神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜 あやめ

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第14章 家族の思い出

第198話 いつか と いつまでも

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 それから暫く、蓮は華の背を擦りながら慰めていた。

 溜め込んでいたモノを吐き出して楽になったのか、泣いていた華の呼吸は次第に落ち着き、それを感じ取って、蓮が再び声をかける。

「もう、大丈夫か?」
「……うん」

 小さく頷いて、華が蓮から離れると、蓮は申し訳なさそうに、視線を落とした。

「あの、この前は、ごめん。別に、華に早く彼氏を作ってほしいとか、そんなこと思っていたわけじゃなくて……ただ、いつかそんな日が来ると思ったら、自分から突き放した方が楽だとおもったんだ。だから……」

「うんん……私も同じだもの。お兄ちゃんに彼女ができたら、少しは大人として認められるような気がして、お兄ちゃんの気持ちも考えずに、あんなこと言っちゃったんだもん」

 大人になりたいのか、なりたくないのか

 自分でも、よく分からないから


 ただ、自分が変わるよりも

 誰かが変えてくれた方が、諦めもつくから


 でも、それは




 なんて、ずるいんだろう──…







「華、蓮!」

 すると、二人の背後から、突然声が響いた。

 聞きなれた声だった。
 優しくて柔らかくて安心する


 兄の声だ──


「はぁ、やっと見つけた……!」

 飛鳥が、華と蓮の後ろからぎゅっと抱きつくと、二人は驚きつつも兄を見つめた。

 そこには、少しだけ息を荒くした兄がいた。
 きっと、探していたのだろう。

 いなくなった、妹弟を──…


「ずっと電話してんのに出ないから、何かあったのかと思った」

「え? うそ!」

「ゴメン、気づかなかった。でも、よく見つけられたね、ここ結構広いのに」

「そりゃ、お兄ちゃんだからね。お前達の行きそうなところは、大体わかるよ」

「…………」

 お兄ちゃんだから──

 そんな何気ない言葉に、不意に胸が熱くなった。

 子供の頃、三人でかくれんぼをすれば、いつも兄にあっさり見つかっていた。

「ずるい!」なんて反論すれば「お前達が、隠れるの下手だからだろ?」なんて言って返された。

 でも、どんなに見つからないようにと難しいところに隠れても、兄はいつも自分たちを見つけては、ニッコリ笑って、手を差し出してくる。

 でも、あれから何年と経って
 もう「かくれんぼ」なんてしなくなった。

 砂遊びも、縄跳びも、カルタも

 だけど、なんでだろう。


 今になって、あの頃が






 たまらなく、懐かしい。




「ねぇ、お兄ちゃん」

 すると、華が視線を落としたまま、兄に向けて呟いた。

 今にも泣き出しそうな、その弱々しい声を聞いて、飛鳥と蓮は、同時に華に視線をむける。

「私達……いつまで一緒にいられるのかな? 大人になったら……みんな、バラバラになっちゃうのかな?」

 どこか悲痛なその声は、飛鳥と蓮の耳にしっかり届いた。

 ──大人になったら

 それは、あまり聞きたくない言葉だった。

 そして、兄に向けた華のその問いかけに、蓮が小さく息を呑んだ。

 華も、不安なのだろう。

 今の三人の関係が、変わってしまうのが。

 だけど、それに対する「兄」の返答が、少し怖かった。

 兄は自分たちのことを、どう思っているのだろう?

 もしかしたら、うんざりしているかもしれない。

 いつまでも、甘えてばかりで


 大人になれない自分たちを──…




「そうだね……」

 すると、腕の力が微かに強まったかと思えば、兄は二人を抱きしめ、小さく言葉を発した。

「いつまでも一緒にはいられないし、いつかは、そんな日が……来るかもしれないね。でも、そんなの考えればいいよ」

 そういった兄の言葉に、双子は、ぐっと唇を噛み締める。

 いつもこうして、兄は、自分達の決心を鈍らせる。

 まだ『このままでいてもいいよ』と、甘い言葉をかけてくる。

 でも、本当に、それでいいの?

 いつまでも「家族」に縛り付けられたままで


 お兄ちゃんは、幸せなの?





 ヒュ────  パン!

 瞬間、夜空に大きく花火が咲いた。

 色鮮やかな花が夜空を彩ると、三人は同時に空を見上げた。

「始まったね、花火」

 兄の陽気な声に、沈んだ気持ちが少しだけ息を吹き返す。

「花火見たら、少し買い物して帰ろうか?」

 そういう兄に、華は

「来年も……三人で、一緒に見れるかな?」

 空を見上げ、華が呟く。

 それを聞いて、飛鳥は一瞬悲しげや表情をうかべ、そして、また微笑む。

「うん、また来よう、来年も……家族、みんなで」


 空に咲く花が

 切なく辺りを彩る。


 叶えられるかも分からない「約束」に


 縋り付いて


 来年、悲しい思いをするかもしれないけど




 それでも、今は──




 繋ぎとめておきたい。






(ごめん……華、蓮──)


 飛鳥は、心の中だけで呟くと

 そっと、目を閉じた。




『大人になったら、みんなバラバラになっちゃうのかな?』




 分かってる。


 いつまでも一緒にはいられない。



 いつか、華と蓮も大人になって




 あの家を出ていく。





 俺を、一人残して──…







 本当は、覚悟を決めなきゃいけないんだろう。





 二人を手放す「覚悟」を







 だけど、ゴメン





 俺にはまだ、そんな勇気はなくて



 独りになる覚悟は持てなくて





 突き放した方が


 この子達が成長出来るって分かっていて




 あえて、甘い言葉をかけて、繋ぎとめてる。





(どうか、あと……もう少しだけ)





 今のままで───…







 二人が、大人になる日が来たら



 その時は、しっかり受け止めて




 笑顔で送り出すから





 だから───






 ヒュ───  パン!


 夜空に、また一つ花が咲いた。


 消えゆく花火を見つめながら、三人は今日、神様に願った、願い事を思い出す。





 でも、その願いが


 三人同じものだったなんて



 きっと、一生


 知ることはないのかもしれない。











 どうか──



 どうか、神様──






 いつか、三人大人になって




 バラバラになる日が来たとしても





 決して、この『絆』が


 壊れることがありませんように







 どうか、どうか

 いつまでも







 仲の良い兄妹弟のままで






 いられますように───








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