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2・魔王、塗り替えていく。
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「これが、女神ミアス管理しているもう一つの世界……なのか」
自分が住んでいた塔が、何もない荒野のど真ん中に建っていた。
周囲を見渡しても、この塔以外に何も見えない。
岩も木もない……砂だけの、しかし砂漠とも化してないほど、枯れている大地。
しかも――。
(地面に触れている部分から恐ろしい速度で魔力が奪われている……普通の生物なら一分もしないうちに絶命するな)
ただの荒野ではなかった。
死の大地、それも相当な規模のものだ。
おおよそ生き物が生きていい場所……いや、住める場所ではない。
この砂も肉体だったもの、あるいは骨だったものが搾られて削られてこうなったのだと理解できた。
「……《肉体よ、浮遊せよ》」
浮遊魔法を発動させる。
肉体は大地から離れるが、魔力が奪われていく速度に変化はない。
(相当な規模で死が広がっている……おそらくここは島だ。そのほぼ全てが死の大地と化しているのだろう……遠くには魔力が確認できるが、これは、かなり遠い……おそらく別大陸だな)
デュマークは上空からすべてを察した。
より高く飛べば確定できる情報だが、これ以上の浮遊は危険だと判断し降りる。
地上に降りて数秒後、謎の光線がデュマークが飛んでいた場所を通り抜けた。
(術式……拙く遅く脆いが威力として十全のもの……逃げようとする存在を徹底的に抹消させようとしているということか。つまり、この場所は――)
「流刑地か」
不必要なものを処分する場所、そう考えるのが妥当だ。
前の世界でも似たようなことをしでかしている国がいた記憶がある。
その国から術式の提供を求められたが、断った。
理由は自分に利益もないし、何より興味がわかなかったから。
新たな術式を組み込んで作らないとできないことじゃなく、既存のものを組み合わせれば『誰にだって』作れてしまう構図に惹かれるものなど何もなかったからだ。
この世界は、それに似ている。
(しかしまあこのまま魔力を抜き続けられるのも癪だ……変えるか)
変換の術式を起動する。
魔力がゴリゴリと抜き取られていくこの感覚は嫌いだ。
自分で使うならまだしも、どこも何かも知らない存在に奪われるなんて考えただけでも腹立たしい。
「大食らいめ……《我が知覚に至る存在達よ、我が身に役立つものへと変化せよ》」
塔を中心に陣は展開され、書き換えが始まる。
その書き換えさえも食おうとするが、こんな雑な術式に負けるほどやわではない。
破壊しようかとも考えたが、それで探知されて襲撃されても困るから書き換える。
まだこの世界のことを何も知らない、ゆえにまずは知るための下準備。
基盤を固め、知識を得て、状況を知り、そこから行動に移す……そのための『準備』だ。
動かなければならないほど急を要するものではなさそうだし、そうであれば女神ミアスは僕に事情を説明していたはず……いやちょっとわからないかもしれない。
あの人……いや、あの女神、ちょっと抜けてるから。
術式起動から数十秒後。
塔の地上周辺は緑溢れる草原と化していた。
地下も変化を続けている、このままいけば数時間後にはこの島は元に戻るだろう。
ついでに結界も張って外部からの攻撃も防ごう。
所々にある転移の術式は……いや、これはワザと残すか。
全部直せば異変に気付くが、おそらくここまで雑な術式を形成している連中のことだ……転移の術式が無事なら確認もせずに放置するだろう。
あくまでその可能性が高いだけで、すぐに対処してくるかもしれないが。
まあ、その時はその時だ。
この無駄に溢れてくる、魔王としての魔力を使えば問題ない。
魔王の力……異世界に来たおかげで衝動は収まったが、まだ慣れそうにもない。
(これは、長い時間をかけて馴染ませていかなければ……)
思考もどこか雑になっていて、力で通そうとするようになってきているかもしれない。
「僕はただ、研究だけの生活をしたいだけなのに……」
書き換えられた大地は魔力を消費し塵を作り出しやすい土壌にする。
むろん無理やり吸収するようなものにはしてない、必要最低限のものにしている。
そして木々や石などはそれらを吸収し、循環して新たな魔力として吐き出していく。
これらの過程から精霊たちは生み出されていき、この循環の力を強めていく。
もっと細かなプロセスや原理はあるが、大体がこうなっている。
塔を最大限に活かすためにも魔力循環の基礎は必要だ。
だから自然に囲まれた森の中に建てるのが一番すべてに優しい……まあ魔族としてあまりにも優しすぎて舐められたりすることもあったが、全部無視した。
だって研究に必要なことならまだしも、これで済むならそれでいいじゃん。
最大効率も存在するが、要は全人類管理のことで、女神が悲しむので絶対にする気はなかった。
それの阻止のための勇者であり……まあ、面倒なことにしかならなかったので、生命消費などの手段は絶対に取らなかった。
僕ら魔族は時間が長い、だからこそ時間をかける手段をとればいいのに……どうしてみんな生き急ぎたがるのだろう。
こんなにも美しい術式や陣のことを調べる……それだけで毎日が楽しいのに……。
「…………うん?」
同時に展開していた感知術式に何かが引っ掛かる。
客、ではなさそうだった。
こんなにも弱々しい生命が罠ならどうしようもないが、どうやら送り込まれたらしい。
(うーん……関わりたくない……でもなぁ……)
女神ミアスとの約束事がある。
この世界の、救世主になることだ。
ならばここで見捨てるのは、なんか違う気がする。
「……はあ、ミアス姉さんに叱られるから頑張るかぁ」
デュマークにとって、世界を救うことなどどうでもいいことだし、容易いことだ。
ただ、守らないことによって叱られることのほうが怖かった。
それだけの話である。
こうして、この世界の救世主にして、最強の魔王は始まった。
自分が住んでいた塔が、何もない荒野のど真ん中に建っていた。
周囲を見渡しても、この塔以外に何も見えない。
岩も木もない……砂だけの、しかし砂漠とも化してないほど、枯れている大地。
しかも――。
(地面に触れている部分から恐ろしい速度で魔力が奪われている……普通の生物なら一分もしないうちに絶命するな)
ただの荒野ではなかった。
死の大地、それも相当な規模のものだ。
おおよそ生き物が生きていい場所……いや、住める場所ではない。
この砂も肉体だったもの、あるいは骨だったものが搾られて削られてこうなったのだと理解できた。
「……《肉体よ、浮遊せよ》」
浮遊魔法を発動させる。
肉体は大地から離れるが、魔力が奪われていく速度に変化はない。
(相当な規模で死が広がっている……おそらくここは島だ。そのほぼ全てが死の大地と化しているのだろう……遠くには魔力が確認できるが、これは、かなり遠い……おそらく別大陸だな)
デュマークは上空からすべてを察した。
より高く飛べば確定できる情報だが、これ以上の浮遊は危険だと判断し降りる。
地上に降りて数秒後、謎の光線がデュマークが飛んでいた場所を通り抜けた。
(術式……拙く遅く脆いが威力として十全のもの……逃げようとする存在を徹底的に抹消させようとしているということか。つまり、この場所は――)
「流刑地か」
不必要なものを処分する場所、そう考えるのが妥当だ。
前の世界でも似たようなことをしでかしている国がいた記憶がある。
その国から術式の提供を求められたが、断った。
理由は自分に利益もないし、何より興味がわかなかったから。
新たな術式を組み込んで作らないとできないことじゃなく、既存のものを組み合わせれば『誰にだって』作れてしまう構図に惹かれるものなど何もなかったからだ。
この世界は、それに似ている。
(しかしまあこのまま魔力を抜き続けられるのも癪だ……変えるか)
変換の術式を起動する。
魔力がゴリゴリと抜き取られていくこの感覚は嫌いだ。
自分で使うならまだしも、どこも何かも知らない存在に奪われるなんて考えただけでも腹立たしい。
「大食らいめ……《我が知覚に至る存在達よ、我が身に役立つものへと変化せよ》」
塔を中心に陣は展開され、書き換えが始まる。
その書き換えさえも食おうとするが、こんな雑な術式に負けるほどやわではない。
破壊しようかとも考えたが、それで探知されて襲撃されても困るから書き換える。
まだこの世界のことを何も知らない、ゆえにまずは知るための下準備。
基盤を固め、知識を得て、状況を知り、そこから行動に移す……そのための『準備』だ。
動かなければならないほど急を要するものではなさそうだし、そうであれば女神ミアスは僕に事情を説明していたはず……いやちょっとわからないかもしれない。
あの人……いや、あの女神、ちょっと抜けてるから。
術式起動から数十秒後。
塔の地上周辺は緑溢れる草原と化していた。
地下も変化を続けている、このままいけば数時間後にはこの島は元に戻るだろう。
ついでに結界も張って外部からの攻撃も防ごう。
所々にある転移の術式は……いや、これはワザと残すか。
全部直せば異変に気付くが、おそらくここまで雑な術式を形成している連中のことだ……転移の術式が無事なら確認もせずに放置するだろう。
あくまでその可能性が高いだけで、すぐに対処してくるかもしれないが。
まあ、その時はその時だ。
この無駄に溢れてくる、魔王としての魔力を使えば問題ない。
魔王の力……異世界に来たおかげで衝動は収まったが、まだ慣れそうにもない。
(これは、長い時間をかけて馴染ませていかなければ……)
思考もどこか雑になっていて、力で通そうとするようになってきているかもしれない。
「僕はただ、研究だけの生活をしたいだけなのに……」
書き換えられた大地は魔力を消費し塵を作り出しやすい土壌にする。
むろん無理やり吸収するようなものにはしてない、必要最低限のものにしている。
そして木々や石などはそれらを吸収し、循環して新たな魔力として吐き出していく。
これらの過程から精霊たちは生み出されていき、この循環の力を強めていく。
もっと細かなプロセスや原理はあるが、大体がこうなっている。
塔を最大限に活かすためにも魔力循環の基礎は必要だ。
だから自然に囲まれた森の中に建てるのが一番すべてに優しい……まあ魔族としてあまりにも優しすぎて舐められたりすることもあったが、全部無視した。
だって研究に必要なことならまだしも、これで済むならそれでいいじゃん。
最大効率も存在するが、要は全人類管理のことで、女神が悲しむので絶対にする気はなかった。
それの阻止のための勇者であり……まあ、面倒なことにしかならなかったので、生命消費などの手段は絶対に取らなかった。
僕ら魔族は時間が長い、だからこそ時間をかける手段をとればいいのに……どうしてみんな生き急ぎたがるのだろう。
こんなにも美しい術式や陣のことを調べる……それだけで毎日が楽しいのに……。
「…………うん?」
同時に展開していた感知術式に何かが引っ掛かる。
客、ではなさそうだった。
こんなにも弱々しい生命が罠ならどうしようもないが、どうやら送り込まれたらしい。
(うーん……関わりたくない……でもなぁ……)
女神ミアスとの約束事がある。
この世界の、救世主になることだ。
ならばここで見捨てるのは、なんか違う気がする。
「……はあ、ミアス姉さんに叱られるから頑張るかぁ」
デュマークにとって、世界を救うことなどどうでもいいことだし、容易いことだ。
ただ、守らないことによって叱られることのほうが怖かった。
それだけの話である。
こうして、この世界の救世主にして、最強の魔王は始まった。
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