神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜

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第6章 転校生と黄昏時の悪魔【過去編】

第43話 転校生と黄昏時の悪魔 11

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「なぁ、お前もしかして……あるのか?」

「……」

 不意に気になって問いかけた隆臣の言葉に、飛鳥は言葉を詰まらせると、その後視線をおとし、小さく呟いた。

「そりゃ、俺……してるから、いろんな奴に、よく声はかけられるよ……」

「……」

 ──いろんな奴

 そう言った飛鳥の言葉の中には、本当に色々な人が含まれているのだろう。

 一瞬で目を奪われてしまうような、あまりにも綺麗な姿。

 だが、飛鳥のその整った綺麗な顔を見つめ、隆臣は思う。

 この姿は、時にとてつもない弊害を生み、普通に生きることをここまで阻むのかと…


(……そういえば、さっき…)

 すると隆臣は、先程飛鳥が『あっちの道、いけば?』と、わざわざ回り道を進めてきたことを思い出した。

 自分たちは決して仲良くはない。

 むしろ、第一印象最悪で、ほとんど話すらしてこなかった。

 それなのに、こいつはそんな仲の悪いクラスメイトの身を案じて、わざわざ回り道なんて進めてきたのだ。


(あれ、もしかして……神木が友達作らないのって……っ)

 するとその瞬間、飛鳥がいつも一人で登下校しているのを思い出して、隆臣は眉根を寄せた。

 学校で誰かに一緒に帰ろうと誘われても、こいつはいつもそれを断るのだ。

 別に嫌われ者なわけじゃないし、仲良くなりたがってる奴は意外と沢山いた。

 それなのに、飛鳥の態度はいつも素っ気ないなく、あえて友達を作るのを拒んでいるように見えた。

 だが、もし今みたいに、知らない人によく声をかけられるのだとしたら

 飛鳥が、学校で無愛想に振るっているのは、なのかもしれない。

 それに気づいた瞬間。

 隆臣は『飛鳥が学校で笑わない理由』に、酷く胸を締め付けられた。

 もし、本当にそうだとしたら、なんだか、それはとても──悲しいことだ。


「ねぇ、そう言えば、あんな時間にランドセルからって、どこ行く気だったの?」

 すると今度は飛鳥が、下校時刻を過ぎていたにも関わらず、ランドセルをからっていた隆臣について疑問を抱く。

 すると隆臣は、今になってやっと、母の喫茶店に行くはずだったのを思いだした。

「あぁ!! ヤッベェ!? 俺喫茶店行くんだった!? あーどうしよう。母さん、絶対心配してる。しかも、俺ランドセル放置したままじゃん!??」

 咄嗟のことに、ほおり投げてきてしまったランドセルと、母のことを思い出し、隆臣は顔を青くする。

 しかも、もう時刻は6時過ぎ。予定の時間よりも30分は過ぎてる。さすがの母も心配しているかもしれない。


「なんか……ゴメンね」
「……」

 すると、隆臣の横から珍しく弱々しい声が聞こえてきて、隆臣は目を丸くする。

 ウソだろ、あの神木が俺に謝ってる。

「あ、いや……別に、お前のせいじゃ……ほ、ほら、あそこであったのも、何かの縁っていうか、別に謝らなくても…」

「でも……俺もだけど、ヤバイのはむしろ、お前の方かもしれないし?」

「え?」

「俺がされるなら、多分誘拐されたあとだろうけど……橘、あいつの顔見てるだろ? 下手すれば、んじゃないの?」

「……」

 瞬間。あまりにも物騒な言葉が聞こえてきて、隆臣はその額にじわりと汗をかく。

 こ、殺される??


「はぁ!? なにそれ!! マジかよ!!え? 殺されるって、ウソだろ!? てか、なんで俺、いきなりこんな死の瀬戸際立たされてんの!?」

「ちょ……うるさい! もう少し、静かにしろよ!?」

「んなこと、言われても──」

 これが、落ち着いていられるか!!

 さすがの隆臣も、自分にまで危害が及ぶかもしれないなんて、考えていなかった。

 すると隆臣は、その最悪の事態を想像し、みるみるうちにその顔を青くする。

(……口封じって)

 だが、確かに一理ある。

 狙いが飛鳥なら、自分は誘拐犯にとって邪魔でしかないわけで、その上、相手は大人でこちらは子供。体格も力の差も目にみえてる。


(っ…じゃぁ俺──…)





ジャリ──





「「!?」」

 ──瞬間。わずかな物音と土を踏むような規則的な音が、自分たちが身を潜めていた建物の外から聞こえてきた。

 咄嗟に身を竦め息を殺すと、二人はトイレのその更に奥に身を隠す。

 静かな公園の中。ジャリ、ジャリと歩き回る不気味な足音…

 瞬き一つできず、身を刺すようなその音に聴覚を集中さながら、飛鳥と隆臣は、恐る恐るその入口に視線を向ける。

 沈みかけた夕日と、街灯の鈍い光が照らすその入口はやけに不気味で、少しずつ足音が近づいてくるたびに、その心には、不安が渦となって押し寄せる。






「あぁ──やっと見つけた」







「──ッ」

 ──瞬間。”一番見たくなかった顔“がその入口から顔を覗かせた。

 冷たい男の声が、トイレの中に谺響し、恐怖から、一瞬にして全身の肌が総毛立つ。


「ずっと、探していたんだよ──」


 入口を塞き、ぬるりと入ってくるその男は、先程と全く変わらない、怪しい笑顔を張り付けていた。

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