神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜 あやめ

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最終章 愛と泡沫のアヴニール

第481話 参拝と静寂

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 葉月と航太が合流したあとは、飛鳥たちは代わる代わる、参拝することにした。

 チャランと賽銭箱にお金を投げ入れると、二礼二拍手した後、飛鳥たちは目を閉じる。

 お正月にも来たが、神社に来ると、必ずと言っといいほど神様に手を合わせた。

 ──どうか、この先も、平穏な日々が続きますように。

 そんな些細な願い事をするために。

 だが、どんなに些細だと言われようが、飛鳥にとっては、この平穏な日常を続けることが、なによりも難しいと思っていた。

 だからこそ、毎回、同じことを願った。
 
 今の幸せが、決して壊れることがないように。
 
 家族が、いつまでも幸せでいられるように……

「兄貴。あかりさんのことも、お願いしとけば?」

「え?」

 すると、手を合わせる飛鳥に、蓮が、コソッと耳打ちしてきた。

 目を合わせれば、どことなく心配そうな瞳が、視界に映り込む。
 
 この弟は、どうやら、まだ、気にしていたらしい。

(気にするなっていったのに……)

 無音のため息をつきながら、飛鳥は、三ヶ月前のことを思い出す。

 蓮が風邪をひいて、学校を休んだ日。
 飛鳥は、あかりとのデートをキャンセルした。

 そして蓮は、兄の恋の邪魔してしまったと、今も気にしているのだ。

(昔から、気にしずぎるがあったけど、変わってないな。まぁ、これは、華もだけど……)

 さすが双子。
 行動も思考も、よく似てる。

 だからか、兄の恋を応援しようと、あからさまな行動に出るのだ。

 とはいえ、あれは、自分で選んだこと。

 例え、あの後から、あかりに既読スルーされていようが、これは決して、蓮のせいじゃない。

 だが、そう言ったところで、この弟は、納得しないのだろう。

「うん……そうだね」

 すると飛鳥は、小さく相槌をうつと、弟のために、追加のお願いをすることにした。

 これで、蓮の罪悪感が、少しでも紛れるなら、安いものだ。

(でも……なんて、お願いすればいいんだろう?)

 だが、手を合わせたまま、飛鳥は、しばらく考える。

 恋に関する願い事なんて、これまでしたことがなかった。

 こんな時、みんな、なんてお願いするんだろう?

 両思いになれますように?
 いや、もう両思いなんだから、違うよな?

 じゃぁ、恋人になれますように?
 うん……多分、だ。

 恋をした時、人は皆、好きな人と結ばれますようにと、神様に願う。

 自分の、この想いが、どうか報われますようにと。
 
 でも──

(でも……なんか、違う気がする)

 自分の想いを神さまに託すのは、案外、簡単なことだ。

 ただ目を閉じて、唱えるだけでいい。

 だけど、この恋は、普通の恋とは違う。

 両想いになっても、叶わなかった恋。

 まるで、掴んでは消える雪のように
 泡になって弾ける泡沫のように

 ──形にならない恋。

 だからこそ、この『願い』は、見方を変えれば、ただの『欲望』でしかなかった。

 だって、この想いは、あかりにとっては、迷惑なモノでしかないのだから──

(俺が、恋人になりたいと願ったら……あかりは、更に苦しむのかな?)

 神頼みまでして、好きな人を、苦しめようというのか?

 なら、やっぱり、違う気がする。

(じゃぁ……かな?)

 すると飛鳥は、小さく息を整えたあと後、改めて、神様に願いを伝える。

 神様、どうか──

(あかりが……この先、ずっと幸せでありますように)

 例え、俺が隣にいなくても

 あかりの未来が

 明るいものでありますように。

 
 いつまでも、あかりが


 笑っていてくれますように──…



 目を閉じれば、ふわりと笑う、あかりの姿がよぎった。

 
 穏やかに笑って、俺のことを呼ぶ声。

 
 最後に、あの笑顔を見たのは


 いつだったっけ?

 
 なんだか、遠い昔のことのようで

 少しだけ切なくなった。
 
 
「お兄ちゃん。いくつ、お願いしてるの?」

「……!」
 
 すると、今度は、華が問いかけてきて、飛鳥は、呆気にとられた。

 いくつ??

 どうやら、長いこと手を合わせていたからか、際限なく、お願い事をしていると思ったらしい。

「いつくって、あかりに関しては、一つだけだよ」

「え!? なんでよ! もっと、たくさんお願いしとかなきゃ! もう神頼みするしか望みはないんだよ?!」
 
「そうだよ、兄貴! 神様、悩殺するつもりで願えよ!」

「神様、悩殺してどうすんの?」

 相変わらず、馬鹿なことを言う双子だ。
 飛鳥は、一礼しつつも、あきれ果てた。

 だが、ちゃんとあかりのことは願ったのだ。文句は言わせない。

「それより、お前たちは、なにを願ったの?」

 すると、話題を変えようとばかりに、飛鳥が問いかければ、双子は声を合わせて
 
「「そんなの決まってるじゃん!」」

「あー、もう言わなくていいよ」

 なんか、あっさり想像がついた。

 というか、圧が凄い。
 双子から兄への圧が!!!

「相変わらずだな、お前ら。それより、これから、どうするんだ?」

 すると、今度は、隆臣が話しかけてきて、飛鳥は、ふむと考え込む。

「うーん、どうしよっか? お腹もすいたし、まずは、腹ごしらえ?」

「そうしようよ。葉月と榊くんも、まだ食べてないでしょ?」

「うん。私は、まだ」

「俺も」

「じゃぁ、みんなで夕飯にしよう~!」

 今の時刻は、6時半。

 タイミング的にもいい頃だと、華が話をまとめれば、一同は、先ほど登ってきた階段の方へ歩き出した。

 階段下の境内には、食事や休憩をとるためのベンチが、いくつか並べてある。

 そして、そこで、入れ代わり立ち代わり、みんな食事をとっていた。
 
 そんなわけで、下の祭り会場へもどろうと、飛鳥たちは石段へと向かう。

「姉ちゃん、何やってんのー?」

 だが、その瞬間、階段の方から、少年の声が聞こえてきた。
 
 参拝客だろうか?
 
 甚平姿の男の子が、階段下にいる誰かに向かって呼びかけていた。

「歩くの遅せーよ」

「しかたないじゃない。浴衣で階段のぼるの、結構、大変なんだから」

 そして、その少年の声に続き、今度は、女の声まで聞こえてきた。

 穏やかな女の声。

 だが、その声を聞いて、飛鳥は足を止めた。

 それは、酷く聞き覚えのある声だった。

 口調も声色も、聞き間違えるはずがない。

 だって、その声は


 ずっと、ずっと、待ち望んでいた


 女の子の声だったから──



  ──カラン
 
 瞬間、賑やかな祭りの音に混じり、下駄の音が響いた。

 宵の月が辺りを照らし、夏の香りが、夜空を駆ける。

 そして、その声の持ち主が、石段を登りきった瞬間、飛鳥は、目を見開いた。

 一瞬にして、空気が変わった気がした。

 静けさが辺りをつつみ、静寂が空間を支配する。

 だけど、音を感じなくなったのは、きっと、飛鳥だけだろう。

 五感の全てが、たった一人に、注がれているのが分かった。

 恋、焦がれ。

 会いたくてしかたなかった

 
 たった一人の想い人に──…



「──あかり?」

「……え?」

 瞬間、飛鳥が声をかければ、あかりが、ゆっくりと顔をあげた。

 祭りの夜。
 神様をまつる神殿の前。

 久しく会わなかった二人の視線は、その後、吸い寄せられるように、一つに重なった。
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