと、同じ学部の安藤が声をかけてきた。
あかりは、机に座っている安藤に気付くと、ふわりと笑顔を浮かべて、明るく挨拶をする。
「おはよう、安藤さん」
「レポート仕上げてきた?」
「うん、なんとか……」
その後、少しだけ話をして、あかりは安藤の右隣の席に座ると、授業の準備をしながら、ふと外を眺めた。
空には厚い雲がかかり、昨日よりも激しい雨が、ザーザーと音を立てて降っていた。
(昨日は、びっくりしたなー)
雨を見つめながら、あかりは昨日の「神木さん」とのことを思い出す。
あの時、エレナの元に行こうとした自分の腕を掴んだ彼の姿は、とても弱々しかった。
酷く震えていて、掴まれた手は、どんどん冷たくなって、部屋に連れてきて、眠りについたあとも、少しうなされてるように見えた。
(……少し、言いすぎたかな?)
正直、あんな説教じみたことをするつもりなかったし、落ち着いたなら、すぐに帰ってもらうつもりだった。
だけど──あの時、無理をして笑う姿に、どこか思いつめているような表情に、不意に思い出してしまった。
「大丈夫だよ」といって笑った
あの人のこと──
「安藤ちゃーん!」
「?」
窓の外を見つめながら、考え事をしていると、今度は講義室の入口から、安藤の友人である青木の声が響いた。
青木は、安藤とあかりの側までくると、少しつまらなそうな声を発した。
「聞いてよー、今日、神木先輩、お休みだったー」
「あんた本当、神木先輩のこと大好きだよね」
「だってーこんな雨の日だからこそ、イケメン見て、憂鬱な気分ふきとばしたいじゃん!! 神木先輩くらいだよ、3日たっても飽きないイケメンって!」
「まー確かに。でも休みって、風邪でもひいたのかな?」
「うーん。なんで、休んだかは、分からないんだけどね」
(休み……?)
飛鳥が休んでいると聞き、あかりは、ふむと考え込む。
昨日の夕方、公園で倒れた彼を介抱していたら、ポツポツと雨が降り始めた。
雨脚が強まる前にと、ふらつく彼を必死に支えながら、家まで連れて来たはいいが、彼をベッドに寝かせたあと、あかりは濡れた髪をタオルで拭き取ってあげることしか出来ず
(……もしかして、昨日の雨で?)
風邪をひいてしまったのだろうか?
確かに、酷く震えていたし、手はとても冷たかった。だが、小雨に晒された程度で、服はさほど濡れていなかったのだが……
(……やっぱり、着替えさせてあげた方が良かったのかな? それとも、お風呂でしっかり身体を温めてから、帰ってもらった方が……っ)
昨日の自分の対処が正しかったのか、あかりは、真面目に考え込んだ。だが
(うーん、でも、着替えるっていっても、私の服しかないし。それにお風呂すすめるとか、さすがに無理……)
実際にそう対処したらと考えたら、とんでもなかった。
なぜなら、あかりは女の一人暮らし。
そんなあかりが、まだ付き合いの浅い男性を相手に、わざわざ着替えやお風呂を進めるなんて出来るわけがない。
今回は突然のことで、仕方なく家にあげたが、本来なら男性を家になんて絶対にいれない。
(……やっぱり、あれが私に出来る精一杯だったかも)
風邪対策なんて髪を拭いて、スープや紅茶を提供したくらいかもしれない。
だが、自分の対処が至らないばかりに、風邪をひかせてしまったのなら、なんとも申し訳ない。
あかりは、俯いていた視線をあげると、再び窓の外を見つめた。
(神木さん、大丈夫かな?)
それに──
(エレナちゃんも、連絡ないし)
机の上に置いたスマホを手に取ると、あかりは、その画面を見て眉をひそめた。
昨夜、飛鳥が帰った後、あかりはエレナにメッセージを送った。だが、暫くして"既読"は着いたが、それに、返事はなく──
(また、お母さんに……怒られてたりとかしないよね?)
漠然とした不安が過ぎる。
脳裏によぎるのは、昨日、母親に手を引かれ、泣きながら謝っていた、エレナの姿。
(何事も、なければいいけど……っ)
◆
◆
◆
パタン───
「……?」
遠くの方で、部屋の扉が閉まる音がして、飛鳥は、ゆっくりと目を覚ました。
朝、蓮華を見送ったあと、飛鳥は、再び横になり、そのまま眠りについた。
あれから、どのくらい眠っていたのだろう。
布団にくるまりながら、飛鳥は、ふと人の気配を察知して、呆然とした意識を、少しだけ覚醒させる。
(華……?)
「もう、帰宅する時間なのか」と、飛鳥は、夢の中にいるようなフワフワとした思考を保ったまま、うっすらと瞳を開けた。
だが、視線の先にある時計の時刻は──まだ11時37分。テストがあり、早めに帰宅するとはいえ、華と蓮が帰宅するのは、確か2時過ぎ。
いくらなんでも、早すぎる。
「…………」
すると、視界に揺らぐ時計の針を見つめたあと、飛鳥は今一度、目を閉じた。
まだ、熱があるのか、頭は重いし、身体もいうことを聞かない。それでも、気だるい身体をわずかに身じろき、横向きから仰向けの体勢をかえると、飛鳥は先程の「音」について、また考える。
華ではない。蓮でもない。
なら、今この家にいるのは、きっと、自分ひとり。
(あれ、じゃぁ……)
さっきの扉の音は…………誰?
0
あなたにおすすめの小説
ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜
遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった!
木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。
「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」
そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。
昼寝部
キャラ文芸
俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。
その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。
とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。
まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。
これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる